安倍晋三の言論の自由・報道の自由を侵しかねない危険な深謀遠慮を籾井NHK新会長参考人出席発言に見る

2014-02-02 10:40:00 | Weblog



 1月31日籾井NHK新会長が衆院予算委員会に参考人出席し、その就任記者会見発言について原口一博民主党議員から放送法に規定する報道の不偏不党性・中立性・公平性に反しているのではないかと、その責任の追及を受けた。原口は併せて安倍晋三のNHK経営委員に対する任命責任を問い質した。

 インターネットに籾井会長の就任記者会見の全文が載っていないか、探したら、インターネット上に出回っていた。その一つ、《銀色の艦隊》(日付不明)から、原口一博が問題にしている個所を無断拝借することにした。  

 記者「靖国神社の参拝と合祀(ごうし)についての考えは」 

 籾井会長「総理が信念で行かれたということで、それはそれでよろしい。いいの悪いのという立場にない。行かれたという事実だけ」 

  記者「NHKの報道姿勢としてはどうか」

 籾井会長「総理が信念で行かれたということで、それはそれでよろしい。いいの悪いのという立場にない。行かれたという事実だけ。

 ただ、淡々と総理は靖国に参拝しましたでピリオドだろう」

 原口一博は予算委員会でこの発言を取り上げて、参拝の是非と言っているのではない、自身も靖国神社を参拝する国会議員の会に入っている。だが、参拝はいけないと言う人もいる。最高裁判所でも政教分離の点で何度も議論されていると前置きして次のように追及している。

 発言はNHKの国会中継から。

 原口一博「これから公共放送では靖国参拝については、安部総理が、これから行かれるかどうか分からないけれども、それを報道して、それで終わりだと、ということをおっしゃってるんですよ。

 靖国の問題については私たちの、これが放送法第4条に真っ向から反しているのではないか。こうったことを私的発言と言って、責任が阻却されるのか」
 
 籾井会長(現行を読み上げた答弁)「NHKとしましてはあくまでも放送法に基づきまして不偏不党・公平公正・表現の自由の原則を守って放送していくことに変わりはございません。私の個人的な意見を、あるいは個人的な見解を放送に反映させることはございません。

 放送法第4条やNHK国内番組基準により、意見が対立している問題については、できるだけ多くの各論から論点を明らかにして公平に取り扱って放送を行ってまいります。

 放送法の原点をしっかりと踏まえ、取り組んでまいりたいと思います」――

 原口一博はこの答弁に当然の如くに納得しなかったが、どこどこかの新聞にNHK経営委員会の中身が出て、スパイ探しに発展した、誰かが籾井会長の悪口を経営委員会で言っているとかの噂があり、品位がないと、任命権が安倍晋三にあるNHK経営委員の任命責任について、見当違いな方向から安倍晋三を問い質した。

 安倍晋三「えー、私はいちいち経営委員のですね、発言を見ているわけではございません。えー、いわば経営委員としてお願いをした以上、お任せをしているということでございますし、それこそ、私が経営委員に様々な指示をするべきではないと、えー、このように思っているところでございます」――
 
 相変わらずノー天気な安倍晋三発言だが、ノー天気である方が本人にとっては幸せなのだろう。なまじっか判断能力が優れていたなら、NHK経営委員を任命する時点で、人選次第でどのような問題が生ずるか的確に判断できただろうから、より中立の立場から任命することになったはずだ。

 だが、放送法第30条によって12人の構成となっているNHK経営委員会委員の3年任期満了5人に替わる昨年10月の任命権が内閣総理大臣にある人事に於いて再任の1人を除き新任の4人について民主党は安倍晋三に近い人物であり、公共放送の中立性を損なう可能性があるとして反対したが、自民党衆参多数の力を以って国会同意人事は賛成多数・可決されている。

 この賛成多数・可決によって経営委員12人のうち10人が安倍政権下で任命されたメンバーに入れ替わることになったという。

 「安倍晋三に近い人物」とは、安倍晋三に近い考えの持ち主、あるいは近い思想の持ち主を意味するはずだ。安倍晋三が自身の考えや思想から遠い人物、あるいは反する人物を委員に任命するはずはない。新任の5人中4人ばかりか、全体12人中、10人が「安倍晋三に近い人物」でNHK経営委員会が構成されるという点と、最終的放送編集権を握っているNHK会長が「安倍晋三に近い人物」10人を含む12人の委員のうち委員9人以上の多数決で任命されるルールとなっている点を踏まえたなら、自ずと問題点はどこにあるか自明の理となる。

 経営委員が安倍晋三任命によって「安倍晋三に近い人物」で大勢が占められることになったことからして新会長が「安倍晋三に近い人物」が任命されたとしても不思議はないばかりか、常識的な到達点とさえ言うことができるし、安倍晋三の靖国参拝について、「総理が信念で行かれたということで、それはそれでよろしい。いいの悪いのという立場にない。行かれたという事実だけ。ただ、淡々と総理は靖国に参拝しましたでピリオドだろう」と頭から肯定することができる。

 原口一博がボードで取り上げた放送法の第1条と第4条は次のようになっている。 

 第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一  放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二  放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三  放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

 第二章 放送番組の編集等に関する通則
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条  放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一  公安及び善良な風俗を害しないこと。
二  政治的に公平であること。
三  報道は事実をまげないですること。
四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 ここで重要な守らなければならない項目は第1条第2項の「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること」と、第4条では、「政治的に公平であること」、さらに「報道は事実をまげないですること」と規定されている以上、原口もこの点を重点的に追及していたが、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という規定の順守が最重要となる。

 だが、籾井会長は記者会見では、「いいの悪いのという立場にない。行かれたという事実だけ。ただ、淡々と総理は靖国に参拝しましたでピリオドだろう」と、事実を伝えるだけだと言っている。

 要するに参拝の問題点を取り上げずに参拝事実だけを伝えて、参拝事実に関する各方面からの判断を伝えないとする報道姿勢を示している。各方面からの判断を伝えないことによって、参拝の問題点を取り上げずに事実だけを報道することがことが可能となる。

 国家主義者安倍晋三の国家主義からの靖国神社参拝に対する中韓の批判や反対も、アメリカの「失望した」とする声明も各方面からの判断のうちに入る。

 報道に於いてこのような判断を無視するということは、一切無視というわけにはいかないだろうから、少なくとも批判的な判断は抑制的な表現となる危険性、あるいは何らかのオブラートを用いた表現となる危険性は避けることはできない。

 このような姿勢はNHK国際放送についての記者会見発言、「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない。国際放送にはそういうニュアンスがある。あくまでも日本政府と懸け離れたものであってはならない」としている政府従属の報道姿勢と符合する。

 原口一博は、政府御用の報道機関となりかねないと懸念を示していた。政治的中立性の放棄そのものとなる。

 籾井会長は原稿を読み上げて放送法に違反しないことを宣言しているが、記者会見発言は個人的見解だといくら弁解しても、彼自身の血となり肉となって精神に染み付いている考え・思想だからこそ口をついて出ることになった発言であって、そのように染み付いている以上、12人中「安倍晋三に近い」9人の委員を介して陰に陽に放送編集に干渉して、安倍晋三の覚えをよくする意思の発揮へとつながらない保証はない。

 籾井新会長のこの手の意思の発揮は安倍晋三が政治的中立性を投げ打って自身の考えに「近い人物」をNHK経営委員に多数派を優に形成できる人数分送り込んで、そのような構成員とした経営委員会を介して自身に「近い人物」を新会長に据え、NHKの上層を自身の考え・思想で占めることにつながった意思の発揮と重なる。

 先を見据えてこのような経緯を辿ることにこそ、安倍晋三の深謀遠慮が存在するのかもしれない。言論の自由・報道の自由を歪めることになるこのような危険な干渉を予感させる点にこそ、重大な問題が潜んでいるはずだ。

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