2月9日『たかじんのそこまで言って』の籾井勝人「政府が右と言うこと」云々の行き着く先は戦前の報道機関

2014-02-10 08:24:39 | Weblog



 昨日2月9日(2014年)放送の『たかじんのそこまで言って委員会』で、籾井勝人NHK新会長の「慰安婦」発言は問題があるかどうかパネリストに質問していた。だが、議論は慰安婦問題を取り上げず、国際放送で領土問題を扱うとき、「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」とした籾井発言を取り上げて、そこに議論が集中した。

 籾井発言は安婦問題にウエイトを置いた報道に偏っていて、私自身も「MSN産経」記事をネタ元にブロ記事を書いたが、そのネタ自体も慰安婦問題に関わる発言のみを取り上げていて、国際放送に於ける領土問題に関する発言は取り上げていなかった。

 あとから領土問題に関する発言もあったことを知ったが、『たかじんのそこまで言って委員会』自体も、正式に取り上げようとしたのは慰安婦発言の是非であって、領土問題に関わる発言は重要視していなかったのかもしれない。しかし実際には非常に重要な問題を含んでいる。

 番組で議論されたのを機会に自分の考えを述べてみることにした。

 「問題アリ」の表示をした長谷川幸洋(現在東京新聞・中日新聞論説副主幹)。

 長谷川幸洋「あの、慰安婦の発言じゃないんですよ、根本の話は。政府が右と言ったことを左だとは言えないと。

 この人ね、政府っていうことと報道機関ということが全く理解していないんですよ。全く違うんですよ、両者は。政府が右と言ったら、報道機関が左と言うことだって十分にあるんですよ、報道機関が自由に勝手に判断すればいい話で、その根本のところをね、この方、全くご存じない。

 この人辞めるべきですね、この人は」
 
 次に明治天皇の玄孫とかで、作家・法学者でもある立派な人、竹田恒泰が自らの主張を述べる。

 竹田恒泰「ちょっと聞きたいんですけども、右左の議論について、右左ですが、領土ですか。それによって違うと思うんですよ。

 例えば慰安婦云々なんか議論の余地のあるものであれば、そうかもしれませんけれども、例えば領土問題、例えば竹島は日本の固有の領土であるということに関して政府が右と言っていることに左と――」

 最後まで言わせればいいのに司会の山本浩之が小賢しくも口を挟む。

 山本浩之「竹田さんがおっしゃりたいのは国益に関する部分ですか」

 竹田恒泰「ですが、この右左の下りは何の話題でおっしゃってるんですか」

 山本浩之「だから、政府の考え方。例えば右、左という言い方をすると、ちょっと誤解があるから、白か黒かと言うべきだと思うんです」

 竹田恒泰「白、黒と言うべきであって、政府が白と言えば、白。右って言うと、何か右翼左翼みたいでありますから――」

 長谷川幸洋「具体的な問題については私は初めてのことでチェックしていないから分かんないけど、一般論として先ずおかしいわけ。一般論として」

 竹田恒泰「違うですよ。これが一般論として語られたのか、あるいは領土問題に特化して語られたのか――」

 山本浩之「白黒で語られた方が分かりやすかったかもしれないですよ、確かに」

 竹田恒泰「それをご存じの方はいらっしゃらないのですか。何の話題で出てきたのですか、この質問は。領土問題に関して言ってるんでしたら、(人差し指を突き立てて断言する)正しいでしょう」

 司会の山本浩之が「発言を取り消すのはおかしい」と言ったのに対してざこばが「おかしくない」と反論。竹田恒泰がケイタイをいじっている。

 山本浩之「議論が白熱している最中、申し訳ないですけども、竹田さん、そのケイタイでね、メールをね」

 竹田恒泰「メールじゃないの。ちょっと僕、先程の長谷川さんの発言に対して反論します。あの、右 左の議論があったんじゃないですか。あれはあくまでも、あくまでも国際放送に関しての発言でした。しかも領土問題については政府が右と言ったものを左と言うことはできないと言ってるんです。

 つまり一般論で全部政府に追従すると言っているわけではなくて、領土問題に関しては政府の言うことはNHKの人は国際放送で表現すべきだという(人差し指を突き立てて)、トーゼンのとこと言ったんです」

 長谷川幸洋「それでも反対で、マスコミがね、報道機関が、報道機関が自分の完全な判断として、この領土問題はこれこれこういうふうに考えますよ、ということはいいんです。政府が言っているから、そうなんです、というのはダメなんです。ダメなんです」

 竹田恒泰「じゃあ、NHKが竹島は実は韓国のものなんですって言って、いいわけないでしょう」

 長谷川幸洋「そんな話じゃない」

 山本浩之「竹田さん、それ、ケイタイで調べていたわけ?」

 竹田恒泰「そうです。知らないって言うから、朝日新聞のサイトで調べた」

 ここで長谷川幸洋がNHKは国民の受信料で成り立っているのであって、政府経営ではない、評論家の宮崎哲弥が、受信料で成り立っていながら、NHKの予算は総務委員会で審議されるのはおかしい、政府から独立すべきだといった議論になる。

 次いで津川雅彦が保守派を代弁することになる発言を行う。

 津川雅彦「今までNHKは偏向報道をしてきた。そのときの会長は何も言われなかった(言うことができなかった)んだから、要するに何かやればいいけどさ、今は個人的な発言だけのことだからさ」

 「何かやればいいけどさ」の意味は、偏向報道した場合は会長が是正させることへの期待を述べた言葉であろう。

 要するに個人的な発言で終わらずに放送に介入することを望んでいる。この希望は保守派全体の希望であって、安倍晋三も加えることができる。

 籾井が会長職を続けたら、また同じような発言が飛び出しのではないかといった言葉を交わし合ってから、次のテーマに移る。

 インターネットで調べた発言だが、籾井勝人NHK会長の発言は次のようになっている。

 籾井勝人「尖閣や竹島といった領土問題は日本の明確な領土ですから、これを国民にきちっと理解してもらう必要がある。今までの放送で十分かどうかは検証したい。国際放送は、国内放送とは違う。領土問題については、明確に日本の立場を主張するのは当然のこと。政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」――

 ごくごく当たり前のことを言うが、要するに報道機関は報道機関としての自己判断に忠実に従った報道の責任と義務を負っている。自己判断を放棄した場合、報道機関が持すべき自主独立性が失われて、そのことは同時に権力(=政府)からの独立の放棄を意味することになる。

 いわば自己判断の放棄は権力(=政府)の言いなりとなり、御用報道機関に堕すことを意味する。

 竹田恒泰は「一般論で全部政府に追従すると言っているわけではなくて」と言っているが、例え領土問題に関してのみの「追従」であっても、「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」からと、政府が言うがままに「右」とのみ言ったとしたら、そこに報道機関が自らの責任と義務に応じて持すべき自己判断を介在させていないことになって、自らの自主独立性を自ら放棄することになる。

 例え領土問題というたった一つのことであったとしても、「政府が右と言うことを」報道機関はあくまでも自己判断の濾過装置を通した報道機関それぞれに独自の情報を発信する責任と義務を負っている。それが報道機関としての自主独立性を守る唯一の砦であって、権力(=政府)の言いなりとなり、御用報道機関と堕すことの唯一絶対の回避策である。

 この調和が敗れたとき、一つの問題が徐々に全体を蚕食して、「全部政府に追従する」危険性を抱えかねないことは戦前の日本の報道機関が証明している。

 要するに籾井勝人が「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と言っている先に待ち構えているのは、最初は領土問題に端を発した発言であろうと、政府検閲下に自己判断を放棄し、自らの発言を止めた戦前の日本報道機関である。

 大多数が自らの発言を止めて政府が発信する情報のみが跳梁跋扈した場合、政府情報による思想統制を可能とする。

 このことも戦前の日本で見てきた。

 竹田恒泰は「NHKが竹島は実は韓国のものなんですって言って、いいわけないでしょう」とか、「竹島は日本の固有の領土であるということに関して政府が右と言っていることに左と言うわけにはいかない」といったことを言っているが、例え竹島が日本固有の領土であったとしても、政府が言ったことをこう言ったと事実として伝えるのは構わないが、その是非については報道機関として自己判断を通した是か非を欠いていたなら、政府情報に対して自己規制をかけたことになる。

 私自身は竹島は韓国を日本側に引き止め、中国寄りとしないために韓国にくれてやれとする内容のブログ記事を書いているし、北方四島はロシア側の「北方領土は第2次世界大戦の結果ロシア領となった」とするロシア側の正当性理論を破るために、日本が北方四島を日本領とする以前からアイヌ固有の領土だったのだから、アイヌへの返還を求めるべきだとして、そのようなブログ記事も書いた。

 アイヌへの返還によって千島列島をソ連に引き渡すとしたヤルタ協定にも一切関係ないこととすることができる。北方四島はアイヌ人だけでは領有しきれないだろうから、元日本人島民を入植させたり、現住ロシア人の居住を許可したりして、多人種に基づいたアイヌ国家を建設すればいいと書いた。

 報道機関が自己判断を放棄して政府が発信する情報を言いなりに報道し、政府の代弁者となることは同時に検証の放棄を意味する。戦前の日本では報道機関その他が検証の機能を政府の強制に屈して自ら放棄したために大本営が国民に戦争を優位に進めていると思わせる好き勝手に捏造した情報を流すことを許し、結果として戦争終結を遅らせ、悲惨な敗戦を招くことになった。

 特定秘密保護法にしても、その罰則を恐れて政府以外の個人・組織が自らの検証機能を麻痺させかねない危険性を抱えない保証はない。あるいは内部告発としての検証機能の麻痺も誘いかねない。

 誰しもが自己判断を持すことによって個人として自律することができ、権力(=政府)からの自律(自主独立)を図ることができる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする