橋下徹の朝日新聞慰安婦報道修正に関わる8月6日発言に見る巧妙なすり替えと矛盾のご都合主義

2014-08-08 09:18:38 | Weblog


 橋下徹日本維新の会代表が8月6日、朝日新聞が旧日本軍の従軍慰安婦関連報道に一部誤りがあったと認める検証記事を掲載したことについて大阪市役所で記者団の質問に答えている。

 《野党幹部「朝日の罪大きい」=元記者の国会招致要求》時事ドットコム/2014/08/06-17:51)

 橋下徹「強制連行の事実は少なくとも朝鮮半島に於いてはなかった。朝日新聞(の報道)は大問題。罪が大き過ぎる。

 (但し)(検証記事で)保守の政治家が鬼の首を取ったかのように日本を正当化したら完全に誤る。わが国が負っている国際的非難の原点になった報道だ。韓国国民に感情的な反発心を植え付けた朝日新聞の罪は大きい」――

 橋下徹は今まで「強制連行の事実は少なくとも朝鮮半島に於いてはなかった」などと「朝鮮半島」という場所を限定した言い方をしたことはなかった。この発言だけで橋下徹のご都合主義を見て取ることができるが、詳しい発言を知ってからではないと、下手なことは書けない。

 横着して、書き起こしの対記者団発言がないかとインターネットを探すと、運よく見つけることができた。《橋下市長、朝日新聞の従軍慰安婦特集についてコメント》BLOGOS編集部/2014年08月06日 22:52)

 読み通して気づいたことは、支離滅裂、言っていることに終始一貫性がなく、矛盾だらけの発言となっている。全文の読み通しはアクセスして貰うとして、矛盾した発言個所を無断引用して、そのご都合主義を指摘してみたいと思う。

 現在の行革大臣の稲田朋美が以前産経新聞の「正論」に、かつて公娼制度というものがあり、慰安婦は合法的だったと書いていたと言及してから、次のように言っている。

 橋下徹「個人の評論家とか、個人がね、いろいろその、いわゆる売春というものについていろいろ合法化論を唱えるのはいいのかも分かりませんけども、国家運営の責任者が、世界スタンダードで考えたときに、これを堂々と合法化論というものを唱えるのは、絶対に世界的に見ても、世界の潮流から見てもこれは誤ってしまう」――

 2013年5月13日の大阪市役所での記者会見。

 橋下徹「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で命をかけて走っていくときに、精神的にも高ぶっている猛者集団をどこかで休息させてあげようと思ったら、慰安婦制度は必要なのは誰だって分かる。

 当時の歴史を調べたら、日本国軍だけでなく、いろんな軍で(慰安婦を)活用していた。なぜ日本の慰安婦だけが世界的に取り上げられるのか。日本は国をあげて強制的に慰安婦を拉致し、職業に就かせたと世界は非難している。だが、2007年の(第1次安倍内閣の)閣議決定では、そういう証拠がないとなっている。事実と違うことで日本国が不当に侮辱を受けていることにはしっかり主張しなければいけない」(asahi.com

 直接的には稲田朋美のように公娼制度を根拠とした合法化論ではないが、休息を与えて再びの戦闘を元気づけるという意味での戦闘上の必要性を根拠とした堂々とした合法化論となっている。

 勿論、橋下徹は国家運営の責任者ではないが、その発言が公共上の責任を負っているという点で稲田朋美と遜色ないはずだ。時と場合によっては世間に対する発言の影響力は橋下徹の方が遥かに凌ぐ場合がある。

 過去の自分のこの発言をすっかり忘れて、売春の非合法性を訴えるご都合主義を発揮している。

 橋下徹はここで2007年の第1次安倍内閣の閣議決定に触れている。「朝鮮半島」という場所を限定して「強制連行の事実は少なくとも朝鮮半島に於いてはなかった」と言っていることが如何にご都合主義であるかを証明することになる閣議決定ではあるが、先に具体的にどう発言していたかを見てみる。

 橋下徹「ただ強制連行の、これで事実が、少なくとも朝鮮半島に於いてはなかったと。他の地域で、軍が強制的に女性に暴行を加えたという事実はあったんでしょう。これは、オランダ人捕虜のね、スマラン事件でもそうですけど、これはね、戦犯です。戦犯なんです」――

 他の地域には強制連行はあったが、朝鮮半島ではなかった。他の地域の例として、日本軍占領統治下のインドネシアでのスマラン事件を取り上げて、戦後オランダ軍による軍法会議で戦犯として裁かれたことに触れている。

 だが、この発言自体が少しあとの発言と矛盾することを照らし出すことになる。

 橋下徹「但しね、やっぱり認めちゃいけないところ、で、これ何が問題になっているかと言ったら、世界から、日本だけが特殊なことをやったという風に指摘されているわけですよ、“性奴隷”という言葉を使われて。でもこれ、強制連行の事実がなかった、強制連行が無かったということになれば、日本だけが性奴隷を使っていたという批判は当たりません。もし、日本がね、この慰安婦を利用していたということで性奴隷を使っていたというんであれば、世界各国がみんな性奴隷を使っていたということにしなきゃいけないんです。どちらでもいいです。だから日本が性奴隷を使っていたという国連の人権報告書が出てますけども、それだったら世界各国が性奴隷を使っていたというように国連も改めなきゃいけませんね」

 ここでは、少し前の「他の地域で、軍が強制的に女性に暴行を加えたという事実はあったんでしょう」という発言と矛盾して、日本軍が占領していた地域、戦争を行っていた地域全てに亘って「強制連行の事実」はなかったとしている。

 だから、「強制連行が無かったということになれば、日本だけが性奴隷を使っていたという批判は当たりません」と言うことができる。

 例え朝鮮半島では強制連行はなかったが事実だとしても、他の地域ではあったとするなら、その地域での生活している場所から軍慰安所までの暴力的強制連行、そして軍慰安所内での暴力的な性行為強要は世界各国や国連から性奴隷に貶めたと非難を受けるのは当然であり、事実あったことは多くの証言によって明らかになっていることであって、「日本だけが性奴隷を使っていたという批判」はそれ相応に受けるべき当然の代償ということになる。

 橋下徹はこれまで兵士相手の売春は世界各国どこでも行われていたという論法で日本の従軍慰安婦制度に免罪符を与えようとしていた。このことは最後の方の次の発言に現れている。

 橋下徹「今回、強制連行がなかったということになったらね、日本だって、これ、誇れることじゃない、絶対に反省しなきゃいけないけれども、他国と同じような、まさに戦争の中の戦場における性の問題として、不幸な過去としてね、世界各国が共有すべきような、そういう事案、それと同じなわけですよ。 それを強制連行、強制連行と言っていたもんだから、日本だけが性奴隷を使っていた、日本だけが特殊なことをやっていた、だから謝れ、謝れ。これはひどいと思いますよ」――

 この発言でも全ての地域で強制連行はなかったとする文脈を前提とする矛盾を犯しているが、証言などで証明されているその実態が、軍が主体となった若い女性それぞれの意に反した拉致・誘拐紛いの強制連行と強姦紛いの性行為強要であった例は日本以外に存在するだろうか。

 ここに問題があることに気づいていない。どこの国の兵士であれ、戦争中に少人数の集団を組んで現地の女性を拉致・誘拐して集団で代る代る強姦する例は世界各国存在するだろうが、軍自体が軍にとって一種の公の場所である軍慰安所に女性を拉致・誘拐して監禁し、日常的に性行為を強要した。女性側からしたら、性奴隷の境遇に置かれたことになる。

 橋下徹はかつて従軍慰安婦の強制連行はなかったとする論拠を第1次安倍内閣の閣議決定に置いていた。

 2012年8月24日記者会見。

 橋下徹「河野談話は閣議決定されていませんよ。それは河野談話は、談話なんですから。だから、日本政府が、日本の内閣が正式に決定したのは、この2007年の閣議決定だった安倍内閣のときの閣議決定であって、この閣議決定は慰安婦の強制連行の事実は、直接裏付けられていないという閣議決定が日本政府の決定です」――

 2007年3月8日、当時社民党衆議院議員だった辻元清美が、安倍晋三が河野談話に関して「当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった」とする主張を打ち出して河野談話の見直しの動きがあることについて、その根拠等について質問主意書を安倍内閣に提出し、2007年3月16日のその答弁書の中で次のように答えている。答弁書から一部抜粋。

 答弁書「お尋ねは、『強制性』の定義に関連するものであるが、慰安婦問題については、政府において、平成3年12月から平成5年8月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話(筆者注―いわゆる河野談話)のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」――

 答弁書はその内容を閣議決定して、質問主意書提出者が衆議院議員であるなら、衆議院議長(当時は河野洋平)に送付される。

 この閣議決定以降、安倍晋三は答弁書で示した「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」事実を河野談話が指摘している従軍慰安婦の強制連行を否定する根拠としている。

 そして橋下徹もまた、この閣議決定を根拠として従軍慰安婦の強制連行を否定、上記発言となった。

 答弁書が「政府において、平成3年12月から平成5年8月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月4日の内閣官房長官談話(筆者注―いわゆる河野談話)のとおりとなったものである」と言っている、河野談話の元になった調査・聞き取りとは内閣官房内閣外政審議室による調査・聞き取りのことであって、《いわゆる従軍慰安婦問題について》という題名で1993年8月4日に公表されている。

 「関係者からの聞き取り」対象は「元従軍慰安婦、元軍人、元朝鮮総督府関係者、元慰安所経営者、慰安所付近の居住者、歴史研究家等」となっているが、「慰安所が存在していた地域」は、「今次調査の結果慰安所の存在が確認できた国又は地域は、日本、中国、フィリピン、インドネシア、マラヤ(当時)、タイ、ビルマ(当時)、ニューギニア(当時)、香港、マカオ及び仏領インドシナ(当時)である」となっている。

 但し現地調査に関しては、「調査の過程において、米国に担当官を派遣し、米国の公文書につき調査した他、沖縄においても、現地調査を行った。調査の具体的態様は以下の通りであり、調査の結果発見された資料の概要は別途の通りである」としているように、韓国を除いて慰安所が実際に存在した外国への現地調査は行われていない文脈となっている。

 「調査の結果発見された資料の概要」とは、「参考とした国内外の文書及び出版物」を指すらしく、「韓国政府が作成した調査報告書、韓国挺身隊問題対策協議会、太平洋戦争犠牲者遺族会など関係団体等が作成した元慰安婦の証言集等。なお、本問題についての本邦における出版物は数多いがそのほぼすべてを渉猟した」となっている。これ以外の資料の記述は存在しない。

 そして内閣官房内閣外政審議室のこのような調査結果に基づいて従軍慰安婦の日本軍による強制連行を認めた「河野談話」が作成された。

 だが、第1次安倍内閣が閣議決定した答弁書が「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」としている以上、その「見当たらなかった」は、いわば強制連行の非事実は場所限定ではなく、慰安所が存在した内外の地域全てに該当する事実としなければならない。

 でなければ、矛盾することになる。

 いわば朝鮮半島という場所を限定とした「見当たらなかった」――強制連行の非事実ではないということである。

 だが、橋下徹は従軍慰安婦の強制連行はなかったとする論拠を第1次安倍内閣の閣議決定に置いていながら、朝日新聞が旧日本軍の従軍慰安婦関連報道に一部誤りがあったと認める検証記事を掲載するや、「強制連行の事実は少なくとも朝鮮半島に於いてはなかった」と場所限定のすり替えを行っている。

 引き続いて少しあとの発言で全ての場所で強制連行はなかったとする文脈の矛盾したことを言っているが、この矛盾にしてもすり替えにしても、橋下徹のご都合主義を如実に現して余りある。この矛盾とご都合主義を考えた場合、朝日新聞を批判する資格はない。

 国家主義者安倍晋三とその一派は「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」事実を以って「河野談話」を否定、安倍晋三自身は2012年9月12日自民党総裁選立候補時に、「河野洋平官房長官談話によって強制的に軍が家に入り込み女性を人さらいのように連れていって慰安婦にしたという不名誉を日本は背負っている。安倍政権のときに強制性はなかったという閣議決定をしたが、多くの人たちは知らない。河野談話を修正したことをもう一度確定する必要がある。孫の代までこの不名誉を背負わせるわけにはいかない」とまで発言して、「河野談話」が認めている事実に嫌悪を示している。

 だが、「政府が発見した資料の中」に限定した「強制連行を直接示すような記述」であって、このことが“政府が発見しない資料”の中での「強制連行を直接示すような記述」が皆無であることの保証とはならない。

 資料ではなくても、日本軍占領下のインドネシアでオランダ人女性だけではなく、未成年を混じえた現地人女性を日本軍兵士が略取・誘拐の形で暴力的に連行し、強制的に売春を強いた事実を被害者となった多くのインドネシア人女性が証言している。

 当然、「政府が発見した資料」を限定として「河野談話」を否定することは許されない。

 橋下徹のご都合主義と矛盾で成り立たせた今回の対記者団発言も許されはしない。

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