2月17日午前の衆院予算委で山井和則民主党議員が安倍政権陰謀の労働者派遣法改正について問い質している。
賃金推移が下降を示しているボードを見せて、アベノミクスで例え賃金が上昇しても、それ以上に物価が上昇していて実質賃金は下がることになることと、非正規雇用が増えていることが全体の賃金を押し下げている状況にあると発言してから、派遣労働者の希望労働形態の割合を示すボードを掲げた。
正社員として働きたい――60.7%
今のままの働き方がよい――19.3%
派遣会社で無期雇用される派遣労働者として働きたい――19.2%
山井和則「一生派遣のまま働かざるを得ない労働者が増えるのではないのか」
安倍晋三「現在検討中の労働者派遣法の改正は、労働者派遣事業を全て許可制として、質の向上を図ると共に派遣期間の設定については労使双方にわかりやすい仕組みにして、派遣労働者のキャリアアップを促進することを目指すのもである。
こうした見直しの中に於いて有期雇用の派遣労働者について同じ職場への派遣は3年を上限として節目節目でキャリアを見つめ直して頂くと共に派遣労働者本人の希望を踏まえて、キャリアコンサルティングや計画的な教育訓練の実施を義務付けることにしている。
3年の期間が満了した場合、正社員になったり、あるいは別の会社で派遣が続けることができるように派遣会社が雇用の安定化措置を講じることを新たに義務付けている」――
「キャリアを見つめ直して」、「キャリアコンサルティングや計画的な教育訓練の実施を義務付ける」と言っているが、別の職場に移して、その職場の仕事を学習させるための「キャリアコンサルティングや計画的な教育訓練の実施」といったことで義務を解消可能とすることができる。
ここで企業にとってのメリットは、仕事の新規巻き直しによってキャリアの新たなスタートと同時に賃金をも新たなスタートとさせることができることであり、派遣労働者側にとってはデメリットとなる措置となる。
当然、企業は全体としての人件費抑制のために派遣雇用から正社員雇用への切り替えを限りなく抑えることになる。
山井議員は最後の方で次のような質問をしている。多くのマスコミがその質問に対する安倍答弁を取り上げている個所である。
山井和則「今回の労働者派遣法改正で、派遣労働者を増やすべきだと考えているのか。このバカヤロー(とは、当たり前のことで言わなかった)」
安倍晋三「私は増やすべきだと全く考えていない。働く人にとってそれぞれ働き方のニーズがあるわけで、派遣という形態を希望される人もいる。キャリアアップを図っていきたい人にキャリアアップを図ることのできる仕組みを我々は作っていきたいと考えている」
山井議員は、企業側からしたら派遣を増やす方向に制度を利用するはずで、そうなった場合、「今のままの働き方がよい」の19.3%はいいが、「正社員として働きたい」不本意派遣雇用の60.7%にとっては不利益になって、なおかつ賃金の下降傾向は続くことになるといったことを追及するが、時間切れとなる。
安倍晋三は国家主義者である。このことを前提として考えると、正規雇用を増やしたいのか非正規雇用を増やしたいのか、たちまち答を見つけることができる。
現代の国家主義者とは、国の形を優先させ、国民を国の形に従属させる考え方を言う。GDPやGNP等の経済成長率の規模、輸出入の量と金額の規模、外貨準備高の金額規模、貿易黒字額の規模等々、このような国の形を優先させて、中身の国民はこれら国の形を表現する各項目の規模拡大に貢献する素材に過ぎない。
但し前者の企業の利益拡大を受けた規模拡大は後者の利益となる賃金の規模と否応もなしに反比例する関係にある。だからこその非正規雇用の年々の拡大なのだが、安倍晋三がこの手の現代の国家主義者である以上、アベノミクスによる景気拡大に応じた企業利益の拡大に反して非正規雇用の拡大と、その拡大に応じた賃金の下降傾向は今後共続くことになる。
2012年12が26日からの安倍政権1年間の国民の側からの成果を見てみる。
山井議員も先の質疑で取り上げていたが、世論調査のアベノミクスによる景気に対する国民の実感。
「実感している」21%
「実感していない」75%
これも成果としてある一つの実態であろう。
総務省2月18日発表「労働力調査 結果の要約」
○2013年平均の役員を除く雇用者5201万人のうち、正規の職員・従業員は3294万人と、前年に比べ46万人減少。非正規の職員・従業員は1906万人と、93万人増加
○非正規の職員・従業員について、現職の雇用形態についた主な理由を男女別にみると、男性では「正規の職員・従業員の仕事がないから」の占める割合が最も高く、女性では「家計の補助・学費等を得たいから」の占める割合が最も高い。
○2013年平均の完全失業者265万人のうち、失業期間が1年以上の完全失業者は104万人と、前年に比べ3万人減少
○2013年平均の非労働力人口4500万人のうち、就業希望者は428万人と、前年に比べ11万人増加。就業非希望者は3985万人と、前年に比べ44万人減少。このうち「65歳以上」は59万人増加(以上)
非正規労働者が増加すればする程、また、非正規労働者の賃金が抑制されればされる程、この傾向と逆比例して、企業活動は活発化して、国の形を構成する各項目は量的規模も金額的規模も拡大傾向を取ることになり、世界の大国と比較して日本という国の形に優秀な見栄えを与え、大国の誉れを受けることができる。
そして安倍晋三はこのことを自身の政治家としての一大成果とすることを目論んでいる。
これが安倍晋三が現代の国家主義者として目指す国の形優先・国民従属の一つの実態である。労働派遣法改正で色々と立派な理由づけを行っているが、安倍晋三が国家主義者である以上、「派遣労働者は増やすべきだと全く考えていない」はマヤカシそのもので、非正規雇用の増加傾向と賃金下落傾向はなお一層悪化していく状況で今後共続くことになるはずだ。