安倍首相の今回のアルジェリア人質事件から何ら学習していない邦人保護方策検討指示

2013-02-01 09:39:40 | Weblog

 「お知らせ」

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 今回のアルジェリア人質事件では安倍政権は邦人の安否確認に手間取った。理由は、「情報が錯そうしていて、確たる情報は申し上げられない」(1月18日午前1時50分過ぎ菅官房長官記者会見)からであった。情報の錯綜は国営アルジェリア通信が1月18日日本時間午前4時50分頃に軍事作戦終了と報道した後も続いた。

 現地に飛んで邦人の安否確認に動いていた城内外務政務官が1月26日帰国し、同日午後4時過ぎに安倍首相に現地状況を報告、その後の記者団に対する発言も情報の錯綜を訴えていた。

 《城内外務政務官 安否確認は困難極めた》NHK NEWS WEB/2013年1月26日 19時19分)

 城内外務政務官「アルジェリア政府による軍事作戦が行われるなかで、全くと言っていいほど情報がなかった。何人が亡くなっているのか、国籍はどこかについて、錯そうした情報に翻弄された。断片的な手がかりを、イギリス、アメリカなどと情報交換しながら照合したが、全容はつかめなかった。

 事件現場はガス生産プラントで、ちょっとしたことで大爆発し、大惨事になるということで、大変緊張した状況だった。アルジェリア政府の配慮で、最も近い所まで行くことができたが、残念ながら生存者は確認はできなかった」

 記者「アルジェリア軍の攻撃で日本人の命が奪われたのか」

 城内外務政務官「日本人がどのような形で亡くなったか詳細は分からないが、大半がテロリストによって銃殺されたと推察される。アルジェリア軍の攻撃で、日本人が死亡したという証拠はない」――

 人質は要求貫徹と自分たちの身柄安全確保の切り札である。要求がなかなか通らない場合、一人二人は殺すかもしれないが、切り札として大事に扱うし、扱わなければ、もう一方の切り札である自分たちの身柄安全確保の保証を失うことになる。

 いわば武装勢力は自分たちの要求貫徹と身柄安全確保のために必要に応じて何人かを除いた人質の身柄の安全を保障する。

 要求前の例外としての殺害は人質となる前に武装勢力の捕獲から逃れようとした場合の逃亡阻止のための殺害と要求中の例外としての人質殺害は人質の方から武装勢力の制御の隙を狙って、その支配から逃れようとした場合の逃亡阻止のための殺害といったとこだろう。

 「人質は困らないほど沢山いるから、一人二人逃げても構わない」と逃亡を許してはくれまい。このセリフは逃げられてしまった場合に使う言葉であるはずだ。事実、今回の武装勢力襲撃事件では少なくない何人かが武装勢力の発砲をかいくぐって逃亡に成功した従業員もいたはずだ。

 但し、「テロリストとは交渉しない」の制圧優先の切り札の前には人質は如何なる切り札ともなり得ない。制圧側の優位な軍事力の前に人質が足手纏いとなり、あるいは毒を食らわば皿までとばかりに道連れに人質を殺す展開を余儀なくされたといったことが考えられるとしても、制圧作戦が武装勢力を掃討していく過程で人質をも巻き込んでいった展開も優に否定はできない。

 アルジェリアのメデルシ外相が軍事作戦開始のキッカケを1月25日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)開催のスイスでAP通信のインタビューに答えている。《アルジェリア外相“作戦やむなし”》NHK NEWS WEB/2013年1月26日 5時9分)

 メデルシ外相「犯人たちは人質を連れて施設から逃げ、隣国のマリへ向かおうとした。わが軍はそれを止めようとして、そのとき初めて戦闘が起きた。テロリストの中には自爆を試みる者もいた。

 作戦は成功したと考えている。しかし、外国からの投資を呼びかけているアルジェリアとしては、外国企業のためにも、イナメナスでの事件は再検証する必要がある」――

 この発言通りの事実がそもそもの発端として存在していたのかどうか、かなり疑わしい。

 武装勢力はフランスのマリからの撤退を要求していた。要求を出さないまま逃亡することはあり得ないから、要求を出したのに対して、「我々はテロリストとは交渉しない」の一言を返答とされたとき、人質は要求貫徹の切り札であることの効き目を失い、身柄安全確保の切り札として一縷の望みを託すことになる。

 わざわざ説明するまでもなく、「テロリストとは交渉しない」とは人質を犠牲にしたとしても制圧を優先させるという宣言に他ならないからである。

 当然、一縷の望みにしても半信半疑の不確定要素と化す。だが、アルジェリア政府が制圧の構えでいる以上、相手の圧倒的な軍事力を考えた場合、いわば人質が相手の軍事力を相殺する力を失った以上、イチかバチかの逃亡を試みるか、建物内に閉じ込もって抵抗を試みるか、あるいはメデルシ外相が言っているように自爆で施設を少しでも破壊するか、主としてこれらの選択肢しか残されていなかったはずだ。

 人質に身柄安全確保の一縷の望みを託して人質を連れて逃亡を試みたが、その望みも治安部隊の攻撃によって敢え無く打ち砕かれることとなったという展開も考慮しなければならない。

 治安部隊の最初の攻撃開始が人質と武装勢力の区別の確認が困難である上に武装勢力か人質か標的の確認も困難なヘリコプターによる空爆で、その後地上部隊の突入が続いたという作戦から、武装勢側からしたら、人質は足手纏いであること以外は決定的に意味を失ったはずだ。応戦するには人質は邪魔な存在でしかない

 次の段階として武装勢力は足手纏いの抹消に進むことになる。あるいはそんな余裕はなく、治安部隊に対する応戦がやっとで、人質と共に殺されていったという経緯を取った可能性も考えることができる。

 もしこういった経緯を踏んだとしたら、メデルシ外相の発言はアルジェリア政府に都合のいい発言でしかないことになるし、城内外務政務官の「大半がテロリストによって銃殺されたと推察される」にしても、「アルジェリア軍の攻撃で、日本人が死亡したという証拠はない」にしても、些か趣を異にすることになる。

 まだアルジェリア政府の公式の検証が済んでいないにも関わらず、済んだとしても内容の正当性は当てにはならないが、城内外務政務官が治安当局の攻撃が発端となった武装勢力の人質殺害の存在を疑ってもいいケースを排除しているのは、情報収集の一端を担っている政府の一員として役目不足の感が否めない。

 もしそのような経緯を疑っていながら、それを隠しての発言だとしたら、武力制圧支持の姿勢を早くも打ち出していることになる。

 武力制圧支持の姿勢は、当然、10人の犠牲を止むを得ない事実として受入れて、受け入れることによって人命優先の姿勢に幕を降ろすことを意味する。

 安倍首相にしても城内外務政務官と同じ姿勢を取っていることが彼から報告を受けた後の記者団に対する発言から窺うことができる。安倍首相がそういった姿勢だったから、城内外務政務官が同じ姿勢を取ることになったのか、その逆なのか、あるいは双方してイギリスやアメリカ、フランスの態度を話しているうちに意思疎通し合った姿勢なのか、いずれかであろう。

 《首相“テロに対し強い憤り”》NHK NEWS WEB/2013年1月26日 18時28分)

 以下は、〈総理大臣公邸で、アルジェリアから帰国した城内外務政務官から現地の状況などについて報告を受けたあと、記者団に対し〉(記事)て行った発言である。

 安倍首相「改めて事件の悲惨さとテロリストの暴虐な行動に対して強い憤りを覚えた。世界の最前線で頑張ってきた日本人が、非道にも命を奪われた。最愛の家族を失った遺族にとっては、悲痛で悔しい思いだろうと思う。家族の気持ちを思うとことばもない。われわれは、改めて、テロと戦っていく決意を新たにした。

 アルジェリア軍の軍事オペレーションで、結果として尊い日本人の命が失われたことは残念だが、遺体の確認などで、アルジェリア政府が最大限の配慮をしてくれたことも分かった。今後とも、真相を明らかにするうえで、アルジェリア側に協力を求めていく」――

 「今後とも、真相を明らかにするうえで、アルジェリア側に協力を求めていく」という発言は事実の全体としての真相解明はこれからだということを意味している。

 「アルジェリア軍の軍事オペレーションで、結果として尊い日本人の命が失われたことは残念だが」との発言は、安倍首相に報告後の城内外務政務官の「アルジェリア軍の攻撃で、日本人が死亡したという証拠はない」という発言と照合すると、アルジェリア軍の軍事オペレーションが発端ではあったものの、武装勢力が率先して行った人質殺害であり、「結果として尊い日本人の命が失われた」という意味になるはずだ。

 そうでなければ、「遺体の確認などで、アルジェリア政府が最大限の配慮をしてくれた」としても、それがいくら「最大限の配慮」であったとしても、それを以てして人命喪失と交換できるものではない。人命喪失がなければ、いわば人命優先が厳格に実行されていたなら、遺体確認は存在しない不必要な行為となる。

 要するに人質の犠牲が武装勢力側の例外を除いてアルジェリア軍の制圧作戦が発端となって武装勢力を追い詰めた結果の可能性もあるとする情報解読の選択肢を行わずに、排除したまま、邦人殺害はすべて武装勢力の仕業で、「遺体の確認などで、アルジェリア政府がする大限の配慮をしてくれた」と感謝するのは、アルジェリア政府側の制圧作戦の免罪発言となる。

 安倍首相にしても、城内外務政務官と共にアルジェリア政府の制圧作戦を良として、これまでの人命優先の姿勢に幕を閉じたことになる。

 もしこれまでと同様に人命優先を言い続けるとしたなら、アメリカもイギリスもフランスも軍事作戦を止むを得ない選択肢だと一定の理解を示している中で日本一国だけがアルジェリア政府の軍事作戦を追及しなければならないことになる。外交上得策でないと判断したはずだ。

 記事は、〈安倍総理大臣は、来週にも、菅官房長官を長とする検証委員会を立ち上げ、事件の真相解明を進め、海外の日本人の安全対策の強化などに取り組む考えを重ねて示しました。〉と書いているが、既にアルジェリア政府の制圧作戦を容認する姿勢でいるのだから、事件の真相解明の方向は既に知れている。

 日本政府は当初人命優先の価値感・人権意識を至上命題とした。アルジェリア政府は人命優先の後回しは止む無しとした「テロリストとは交渉せず」を至上命題とした。

 「テロリストとは交渉せず」は1月16日午後2時頃の武装勢力襲撃から1日と6時間置いただけの素早い制圧作戦開始と多大な犠牲者数によって意志表示された。

 人質優先だったなら、もっと時間をかけた練り強い交渉が展開されたはずだ。

 そして安倍政権は犠牲者と無事だった邦人の帰国を果たすと、アルジェリア政府の軍事作戦を容認する姿勢へと転換、人命尊重に幕を降ろした。

 人命優先だ、安否確認が取れない、情報が錯綜していて、どれが事実なのか分からないなどと大騒ぎしたことが何の意味も持たなかった。

 要するに直接的交渉当事国ではない日本政府は人命優先に関しても情報収集に関しても非力であった。制圧はアルジェリア治安部隊の元、天然ガス関連施設とそのごく周辺の密室で行われたのである。人命と情報に関してはアルジェリア政府が握っていた。中で武装勢力が人質をどう殺害しようとも、そういった展開もアルジェリア政府下にあった。

 但し、両政府間の関係は最初からそうであると分かっていたはずだ。アルジェリア政府の「テロリストとは交渉せず」の姿勢がどういうことなのか、安倍首相はいくら鈍感であっても、遅くとも日本時間の1月18日午前0時30分から15分間、アルジェリアのセラル首相と電話会談したときに悟らなければならなかった。

  既にアルジェリア政府は武力鎮圧の攻撃を仕掛けていた。

 安倍首相「アルジェリア軍が軍事作戦を開始し、人質に死傷者が出ているという情報に接している。人命最優先での対応を申し入れているが、人質の生命を危険にさらす行動を強く懸念しており、厳に控えてほしい」

 セラル首相「相手は危険なテロ集団で、これが最善の方法だ。作戦は続いている」――
 
 制圧作戦の展開とそれに対する武装勢力の抵抗・反撃との間で繰り広げられる攻防自体が人質の生殺与奪の権を握ることとなっていた。

 それが「テロリストとは交渉せず」の姿勢が答としていく現実であった。

 もし安倍首相が、あるいは安倍政権の中の一人でも情報に関わる全ての能力に対して合理的な判斷を可能としていたなら、安倍政権は狼狽えずに「残念で、手をこまねくことになるが、制圧の結果を待つしかない。我々の手が及ばない場所で制圧が行われている」と発表すべきだったろう。

 事実その手しかなかった。勿論、そういった発表の裏側で情報収集を続けなければならないのは務めであり、当然のことである。

 だが、制圧作戦が進み、人質の犠牲が明らかになっても、何ら影響力を持つことのない人命優先を言い続け、安否確認で右往左往した。

 人命優先を言い続けることが首相としての地位を守る手段だとしていたなら、尚更に問題となる。

 人命優先は当然であるとしても、いつ如何なるときでも国家の安全保障を担っている以上、日本が置かれている現実を的確に読み取って行動に移す情報判断能力の臨機応変性を失ったなら、一国を任せるリーダーとしての資格に疑いが出てくる。

 また、直接的な交渉当事国であるか否かに発した人命優先云々と最終的にアルジェリア政府の軍事作戦を容認することで人命優先に幕を降ろすことになった皮肉な結末はあくまでも情報処理能力の問題であって、それを欠いていたなら、アルジェリアの人質事件を受けて検証委員会を立ち上げ、検討することになった邦人保護対策では簡単には片付かない。

 《首相 緊急時邦人保護策取りまとめ指示》NHK NEWS WEB/2013年1月29日 16時45分)

 1月29日、首相官邸で人質事件の検証委員会初会合開催。

 安倍首相「世界の最前線で活躍する日本人が、テロの犠牲になったことは痛恨の極みだ。日本の成長と発展、そして国際貢献のために、海外で日本の企業が安全に活動することが必要不可欠だ。

 事件への対応の具体的な検証を行ったうえで、有識者の意見も聞いて、テロなどの緊急事態に備えて平素から取るべき対策と、万が一危機が発生した場合に、海外に滞在する日本人を保護するための方策を検討してほしい」

 海外に於ける日本人保護を問題としているのである。「平素から取るべき対策」は兎も角、「テロなどの緊急事態」発生の場合は日本政府は直接的交渉当事国に立つことはできない。だが、以上の発言には直接的交渉当事国か否かを前提として取り得る対策の違いと効果に関わる認識を一切窺うことができない。

 今回の武装勢力襲撃と人質事件から学習しなければならないことは、直接的交渉当事国ではない日本が如何に人命優先に無力であったか、その無力を補う対策として直接的交渉当事国に対して如何に人命優先の作戦を採用させて、如何に効果的に人命優先に取り組むことができるかであったはずだ。

 このような視点をすべて欠いた発言と方策検討指示となっている。当然、この程度の合理的判断能力からは満足な方策は期待できない。

 「検証委員会」出席者は安倍首相以下、アルジェリア事件の対応に当たった菅官房長官と関係省庁の局長級だと記事は書いている。安倍首相の合理的判断能力を欠いたこの程度の方策検討指示がそのまま通ったということは、出席者全員からアルジェリア事件から学習した特段の意見も出なかったことを意味している。

 いわば安倍首相と似たり寄ったりの雁首ばかりであることを理由とした期待できないなのである。例え「有識者」が素晴らしい対策を講じたとしても、その対策を実行するのは首相をトップとした官房長官、関係省庁の官僚ということになる。

 合理的判断能力を欠いた雁首ばかりであったなら、どのような実行能力を期待できるというのだろう。

コメント (1)
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