安倍晋三の北朝鮮核実験「断じて容認できぬ」、かつては金正恩政権交代に期待した、その認識能力

2013-02-13 11:45:00 | Weblog

 勿論、我が日本の安倍晋三は北朝鮮に対してミサイル発射や核実験を行なうことを期待したわけではない。金正日体制からその息子の金正恩体制へと権力の父子継承によって拉致解決ができるのではないかと期待した。

 昨日、2013年2月12日、北朝鮮が核実験を強行したことを受けて、安倍首相は「声明」を発した。《安倍首相声明全文=北朝鮮核実験》時事ドットコム/2013/02/12-17:05)

 冒頭箇所一部引用。

 安倍首相声明「本日、北朝鮮が第3回核実験を実施したとの発表を行った。

 わが国を含む国際社会が、北朝鮮に対し、既存の国連安保理決議の完全な順守を求め、核実験を含む挑発行為を決して行わないよう繰り返し強く求めてきたにもかかわらず、今回、北朝鮮が核実験を強行したことは、北朝鮮が大量破壊兵器の運搬手段となり得るミサイル能力を増強していることと併せ考えれば、わが国の安全に対する重大な脅威であるとともに、核兵器不拡散条約(NPT)を中心とする国際的な軍縮不拡散体制に対する重大な挑戦であり、北東アジアおよび国際社会の平和と安全を著しく損なうものとして断じて容認できない」――

 北朝鮮の核実験は「断じて容認できない」と、強い言葉で非難している。

 但しこの言葉に実効性を持たせる責任が発言者に課せられることになる。

 金正恩に対するこの「断じて容認できない」の発言に反して、かつて安倍晋三は父親の金正日からその子金正恩への父子権力継承に期待した。

 金正恩が金正日の後継者としての地位を確立したのは2010年9月。2011年12月17日、金正日死去。その2日後の12月19日、その訃報が宣告され、金正恩の父子権力継承が確定した。

 権力継承確定から8カ月後の2012年8月30日、フジテレビ「知りたがり」に出演したときの安倍晋三の発言である。

 安倍晋三「金正恩氏はですね、金正日と何が違うか。それは5人生存、8人死亡と、こういう判断ですね、こういう判断をしたのは金正日ですが、金正恩氏の判断ではないですね。

 あれは間違いです、ウソをついていましたと言っても、その判断をしたのは本人ではない。あるいは拉致作戦には金正恩氏は関わっていませんでした。

 しかしそうは言っても、お父さんがやっていたことを否定しなければいけない。普通であればですね、(日朝が)普通に対話していたって、これは(父親の拉致犯罪を)否定しない。

 ですから、今の現状を守ることはできません。こうやって日本が要求している拉致の問題について答を出さなければ、あなたの政権、あなたの国は崩壊しますよ。

 そこで思い切って大きな決断をしようという方向に促していく必要がありますね。そのためにはやっぱり圧力しかないんですね」

 かくかように金正恩の父親金正日との違いに期待した。

 「知りたがり」に出演から約半月後の2012年9月17日付け「産経新聞インタビュー」でもほぼ似た発言を行なっている。

 安倍晋三「金総書記は『5人生存』とともに『8人死亡』という判断も同時にした。この決定を覆すには相当の決断が必要となる。日本側の要求を受け入れなければ、やっていけないとの判断をするように持っていかなければいけない。だから、圧力以外にとる道はない。

 金正恩第1書記はこの問題に関わっていない。そこは前政権とは違う。自分の父親がやったことを覆さないとならないので、簡単ではないが、現状維持はできないというメッセージを発し圧力をかけ、彼に思い切った判断をさせることだ。

 つまり、北朝鮮を崩壊に導くリーダーになるのか。それとも北朝鮮を救う偉大な指導者になるのか。彼に迫っていくことが求められている。前政権よりハードルは低くなっている。チャンスが回ってくる可能性はあると思っている」――

 だが、ブログで何度も書いているが、金正恩は父子権力継承の正統性を父親金正日の血に置いているのである。その血はその父親金日成から引き継いだものだが、当然、その血はありとあらゆる正義を体現しているものと見做さなければ、権力継承の正統性に瑕疵が生じることになる。

 金正日の血は正義であり、正義とは金正日の血を意味し、その存在そのものを正義とすることになる。そうすることによって権力継承そのものを正義と価値づけることができ、そこに正統性が生まれる。

 存在そのものを正義とする以上、金正日が自らの最優先の政治思想として掲げていた、金正恩に対する「遺訓」としている、すべてに於いて軍事を優先させる「先軍政治」も含まれることになる。

 また、権力を父子継承するについては、金正日独裁体制を支えた北朝鮮軍部や朝鮮労働党の側近をも継承し、自らの体制としなければならない。父親金正日の正義を支えた体制でもあるからだ。

 当然、継承した側近たちの以降に左右されることも生じる。

 かくかように独裁体制下の権力の父子継承とは父親の正義を(世界の一般常識からしたら、不正義を)その子が受け継いで自らの正義とすることを意味するはずだ。

 どこに期待する要素があるというのだろうか。安倍晋三は独裁体制の父子権力継承の危険性に何ら意を用いなかった。

 2012年4月13日の人工衛星打ち上げと称したミサイル発射も、「先軍政治」の一環であったろう。だが、打ち上げは失敗した。

 野田政権はその情報収集に失態を演じ、国会で追及され、世論の不評を買った。

 だが、打ち上げに失敗したものの、安倍晋三はミサイル発射は金正恩による金正日の「遺訓」の一つの実行であり、「先軍政治」の体現と見なければならなかったはずだ。

 多分打ち上げ失敗を糊塗し、意志の揺るがないところを見せるためだったのだろう、打ち上げ失敗から12日後、安倍晋三のフジテレビ「知りたがり」の出演や産経新聞インタビューから3カ月乃至3カ月半前の2012年4月25日、朝鮮人民軍創建80年の祝賀の中央報告大会を平壌で開催、金正恩が出席、朝鮮中央テレビは午前9時過ぎから故金日成主席や故金正日総書記が軍を指導する姿や軍事演習の様子を映した番組を放映、軍を最優先とする「先軍政治」の路線を強調している。(asahi.com

 いわば金正恩は金正日と変わらぬ軍事独裁優先の「正義」を見せていたのである。それは金正日の正義の全てを受け継ぎ、自らの姿としていた正義であったはずだ。

 にも関わらず、安倍晋三は金正恩の金正日との違いに期待していた。その程度の認識能力しか見せることができなかった。

 そして昨年12月12日(2012年)、人工衛星打ち上げに成功したとするミサイル発射は正義としている父親から継承した軍事優先の変わらぬ姿、「先軍政治」の変わらぬ姿を自らの正義として、ミサイル技術の発展と共に世界に誇示した一大演出だったはずだ。

 北朝鮮・朝鮮中央通信は12月1日夕方、ミサイルの打ち上げ予告の談話を発表している。

 談話「今月10日から22日の間に地球観測衛星『クァンミョンソン3号』の2号機を積んだロケットを北西部にある発射場から打ち上げる。

 今回の衛星の打ち上げは強盛国家の建設に拍車をかけている国民を力強く鼓舞するもので、われわれの宇宙技術を新たな段階に引き上げる重要な機会となる」(NHK NEWS WEB

 金正日時代と、あるいは金正日の北朝鮮とどこに違いがあるというのだろうか。

 そして今回の核実験。

 金正恩が父親の金正日の権力を継承し、その血、その正義に父子権力継承の正統性を置いている以上、その血を受け継いでいる者として父親の正義をも受け継ぎ、その最優先の政治思想としていた「先軍政治」をも遺訓として受け継ぎ、体現していくのは北朝鮮に対する危機管理上、想定の一つとしていなければならなかったはずで、そのような危機管理を想定していたなら、ミサイルの性能向上や核弾頭の小型化を目的としたミサイル発射、核実験をもあり得ることとして予定の行動と見ていなければならなかっただろう。

 このことは韓国政府が全文入手したとする金正日の「遺訓」の一部を伝えている記事からも証明できる。《韓国、金総書記の遺訓全文入手か 「核兵器発展させ保有せよ」》47NEWS/2013/01/29 09:58 【共同通信】)

 遺訓「核兵器と長距離ミサイル、生物化学兵器を絶えず発展させ十分に保有せよ。

 (6カ国協議について)我々の核をなくす会議ではなく、核を認めさせ核保有を公式化する会議にせよ」

 だが、安倍晋三は金正恩の金正日との違いに期待していた。

 このことは拉致だけの問題で終わらない。北朝鮮のミサイル開発や核兵器開発は拉致問題に大きく影響することになるからなのは断るまでもない。

 当然、金正恩に期待したことと核実験に対する安倍晋三の「断じて容認できない」の声明は明らかに矛盾した認識となる。

 安倍晋三がこの程度の認識能力しかなかったでは済まない。何しろ日本の首相を務めているのだから。

 日本のいずれの政府にしろ、米国政府にしろ、早い時期から金正日からの独裁権力の父子継承は反対すべきだった。

 2008年9月15日当ブログ記事――《金正日重病説/日本が為すべきこと-『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に次のようなメッセージを世界に発信し、権力の父子継承に反対すべきだといったことを書いた。 
 
 メッセージ「日本は金正日独裁権力の父子継承は望まない。世界も望むべきではない。

 北朝鮮国民が飢餓を免れ、人間らしい生活が送れるよう、独裁体制が金正日政権で終わり、北朝鮮の国家体制が人権の自由と平和を保障する民主主義体制となることを望む」

 安倍晋三みたいに期待するのではなく、逆に父子権力継承の阻止こそが、少なくとも核開発やミサイル開発阻止の期待要件となったはずだ。北朝鮮が核開発やミサイル開発を断念した地点からでなければ、拉致解決の地平が容易には開けないのではないだろうか。

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