ロシアの権状況への異議申立て意思表示としてソチ五輪開会式出席を見合わせた欧米各国首脳の姿勢に反して主要国8カ国 (G8)首脳の中での出席者は我が日本の安倍晋三とイタリア首相のみだったという。
そしてその他主要国では中国の習近平主席が出席。権3兄弟が場所を同じくしたといったところだろうか。勿論、日中関係悪化中で、安倍晋三と習近平主席の顔合わせはない。しかし権意識を抱えている点で、両者は近親性の関係にある。プーチンも加えた似た者同士の3人でベッドを共にして、権の乱交に耽ってもいい親しさにあるはずだ。
安倍晋三ソチ五輪開会式出席に対する日本政府の見解は北方領土問題の解決を大義名分としている。2月7日午後の菅官房長官記者会見。
菅官房長官「わが国としてロシアの人権の状況は当然注視しているが、それとソチオリンピックを結びつけて考えてはいない。安倍政権は『人権をしっかり確立する』という基本方針を貫いているが、そこだけというより全体を考えたうえで判断すべきだ。
日本とロシアの間には北方領土問題という大きな問題もあり、安倍総理大臣は、プーチン大統領と首脳会談を行うほか、ワーキングランチまでセットされている。国益を考えれば、出席するのは当然ではないか」(NHK NEWS WEB)――
開会式出席のための出席ではない。主目的の首脳会談やワーキングランチを雰囲気よく和気あいあいと行うためには開会式出席は当然だと言っている。
しかし、いくら国益のためだからと言っても、欧米各国首脳の欠席に対して出席した以上、ロシアの権状況には目をつぶったことになる。欧米各国首脳がロシアの権状況に対する異議申立ての意思表示に欠席を手段としたことに反して我が日本の安倍晋三は出席したのだから。
菅官房長官は「安倍政権は『人権をしっかり確立する』という基本方針を貫いている」と言っているが、ロシアや中国の権政策に抗議とまでいかなくても、最低限遺憾の意を直接的に表明したことがあるのだろうか。
各国の権状況に対して常日頃から抗議や遺憾であるとする発言を行っていたなら、人権問題をバック ボーンとした指導者との評価を世界から受けて、ソチの開会式に出席しようと止むを得ないことと理解されたはずだ。
だが、普段から直接的には声を上げていない安倍晋三である。理解されることよりも、首脳会談を成功させるために取引したと受け止められるのがオチだろう。
要するに官房長官が言っている「『人権をしっかり確立する』という基本方針」にしても、安倍晋三が常々口にしている「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚した戦略的外交の展開」にしても、民主国家というタテマエ上のスローガンとして使っているに過ぎない。
その証拠を挙げる。
昨年(2013年)2月1日の参議院本会議代表質問。水野賢一みんなの党議員が中国のノーベル平和賞受賞者の民主化活動家劉暁波(リュウ・ギョウハ)氏の釈放について問い質した。
安倍晋三「中国の民主化活動家を巡る人権状況や国際社会に於ける普遍的価値である人権及び基本的自由が中国に於いても保障されることが重要であります。
劉暁波氏についても、そうした人権及び基本的自由は認められるべきであり、釈放されることは望ましいと、考えられます。
このような観点から、これまでも政府間の対話などの機会を捉えて、民主化活動家についての我が国の懸念を中国側に伝えてきております」――
「これまでも政府間の対話などの機会を捉えて、民主化活動家についての我が国の懸念を中国側に伝えてきております」と言っているが、「釈放されることは望ましい」はあくまでも一般論として希望を述べたに過ぎない発言であって、「釈放を要求しています」といった一般論を踏み出した釈放要求の具体化とはなっていないのだから、発言が前後矛盾していることになって、「民主化活動家についての我が国の懸念を中国側に伝えてきております」は、例え実際に伝えていたとしても、タテマエ上の意思表明でしかないことが分かる。
当然、最初の発言の「中国の民主化活動家を巡る人権状況や国際社会に於ける普遍的価値である人権及び基本的自由が中国に於いても保障されることが重要であります」にしても一般論をスローガンとして述べただけのタテマエでしかない正体を現すことになる。
2010年10月14日の参議院予算委員会の質疑での山本一太自民党議員の追及に当時の首相菅無能もほぼそっくりの答弁を行っている。
菅無能「中国に於いて、普遍的な価値ある人権と、基本的自由が、保障されることが、重要だと、このように考えております。
(釈放要求に関して)まあ、どういう形での、どういう・・・・、表現をするかということは、あー・・・、考える・・・、必要があると思いますが、釈放されるのが望ましいと、このように思っております」――
釈放に関して一般論として希望を述べるだけで終わっている関係上、中国の人権状況に関しても一般論をスローガンとしていることになって、タテマエ上、そのように発言しているに過ぎないことが分かる。
対して山本一太はさらに厳しい追及を行っている。
山本一太「人権問題についてはっきりと言わないと、日本人は人権問題について意識が低いんじゃないかと、そういうふうに国際的に思われてしまうと思うんですね。もうちょっとはっきり言ってください。もう一回答弁をお願いします」――
安倍晋三に対しても言うべき言葉であろう。
安倍晋三はかくこのように外国の人権状況に関して一般論をスローガンとしているだけ、タテマエを述べているだけの対応を自らの姿勢としている。プーチンとの首脳会談での領土問題返還への進展を優先させて、ロシアの人権問題に目をつぶる取引をしたのである。
勿論、目をつぶることのできる人権意識しか備えていないから、目をつぶることができた。
少なくともプーチンにとってはソチオリンピック開会式に先進主要各国首脳が誰一人出席しなかったという不名誉を免れる材料とすることができた安倍晋三の出席だったはずだ。
安倍晋三はロシアの権状況に目をつぶったことの批判を免れるだけの成果を首脳会談で得たのだろうか。
どの記事を見ても、個人的信頼関係の構築・発展には役立ったと伝えているだけで、領土返還問題に関しては具体的な進展はなかったとしている。
果たして個人的な信頼関係が領土返還交渉にどれだけ役立つのだろうか。ロシアは安倍晋三との個人的基信頼関係構築の元、着々と日本との経済関係を強め、日本の技術の導入を着々と進めている。
いわば現時点までのプーチンによる安倍晋三との信頼関係構築はロシアの経済発展を役立たせる力となっているに過ぎない。この関係が領土交渉によりウエイトを移していく保証はない。
プーチンの安倍重視は経済協力を引き出すための甘い罠、キャバクラ嬢の惚れたフリに過ぎない。
日ロ首脳会談後の記者会見。
安倍晋三「個人的な信頼関係のもと胸襟を開いた会談となった。これまで築き上げてきたプーチン大統領との個人的な信頼関係を2国間関係の発展という次元へ一段と高め、ことしは日ロ関係を一段と飛躍させる年にしたい。
(北方領土交渉について)去年の私のロシア訪問以来、大変テンポよく進んでおり、このスピード感を維持しながら建設的で率直な意見交換を行いたい。この問題を次の世代に先送りしてはならず、可能なかぎり早期に解決を図っていかなければならない」(NHK NEWS WEB)――
五輪開会式出席で安倍晋三はプーチンに恩を売ったつもりでいるのかもしれないが、首脳会談では領土交渉進展に関わる発言へとつながらなかった。にも関わらず、領土交渉は「大変テンポよく進んでおり」と言っているが、「テンポよく」進んでいるのは2013年8月19日と2014年1月31日の日露次官級協議、かなり頻繁な日露外相会議等のさして時間を置かない開催頻度のみで、領土問題については何も進んでいない。
ロシアが「北方領土は第2次世界対戦の結果、ロシア領となった」という姿勢を崩していないからだ。
実際に「テンポよく進んで」いるのは既に触れたが、日ロ経済協力のみである。
安倍晋三はプーチンから開会式出席を誘われたとき、イエスと言う前に、「日本国民はソチオリンピックで湧いている。領土問題で日本国民に希望を与える言葉を貰うことができたなら、日本国内に於いてあなたの名前をなお一層高めることになり、日本国民のロシアへの親近感を強める役に立つはずです」と、出席を取引きの一つとして利用でもしたのだろうか。
勿論、プーチンは領土交渉の加速化といったタテマエで応ずる可能性は否定できないが、領土返還と取引するという姿勢を常に保持していたなら、ロシアにのみ有利な経済協力先行といった事態は避けられるはずだ。
要するにソチ五輪開会式出席はプーチンに体よく利用されただけで、ロシアの権状況に目をつぶった効果しかなかった。安倍晋三にはその程度の外交能力しかないということである。