安倍晋三の中国民主化活動家劉暁波氏釈放の本気度と対中国関与の低劣な認識能力

2013-02-04 10:22:58 | Weblog

 2月1日の参議院本会議での代表質問で、水野賢一みんなの党議員から中国のノーベル平和賞受賞者の民主化活動家劉暁波(リュウ・ギョウハ)氏の釈放について質問を受け、安倍首相が「釈放されることが望ましい」と答弁したと伝えているマスコミ記事を読み、「望ましい」ということはどういうことなのだろうと思って、NHK中継放送の録画を文字に起こしてみた。

 「望ましい」とは希望であって、釈放の要求という如何なる意志行為に関しても自らの関わりを外側に置く意思表示に過ぎない。いわば関わろうとしないことの宣言に他ならない。

 では、代表質問の劉暁波氏に関する箇所を見てみる。 

 水野賢一・みんなの党「総理は外交方針として自由・民主主義・法の支配などの価値感を共有する国々との連携を模索しているようです。

 そういう意味では、それらの価値感が一致するとは言い難い状況の中国とは共産党一党独裁の元、様々な人権侵害が続いています。3年前、民主化運動をしている劉暁波(リュウ・ギョウハ)氏がノーベル平和賞を受賞しましたが、政治犯として服役中のため、授賞式に出席することさえできませんでした。

 そのとき自民党議員は総理の菅首相に、釈放を求めるべきだと、随分詰め寄っていました。みんなの党も劉暁波氏の釈放を求める決議案を国会に提出致しました。

 安倍総理は劉暁波氏を含む中国の民主化活動家やチベットの独立運動家に対する中国政府の弾圧に対して、どのような姿勢で臨むのですか。具体的には劉暁波氏の釈放を求めますか」

 安倍晋三「中国の民主化活動家を巡る人権状況や国際社会に於ける普遍的価値である人権及び基本的自由が中国に於いても保障されることが重要であります。

 劉暁波氏についても、そうした人権及び基本的自由は認められるべきであり、釈放されることは望ましいと、考えられます。

 このような観点から、これまでも政府間の対話などの機会を捉えて、民主化活動家についての我が国の懸念を中国側に伝えてきております」(以上)

 「中国の民主化活動家を巡る人権状況や」から、「釈放されることは望ましいと、考えられます」は一般論を述べたに過ぎない。「望ましい」とする希望すら、考えられることだとする、自分自身の問題から遥か遠くに遠ざけた、低いレベルの一般論としている。

 一般論だから、釈放に関わる安倍晋三自身の「私」という主語を言葉のみならず行間にすら存在させていない。どこからも「私」の釈放意志を窺うことができない。

 当然、安倍晋三の劉暁波氏釈放に関わる本気度は限りなくゼロに近い疑義が生じることになる。

 安倍晋三は機会あるごとに「自由と民主主義、基本的人権、法の支配」の普遍的価値を言い立てている。2013年1月18日にインドネシアを訪問、インドネシアのユドヨノ大統領との首脳会談は行ったものの、アルジェリアでの邦人人質事件を受けて、何の役にも立たないだろうが直接指揮を取るため、予定を早めて帰国することになったことから、スピーチする予定だったがスピーチし済まいの『開かれた、海の恵み―日本外交の新たな5原則』の中でも、「普遍的価値」に触れている。

 安倍晋三「未来をつくる5原則とは。第一に、2つの海が結び合うこの地において、思想、表現、言論の自由――人類が獲得した普遍的価値は、十全に幸(さき)わわねばなりません。

 第二に、わたくしたちにとって最も大切なコモンズである海は、力によってでなく、法と、ルールの支配するところでなくてはなりません。・・・・・」

 かくかように「思想、表現、言論の自由」、「法と、ルールの支配」等の「人類が獲得した普遍的価値」を挙げて、普遍的価値に対する希求精神旺盛なところをご披露に及んでいる。

 対して劉暁波氏拘束は中国では自由も民主主義も認められていない、基本的人権も存在しない、法の支配も確立していない等々が一般的社会性・一般的国家的性格となっている反普遍的価値横行の象徴である。

 にも関わらず、その象徴を打ち破って、中国の反普遍的価値を僅かでも切り崩そうとする「私」の意志を示すことすらしない、矛盾した普遍的価値希求精神旺盛となっている。

 普遍的価値の認識及びその希求精神の程度が知れる。単に中国に対する対抗手段として利用している普遍的価値に過ぎないからだろう。身についている「自由と民主主義、基本的人権、法の支配」の普遍的価値とは決して言い難い。

 水野賢一議員が「そのとき自民党議員は総理の菅首相に、釈放を求めるべきだと、随分詰め寄っていました」と言っていることの一例を、以前ブログに利用したから、挙げてみる。

 2010年10月14日の参議院予算委員会の質疑。山本一太自民党議員、現沖縄担当相が、アメリカのオバマ大統領も釈放を求めている、英国政府も、フランス政府も、ドイツ政府も求めている、日本政府も釈放を求める予定があるのかと菅無能首相を追及している。

 この10月14日は2010年9月7日に尖閣諸島中国漁船衝突事件が発生、逮捕した中国人船長を中国の圧力に屈して菅政権が釈放した9月24日から20日後である。

 「中国に於いて、普遍的な価値ある人権と、基本的自由が、保障されることが、重要だと、このように考えております」と言いながら、次のように答弁している。

 菅首相「まあ、どういう形での、どういう・・・・、表現をするかということは、あー・・・、考える・・・、必要があると思いますが、釈放されるのが望ましいと、このように思っております」

 安倍晋三とほぼ同じ答弁となっている。普遍的価値保障の重要性を言いながら、いざ釈放となる後、釈放すべきだではなく、「釈放されるのが望ましい」と希望にとどまっている。

 この答弁に対する山本一太の更なる追及。

 山本一太「今の、釈放されるのが望ましいというのも、これは総理の新しい答弁だと思いますが、私はもっと踏み込んでおっしゃってもいいと思うんですね。これで総理が以前よりは踏み込んで答弁をしていただきましたが、人権問題についてはっきりと言わないと、日本人は人権問題について意識が低いんじゃないかと、そういうふうに国際的に思われてしまうと思うんですね。もうちょっとはっきり言ってください。もう一回答弁をお願いします」

 菅無能の以前より踏み込んだ答弁が「釈放されるのが望ましい」程度では情けない限りだが、山本一太の「人権問題についてはっきりと言わないと、日本人は人権問題について意識が低いんじゃないかと、そういうふうに国際的に思われてしまう」は安倍晋三にも言えることで、かつての自民党の菅政権追及の姿勢と整合性が取れていないことになる。

 山本一太は安倍晋三の応援隊長を自任しているとかのシンパだそうだが、「総理、『釈放されることは望ましいと、考えられます』ではまずいですよ。あのバカを追及したときと整合性は取れないし、日本人の人権意識が疑われしまいます。釈放を要求するとはっきりと言って、実行してください」と必ずや忠告するはず・・・・はないか。

 中国の反発を恐れて、これ以上要らぬゴタゴタはゴメンだと、身についてない普遍的価値どおりの反応を見せるに違いない。

 例えアジアの周辺諸国を普遍的価値共有の仲間に引き入れ、外堀から埋めて中国を普遍的価値容認に追い込んでいく戦術だとしても、直接迫って日本が受ける経済的ダメージ等を恐れていたのでは、及び腰そのので、周辺諸国の対中経済依存と併せ考えると、中国の強硬な共産党一党独裁体制を基盤とした普遍的価値アレルギーは簡単には切り崩すことはできまい。

 肝心なことは中国政府に普遍的価値を認識させる政治的努力は劉暁波氏釈放問題のみにかかっているわけではなく、誰もが認識していることだと思うが、安倍晋三は自らの関わりを一般論に置いていることからすると、劉暁波氏釈放問題を普遍的価値を認識させる政治的努力の対象の一つとする認識はないようだ。

 尖閣諸島が明らかに日本の固有の領土でありながら、日本の主張がまともに通じず、中国が自国領土だと不法な要求を通用させている理由の一つに中国が軍一体の共産党一党独裁の体制にあることであり、そのことが大きな障害となっているはずだ。

 独裁主義は自国を絶対とする。国民も自国を絶対とする独裁主義の空気を吸って育つがゆえに国民自身も自国を絶対とし、国が自国を絶対としない政策を行った場合、反発し、国は国民の自国絶対姿勢に応じてなおのこと自国を絶対とする、国家と国民共に頑迷な自国絶対主義の相互反応関係を築くことになる。

 だとするなら、中国の共産党一党独裁体制の民主主義体制への転換が日中領土問題の障害を取り除く有効な手段となり得るはずだ。

 中国の民主化こそが、その時々の政治情勢で左右されることのない日中の真の対等な戦略的互恵関係構築の契機となるし、真の対等な日中友好関係構築の契機となり得ることになる。

 領土問題の対立が原因となって政治的・経済的軋轢を招き、その損失を相互に被りながら、戦略的互恵関係を言う矛盾は倒錯そのものである。

 非常に困難な選択ではあるが、機会あるごとに民主化を促すしかない。劉暁波氏釈放要求にしても民主化要求の重要な一環となるはずだが、対中民主化要求の有効な戦略を描くだけの合理的判断能力を欠如させているのだろう、「釈放されることは望ましいと、考えられます」と、他人事として扱う脳ミソしか示すことができないでいる。

 勇ましい話し振りに誤魔化されてはいけない。

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