安倍晋三の価値観外交の、朱建栄教授中国当局拘束・取り調べへの無反応から見るその見掛け倒し

2013-09-15 08:47:48 | 政治


 
 安倍晋三は9月12日、首相官邸で日本の外交・安全保障政策の中長期的な指針となる「国家安全保障戦略」の策定に向けて有識者会議初会合を開き、安保戦略の柱に「積極的平和主義」を据える方針で一致したとマスコミが伝えている。

 そこで首相官邸HPにアクセスして、その時の安倍晋三の発言が詳しく出ていないか調べてみたところ、しっかりと載っていた。いつも言うことに関しては素晴らしいことを言っているから、載せないではいられないのかもしれない。

 安倍晋三「大変御多忙のところ、『安全保障と防衛力に関する懇談会』への参加をお引き受けいただき、心から御礼申し上げます。

 国家安全保障は政府の最も重要な責務です。我が国の安全保障をめぐる環境が一層厳しさを増しています。こうした中で、国家安全保障を十全なものとするためには、外交政策と防衛政策を、より一体的に推進していかなければなりません。良好な国際関係を維持しつつ、豊かで平和な社会を引き続き発展させていくためには、我が国の国益を長期的視点から見定めた上で、国家安全保障政策をより一層戦略的かつ体系的なものとする必要があります。

 現在の国際社会ではどの国も一国で自らの平和と安全を維持することはできません。安倍内閣では、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、世界の平和と安定、そして繁栄の確保に、これまで以上に積極的に寄与していく所存です。こうした考えの下、我が国で初めて、国家安全保障に関する基本方針として、外交政策及び防衛政策を中心とした『国家安全保障戦略』を策定することといたしました。この国家安全保障戦略は、安全保障に関連する政策への指針を与えるものとする考えです。

 また、防衛力は、国の平和と独立を守り抜く意思と能力を具体的な形として表すものです。国家安全保障を確保するために、安全保障環境の変化に応じて防衛態勢を強化していくとの観点から、「防衛大綱」を見直し、自衛隊が求められる役割に十分対応できる防衛力を着実に整備していく必要があります。

 この懇談会において、国家安全保障戦略と防衛大綱を併せて御議論いただくことによって、より総合的な国家安全保障政策の展開につなげていくことができると考えます。

有識者の皆様方におかれましては、外交・防衛政策に関する多大な御知見、これまでの御経験を結集して、集中的に御議論いただき、忌憚のない御意見を頂ければと思います。

 どうぞよろしくお願いいたします」――

 「国家安全保障政策をより一層戦略的かつ体系的なものと」して 「外交政策と防衛政策を、より一体的に推進してい」く。

 その中身たるや、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を柱として、「世界の平和と安定、そして繁栄の確保に、これまで以上に積極的に寄与していく」目標に立ち、外交に関しては安倍晋三が常々言っている、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的な価値に立脚した戦略的な外交」――いわゆる価値観外交をベースとして、それを防衛政策にも反映させて、戦略的且つ体系的に両者の一体化を図るということなのだろう。

 問題はその有言実行性である。「外交政策と防衛政策を、より一体的に推進してい」く「より一層戦略的かつ体系的な」「国家安全保障政策」を物の見事に構築できたとしても、その政策の実現は指導的立場で自らが実際の外交の形としていく安倍晋三の政治的創造性にすべてがかかってくることになる。

 2013年2月1日の参議院本会議での代表質問

水野賢一・みんなの党「総理は外交方針として自由・民主主義・法の支配などの価値感を共有する国々との連携を模索しているようです。

 そういう意味では、それらの価値感が一致するとは言い難い状況の中国とは共産党一党独裁の元、様々な人権侵害が続いています。3年前、民主化運動をしている劉暁波(リュウ・ギョウハ)氏がノーベル平和賞を受賞しましたが、政治犯として服役中のため、授賞式に出席することさえできませんでした。

 そのとき自民党議員は総理の菅首相に、釈放を求めるべきだと、随分詰め寄っていました。みんなの党も劉暁波氏の釈放を求める決議案を国会に提出致しました。

 安倍総理は劉暁波氏を含む中国の民主化活動家やチベットの独立運動家に対する中国政府の弾圧に対して、どのような姿勢で臨むのですか。具体的には劉暁波氏の釈放を求めますか」

 安倍晋三「中国の民主化活動家を巡る人権状況や国際社会に於ける普遍的価値である人権及び基本的自由が中国に於いても保障されることが重要であります。

 劉暁波氏についても、そうした人権及び基本的自由は認められるべきであり、釈放されることは望ましいと、考えられます。

 このような観点から、これまでも政府間の対話などの機会を捉えて、民主化活動家についての我が国の懸念を中国側に伝えてきております」――

 「中国の民主化活動家を巡る人権状況や国際社会に於ける普遍的価値である人権及び基本的自由が中国に於いても保障されることが重要であります」と言っている。

 当然、安倍晋三は中国に対して「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的な価値」の保障を求め、その保障を実現させるべく働きかける外交責任を負っていることになる。

 外交責任を負わない如何なる働きかけも口先だけと化す。

 だからこそ、「これまでも政府間の対話などの機会を捉えて、民主化活動家についての我が国の懸念を中国側に伝えてきております」と言ったはずだ。

 だが、安倍晋三本人による日本の外交に於ける最も懸案事項となっている中国に対する直接的な働きかけはどれ程に行い得ていたのだろうか。「劉暁波氏についても、そうした人権及び基本的自由は認められるべきであり、釈放されることは望ましいと、考えられます」と言いながら、自分自身は中国に対して直接的に懸念を伝えたり、声明を出すといったことはしていない。

 一国家のリーダーである本人が自らのリーダーシップを以てして直接声を出さずに外交当局に日本の懸念を伝えさせるだけでは、「国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から」の「世界の平和と安定、そして繁栄の確保」に対する積極的な寄与を目標としたより戦略的且つ体系的な外交政策と防衛政策の一体的推進も絵に描いた餅となりかねない。

 安倍晋三が対中国外交として行ってきたことは中国を遠くから眺める形で中国以外の「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的な価値」を共有できる国々を訪問、そのような価値観の共有を訴える形で共有できない中国を牽制してきたに過ぎない。

 2013年7月7日のTBSテレビ「NEWS23 参院選党首討論」――

 安倍晋三「中国は東シナ海だけではなく、南シナ海に於いても、例えばフィリピンもそうですが、力で以って、現状を変えようとしています。

 で、私は間違っている思っています。その中で、アジアの国々を私はずうっと訪問して、えー、来ました。そしてまたヨーロッパにも行って来ましたし、中東にも行ってます。

 そういう多くの国々とですね、やはり力による現状変更はダメですよ、ルールによる支配、その中に於いて秩序をつくっていきましょう。そういう志を同じくする国々とですね、えー、そういう方向に向かって行こうということをですね、気持と未来に向けるビジョンを併せて、そういう中に於いて、中国の今の姿勢をですね、変えさせていく必要があるんです」――

 「中国の今の姿勢」を変えさせるに中国に対して働きかける直接指向ではなく、中国以外の国々に同意を求めて、その同意によって変えさせようとする間接指向となっている。

 前者は反発と摩擦を伴うが、より強力なインパクトを相手に与えて、変化への圧力を、少なくとも自意識させる可能性は否定し難いのに対して後者は反発と摩擦を回避できるが、インパクトは弱く、当然、変化への圧力を自意識させる可能性にしても小さくなる。

 間接指向を基本的な外交姿勢としているからこそ、今年7月、上海に入ったあと消息を絶っていた日本在住中国籍朱建栄教授が消息を絶っていたことについても、捜査当局が拘束し、取り調べていることを事実上認めたことに関しても、いくら中国籍だとしても、例え安倍晋三と主義・主張を異にしていたとしても、日本で長年活動し、公の場でも発言してきた人物でありながら、何ら懸念も伝えず、安倍晋三自身も、どのような法に触れた拘束と取り調べなのか、その透明性を求めることもしなかった。

 日本の外交当局を通して懸念を伝えてあるとする口実は成り立たない。そのような懸念の伝達は慣例化と形式化を招きやすく、当然、中国当局に与えるインパクトも小さなものとなるのに対して中国当局による中国国内の人権抑圧や司法その他の非透明性の機会を把えた安倍晋三自身のリーダーシップに基づいた直接的な批判の声を駆使した「中国の今の姿勢」を変えさせる直接指向でなければ、相手に伝わるインパクト、相手に与える民主化という制度に対する自意識にも違いが出てくるはずだ。

 もし朱建栄教授が中国籍だという理由で何らの対応も取らないとしたなら、劉暁波氏の拘束に関しても何の反応も示さずとも許されることになる。

 国家安全保障政策のなお一層の戦略化・体系化とか、外交政策と防衛政策の一体化の推進とか、「国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、世界の平和と安定、そして繁栄の確保」への積極的寄与とか立派な言葉を並べる前に今まで言ってきたことを言ってきたとおりに外交の形で示すことができなければ、それを価値観外交と言おうが何と言おうが、見掛け倒しで終わることになるし、当然、今後国家安全保障政策をどのように創造し、構築しようとも、安倍晋三のリーダーシップのもとでは見掛け倒しを引きずることになるはずだ。

 「拉致問題は安倍内閣で解決する」

 だが、解決に向けた動きは何も見えてこない。

 立派な言葉の並べ立てに反する見掛け倒ししか見えてこない安倍外交の実態といったところか。

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