サウジアラビアのサルマン皇太子が訪日、国家主義者安倍晋三と首相官邸で会談した。「毎日jp」記事が次のように解説している。
〈中東からの原油輸送路となるシーレーン(海上交通路)の安全確保や原子力、再生可能エネルギー分野での協力を柱とする両国の「安定と繁栄に向けた包括的パートナーシップ共同声明」を踏まえ、首相は「関係を一層強化したい」と表明。皇太子は「両国の利益に資する形で関係を強化していきたい」と応じた。〉と。
安倍晋三は昨2013年、サウジアラビアとアラブ首長国連邦、トルコを訪問、4月30日、5月1日と訪問のサウジアラビアでは今回と同じサルマン皇太子と会談している。
そのときの中東訪問の狙いと特徴を外務省HPは次のように伝えている。
〈今回の中東訪問のねらいは,石油の売買といった従来の資源・エネルギーを中心とする関係を超えて,幅広い分野での経済面での協力,更には政治・安全保障,文化・人的交流といった多層的な関係にしていくこと。こうしたねらいの下,サウジアラビアで行った我が国総理として初めての中東政策演説において, 我が国と中東地域の関係を「安定と繁栄に向けた包括的パートナーシップ」に向けて抜本的に強化していくことを宣言。安倍政権の中東重視を対外的にアピールするとともに,中東諸国との間の包括的・重層的な関係を築く転機となった。〉――
そしてサウジアラビア訪問の成果に関しては、「協働」と銘打って、〈二国間協力を政治・安全保障分野にも拡大し,ハイレベル政策対話の促進,安全保障対話の新設や防衛交流の進展,国際テロ情勢に関する 対話と交流の促進で一致。〉、「共生と共栄」と銘打って、〈安倍総理より,石油の安定供給を要請し,我が国としても省エネ・再生可能エネ・原子力等の分野で貢献が可能である旨言及し,双方向のエネルギー協力を行うことで一致したほか,原子力協力に関する事務レベル協議を進めることで一致。また,双方は,日サウジ産業タスク フォースの進展を歓迎しつつ,エネルギーのみならず,インフラ開発,医療協力等で協力することで一致。安倍総理より,JICAによる コストシェア技術協力の新スキーム立ち上げを紹介し,双方は,産業・人材育成を強化することで一致。日サウジアラビア投資協定に署名。〉、さらに「寛容と和」と銘打って、〈我が国へのサウジ人留学生の増加を歓迎しつつ,若い世代の人材育成の重要性,教育協力,人的交流,知的対話の強化で一致。〉と成果を並べ立てている。
但し、「若い世代の人材育成の重要性,教育協力,人的交流,知的対話の強化」は性別的限定条件下の強化であることは誰の目にも明らかであるはずだ。
今回の安倍晋三・サルマン皇太子会談の内容を外務省はHPで次のように伝えている。
冒頭、〈安倍総理から,昨年のサウジ訪問時に温かい歓迎を受けたことに謝意を表しつつ,サルマン皇太子をお迎えし会談できることを喜ばしく思う旨述べ,幅広い分野で「包括的パートナーシップ」を一層強化したい旨発言した。これに対しサルマン皇太子よ り,日本という友好国を訪問することができ嬉しく思う,様々な分野で日本との協力を深化させていきたい旨述べた。〉――
政治・安全保障、〈安倍総理から,国際協調主義に基づく積極的平和主義の下,日本は中東地域を含む国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に寄与していくとの考えを述べ,中東の大国であり地域の平和と安定の要であるサウジとの連携を深めるため,安全保障分野での対話や防衛交流の促進,両国NSC間での対話開始,若手外交官交流及び外交分野での有識者対話促進等を行っていく旨を発言した。これに対しサルマン皇太子より,総理の発言へ賛意を示しつつ,両国間の若手外交官, 有識者,ビジネス関係者の交流,相互訪問が欠かせない旨述べ,日本が国際社会で積極的な役割を果たすことへの期待が表明された。〉――
経済、〈安倍総理から,石油の安定供給への謝意や,石油市場の安定に向けた役割への期待を表明したほか,省エネ専門家派遣等のエネルギー協力進展を歓迎したのに対 し,サルマン皇太子より,石油の安定供給を約束する旨述べた。また,双方は,原子力の平和利用の分野で協力していくことで一致した。
日本産食品に対する輸入規制に関しては,安倍総理から,緩和・撤廃に向けた進展を期待する旨述べたのに対し,サルマン皇太子より,専門家による議論を行っていきたい旨述べた。
以上に加え,安倍総理から,インフラ,産業多角化,人材育成及び投資促進分野でも協力を強化したい旨述べた他,日本国民に対するサウジ入国査証の円滑な発給を働きかけた。〉――
地域情勢及び国際場裡における協力、〈双方は,中東地域情勢,アジア情勢,更には国際社会の諸問題について意見交換を行った。〉
以上である。
そして会談後、両首脳は3案件の署名に立ち会っている。
1.サウジアラビ総合投資院(SAGIA)と中東協力センターJCCME)間での投資促進協力に関する覚書
2.東レ株式会社とサウジア ラビAbunayyan Holding Company 社(AHC) 間での合弁会社設立契約
3.日本・サウジアラビネスカウンシル(評議会)の共同声明へ署名
その後、晩餐会。日本がその発祥を誇るカップラーメンを出したということはあり得ない。
安倍晋三の挨拶。
安倍晋三「昨年のサウジ訪問に続き、今晩、殿下をお迎えでき、両国の強固なパートナーシップを実感しております。昨年の訪問時に、殿下に温かい歓待をいただいたことをあらためて感謝申し上げます。
戦後の外交関係の樹立、日本企業の進出を経て育まれたこの長い友情の絆を我々の手で次世代へと繋いでいきたいと思います。次の100年に向けて両国国民の真の意味での幸福と繁栄を分かち合う新時代を築いていきたいと思います」
前回訪問で、「幅広い分野での経済面での協力,更には政治・安全保障,文化・人的交流といった多層的な関係」の構築、「若い世代の人材育成の重要性,教育協力,人的交流,知的対話の強化」等を謳い、今回の会談でも、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を基盤とした中東地域を含む国際社会の平和と安定への積極的関与等やその他の協力の呼びかけを謳ってはいるが、協力の内容や署名案件リストを見ると、実質的には経済中心で、「政治・安全保障,文化・人的交流」は従の位置に置かれていることが分かる。
特に前年サウジ訪問時に掲げた「若い世代の人材育成の重要性,教育協力,人的交流,知的対話の強化」はサウジアラビアが男女同席を厳しく制限している関係から、男性対男性限定、女性対女性限定の偏った取り組みとなって、対人関係の限定性から言って、トータル的には公平な満足のいく内容の知の経験は期待できないことになる。
サウジアラビアに於いて女性の人権が厳しく制限されている状況を安倍晋三にしても日本の外務省にしても自らの知識・情報としていたはずである。当然、サウジアラビアに対して「若い世代の人材育成の重要性,教育協力,人的交流,知的対話の強化」を謳うなら、サウジアラビア政府に対して先ずは女性の人権制限の緩和の要請から入らなければ、「若い世代の人材育成の重要性,教育協力,人的交流,知的対話の強化」は不完全燃焼の形で終わるお題目の提供となる。
安倍晋三がサウジアラビア政府に対して女性の人権制限緩和の要請から入らなければならない理由はもう一つ、国内外で「女性の社会参加」を盛んに宣伝していることにある。
真正な「女性の社会参加」は男女平等を始めとした女性の人権が厳格に保障された社会に於いてこそ実現可能な社会的一般性となり得る。
日本社会に於いて欧米先進国に比較して女性の社会参加が遅れているのは、日本の歴史的に伝統としてあった、女性を男性の下に置く男尊女卑の風潮を現在も引き継いでいて、真の男女平等が実現できていないことの一つの現われでもあろう。
安倍晋三が「女性の社会参加」を盛んに掲げる以上、日本の社会がこのように厳密な意味で男女平等が実現できていない状況にあることを前提とした訴えである必要性を欠かすわけにはいかず、その訴えが自身の血となり肉となっている思想であるなら、なおさら、「女性の社会参加」は日本の社会にとどまらずに、男女不平等のサウジアラビアにも求めてもいい男女平等と男女平等を背景とした「女性の社会参加」であり、求めて初めて公平性ある血肉化した自身の思想と言うことができる。
でなければ、「次の100年に向けて両国国民の真の意味での幸福と繁栄を分かち合う新時代を築いていきたいと思います」にしてもニセモノとなる。
サウジアラビアに於ける男女不平等な女性の人権制限は親族の同席を除いた男女同席の禁止を始めとして、自動車の運転の禁止、公園や娯楽施設に限定し、なおかつ男性親族らの同伴と全身を覆うアバヤの着用を条件とした自転車運転の最近解禁に見る、依然として残る男女差別、男女共学の禁止、女子生徒の教育に於ける男性教師の禁止・女性教師限定の差別、省庁等の国の行政機関に於ける男性雇用限定や女性雇用でも、女性専用の建物内雇用限定の差別等が存在するという。
このような差別の状況下で、日本政府はサウジアラビアに対してどのような人材育成、どのような教育協力と人的交流、どのような知的対話の強化ができると言うのだろうか。
以前、女性下着の販売スペースでは全て男性店員と限定されていて、女性が店に入りにくかったが、最近やっと女性店員が解禁となり、買い求めやすくなったという記事を読んだことがある。
このこと以上に滑稽なのは、今年2月、大学当局は妨害を否定しているが、女子学生が心臓発作で倒れた際に駆けつけた救急車の隊員が男性であったために、女子生徒との接触を忌避して救急を妨害、女子学生が死亡してしまったという記事である。
サウジアラビアで男性限定だった諮問評議会議員(=国会議員に相当)が女性にも開放されたのは昨2013年1月のことで、だとしても国民の選挙による選択ではなく、30人が国王によって任命を受けたお仕着せである。
これは一つの進歩であり、女性の人権制限の開放に向けた一歩ではあるが、西欧民主国家の普遍的価値観からすると、女性の人権の後進性は如何ともし難く残っていることになる。
だが、昨年のサウジ訪問にしても、今回の訪日サウジ皇太子との会談に於いても、サウジ女性の人権制限の緩和すら求めた節がないことは、国家主義者安倍晋三の「国際協調主義に基づく積極的平和主義」に則ったサウジとの関係強化の謳いは国家主義者らしく、国家の中身たる国民の一方の女性の人権を置き去りにした関係強化の謳いであり、このことは普段口にしている「女性の社会参加」の思想を自身の血肉としていない二重基準のマヤカシ物とする類いの外交となる。
このことは、所詮、GDP押し上げ、経済回復の道具とするための「女性の社会参加」であり、男尊女卑の痕跡の払拭に立った人権意識からの「女性の社会参加」ではなく、そのことを度外視している以上、「積極的平和主義」にしても、外交上の体裁でしかないことを暴露することになる。
ニセモノ政治家安倍晋三のニセモノの政治主張の数々といったところか。