――アイヌは「民族共生」はその施設内にとどまりかねないハコモノ建設よりも民族固有の領土として北方四島返還を求めよ――
9月11日午前、菅官房長官を座長とする政府の「アイヌ政策推進会議」を、北海道アイヌ協会関係者や高橋北海道知事らの出席のもと札幌市の北海道庁で初めて開催、北海道白老町に建設予定のアイヌ民族に関する博物館や公園について意見を交わしたと次の記事が伝えているが、その前に、インターネットで調べた「政府アイヌ政策推進会議」設置経緯を、《アイヌ民族と人権 ~法制度と行政の対応を中心に~》(久禮義一)という記事から引用してみる。
〈1.はじめに
日本政府は国際社会からのアイヌ民族を先住民族と認めるべきであるという考えに消極的であった。「侵略者が来る以前の民族の後継者。不法に奪われた土地を取り戻し、自らの社会制度や文化、言語を将来の世代に伝えようとしている人々」と先住民族を定義し、アイヌ民族が、それに該当するとなると、先住民族は、当然「先住権」をもち、「先住権」は民族や文化の独自性を維持、発展させること、言語を発展・使用すること、伝統的に専有・利用してきた土地や資源を承認すること、自治を保障することなどを、先住者(アイヌ民族)の集団に認める権利を政府が保障することになるからである。
政府のそのような態度に国会は2007年9月、国連総会で日本政府が、「先住民族の権利宣言」条約に調印したこと、また、2008年6月の北海道洞爺湖サミットの開催で、同地域には道内のアイヌ民族の約3割が住み、今サミットの主要なテーマ「環境」「自然」を敬い、感謝し、共生を実践してきたアイヌの人々の名誉と尊厳を回復する絶好の機会として、「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を(2008年6月)衆参両院で採択した。
その主たる内容は我が国が近代化する過程において、多数のアイヌの人々が、法的には等しく国民でありながら差別され、貧窮を余儀なくされたという歴史的事実を、私たちは厳粛に受け止めなければならない。
政府はこれを機に次の施策を早急に講ずるべきである。
(1)政府は、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を踏まえ、アイヌの人々を日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族として認めること。
(2)政府は「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が採択されたことを機に、同宣言における関連条項を参照しつつ、高いレベルで有識者の意見を聴きながら、これまでのアイヌ政策を更に推進し、総合的な施策の確立に取り組むこと。
この決議に対して政府は国会決議を尊重し、官邸に、有識者の意見を伺う「有識者懇談会」を設置し、アイヌの人々の話を具体的に伺いつつ、我が国の実情を踏まえながら、検討を進めて参る。という官房長官談話を発表した
アイヌの人々はいまも厳しい差別に直面している。〉――
「有識者懇談会」の正式名は「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」で、平成20年(2008年)7月設置。
この報告を受けて、翌年の平成21年(2009年)12月に「アイヌ政策推進会議」(座長:官房長官)を発足させている。
以上の経緯を見てみると、ごく最近の動きであって、しかも初期的には国際社会からの圧力を受けた受動的動きであって、主体的・自発的なアイヌという先住民族問題への関わりではなかったことが分かる。
当然、初期的な受動的動きを如何に排し、主体的・自発的な関与へと転換し得るかが重要となる。
《アイヌ関連施設「五輪前に完成」》(NHK NEWS WEB/2013年9月11日 11時54分)
菅官房長官「2020年に日本でオリンピックが開かれることが決定した。アイヌ民族との共生を象徴するための空間は、7月24日からオリンピックが始まるので、その前に完成させたい。
海外の皆さんに、日本がアイヌという先住民をしっかり守っている姿を見てもらえるいい機会になる。国際理解が進むことも極めて大事だ」――
「アイヌ民族との共生を象徴するための空間」は、「アイヌ政策推進会議」2009年12月発足の翌年2010年3月設置の作業部会名である。そこで練り上げた政策が公園付きのアイヌ民族博物館なるハコモノ建設であって、そのハコモノに「アイヌ民族との共生を象徴」させるということなのだろう。
だがである、日本の社会の中でこそ、あるいは一般的な社会的人間関係の中でこそ実現させなければならない日本人とアイヌ民族との共生であって、実現させないままにハコモノを造って、そのハコモノに「アイヌ民族との共生を象徴」させたとしても、日本人の中に巣食っているアイヌ差別の解消に直接つながっていくと言うのだろうか。
ハコモノの中だけにとどまりかねない「アイヌ民族との共生」の疑いが限りなく濃い。当然、差別問題の主体的・自発的な関与への転換とはなり難い。
また、ハコモノ建設を以って、「海外の皆さんに、日本がアイヌという先住民をしっかり守っている姿を見てもらえるいい機会になる」と言っているのだから、日本の社会の中や一般的な社会的人間関係の中でこそ実現させなければならない日本人とアイヌ民族との共生という意識はなく、オリンピック開催に合わせた日本という国の宣伝以外の何ものでもないようだ。
この程度の男が政府の官房長官を務め、「アイヌ民族との共生」を図る「アイヌ政策推進会議」の座長を仰せつかっている倒錯は如何ともし難い。
2009年9月20日当ブログ記事―― 《北方四島返還の新しいアプローチ/先住アイヌ民族と現住ロシア人との共同独立国家とする案 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に、北方4島をアイヌ固有の領土としてアイヌに帰属させ、現住ロシア人との共同独立国家とすべきといったことを書いたが、ハコモノ建設で大きな満足を得るよりも、より積極的に北方四島の返還をロシアと日本に対してアイヌに求め、日本及び日本人に対して対等者の地位を獲得すべきではないだろうか。