安倍政権の中国レーダー照射、事実でないから証拠開示を見送ったという論理も成り立つ

2013-02-17 12:08:05 | Weblog

 2013年1月19日、海上自衛隊護衛艦搭載飛行中のヘリコプターに向けた、中国海軍艦艇から発射するミサイルや大砲等を標的に誘導するための、一般的には攻撃目的の射撃管制レーダーの照射をヘリコプター搭載の電波探知装置(ESM)が感知した。

 ヘリは回避行動を取って、レーダーから逃れた。

 攻撃目的だから、攻撃を目的としない射撃管制レーダーの照射はあり得ないを常識としていることになる。と言うことは、いたずらや威嚇目的の照射はあり得ないということも常識としていることになり、このことは次の発言が証明する。

 防衛相幹部「照射された側が対応行動として先に攻撃しても、国際法的に何ら問題ではない」(MSN産経

 この発言はレーダー照射に対する電波探知装置(ESM)の感知確度を同時に証明している。

 次の発言も同じことを証明している。

 ケビン・メア元米国務省日本部長「米軍であれば、(自らへの)攻撃と判断して反撃する」(YOMIURI ONLINE

 だが、実際に照射したかどうか確かめるために防衛省運用企画局がデーターを解析。1月21日、「中国側のレーダー照射であるとの確証は得られなかった」と小野寺防衛相に報告。

 一般的には攻撃目的の射撃管制レーダー照射に対する日本の自衛隊装備の電波探知装置(ESM)の感知確度は照射を受けた現場では正確な判断は不可能な程性能が劣るらしい。

 2013年1月30日、今度は自衛隊の護衛艦が中国艦艇から再び照射を受けた。照射を受けた現場では正確な判断は不可能だから、再び防衛省運用企画局にデーター送付して、解析、今度は実際に照射を受けていたという解析結果を受けた。

 2013年2月5日夜、小野寺防衛相が安倍首相の了解を得て、公表。

 〈公表にあたり詳細なデータ分析・検証で事実関係を固めたのは、「中国側が『ぬれぎぬ』と言いがかりをつけてくる」(政府高官)ことを念頭に反論の余地を残さないためだ。〉(MSN産経

 〈公表にあたり詳細なデータ分析・検証で事実関係を固めた〉と書いていることはおかしい。前提はあくまでも照射は事実かどうかの分析・検証であったはずだ。書いているとおりなら、1月19日の照射も事実であることを前提とした事実関係固めでなければならない。

 だが、1月19日の照射は分析・検証の結果、事実とする確証を得ることはできなかった。

 だとすると、事実であるかどうかの分析・検証が「中国側が『ぬれぎぬ』と言いがかりをつけてくる」(政府高官)懸念に対する危機管理だとしていることは照射が事実だと確認できた後の危機管理ということになる。

 1月30日の照射は分析・検証の結果、事実だと確認できた。公表したら、「中国側が『ぬれぎぬ』と言いがかりをつけてくる」かもしれない。言いがかりをつけてきても大丈夫なようにデーター上の事実関係をしっかりと固めなければならない。

 こういった経緯を取ったはずだ。

 日本政府のこの公表と抗議に対して中国の外務省も国防省も正式な見解を発表しなかった。

 菅官房長官「不測の事態を招きかねない危険な行為と捉えており、強く抗議し、いたずらにこうしたことを行うことがないよう、引き続き外交当局で、しっかりと説明責任を果たすよう求めている」(NHK NEWS WEB

 2月7日になって中国が反応した。

 華春瑩・中国外務省報道官「このところ、日本側は人為的に危機をあおって緊張した状況を作り、中国のイメージをおとしめている。中国側の強硬な姿勢が問題なのではなく、日本側の船や航空機が中国の領海や領空を絶えず不法に行き交い、主権を侵害していることが原因だ」(NHK NEWS WEB)――

 照射の事実には触れずに日本を非難する開き直りを見せた。

 2月8日午前、中国国防省が射撃管制レーダーに関わる初めての直接的な公式反応として談話を発表。

 中国国防省談話「射撃管制レーダーは使用していない。日本側の言っていることは事実と異なる。中国側に事実の確認をしないで、一方的に虚偽の状況を発表し、日本政府の高官が無責任な発言で『中国の脅威』を誇張し、緊張した雰囲気を作り出し、国際世論を誤った方向に導いている」(NHK NEWS WEB

 同月8日、中国側定例記者会見。

 華春瑩・中国外務省報道官「中国の関係部門がすでに事の真相を公表している。日本側の言い分は完全なねつ造だ。

 中国側は対話と協議を通じて両国が直面する問題を解決しようと努力してきたが、日本は過ちを正すどころか、多くの船や航空機を出動させ、中国の主権を損なう行動をますますエスカレートさせている。

 日本がこのようなことをするのはいったい何のためなのか問わずにはいられない。われわれも強い警戒を続けざるをえない」(NHK NEWS WEB

 日本政府の中国艦船レーダー照射説は「捏造」だとして、さらに開き直りを強めている。

 だが、こういった捏造説、事実無根だとする開き直りに対抗するためにも、レーダー照射の事実確認ができたのだからと、詳細なデータ分析・検証による事実関係固めの危機管理を行い、公開したときの「中国側が『ぬれぎぬ』と言いがかりをつけてくる」場合に備えていた。

 中国の捏造説に対する日本政府の反応。
 
 2月8日午前記者会見。

 石破自民党幹事長「こちらは時間をかけ、詳細な分析をして公表に至っている。軍事的能力を察知されない範囲で、どこまで客観的な事実が示せるか、防衛省に工夫が必要だ」(MSN産経

 「軍事的能力を察知されない範囲」という条件付きで、照射の客観的データーの開示による中国側の捏造説に対する有効な対抗策を模索すべきだとしている。

 だが、ここでもやはり電波探知装置(ESM)の性能は不正確で、いわば防衛省運用企画局備え付けのデーター分析・検証機器と一体となって、初めて一人前の性能を発揮できるという事実は隠蔽したままである。

 肝心の小野寺防衛相の2月9日「読売テレビ」番組出演時の発言。中国が捏造だとしていることについて。

 小野寺防衛相「レーダーの写真や動画映像などを、照射の証拠として公開を検討している」(解説を発言体に転換。)(毎日jp

 2月9日、都内で記者団に。

 小野寺防衛相「データは洋上ではなく、(高い技術を持つ)横須賀の専門部隊で分析した。事実は間違いないと確信している」(同(毎日jp

 要するに石破幹事長と同様に海上自衛隊護衛艦搭載の電波探知装置(ESM)で分析したのではなく、「横須賀の専門部隊で分析」したのだから、証拠として確実だとしてはいるが、電波探知装置(ESM)の性能を「横須賀の専門部隊」の分析・検証能力と一体として扱うことで、電波探知装置(ESM)の性能そのものの劣りは隠している。

 2月12日、菅官房長官の閣議後記者会見。

 菅官房長官「照射を受けたレーダーの周波数などの電波特性や、護衛艦と相手の位置関係などの現場の状況を、慎重かつ詳細に分析したものであり、(捏造だとする)中国側の説明は全く受け入れられない。

 (公表は)我が方の情報分析能力を明らかにするおそれがあり、そうしたことを踏まえて、(データ公表は)慎重に関係省庁で調整を行っている」(NHK NEWS WEB

 くどい言い方になるが、電波探知装置(ESM)の性能は不正確で、防衛省運用企画局備え付けのデーター分析・検証機器と連携・一体とすることで事実確認が可能となるという経緯を前提とすると、「(公表は)我が方の情報分析能力を明らかにする恐れがあり」と言っていることは防衛省運用企画局備え付けのデーター分析・検証機器の性能が漏洩することへの忌避感と同時に現場備え付けの電波探知装置(ESM)の欠陥性が明らかになることへの忌避感も含むはずだ。

 そうでなければ、1月19日の電波探知装置(ESM)が一度は事実とした照射の分析・検証の結果、その事実の確証は得ることができなかった、確証の不成立といった経緯との整合性が取れない。

 政府は2月15日になって、レーダー照射証拠の開示を、あれ程確かな証拠だとしていながら、見送る方針を決めた。

 防衛省幹部「日本の情報収集能力を明かすことになる」(毎日jp

 この「日本の情報収集能力」の漏洩にしても、電波探知装置(ESM)の性能の劣りの漏洩も入っているはずだ。

 要するに中国のデーター捏造説に対して、日本側の情報分析能力、あるいは情報収集能力の優秀さも劣りも含めた漏洩を恐れて、一切開示しないとした。

 漏洩回避だけではなく、世界の国々の多くが中国の捏造説を信じていなくて、レーダー照射が事実あったと認めていることも非開示とした背景にあるとマスコミは伝えている。

 だとしても、何処かで毅然とした姿を見せておかないと、常に足許を見られることになる。捏造説を打ち上げた中国である。彼らからしたら、世界がいくら照射は事実だと見ていても、照射は事実ではないから、開示を見送ったという論理をも、いとも簡単に成り立たせることができるだろう。

 我々の捏造説が正しかった。証拠もないのに死刑判決を下したのと同じだ、と。

 まさか開示するとしても、電波探知装置(ESM)の性能の劣りは隠して、都合のいい部分だけを開示しても、十分中国を追い詰めることができると考えていながら、中国を下手に追い詰めたなら、追い詰めた以上の中国の反発・反撃を恐れて、腰砕けとなったということではないことだけは願っている。

 2010年9月、尖閣沖で違法操業していた中国漁船が日本領海からの退去を求めた海上保安庁巡視船に体当りし、海上保安庁は公務執行妨害て船長を逮捕、中国がこのことに反発して、経済的圧力を加えてきたことに菅政権は毅然とした態度を取ることができず、逆に経済的圧力のエスカレートを恐れて、処分保留のまま釈放。

 だが、それから常に中国の風下に立つことになった。

 レーダー照射の証拠開示の見送る方針を決めた2月15日午前9時過ぎ、中国海洋監視船3隻が早速と言うべきか、尖閣諸島沖合日本の領海に侵入している。日本側の情報分析能力漏洩を理由に公開を逡巡している姿勢を見ての領海侵入なのか、証拠開示見送り方針の情報を前以て入手した上での行動なのか、いずれなのか分からないが、レーダー照射がなかったかのように領海侵入や領空侵入、あるいは接続水域航行といった元の風景に戻ったとしたら、日本政府が毅然とした態度を一度も存在させないことは中国側のレーダー照射事実消去に手を貸すことにもなるだろう。

 いくら日本側が口ではレーダー照射の事実はあったと言い立てたとしても、その事実を毅然とした態度に結びつけることができなければ、中国側はいくらでも捏造説を打ちたて可能とするだろうし、そうなれば、足許を見てくる材料の提供にしかならないはずだ。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする