安倍晋三の経団連賃上げ要請は国民のためではなく、自己保身と参院選勝利の場当たり政策

2013-02-15 11:04:43 | Weblog

 安倍首相が2月5日(2013年)、首相官邸で「経済財政諮問会議」を開催、経済団体にデフレ脱却に向けて賃金上昇につながる取り組みを要請したという。

 賃上げによる企業負担の代償にだろう、政府として労働市場の規制緩和策などを検討していく考えを表明したという。

 これを以て労働者から見た場合の賃上げのプラスと労働市場規制緩和のマイナスの差し引きプラスとなるかマイナスとなるかである。

 企業側から見た場合、労働市場規制緩和のプラスと賃上げのマイナスの差し引きプラスとなるかマイナスとなるかということになる。

 労働市場の規制緩和がなくても、賃上げによってモノが売れ、企業が利益を獲得できれば、賃上げの負担とプラス・マイナスして、利益のプラスとなると計算できても、それで良しとすることはないだろう。リーマン・ショックによる不況、欧州金融不安による金融危機の経験がボーナス等の一時金は許しても、賃上げの固定化を忌避するはずだ。

 アベノミクスにしても、出だしは良くても、先行きの確定値は誰も予想できないだろう。超インフレを招く危険性を指摘する声もある。

 果たして安倍晋三は2%の物価目標の設定と大胆な金融緩和を掲げてデフレからの脱却を目指した時点で、市場の反応を受けた円安局面での輸入物価の値上がりをスケジュールに入れ、政策上の危機管理の一つとしていたのだろうか。

 景気を回復しないうちの物価の値上がりは個人生活を直撃し、政権の支持を失う危機に変じかねない。そこで企業団体に賃上げの取り組みを要請したのだろうが、それが前以て予想していた危機に対する管理としての行動だったのだろうか。

 賃上げ要請は一見春闘前の妥当な時期に見えるが、円安は野田前首相が2012年11月14日の対安倍党首討論で、2日後の11月16日に「解散しようじゃありませんか」と勇ましくも衆院解散を宣言して以降、株高と円安の局面が一貫して続き、2月11日のニューヨーク外国為替市場での円相場は一時、1ドル=94円台半ばまで値下がり、約2年9カ月振りの水準まで円安ドル高が進んだとマスコミは伝えるまでになっている。

 一方、円安による輸入価格の高騰はどうかと言うと、経済産業省資源エネルギー庁2月14日発表の、2月12日時点のレギュラーガソリン全国平均小売価格は、原油相場の上昇基調も原因の一つになっているということだが、主として円安によって10週連続の値上がりとなっているという。

 10週連続70日と言うと、昨年の12月初め頃からである。野田前首相が11月14日の党首討論で解散宣言、11月16日解散を受けて円安が始まった時期とそう遠く離れていない。

 衆院解散宣言と時を同じくして円安がスタートしてから約3カ月も経っている。見方によっては春闘前になってからではなく、野田前首相の衆院解散宣言以降、株高と円安の方向への進行が確実視できたときから、もし円安効果で各企業が業績を上方修正する局面を迎えることができたなら、その利益を賃上げに回して欲しいと機会を捉えて何度も発信していてもよさそうだし、そうすることによって賃上げの状況をより確実にできたはずである。

 だが、円安開始から2カ月半も経過した、春闘が始まる直前の2月5日の賃上げ要請となった。どう見ても、円安の進行に応じた輸入価格の高騰、高騰を受けた個人生活の圧迫といったシナリオを前以て計算に入れていた危機管理からの賃上げ要請には見えない。

 輸入価格の高騰を受けて、急いで設定した「経済財政諮問会議」での場当たりの急な賃上げ要請に見えて仕方がない。

 この場当たりではないかという疑いは2月11日付の「日経電子版」記事――《アベノミクス第2幕 なぜ給与増を仕掛けるのか》が意図しないまま、図らずも疑いではないことを証明してくれている。

 〈状況の変化に応じて柔軟に主張を変えるのが、保守政治家の本領である。危機対応などに手引書があるわけではない。「場数を踏んだかどうかだ」と安倍晋三首相の周辺はいう。

 「42キロメートル余りのマラソンを、100メートル走の勢いで走っている」と霞が関で評される首相。金融緩和、積極財政に次ぐ成長戦略は何か。時間軸とそれに見合う政策課題の選択がモノをいう。〉と言って、安倍晋三の経済団体に対する賃上げ要請を、〈状況の変化に応じて柔軟に主張を変え〉たものだと解釈している。

 要するに前以てシナリオを描いていた政策に従った行動ではなかった。国民の所得が増えない中での輸入製品の価格高騰による生活必需品の値上がりを目の当たりに見て、危機感を持ち、急いで賃上げを要請したということになる。

 当然、記事が書いているように、〈状況の変化に応じ〉た柔軟性からの主張の方向転換など取ったシロモノではないことになる。

 次の記事がこのことを証明している。《参院選前の賃上げに期待=安倍首相》時事ドットコム/2013/02/12-21:03)

 2月12日夜の都内で開かれた公明党幹部のパーティーに出席。2月5日に続いて2月12日も経済団体と意見交換会を持ち、賃上げを要請したことに触れて、発言。

 安倍首相「企業の業績改善が見込まれる中、うまくいけば国民に還元され、消費が増え、日本の景気がぐぐっと良くなる。そういう中で参院選を迎えられれば理想的だ」――

 要するに賃上げ要請は国民の所得向上を最初の目的としてのことではなく、所得が上がらない中で生活物資が値上がった場合の安倍内閣の支持失墜を恐れたことが最初の目的であって、支持を失った場合の参院選への悪影響の回避を二次的目的とした、いわば自己保身からの措置であることを安倍晋三自ら暴露した発言となっている。

 このことは企業利益の国民への還元を、「うまくいけば」と言っているところに現れている。

 国民の生活を現在以上に困窮させるわけにはいかないことを第一の目的としていたなら、「うまくいけば」などといった言葉は口をついて出てこないはずだ。

 このように国民の利益を第一に考えたのではなく、自身の保身のためを目的としていることの本人の気づかない齟齬は、春闘での賃上げに慎重だとしている大手企業が大勢を占めている状況を感じ取ったことも影響しているかもしれないが、小泉内閣時代の戦後最長景気を受け継いで第1次安倍内閣を組閣していながら、小泉内閣の2004年3月1日労働者派遣法改正によって製造業派遣解禁、その他の労働規制の緩和によって企業がより安価な労働力確保が可能となり、大企業は軒並み戦後最高益を得ていながら、その利益を国民に還元せず、個人所得も個人消費も伸びなかった、一種の貧困状況を政治的な手を打たずに小泉純一郎と共に座視した政治姿勢、経済的格差拡大を招いても有効な対策を用いて是正しなかった政治姿勢を現在も変わらぬ血として受け継いでいることからの、根は国民のための政治ではなく、自己の名誉のための政治となっていることから発した齟齬のように見える。

 小泉純一郎「格差が出ることが悪いとは思わない。成功者をねたんだり、能力ある者の足を引っ張ったりする風潮を慎まないと社会は発展しない」(2006年2月1日の参院予算委員会)

 格差の程度と格差拡大の原因の一つとなった、企業が正社員を切り捨て、非正規社員を増やしていったチャンスの制約と奪取を共に考えない、いわば一般国民の感覚を無視した発言を平気で行うことができる政治家体質を見せている。

 賃上げ要請が功を奏して賃上げが実現し、個人所得が伸びていって、個人消費も上向き、景気を回復していくかもしれないが、安倍晋三のそもそもの姿勢・体質が国民の目線に立った配慮を出発点としているのではなく、単に結果オーライに過ぎないことを今回の賃上げ要請で見せることになったことだけは確かである。

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