――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを与えよう――
民主党の目玉政策、子ども手当が財源との兼ね合いで11年度から満額1月2万6千円支給できるかどうか、金額的な支給可能性の面でのみ、いわば財源捻出可能性でのみ論じられている。
前に書いたが、先ず発端は1月31日日曜日のNHK「日曜討論」での野田財務副大臣の発言。
野田財副大臣(2011年度からの満額2万6千円支給について)「難しいという話はしました。ハードルは高いと。できないとは言ってません。これからの作業です」(NHK動画から)
この発言に対して野田財務副大臣の親分、菅直人副総理兼財務相が同じ1月31日に朝日新聞のインタビューに答えている。
《子ども手当満額支給、菅氏「やるといったらやらないと」》(asahi.com/2010年2月1日7時36分)
菅親分「そんなことを率直に言うのは間違いだ。問題は、できるかできないかなんだ。・・・・やるといったら、やらないといけない。・・・・社会保障分野だけで6兆円の増額が見込まれる。これをどういう形で(予算に)埋め込んで、出せるかが問題だ」
野田子分は「できないとは言ってません」とは言っているが、「ハードルは高い」と言っている以上、「できない」にウエイトを置いた発言であろう。「できる」なら、「ハードルは高い」などと言いはしない。
にも関わらず、菅親分は「問題は、できるかできないかなんだ」とわけの分からない発言をしている。「できない」では公約違反になる。「できる」の一言で済ませるべきだったろう。
当然、「やるといったら、やらないといけない」は疑問の余地ない実施事項であって、今更ながらに「やるといったら、やらないといけない」などと言わなければならないこと自体、政権運営の決意の程が疑われる。
野田副大臣の「ハードルは高い」が「できない」にウエイトを置いた発言であるのは同じ財務副大臣であるが、野田副大臣と同格なのか、格上、格下の上下関係にあるのか分からないが、少なくとも菅親分に対して子分の位置にあるのは確かなはずだが、峰崎直樹氏が野田副大臣と同じ趣旨の発言をしている。
峰崎財務副大臣「今の段階から、できませんと言える状況ではないが、財源的には相当厳しいと言わざるをえない。相当、無理があると思っており、今までの約束事ができる条件がほんとうにあるのかなと思う。・・・・特別会計も含め、どのように歳出削減できるかを内閣にいる全員が考えないといけないし、財務省としては、無駄削減を進めるための先頭に立たないといけない」(《子ども手当増額は相当厳しい》(NHK/10年2月2日 0時19分)
いわば野田発言に同じ副大臣として歩調を合わせたといったところなのだろう。
このような子ども手当満額か否か劇場に松野官房副長官が新たな登場人物として現れる。《子ども手当 公約どおり満額を》(NHK/10年2月2日 14時8分)が紹介している。
松野官房副長官「再来年度から満額支給するという方針は変わっていない。(野田、峰崎の両)副大臣がどういった文脈で言ったのかはわからないが、民主党のマニフェストで約束した中身でもあり、政府としては満額支給ということで考えている」
この発言に胸を撫で降ろした母親が相当数いるのではないだろうか。
最後の登場人物、菅直人親分より上の大親分、鳩山首相。大トリといきたいが、大親分としての貫禄から言っても大トリと言えるかどうか。昨2日の衆院本会議での各党代表質問で答えている。
鳩山首相「基本的にはマニフェスト(政権公約)通りに行いたい」
「毎日jp」記事――《子ども手当:首相、満額方針変えず 経済効果は1兆円》2010年2月2日 21時20分)は鳩山首相の発言をこれだけしか紹介していない。
「基本的にはマニフェスト(政権公約)通り」ということはあくまで「基本」であって、決定ではないということなのだろう。このことはその夜の首相官邸で記者団に答えた発言から窺うことができる。
鳩山首相「財務を担当する人からすると難しいという思いはあるかもしれない。しかし、今は満額支給できるように最大限努力するのが政府の務めだ」(《公約通りの実現に努力=子ども手当満額支給で-鳩山首相》時事ドットコム/2010/02/02-21:11)
決定ではなく、「満額支給」を「最大限」の努力目標に据えている。他の予算を削ってでも、公約どおりに何が何でも満額支給だという強い姿勢は全然ない。
松野官房副長官の「再来年度から満額支給するという方針は変わっていない」とする決定度から較べると、かなりフリーな立ち位置にいる。
鳩山首相の「満額支給」努力目標発言は、野田、峰崎両副大臣、菅直人財務大臣の各発言にしても、〈子ども手当、高校無償化、高速道路無料化、暫定税率廃止などの政策により、家計の可処分所得を増やし、消費を拡大します。それによって日本の経済を内需主導型へ転換し、安定した経済成長を実現します。〉とマニフェストに掲げて国民と契約した内需主導型経済成長戦略政策であることの明確な認識に立たない、この記事の最初で指摘したように財源論でのみ把えている態度生じた発言ではないだろうか。
松野官房副長官にしても、金額の面でのみの発言で、内需主導型経済成長戦略政策の一つだとする把え方はしていない。
上記「毎日jp」記事がみんなの党代表の渡辺喜美代表の質問に答えて子ども手当の10年度半額1万3000円支給、給付総額2兆2554億円の経済効果を菅直人財務相が説明しているが、子ども手当を内需主導型経済成長戦略政策の一つだということを基本の認識に据えて積極的に発言した言葉とはなっていない。
「現行の児童手当からの上乗せ分1.3兆円のうち7割程度が消費に回り、10年度の国内総生産(GDP)を1兆円程度、成長率で0.2%押し上げる」
「子育ての経済的な負担を軽減し、総合的な少子化対策を推進することが目的」
単に政府が国民に投じた資本の経済効果を述べているに過ぎない。だから、「子育ての経済的な負担を軽減し、総合的な少子化対策を推進することが目的」とやがては国全体の経済に資することになる中長期的な経済効果に言及しているものの、内需主導型経済成長戦略政策だとする大枠の認識に立った答弁とはなっていないために投じた国の資本が如何に日本経済の内需主導型転換に向けた費用対効果を上げ、如何に安定した経済成長を実現していくのかより直接的な言及がないことになる。
いわばマニフェストに掲げた約束、契約を子ども手当の問題でも疎かにしている
確かに子ども手当には多くの批判がある。経済ジャーナリストとかの財部誠一氏が次のように《財部誠一 特別インタビュー 内需にこだわる民主党が招く『鳩山不況』》(ダイヤモンドオンライン/2009年10月23日09時15分)で批判している。(一部抜粋)
〈彼らが掲げる「内需拡大」のストーリーはこうだ。国のムダをなくし、直接国民に補助金などを給付することによって、可処分所得が増え、消費は高まり、経済が成長するという論法である。しかし、この厳しいご時世に、子ども手当てをすぐに全額使ってしまう人はいるだろうか。相当額を貯金すると考えるのが、常識的な判断だろう。
私は無駄な公共事業に反対だが、公共事業でさえ5兆円支出すれば5兆円の費用対効果が見込める。ところが、子ども手当の場合は間違いなく効果はマイナスになり、費用対効果という点でも景気対策としては悲観せざるを得ない。〉――
子ども手当に関する批判が妥当なものかどうかは経済専門家ではないから分からない。子ども手当がマニフェストに掲げた性格どおりの政策として実現に向けて実行されているかどうかをここではたた単に問題としているに過ぎない。
財部氏は「公共事業でさえ5兆円支出すれば5兆円の費用対効果が見込める」と言っているが、公共事業の場合、自民党の惜しげもない大盤振舞いからか、欧米と比較して高額な建設費であること、これまで多くの工事で談合入札を繰返してきたこと、下請に安い単価で仕事に出す等のことを行ってきたことからすると、「5兆円支出すれば5兆円の費用対効果が見込める」わけではない。企業側から見た場合はボロ儲けとなるが、国側から見たら、そこにムダが大分含まれていることになるからだ。
あるいは公共事業でも営利目的の何らかの施設建設の場合、赤字経営で税金を後追い投入して赤字補填をするケースの場合も、「5兆円支出すれば5兆円の費用対効果が見込める」わけではないはずだ。建設費581億円をかけ、毎年20億円の赤字を生み出していたという「私のしごと館」が投入資金イコール経済効果ではない典型的な公共事業と言える。結果として今年2010年3月末で閉館予定という結末を迎えつつある。
また赤字財政を伴った景気回復策としての大規模な公共投資は景気回復に一時的に役立ったとしても、財政の悪化という国全体の病を伴い、財政全体の費用対効果を損なわせるだろうから、「公共事業でさえ5兆円支出すれば5兆円の費用対効果が見込める」とは確実には言えないことになる。
外野席からの批判があったとしても、民主党は子ども手当を内需主導型経済成長戦略政策の一つとして掲げた以上、その認識に添った政策の推進を敢行することで、それを正しい政策だとする実証を行う責任を有するはずである。
そうでなければ、マニフェストに掲げた意味を失う。そのマニフェストで選挙を戦ったはずでもある。
また子ども手当が内需主導型経済成長戦略政策の一つあるなら、前政権が今の不況から脱すべく様々に景気対策を打ってきたが、その効果が個人消費や雇用改善に向かわず、二番底が懸念される現在、「家計の可処分所得を増やし、消費を拡大」するとしている内需主導型経済成長戦略政策の一つである子ども手当を約束どおりに早急に実行しないで、他に実行する機会があると言うのだろうか。
少なくとも2011年度以降、確実に満額支給しますと全員で確約したなら、現在15歳でも来年4月以降16歳になる子どもは適用外となるから、14歳以下の子どもがいる家庭では現在財布の紐をきつく締めていたとしても、再来年度のさらに1万3千円増額の全額支給を当て込んで前倒しで子どものための消費に向かうことも可能性としては考えることができる。
それを全額支給できないかも知れない、半額のままかもしれないと、逆に財布の紐を現状のまま締めさせ、支給される1万3千円も満足に消費に向かわせないようなことを言っている。ご立派。