昨日2013年2月8日の当ブログ記事――《射撃管制用レーダー照射、首相官邸報告遅れには情報操作の臭いがする - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で、レーダー照射時点で米軍などは解析・確認を可能としていることから、自衛隊も可能とし、1月30日の照射の場合も1月19日と同じ対応を取って発生当日に首相官邸と防衛相に報告、両者は中国を刺激することによる関係悪化のエスカレートを恐れて情報隠蔽を謀っていたのではないのか、だが、2月4日の中国海洋監視船2隻が14時間にも亘って日本領海を侵入するに及んで、これ以上の無法、国際法違反は許すことはできない、いわば中国側に非があることを訴えるために公表せざるを得なくなり、公表するにはレーダー照射発生当日に報告を受けていたことの情報隠蔽が必要になり、辻褄を合わせるために情報操作まで犯すことになったのではないかといったことを書いた。
この疑惑を2月8日の衆院予算委員会安倍首相国会答弁が本人の意図していないところでより色濃く裏付けてくれている。
本題に入る前に、昨日2月7日昼のTBS「ひるおび!」に、あの嫌味な(個人的印象)森本前防衛相が出演、レーダー照射のロックオンを受けた艦船はレーダーを探知する電波探知機を備えていて、周波数を分析、確認後、音で管内に知らせるといった知識を披露していた。
インターネットで調べると、射撃管制レーダーは他のレーダとは違って周波数が高く、周波数で直ちに特定できるようだ。
要するに照射を受けた時点で、それが射撃管制レーダーなのかどうか、判別できるということである。当然、1月19日照射を受けた当日に首相官邸と防衛省に報告したように1月30日の照射に関しても、例え正確に確認する必要から分析に回すとしても、報告のみはその当日にあってもいいはずである。
常に最悪の事態を想定して、想定した最悪の事態がいつ起きても、最小限の被害で食い止めることができるように備えておく危機管理の点から言っても、次の日に、あるいは2日後にどのような形でもエスカレートしないと断言できる保証も確証もないのだから、そのための情報として事実だけは伝えておく必要はあったはずだ。
事実報告していなかったとしたら、軍の最高指揮官である首相は中国艦船による自衛隊護衛艦への射撃管制レーダー照射の情報を6日間も何ら持たず、何ら知らずにいたことになる。
これ程の迂闊な空白を許されるだろうか。
もし小野寺防衛相が防衛省に対して照射を受けて直ちにではなく、それが実際に射撃管制レーダーなのかどうか解析・確認してから報告することをルールとしたとしたなら、危機管理意識を欠いていたことになり、この点の責任が問われることになる。
もしこのルール作りが安倍首相が主導、その指示であったなら、安倍首相自身の危機管理意識欠如の責任も問わなければならないことになる。
では、次の記事――《首相“日本の考え主張する外交に”》(NHK NEWS WEB/2013年2月8日 12時31分)から、情報隠蔽・情報操作を疑うことができる発言を取り上げてみる。
中田日本維新の会政策調査会長代理「中国では、『中国の脅威をデッチ上げるための政治劇だ』などと報道がされている。日本は世界に対して、戦略的に日本の立場を伝えていくべきだ」
安倍首相「今回の事案は極めて慎重に精査して発表した。日本外交は、国際社会において、礼儀正しく、物静かだったが、主権や国益が侵害されるときには、しっかりと日本の考え方を述べていく外交に変えていく。国際社会に日本の主張を浸透させるために、戦略的な体制を取る必要がある。
安倍内閣の方針として、人命、財産、領土、領海、領空を断固として守り抜く決意をしっかりと示していく。新年度予算案で防衛費を増額したのは、国家として、これらを守っていくという意思表示だ」――
事実、「外交に変えていく」と、記述通りの言葉遣いをしたのか、記事付属の動画で確かめてみた。
以下動画から。
中田日本維新の会政策調査会長代理「『レーダー照射中に脅威をデッチ上げるための政治劇だ』。こういうふうな報道も中国では出回っています。かなり、真剣に、組織立って、戦略的に、日本の立場というものを伝えていかなければまずい・・・・」
安倍首相「日本外交というのは、国際社会に於いて、あるいはまた、国際条理に於いて礼儀正しく、物静かな外交を行なってきたんだろうなと、思います。
しかし、主権や国益が侵害されるときには、しっかりと我々の考え方を述べていく、そういう外交に変えていきます。
その意味に於いて、国際社会に於いて我々の主張を浸透する上に於いて、戦略的な体制を取っていく必要があるだろうと。えー、今、そういうことについては、既に指示を出している・・・・」――
確かに「変えていきます」と言っている。「そういった外交を展開していきます」と「変えていきます」とでは大きな違いがある。
従来の外交手法を全然別物の新しい手法に変えていくということを意味するからだ。
では、従来の外交手法はどのようなものか、安倍首相は「日本外交というのは」と前置きして、「国際社会に於いて、あるいはまた、国際条理に於いて礼儀正しく、物静かな外交を行なってきたんだろうなと、思います」と言っている。いわば、「行なってきたんだろうな」と、距離を置いて価値判断する目で把えていることから判断して、従来の「日本外交」に自身の外交手法を加えていないことが分かる。
「礼儀正しく、物静かな外交」手法は取りません、「しっかりと我々の考え方を述べていく、そういう外交に変えていきます」と宣言したのである。
要するに「礼儀正しく、物静かな外交」を「しっかりと我々の考え方を述べていく、そういう外交」の否定要素として対置させた。
それが記事が伝えている発言、「人命、財産、領土、領海、領空を断固として守り抜く」外交だということなのだろう。
しかし従来の日本の外交手法を変えるについては第2次安倍政権発足を転換の契機としていいはずだが、中国艦船による自衛隊護衛艦への射撃管制レーダー照射に関わる国会質疑の中で、「変えていきます」と宣言した。
当然、転換の契機は中国のレーダー照射ということになる。
では、第2次安倍政権発足から中国のレーダー照射までの間、安倍首相はどのような外交手法を目指していたのだろうか。
2012年10月31日の野田首相所信表明演説に対する安倍晋三自民党総裁・衆院代表質問から振り返ってみる。
安倍晋三「われわれ自民党は、インド・豪州・ASEAN諸国との安全保障・経済・エネルギー各分野の関係をより緊密化し、さらに、中国・韓国との関係改善を図ってまいります。同時に、我が国の美しい領土・領海は断固としてわれわれが守るとの決意を国民に、世界に示さなければなりません」
安倍晋三自民党総裁が政策づくりに関わった「2012年自民党衆院選マニフェスト」の外交政策。
〈自民党は、国民の生命・領土・美しい海を断固として守り抜きます。〉
2012年12月26日安倍内閣閣議決定の政権運営基本方針
「外交・安全保障の再生」の項目。
〈国民の生命・財産・領土・領海・領空を断固として守り抜くため、国家安全保障会議の設置に向けて取り組むほか、国境離島の適切な振興・管理、領海警備の強化等を図る。〉――
2013年1月1日安倍首相年頭所感。
安倍晋三「広く世界を俯瞰して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的な価値に立脚した戦略的な外交を大胆に展開します。国民の生命・財産と領土・領海・領空を断固として守り抜くため、国境離島の適切な振興・管理、警戒警備の強化なども進めてまいります」
2013年1月4日安倍内首相年頭記者会見。
安倍晋三「日米関係を一層強化し、近隣諸国との関係を立て直していくために、私自身が先頭に立って戦略的な外交を大胆に展開してまいります。国民の生命、財産、我が国の領土、領海、領空を断固として守り抜いていくという決意であります。大規模災害やテロ、重大事故などの危機管理対応に24時間、365日体制で万全を期してまいります」
2013年1月11日安倍首相記者会見。
安倍晋三「中国でありますが、尖閣について、この海と領土、これは断固として守っていくという姿勢は、いささかも変わりがありません。この問題について交渉するということは、余地はないということはもう既に申し上げてきているとおりであります」――
2月8日の衆院予算委国会質疑では、「しっかりと我々の考え方を述べていく、そういう外交に変えていきます」と言い、それがどのような外交かと言うと、「人命、財産、領土、領海、領空を断固として守り抜く決意をしっかりと示していく」外交だと説明した。
また、「しっかりと我々の考えを述べる」と「断固として守り抜く」とは相互的な言い替えに過ぎないはずだ。
しっかりと我々の考えを述べない断固とした外交は倒錯的な自己撞着そのものである。「断固として守り抜く」については、「しっかりと我々の考えを述べ」なければなければならないし、述べて初めて整合性を持った正当性を得る。
だが、以上見てきたように「断固として守り抜く」外交手法は最初からのものであって、何も変わっていない。散々に言ってきたことを中国のレーダー照射を転換の契機として、「しっかりと日本の考え方を述べていく外交に変えていく」と宣言する必要はどこにもなかったはずだ。
ではなぜ、中国のレーダー照射を転換の契機として、「変えていく」と宣言したのだろうか。
やはりそこに1月30日、1月19日と同様にレーダー照射当日に防衛省が小野寺防衛相に報告を上げ、小野寺防衛相がさらに首相官邸に報告を上げていたにも関わらず、何らかの対中国配慮から、その情報を隠蔽し、隠蔽したものの公表せざるを得なくなって、情報隠蔽の露見を回避するために1月30日当日には報告は上がってこなかった、その他の情報操作を行ったために、もうそういった外交手段は取るまいとする決意が、「しっかりと日本の考え方を述べていく外交に変えていく」とつい思い改めさせたといったところではないだろうか。
つまりレーダー照射という危険行為を突きつけられても、日中関係の悪化を恐れて、「しっかりと日本の考え方を述べ」るのを我慢したが、我慢しても中国の行為はエスカレートするばかりで、我慢の無意味に気づき、「断固として守り抜く」最初の決意に立ち戻ることにした。
このように考えでもしなければ、「変えていく」という言葉の辻褄、言葉の整合性を見つけることはできない。
もし1月30日に報告を受けながら、報告事実の情報隠蔽を謀り、情報隠蔽を次の隠蔽に付すために情報操作を行ったのだとしたら、かねてから外交姿勢として掲げていた人命、財産、領土、領海、領空、国益等々を、「断固として守り抜く」という一大決意は口程にもない、犬の遠吠えにも等しい有言不実行の言葉となる。
一国の首相として自身の発した言葉の行方はその人間性そのものを現すことになる。