2月19日(2013年)の参院予算委員会で小野次郎みんなの党議員がアルジェリア邦人人質事件を取り上げて、もっと帰国を早めるべきではなかったか、安倍首相が外遊に使用していた政府専用機を帰国を早くして、アルジェリアにもっと早く飛行させるべきではなかったかと安倍首相の対応を追及した。 【参院予算委】小野次郎VS 安倍晋三/アルジェリア人質事件(2013年2月19日)
だが、多分、帰国時間に拘ったからなのか、安倍首相の答弁から見逃してはならない重要な点を見逃している。安倍首相が言っていた「人命優先」、あるいは「人命第一」がニセモノに過ぎなかったこと、アリバイ作りに過ぎないことを見抜かなければならなかったが、それができなかった。
関係箇所をNHK国会中継から文字化してみた。
小野次郎みんなの党議員「危機管理についてお尋ねしますが、大変聞きづらい内容ですけれども、総理の帰国まで、私、クロノロジー(時間順配列?)取り寄せてみましたけど、19日の午前4時にはお帰りになっていますが、実は第一報からお帰りになるまでの間に事態の方がどんどん悪化していて、邦人の被害も拡大してしまっていたのではなかったかと。
政府の対策が後手に回ったとい認識はございませんか」
安倍首相「えー、我々はでき得る限りのすべての手は打った、とこのように思っております。えー、つまり、現地に於いてオペレーションを行なうのは、アルジェリア政府、であってですね、残念ながら、我々にとっては限界があると。
その中に於いてアルジェリアの首相にも私は直接お話を致しました。その事前にはキャメロン首相とも打ち合わせをしてですね、日本と英国で共同歩調を取りながら、アルジェリアに対して様々な働きかけをしていこうと、いうことを、決めて、実は行なっているわけでありますし、現地に急行した城内大臣政務官もですね、現地の英国側と、相談をしながら、英国側と一緒にアルジェリア側に申し入れ等々を行なっておりますので、残念ながら、結果は極めて残念な結果ではありましたが、えー、残念ながら、その段階に於ける手段、は、すべて取れるものは取ったと、このように認識しております」
小野次郎議員「最初に総理が指示された人命第一、事態の掌握に努める、そして関係国との連携。この三つ、果たされたとお考えですか」
菅官房長官「これに是非ご理解いただきたいのですけども、第一報外務省に入ったのは16時30分です。で、その10分後、16時40分には外務省に対策室を設置しました。
総理は、ハノイに日本時間16時10分に到着したんですけど、16時50分には総理大臣の指示というのがありまして、被害者の人命第一、さらに情報収集を強化し、事前の掌握に全力を尽くす、当事国を含め関係国と緊密に連絡を取る、この3点の指示がありました。
そして17時には官邸に対策室を設置しました。そして23時35分には外務大臣とアルジェリアの外務大臣との間で、人命第一の要請を致しました。
そして、17日になりましたけども、0時30分には外務大臣とノルウェー外務大臣との会談。そうしたことを総理の指示に基づいてq私共一つ一つ迅速に行うことができたのではないかなあと、いうふうに思いますが、検証委委員会を今つくっておりまして、何が足りなかったのか、どうすればいいのか、そうしたことをですね、私共、いつあるか分からないこうしたテロに対応できるようにしたいと、こう思っております」
小野次郎議員「私が申し上げているのは、一つには総理が帰国から遅れたのではないかということを言ってるんです。――
(首相がベトナム、タイ、インドネシア外遊に使った政府専用機をアルジェリア邦人帰国に回したが、事件発生後直ちに帰国すべきを帰国しなかったためにアルジェリアへの飛行が遅れたと追及。この箇所は省略。)
事件の第一報後、総理一行の中にも、速やかに帰国すべきだと意見具申した人がいたんじゃないですか」
安倍首相「どう対応するかってことについては様々な議論が当然あります。その中で私は最終判断をしたわけでありますが、それはやなり冷戦な判断が必要なんですが、何か事があったから、バタバタしてテロリストによって国政が中断される。外交が中断される。安全保障の議論についてアジアの諸国としっかり話をしていくことだってできない、ということがあっていいのか。
日本の政治、あるべき政治の姿を変えることができる。それは断じて許してはいけないわけでありますから、テロリストがどんな働きかけをしても、私達は冷静にやるべきことをしっかりとやっていく。
しかしオペレーションに於いて、支障があってはならない。で、我々はどういう姿に見られるか、ということではなく、中身を重視致しました。しっかりと本部を立ち上げ対応していく。外務大臣も私も、関係国と連携をとる。連絡を取る。それも外務大臣も私もやった、と思っております。
えー、そして、そん中に於いてベトナムにも、そしてタイにも、そしてインドネシアにも、それぞれ極めて、重要な国ですあります。小野さんも秘書官をやっておりましたから、ご承知かと思いますが、こういう外交日程っていうのは、一回飛ばしたらですね、1年以上、なかなかチャンスはないわけであります。受入国も入念な準備と費用と人をかけているわけでありまして、そこで話し合われる。首脳会談で話し合われる、ということは、勿論重要な会談なわけでありますから、そのケイチ(「ケイチ」としか聞き取れなかったが、「経費」と言おうとして、マズイと気づいて、言い直そうとして「ケイチ」となったように思えた。)を考えて、私は最終的に判断した。
もしこれを例えば途中で、えー、切り上げてですね、果たしてそれによって人命が救われたかと言えば、残念ながら、そんなことはなかったわけでありますから、そこは冷静な判断をしなければならない。
まあ、それはどちらにしろ、私の判断でありますから、様々な批判もあるかもしれませんが、それは甘受しなければならないと、そのように思っております」
小野次郎議員「まあ、あの、総理のご判断ですから、それはそうかもしれませんが、乗っておられた飛行機、アルジェリアに向かって、23日にやっと届いたんですね。アルジェリアに。総理自身は19日の早朝にお帰りになって、15分間、会議に出られたようなんですけども、再び公の場に出てきたのは19日の夜だったんです。
当初の予定と変わらないんですね。ですから、15分の会議に出るために、19日まで政府専用機使っていて、そのあと中(機内)を替えた(模様替えした)のか、どうか知りませんが、23日までアルジェリアまで行く救援機が遅れたというのは事実ですから、ご指摘だけさせて頂きますが、特にその判断で、外交日程が問題になったとするならば、総理の今回の外国出張の一番の目玉は安倍ドクトリンをインドネシアの晩餐のあと発表するっていうことにあって、その外交日程までこなしたいという思いがあったからじゃないんですか」
安倍首相「安倍ドクトリンについてはですね、晩餐会後ではなく、その前の講演で、これは行う予定でございました。ただ、講演も含めてキャンセルをして帰ってきたわけでありますし、今、えー、特別機の派遣が遅れたというご指摘がありました。これは全く当たっていないと思います。
では、特別機を早く出して何ができたのですか・・・・・・(相手の返事を待つ顔を見せる。)
これはまさに向こう側と調整しながら、取るべき手を行わなければならないわけでありまして、いずれにせよ、その段階でですね、まだ全員の遺体の確認ができていなかったわけです。実態としてはですね。その作業をすっと日本に帰ってきてからもやっているわけでありますから、私の帰国とは全く関係がなかったとはっきりと断言できると思います」
小野次郎議員「いずれにしても厳しいご判断だと思いますけども」と、なおも早く帰国すべきではなかったと主張してから、犯罪被害給付制度をアルジェリアの人質被害、グアムの無差別殺傷被害にも適用範囲を拡大すべきではないかとの訴えに入る。
次に事件と政府の対応の主な箇所を二度程ブログに利用しているが、時系列に並べてみた。一部、現地時間あり。 アルジェリア邦人拘束をめぐる主な動き(日本時間)
【1月16日】
日本時間13時頃 アルジェリア・イナメナスの天然ガス関連施設でプラント建設大手「日揮」の邦人社員らの拘束事件が発生
日本時間16時10分 安倍首相ハノイに到着
日本時間16時30分 外務省に邦人拘束の第一報
日本時間16時40分 外務省に対策室設置
日本時間16時50分 安倍総理大臣の指示
日本時間17時 首相官邸に対策室設置
日本時間23時35分 外務大臣とアルジェリアの外務大臣と電話会談。人命第一を要請
【17日】
日本時間0時30分 外務大臣とノルウェー外務大臣と電話会談
日本時間12時00分 タイから安倍・キャメロン電話会談(約15分間)
日本時間20時半頃 アルジェリア軍軍事作戦開始
【18日】
日本時間0時30分 タイ訪問中の安倍晋三首相、アルジェリアのセラル首相と電話会談
日本時間6時頃 アルジェリア国営ラジオは、軍事オペレーションが終了した旨発表
日本時間20時頃 菅義偉官房長官が「邦人3人の安全を確認、14人が安否不明」と発表
日本時間20時40分 日揮が新たに邦人4人の無事を確認
【19日】
日本時間4時 安倍首相が外遊を短縮して帰国
日本時間21時頃 アルジェリア政府から外交ルートで「日本人5人死亡」の情報伝達。
同国治安筋からは「14人生存」の情報。日本政府は公表控える
【20日】
日本時間0時30分 安倍首相がセラル首相と2度目の電話会談。この後、記者団に「安否に関して厳しい情報に接している」と語る
日本時間1時20分 菅長官が記者会見で、アルジェリア政府から邦人の死亡情報が入ったことを認める。人数は明かさず
日本時間5時頃 アルジェリア内務省、「人質23人と武装集団32人が死亡」と発表
【21日】
日本時間16時過ぎ 城内実外務政務官と川名浩一日揮社長らがイナメナスの病院で安否確認作業を開始
日本時間22時45分 安倍首相が政府対策本部会議で、日揮関係者の日本人7人の遺体を確認したと発表
日本時間13時頃 セラル首相が「8カ国の外国人人質37人が死亡」と発表
【22日】
日本時間22時過ぎ 邦人7人の遺体搬送と無事だった7人の帰国支援のため、政府専用機が羽田空港を出発
【23日】
日本時間16時過ぎ 政府専用機がアルジェ着
日本時間23時30分 菅長官が日揮関係者の日本人2人の死亡を発表
先ず、安倍首相は「現地に於いてオペレーションを行なうのは、アルジェリア政府、であってですね、残念ながら、我々にとっては限界がある」と言っているが、このことを弁えてアルジェリアのセラル首相と第1回目の電話会談を行ったはずだ。
第1回目の電話会談での双方の発言を「NHK NEWS WEB」は次のように伝えている。
安倍首相「アルジェリア軍が軍事作戦を開始し、人質に死傷者が出ているという情報に接している。人命最優先での対応を申し入れているが、人質の生命を危険にさらす行動を強く懸念しており、厳に控えてほしい」
セラル首相「相手は危険なテロ集団で、これが最善の方法だ。作戦は続いている」――
日本政府がオペレーション関与に「限界がある」ということは日本政府の人命優先が満足に機能しないことを意味する。
このことを言い換えるとすると、人命の如何はアルジェリア政府に預けることを意味する。しかも既に軍事作戦が開始していることを承知していた発言であることから、日本政府の人命優先は危機的状況にあったと言うことができる。
そこを敢えて電話して、人命最優先を申し入れたことになる。
問題は一縷の望みを託しながら、「限界」に果敢に挑戦し、その「限界」を打ち破りたいとする強い意志を持って電話したのか、その「限界」を如何ともし難い壁と感じながら電話したかである。
前者と後者では人命優先の意識に大きな差がある。
それとも、人命優先の姿勢を見せるアリバイ作りで電話しただけのことで、人命優先を守ることができなかったことをオペレーション関与に「限界がある」を口実としたのか。
外務省に邦人拘束の第一報が入ったのは日本時間1月16日16時30分。タイ訪問中の安倍首相がセラル首相に第1回目の電話を入れたのは、日本時間1月18日0時30分。第一報が入ってから、1日と8時間後のことである。
アルジェリア軍が軍事作戦開始したのは日本時間1月17日20時半頃(現地時間1月17日午後12時半頃)から見ても、約4時間経過している。
オペレーション関与に「限界」を抱えいることだけを考えたとしても、一刻も争う形でアルジェリア政府に対して人命優先の訴えを行わなければならない状況に立たされていたはずだが、「限界」を抱えていた上に軍事作戦開始から約4時間後の電話での人命優先の申し入れという余りにも遅過ぎる逆の対応となっていた。
この遅過ぎる対応は非難されないために後付けで行ったアリバイ作りと解釈されても仕方があるまい。
少なくとも人命優先の姿勢がニセモノではなく、ホンモノなら、軍事作戦開始前の早い時間にセラル首相に電話していても良かったはずである。
また、外務省に邦人拘束の第一報が入りながら、テロ武装勢力による襲撃でありながら、首相官邸ではなく、10分後に外務省に対策室設置したということは、外務省はアルジェリア政府が「テロとは交渉しない」という国家危機管姿勢を取っていることを情報としていなければならないはずだが、そのことに反して理重大事件と把えていなかったばかりか、オペレーション関与に「限界」があることを理解していなかった対応となる。
首相の指示がなければ、首相官邸に設置できないということなら、首相の指示が出るまで、ふさわしい対応はできないことになる。
安倍首相は「何か事があったから、バタバタしてテロリストによって国政が中断される。外交が中断される。安全保障の議論についてアジアの諸国としっかり話をしていくことだってできない、ということがあっていいのか」と言い、「こういう外交日程っていうのは、一回飛ばしたらですね、1年以上、なかなかチャンスはないわけであります。受入国も入念な準備と費用と人をかけているわけでありまして、そこで話し合われる。首脳会談で話し合われる、ということは、勿論重要な会談なわけでありますから、そのケイチ(ママ)を考えて、私は最終的に判断した」と尤もらしく外交の重要性を訴えているが、要はどちらを優先するのか、優先順位の問題である。
いわばそのことを認識していない自己正当化の主張となっている。
例えばこれが遠い外国の地で発生したテロ攻撃ではなく、3・11のような国内の巨大自然災害だとしたら、あるいは福島原発事故のような大災害だったなら、果たしてベトナムからタイ、タイからさらにインドネシアへと足を伸ばすことができただろうか。
要するに安倍首相はテロ武装集団襲撃によるアルジェリアの邦人人質事件よりも80%方、3カ国訪問を優先させたのである。アルジェリア政府が軍事的制圧作戦を開始してもなお、外国訪問を優先させていた。
この判断こそが問題とされなければならない。
それ程重要な「テロリストによって国政が中断される。外交が中断される。安全保障の議論についてアジアの諸国としっかり話をしていくことだってできない」ということがあってはならない、「受入国も入念な準備と費用と人をかけている」ことを無視できない外国訪問と位置づけたのである。
勿論、安倍首相の判断である。だが、そのような判断をしたということは、日本政府がオペレーション関与に「限界がある」ことを理由としたかどうか分からないが、あのときの人命優先を外国訪問よりも後回しにしたことを意味する。
にも関わらず、「人命優先」を盛んに口にした。これを以て、そのような姿勢で対応していると見せるアリバイ作りでなくで何であろう。
最後に、「もしこれを例えば途中で、えー、切り上げてですね、果たしてそれによって人命が救われたかと言えば、残念ながら、そんなことはなかったわけでありますから、そこは冷静な判断をしなければならない」とは、開き直りも甚だしい。
人命が犠牲となったことはあくまでも結果的に判明したことで、結果を見た末の結論に過ぎない。事件の一報を聞いた時点では人命がどうなるかの結論は得ていないはずだ。例えアルジェリア政府が「テロとは交渉せず、人質の生命(いのち)は後回し」の危機管理姿勢でいようとも、軍事的制圧作戦の中で命拾いする人質が実際に存在したように犠牲と救出は誰も、アルジェリア政府にしても判断できない状況にあった。
当然、日本政府としては例えオペレーション関与に「限界」を抱えていたとしても、国民の生命・財産を預かる以上、全員救出で危機管理をフル活動させなければならなかったはずだ。
例え帰国しなくても、直ちにアルジェリアのセラル首相と電話会談し、結果的にムダとなっても、人命優先を訴えなければならなかった。
だが、後手に過ぎる危機管理となった。「そこは冷静な判断をしなければならない」と抜け抜けと言っているが、「冷静な判断」は危機管理の素早い行動にこそ発揮されるべき能力であって、その能力が満足に発揮されずに機能不全に陥っていた。帰国時期の正当化のために強弁を働かせているとしか見えない。
安倍首相が口にしていた人命優先はその姿勢を見せるためのアリバイ作りでしかないことを答弁が否応もなしに証明する。ニセモノの人命優先だったと断言できる。