小野寺防衛相が昨夕、1月5日夕方、緊急記者会見し、先月の1月19日(2013年)午後5時頃、東シナ海で中国海軍のジャンカイ1級フリゲート艦から護衛艦『おおなみ』搭載の飛行中のヘリコプターに射撃管制用レーダーの照射が疑われる事案があったことと、同じく先月の1月30日、東シナ海で中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊護衛艦に対して射撃管制用レーダーの照射があったことを公表した。
射撃管制用レーダーとは艦艇搭載ミサイルの発射に当たって、敵攻撃目標に照準を合わせて照射し、それを捕捉・追尾しつつ、次の段階でミサイル等を発射、攻撃・撃破する、いわばミサイル等を敵攻撃目標にまで誘導する目的のレーダーだそうだ。
よくアメリカ映画などで戦闘機が敵戦闘機にレーダーを照射、赤外線を照射したときのような小さな赤い点が敵戦闘機にマークされると、操縦士が、「ロックオン」と言って、敵戦闘機をレーダーが捉えたことを告げ、編隊を組んでいる隊長機や基地からの発射許可が降りるのを待つ。
発射許可が降りると、レバーのボタンを押してミサイルを発射。ミサイルが後尾から白い煙を吐きながら、逃げようと機体をくねらせるようにして揺らしながら飛行方向を激しく変える敵戦闘機をどこまでも追尾していき、最後に吸い込まれるようにして命中、敵戦闘機が爆破されるシーンを見かける。
中国側にはミサイルを発車する意思はなかったに違いないが、問題は面白半分に照射したのか、「いつかは攻撃してやるぞ」といったかなり悪質で意図的な威嚇意思に基づいて照射したかである。
親指と人指し指をピストルの形に作って、その指を相手にピストルを向けるように向け、撃つマネをして発射音を口で「バン」と言う。冗談でするときもあるし、相手に悪意を持っていて、殺してやりたいという思いがそうさせている場面を映画等で時折見かける。
サスペンス映画などでは実際に後になって実物のピストルを撃ち、相手を殺すシーンにお目にかかる。
政府関係者の受け止めは、尖閣諸島周辺の警戒を強めている自衛隊牽制の狙いからではないかという見方と、中国軍の現場の独断との見方があるらしい。
レーダー照射と同じ1月30日午前11時頃、中国海洋監視船3隻が沖縄県尖閣諸島沖合の日本の領海に1時間半に亘って侵入している。
これは現場の独断だろうか、あるいは軍、もしくは中国当局の意図的行為なのだろうか。
1月30日から5日後の2月4日午前9時半頃から午後11時半過ぎまで14時間に亘って同じ中国海洋監視船2隻が同じく沖縄県尖閣諸島沖合の日本の領海に侵入している。
14時間は明らかに現場の独断からではない、中国当局の指図を受けた意図的侵犯であろう。中国は尖閣諸島を自国領土だとしている。いわば自国領海だと見せつけるための14時間という示威行動だと推察することができる。
中国海洋監視船2隻が14時間に亘って日本領海に侵入した同じ2月4日、戚建国・中国人民解放軍副総参謀長の記者会見を次の記事が伝えている。
《「主権・領土」で譲歩せず=軍高官、海上闘争に決意-中国》(時事ドットコム/2013/02/04-21:47)
北京で開催の軍と国家機関の海上安全協力問題に関する座談会での発言だそうで、国防省が公式サイトで伝えたという。
いわば戚建国・中国人民解放軍副総参謀長の発言は中国政府の意思でもあることを物語っていることになる。
2月4日の何時頃の座談会か分からないが、中国海洋監視船2隻が日本領海に侵入していた2月4日午前9時半頃から午後11時半過ぎまでの14時間内の座談会と見ていいはずだ。
日本と北京の時差は日本の方が1時間進んだ1時間だということだが、「朝まで生テレビ」というわけではないだろうから、まさか午前8時半前とか午後10時半過ぎからの座談会といったことはあるまい。
また、中国人民解放軍が14時間にも亘る中国監視船の動きを把握していないということもあるまい。
戚建国・中国人民解放軍副総参謀長「国家の核心利益は一つも損なってはならず、主権は一分たりとも失ってはならず、領土は一寸たりとも欠けてはならない。
わが国の安全上の脅威は主に海上から生まれ、わが国の発展の重点も海上にある。軍と国家機関は海上闘争と海上安全、権益保護、安定維持の任務で著しい効果のある戦略的協力を行った」――
記事も解説で伝えているが、「軍と国家機関」を主語に据えていることからも、軍・政府一体の意思表明となっている。
1月19日と1月30日のレーダー照射が現場の独断であったとしても、中国は尖閣諸島は中国領土だとして、一歩も譲ることはない。そのことの改めての宣言が戚建国・中国人民解放軍副総参謀長の北京の座談会での発言であった。
いくら日本政府が尖閣諸島は日本の領土だと言い立てたとしても、中国も尖閣諸島は中国の領土だと言い立てる。日本政府が尖閣諸島を実効支配している関係から、中国は尖閣諸島を自国領土だと証明するためには領海侵入や接続水域航行といった示威行動を余儀なくされるのだろう。
レーダー照射が現場の独断だったとしても、「軍と国家機関」の意を体した以心伝心の行動としていることは間違いないはずである。
あるいは中国当局の尖閣諸島に関わるこれまでの行動を見たとき、「国家の核心利益は一つも損なってはならず、主権は一分たりとも失ってはならず、領土は一寸たりとも欠けてはならない」ことの強い意志表示を日本に対して何らかの具体的形で突きつける必要性を常に衝動として持っているはずだから、現場の独断であった方が思い切った形での尖閣諸島は中国領土であることの宣言とすることが可能となり、そのことに対する日本の対応を瀬踏みすることができるという計算を成り立たせているかもしれない。
勿論、偶発的な不測事態が起きる危険性は高まる。
だが、日中双方が自国領土だと言い張っている限り、偶発性の危険性は収まらない。
安倍政権が「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本の領土だ」と主張するなら、中国に対して歴史的根拠、国際法上の根拠を証明して、納得させる以外に日中の軍事的衝突の偶発性を停める方法はないのではないだろうか。
「尖閣はわが国固有の領土であり、外交交渉の余地はない」と言っている間は中国の尖閣を自国領土だとする示威行動はなくならないだろうし、常に日中衝突の偶発性を抱えることになる。
主張は相手を納得させて初めて主張の正当性を持つ。いわば安倍首相の「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本の領土だ」は中国を納得させることができていない、日本国内向けの主張に終わっている。
内弁慶という言葉がある。家の中では強いことを言っても、外では主張できなことを言う。当然、外では通用しない家の中だけで通用する主張ということになる。