安倍晋三は対中国戦略的互恵関係構築要請と価値観外交と自身の歴史認識をどう整合づけるのか説明せよ

2013-09-07 05:09:55 | Weblog

  

 日本が民主党政権から自民党政権に政権交代し、再登板ではあるが、首相は新しく安倍晋三となった。中国が胡錦涛政権から、習近平政権へと政権交代した。そして韓国も李明博(イ・ミョンバク)政権から朴槿恵政権へと政権交代した。だが、対中国に関しては主として尖閣諸島の領有権問題から、日本が尖閣諸島に領有権問題は存在しないという立場を取っていることが大きな理由となって、習近平国家主席との会談は実現しないまま今日に至り、韓国に関しては安倍晋三の戦前の日本の侵略戦争否定の歴史認識と従軍慰安婦に関わる歴史認識の対立から、朴槿恵大統領との会談が実現しないまま、日本と中韓関係の間は冷え込んだままとなっていた。

 ところが、この度9月5日(2013年)開幕のロシア・サンクトペテルブルクでの20カ国・地域(G20)首脳会合で顔を合わせることとなり、安倍晋三は中国の習近平主席及び韓国の朴槿恵大統領と立ち話を交わすこととなった。

 言ってみれば、正式会談が実現しないことへの埋め合わせに過ぎない。

 菅官房長官は9月6日の午前の記者会見で、記者からどのような報告があったのかの問に対して次のように答弁している。(首相官邸HPから)

 菅官房長官「9月5日のG20サミット全体会議が始まる前の首脳待機室で安倍総理と習近平国家主席と握手し、挨拶を交わしたという報告を受けました。

 安倍総理からは挨拶をした上で、戦略的互恵関係の原点に立ち戻って、日中関係を発展させていくべきだとの考え方の説明を致しました。

 これに対して、まあ、中国からは、原則的な立場について発言があったというふうに聞いております」――

 安倍晋三は習近平国家主席に対して、「戦略的互恵関係の原点に立ち戻って、日中関係を発展させていくべきだ」と述べた。

 安倍晋三は7月27日(2013年)に訪問先のフィリピンでも同じことを言っている。

 安倍晋三「(中国は)隣国だからこそ、さまざまな問題が生じるが、切っても切れない関係であることを双方が認識し、お互いに努力していくことが重要だ。これこそが戦略的互恵関係であり、私の原点はここにある。中国も、その原点に立ち戻ってほしい。

 先ずはお互いが胸襟を開いて、話し合いをしていくことが大切で、外交当局間の対話を進めるよう私から指示している。条件をつけることなく、なるべく早く外相・首脳レベルの会合を持ちたい」(NHK NEWS WEB)――

 だが、安倍晋三は日本側が「尖閣諸島に領有権問題は存在しない」という立場に立っていることに対して中国側が尖閣諸島の領有権を主張、中国公船を日本の尖閣諸島沖接続水域に出没させ、領海侵入を繰返していることを「力による現状変更」の要求だと忌避、いわば力の外交に対するアンチテーゼとして「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚」した外交を掲げて中国を除いた各国を訪問、基本的価値を訴えて回った。

 安倍晋三「中国は東シナ海だけではなく、南シナ海に於いても、例えばフィリピンもそうですが、力で以って、現状を変えようとしています。

 で、私は間違っている思っています。その中で、アジアの国々を私はずうっと訪問して、えー、来ました。そしてまたヨーロッパにも行って来ましたし、中東にも行ってます。

 そういう多くの国々とですね、やはり力による現状変更はダメですよ、ルールによる支配、その中に於いて秩序をつくっていきましょう。そういう志を同じくする国々とですね、えー、そういう方向に向かって行こうということをですね、気持と未来に向けるビジョンを併せて、そういう中に於いて、中国の今の姿勢をですね、変えさせていく必要があるんです」(TBSテレビ「NEWS23」/2013年7月7日)

 「ルールによる支配、その中に於いて秩序をつくっていきましょう」と、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値」をルールとした外交を訴えて、アジアはもとより、ヨーロッパから中東の国々を訪問した。

 要するに中国は共産と一党独裁体制であって、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値」――価値観外交は通じないとしたのである。

 それ故に安倍晋三の基本的価値を原則とした各国訪問外交を中国包囲網体制の構築だと言われることとなった。

 と言うことは、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値」というルールが通じない、あるいはそのような基本的価値を持たない中国と戦略的互恵関係を築くということの整合性はどこに置いているのだろうか。

 一方で中国包囲網を構築し、一方で中国と戦略的互恵関係を築く意思を示すことの矛盾した外交に対する整合性である。

 譬えて言うと、考え方や価値観の違いから犬猿の仲となった隣家と戦略的互恵関係を築くことの整合性である。

 2013年1月18日に訪問先のジャヤカルタで行う予定だったが、アルジェリア邦人拘束事件が発生、急遽帰国することになり行われなかった、《開かれた、海の恵み ―日本外交の新たな5原則―》と題したスピーチ。

 安倍晋三「日本の国益とは、万古不易・未来永劫、アジアの海を徹底してオープンなものとし、自由で、平和なものとするところにあります。法の支配が貫徹する、世界・人類の公共財として、保ち続けるところにあります。

 ・・・・・・・・

 わたくしたちにとって最も大切なコモンズである海は、力によってでなく、法と、ルールの支配するところでなくてはなりません」(首相官邸HP)

 《第183回国会に於ける安倍首相所信表明演説(2013年1月28日)

 安倍晋三「外交は、単に周辺諸国との二国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰(ふかん)して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった、基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していくのが基本であります」

 《第183回国会に於ける安倍首相施政方針演説》(首相官邸HP/2013年2月28日)

 安倍晋三「日中関係は、最も重要な二国間関係の一つであり、個別の問題が関係全体に影響を及ぼさないようコントロールしていくとの『戦略的互恵関係』の原点に立ち戻るよう、求めてまいります。私の対話のドアは、常にオープンです。
 韓国は、自由や民主主義といった基本的価値と利益を共有する最も重要な隣国です。朴(パク)槿(ク)惠(ネ)新大統領の就任を心より歓迎いたします。日韓の間には、困難な問題もありますが、21世紀にふさわしい未来志向で重要なパートナーシップの構築を目指して協力していきます」

 《「海の日」を迎えるに当たっての内閣総理大臣メッセージ》(2013年7月12日)

 安倍晋三「領海をめぐる挑発など安全保障環境が一層厳しさを増しております。海洋国家である我が国の平和と繁栄は、自由で、開かれた、平和な海によって成り立っています。我が国としては、「海に守られた国」から「海を守る国」へとの考え方のもと、安定的な海上交通ルートや、領海と排他的経済水域での海洋権益を守っていくと共に、力による現状変更を認めず、法の支配に基づく、自由で開かれた海の秩序を守っていく決意です」――

 直接中国に対して「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値」に則った関係を築こうではないかと訴えるならまだしも、中国を除いた多くの外国を訪問し、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値」外交を訴える趣旨で、基本的価値をルールとしない、力を前面に押し出した中国の外交姿勢を間接的に散々に批判してきた。

 戦略的互恵関係構築要請の外交と矛盾する、中国包囲網を擬することになるこの価値観外交の訴えとの整合性をどうつけるのか、国民に説明責任を負っているはずだ。

 そして、中国と韓国が反発することとなった「侵略という定義は国際的にも定まっていない」との発言で示唆した戦前の日本の侵略戦争否定の安倍晋三自身の歴史認識と対中戦略的互恵関係構築要請との整合性も国民に対して説明しなければならないはずだ。

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