「積極的平和主義」とは国家間の政治外交上の関係を規定する方法論のみを言うのではなく、自国に於ける国家による国民統治の方法論をも言い、そのような国内統治の方法論に基づいた国家間の政治外交上の関係規定とする整合性を備えていなければならないはずだ。
例えば国家権力が自国国民の人権を認めず、その自由を抑圧しながら、外国に対して「積極的平和主義」を掲げたとしたら、滑稽な倒錯以外の何ものでもない。
このことは北朝鮮の国内統治と外国に対する内外整合性を持った姿勢を見れば、整合性に反することは倒錯だということが十二分に理解することができる。
逆もまた真なり。国家間の政治外交上の関係を規定する方法論として「積極的平和主義」を掲げる以上、国内統治に於いても「積極的平和主義」を原則とし、自由・基本的人権等を基本原理としなければならない。
いわば「積極的平和主義」は政治外交と国政共に相互反映の関係にある。
当然、「積極的平和主義」を掲げて政治外交関係の構築を策す対象とした外国に於いても、その国内統治が基本的人権と自由を尊重する「積極的平和主義」に基づいていなければ、「積極的平和主義」に基づいた政治外交関係の構築自体に矛盾を来たすことになる。
説明するまでもなく、自国国民の基本的人権と自由を認めない外国が他国提唱の「積極的平和主義」に基づいた政治外交関係を求めに応じて築くということも矛盾そのものの滑稽な倒錯でしかないからだ。
要するに安倍晋三が「積極的平和主義」を掲げて外国と政治外交関係を目指す以上、目指す対象国は基本的人権や自由を尊重した国内統治を行っていなければならない。
もし行っていなければ、「積極的平和主義」の諸々の相互性から言って、相手国に対して基本的人権や自由の尊重を求めなければならない。
求めないままの「積極的平和主義」の関係要求は相互性そのものに反する。いわばニセモノの「積極的平和主義」でしかないことになる。
そもそもからして安倍晋三は「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚した戦略的外交の展開」――価値観外交の展開を掲げているのである。日本はそのような価値観に立脚しているが、外国は立脚していなくてもいいという相互性違反は許されるはずもない。
1月31日、アメリカ国務省で人権問題を担当するウズラ・ ゼーヤ次官補代行はがNHKのインタビューに応じた。《ロシア人権状況に米高官が懸念》(NHK NEWS WEB/2014年2月1日 14時34分)
ロシアで去年、同性愛者による集会や未成年者に対して同性愛の情報を伝えることを禁止する法律が成立したことについて――
ゼーヤ次官補代行「ロシアの人権を巡る後ろ向きな動きを深く懸念している。
(オバマ大統領がソチオリンピック開会式に派遣する代表団の1人に同性愛者でテニス界の女王と呼ばれたビリー・ジーン・キング女史を選んだ理由について)アメリカ社会の多様性を示すものだ。国際社会も協調や寛容の精神でオリンピックの理想を表現してほしい」――
基本的人権尊重の象徴としてとしてビリー・ジーン・キング女史を出席者の一人に指名した。また、オバマ大統領自身は開会式欠席を表明、同性愛者やその他に対する基本的人権の抑圧に抗議意思を示した。
対して安倍晋三は開会式出席を表明、なおかつプーチン大統領との首脳会談を予定している。北方四島返還交渉という重大な問題を抱えていることは分かるが、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値」に基づいた「積極的平和主義」を一時であっても放棄してもいい正当性ある理由とはならない。
少なくともプーチンとの首脳会談で北方四島返還とは別にロシアの人権状況に懸念を示さなければ、「積極的平和主義」は口先だけのニセモノと化す。
またアメリカ政府は中国政府の自国人権活動家に敵対した自由な活動の抑圧に反対するメッセージを盛んに発信している。
だが、日本政府の高官がそのようなメッセージを発したのを知らない。日本のリーダーが「積極的平和主義」を掲げる以上、内閣全体が一丸となって他国人権状況にメッセージを発してよさそうなものだが、安倍晋三共々発していないところを見ると、安倍晋三が掲げているのは他国の人権を無視できる「積極的平和主義」でしかないニセモノと断ぜざるを得ない。
「積極的平和主義」がニセモノということは安倍晋三という政治家そのものがニセモノと言うことになる。
元々口先だけは勇ましい安倍晋三である。