9月27日に判明した消費増税後の景気腰折れ回避を狙った政府検討の経済対策原案には「復興特別法人税の廃止検討」が盛り込まれ、賃上げ企業への減税措置と合わせ、所得増を実現し、「デフレ脱却と経済再生の道筋」を確実にする姿勢を鮮明に打ち出していると、《経済対策、「復興税の廃止検討」=賃上げでデフレ脱却-原案判明》(時事ドットコム/2013/09/28-02:07)が伝えている。
与党との調整を経て最終案を纏め、安倍晋三が10月1日に2014年4月の消費税率引き上げ表明と同時に正式発表する予定だという。
賃上げした企業に減税措置を行う、要するに減税で報いるということは、アベノミクス効果による円安・株高で多くの企業が資産を向上させていながら、今年2月以来の安倍晋三直々、あるいは甘利や麻生といった閣僚直々の企業に対する賃上げ要請への快諾がほんの一部にとどまって全体的な波及とまでいっていないということの裏返し措置であろう。
企業が従業員にお小遣いを与えたなら、国がその負担を少し和らげるお小遣いを与えるという手を使うということである。
要するに安倍政権は賃上げした企業には減税を施すことと、復興特別法人税を前倒しで撤廃する形の減税分を賃金に還元させる方法で被雇用者の所得増を実現させてデフレ脱却を導き、併せて経済再生へと持っていくという手順を取ろうとしていることになる。
いわばデフレ脱却は賃上げを前提としていることになる。前提とすることによって、物価上昇とのバランスが取れる。
民間企業サラリーマン等の平均年収が2年連続で減少しているとする国税庁の調査を次の記事が伝えている。
《サラリーマン年収 2年連続減》(NHK NEWS WEB/2013年9月27日 17時59分)
今回は非正規労働者の平均年収が初めて発表されたと書いてある。
昨2012年の平均年収は408万円、前年より1万円少なく、2年連続の減少。
ピークだった平成9年(1997年)の467万円に比べて59万円減少。
正規労働者の平均年収468万円
男性521万円
女性350万円
非正規労働者の平均年収168万円(正規労働者と300万円の差)
男性226万円
女性144万円
年収別労働者数
200万円以下1090万人(前年+21万人・全体の23.9%)
1000万円超172万人(全体の3.8%)
業種別年収
「電気・ガスなど」718万円
「金融・保険」610万円
「情報通信」572万円
「宿泊、飲食サービス」235万円(最低)
最低の理由――非正規労働者の比率が高いから。
こう見てくると、正規と非正規間の年収の差が300万円も大きく違うと同時に、正規・非正規に関わらず、男女間の年収差に大きな違いが生じていることが分かる。
記事解説によると、総務省調査で非正規労働者数はバブル経済崩壊後、急速に増加、今年に入っても増えていて、4月から6月までの3カ月の平均で1881万人と労働者全体の36.2%を占めているとしている。
樋口美雄慶大教授「1度、非正規になるとなかなか正規になれず、階層が固定化する問題がある。正規になりたいという『不本意非正規』が増加しているなかで、いかに正規に転換するかが重要だ」――
だが記事は、〈5人に1人が正社員になれないため、望まずに非正規雇用の仕事に就いているとみられてい〉ると、「不本意非正規」の実態を伝えている。
この正規と非正規の待遇の格差、正規・非正規に関係しない待遇の男女格差の冷酷な社会的矛盾は他方で人件費のコストカットに資する非正規雇用と女性雇用の増加していく存在が企業利益を支えて、日本の経済向上に貢献している現実を生み出しているもう一つの矛盾を裏合わせとしている。
この二つの矛盾を考えたとき、安倍晋三の国連総会演説、「すべては、日本の地力を、その経済を、再び強くするところに始まります」とか、「女性の力の活用」、「女性の労働機会、活動の場を充実させる」、「女性が輝く社会の実現」等々の言葉は社会の実態を反映しない、まさしくキレイゴトの世界を目指しているとしか見えない。
企業だけを強くしていく経済再生であり、「女性の力の活用」であり、「女性の労働機会、活動の場の充実」であり、「女性が輝く社会の実現」であるように見える。
給与が上がらない、下がっているという現実、格差が拡大しているという現実の中で円安によって輸入製品やエネルギー関連製品の価格が上がって、中低所得層の生活を圧迫しだしている。
その結果、全国消費者物価指数が3カ月連続でプラスとなった。
《「長いデフレから脱却しつつある」と甘利氏 消費者物価指数プラスで》(MSN産経/2013.9.27 13:31)
9月27日の閣議後の記者会見。
甘利明経済再生担当相(3カ月連続プラスについて)「長いデフレから脱却しつつある。その過程にある。
食品やエネルギーを除くと下落が続いているが、(これが)プラスに転じ、大きなショックでもない限り元に戻らないという環境が整備されたときに、(デフレ)脱却と言える」(下線部分は解説文を会話体に直す。)――
要するに食品とエネルギーが主として消費者物価上昇を支えていることになる。
安倍政権は一方でデフレ脱却を賃上げを前提としていながら、賃上げがない状況下であるにも関わらず、甘利はデフレ脱却に資するからと、消費者物価の上昇を歓迎している。
賃上げという反対給付がない中での食品とエネルギーの値上がりが特に中低所得層の生活を圧迫するにも関わらずである。
何という国民思いなのだろうか。