安倍晋三成長戦略中核「女性登用」のカギ長時間労働抑制は日本企業の国際競争力を失わせないか

2014-08-19 09:33:43 | Weblog


 2014年8月17日放送のNHK「日曜討論 どうあるべきか?”女性活躍”社会」は安倍晋三が成長戦略の中核としている女性の活躍・登用をテーマに議論していた。出演の女性陣は女性の活躍・登用を阻んでいる大きな壁の一つが男たちの長時間労働にあると批判していた。

 要するに男と一緒に長時間労働に励んでなどいられない。その理由は男共は長時間労働にハマり込んで家庭をなおざりにすることはできるが、特に子どものいる女性は長時間労働にかまけて家庭をなおざりにすることはできないということなのだろう。

 高い地位を目指そうとする女性は子どもに高い学歴を目指させる。目指す高い地位のバックボーンの一つとなる自身の高学歴に見合う高学歴を子どもに与える子育ての能力を仕事の能力に反して欠いた場合、優先順位を間違えたと取られるだろう。双方を両立させなければ、高い地位を得たとしても、盤石さを失うことになる。

 だからこそ、家庭を顧みないわけにはいかない。男たちは子育ての責任も女性におっかぶせて、家庭を顧みない長時間労働に埋没することができる。
 
 尤も番組によると、安倍内閣にしても女性の活躍・登用政策の一つに「男女共に仕事と子育てが両立できる環境整備」を掲げて、「待機児童解消・学童保育拡充」と共に「長時間労働の抑制」を目標としている。

 だが、果たして長時間労働を日本の企業文化から削り取ったら、日本の企業の国際競争力を削ぐことにならないだろうか。

 先ずは番組が用いた統計を主体に長時間労働に関する議論をざっと眺めてみる。

 安倍内閣の女性の活躍・登用政策

 ・女性の指導的地位に占める割合を2020年までに30%に引き上げる。
 ・中央省庁の幹部人事で女性職員を相次いで登用。局長級以上は8人から10人に増加している。

「民間企業調査―今後女性管理職が増えるかどうか」(帝国データバンク7月調査) 

 調査対象企業 23485社
 回答企業   11017社

 「増える」20%
 「変わらない」61%
 「減る」1%
 「分からない」18%

 女性登用に積極的ではない企業の姿が浮かんでくる。特に調査対象企業23485社に対して回答企業が11017社、つまり非回答企業12468社となっていて、回答企業よりも非回答企業が上回っているところにも女性の昇進に消極的である姿を窺うことができる。

●日本の15歳~64歳生産年齢人口

 2013年7901万人
 2060年4418万人(予測)

 後の方で大沢真知子日本女子大学教授が言っている。

 「働き方を選べないために働いていない女性が約300万人。非常に大きな人的資源のロスがある」

 生産年齢人口の減少を少しでも埋めるためにも女性の活躍・登用が喫緊の課題となっているというわけである。

「役員・管理職に占める女性の割合」(企業規模100人以上)

 2013年7.5%
 
 (「賃金構造基本統計調査」厚労省)

 加藤勝信内閣官房副長官「役員・管理職に占める女性の割合は7.5%ですが、2012年は6.9%で、1割増えていますから」

 自然な形の増加なのか、安倍内閣が「女性の活躍、女性の活躍」とうるさく言うから、企業側が尻を叩かれているような気がして受動的に増やしたのか、中身が問題となる。

 大体が欧米と比較して役員・管理職に占める女性の割合が低いのは日本人の権威主義を背景とした男尊女卑が戦後も後を引いてその名残りとして今もある男の女性に対する差別観に準じた能力評価も影響している一つの状況であって、このような差別観がなければ、欧米と比較した割合がこうまでも格差を生むことはないはずである。

 安倍内閣の「女性の活躍、女性の活躍」の声が影響していることは番組が紹介しているように経団連が女性管理職登用の自主行動計画策定を加盟企業に要請したことに現れている。

 この要請を受けて、トヨタは2020年までに女性管理職を3倍とする目標を掲げ、全日空が2020年までに女性役員を2名以上登用する目標を掲げたとしている。

 ここで女性の昇進意欲に関わる調査の報告が提示される。

「課長以上への昇進希望」(独立行政法人労働政策研究所・研修機構/平成24年度調査)

 女性11%
 男性60%

 調査対象企業6000社/回答企業1036社

 調査対象企業6000社に対して回答企業が1036社のみというのも女性の昇進に熱心でないことに対応した調査に対する不熱心と見ることができる。

 女性の低い昇進意欲は次の調査にも現れている。

「女性が希望する就業形態」(内閣府作成/平成25年度)

 正規16%
 非正規72%
 自営業5%
 その他7%

 番組は伝えていなかったが、平成26年(2014年)6月分「労働力調査(基本集計)」(速報)(総務省統計局/平成26年7月29日)による「男女雇用形態」は次のようになっている。

 役員を除く雇用者     5260万人  男性2903万人         女性2357万人
 正規の職員・従業員   3324万人   男性2274万人(78.3%)   女性1049万人(44.5%)
 非正規の職員・従業員  1936万人   男性629万人 (21.7%)  女性1309万人(55.5%  

 年度の違いは無視するが、要するに男性正規社員2274万人のうち60%が「課長以上への昇進希望」を持ち、女性正規社員1049万人のうち11%が「課長以上への昇進希望」を持っていると比較することができる。男性と女性の正規社員の数を同数とすると、女性の昇進意欲は24%程度となる。

 現在の女性に厳しい男女雇用状況に於いて男女昇進意欲の差が36%ということなら、雇用状況の改善によってその差はかなり縮まることが考えられる。キャリアを経験した女性が結婚・出産→退職→子育てと段階を経て、仕事上のブランクからキャリアに戻る道を閉ざされて不本意ながら非正規の仕事に再就職という形を取る、いわば大沢真知子日本女子大学教授が言っている「働き方を選べない」女性たちの昇進意欲を問題外とさせることになり、そういった状況を身近で学ぶ女性が現れた場合、そのような女性にまで影響する昇進意欲ということになって、これらのことを加味して男女昇進意欲の格差を考えずに単に数値だけを表面的に把えて男女の本質的な資質の問題としたなら、大きく過つことになるはずだ。

 次に番組が紹介した統計、「妻は家庭を守るべき」と考えている男性は半数を超えて、女性は約半々となっていて、女性自身の外で働く意欲はなかなかの旺盛さを示している。

「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきか」(内閣府/平成24年調査)

 男性          女性

 賛成55%       賛成48%
 反対41%       反対49%
 分からない4%      分からない3% 

 但し男性の場合、収入が多い男性程、「妻は家庭を守るべき」という傾向が多いはずだ。男性一人の収入での生活の遣り繰りが十分に可能であり、逆に低収入程、妻の収入が必要になって、タテマエは「妻は家庭を守るべき」と考えていたとしても、現実にはそんなことは言っていられないことになる。

 番組への意見が紹介されている。

 66歳千葉県男性「全ての女性が先頭に立つ意欲と責任感を持つのは難しい」――

 「女性」を男性という言葉に置き換えても論理的に成り立つ。

 「全ての男性が先頭に立つ意欲と責任感を持つのは難しい」――

 女性だろうと男性だろうと、同じ状況下にある。だが、この66歳千葉県男性は「全ての女性が先頭に立つ意欲と責任感を持つのは難しい」と言うことによって、女性の資質を男性の資質の下に置いている。男女の性別に関係なしに個々の資質でその有能性を考えるべきだろう。

 番組で女性の昇進意欲の障害となっている長時間労働を雇用状況改善の一つとして最も強く槍玉に挙げていた出演者の発言をここに掲載してみる。

 小室淑恵株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役「現在の管理職の長時間労働では昇進したいという気持を起こさせない。管理職になるっていうのは無制限に働いて、責任が重くなって、残業代がなくなる。そして家庭が崩壊する職場を意味するから、そこに行くのは全くナンセンスであると(多くの女性たちが)言っている。

 管理職になりたくないって言ってるのではなく、今目の前にある管理職にはなりたくないと言っているに過ぎない。

 大事なのは女性をこれから登用しようと言うときに今までと同じ長時間労働にすべてを捨てる覚悟がある人は入れてあげますよということを続ける限りは、みんなで崩壊していくという道に入ってしまう。

 男性の長時間労働によって崩壊している方(かた)が多いですが、男性の働き方も変えていく。そして女性がきちんと両立しながら、上に上げるというイメージを持たなければならない。

 (中略)

 男女共に時間内で管理職が果たせるというモデルを作っていく。これをセットでやらなかったら、今回の女性活躍は大失敗で終わるのではないかと思う」――

 「男女共に時間内で管理職が果たせるというモデル」作成の必要性を説いている。要するに就業時間が夕方5時なら、管理職であっても、男女共に夕方の5時にまでに管理職の職務をこなして退社する制度としなければ、安倍晋三の女性の活躍・登用は「大失敗で終わる」とまで言い切っている。

 そうなれば確かに日本のサラリーマンは会社人間から脱することができる。

 だが、小室女史が言っていることは可能なのだろうか。

 加藤勝信内閣官房副長官(長時間労働抑制の必要性の文脈で)「現在でも霞ヶ関では週60時間の残業を働いている方が1割ぐらいいる」――

 改めなければならないと言っているのだが、現実の長時間労働文化を考えた場合、一朝一夕に改めることができるとは考えにくい。

 改める唯一の方法は夕方5時以降の残業仕事を新規に必要人数分を雇用して、外交等の特別な職務は除いて夕方5時までにその日の仕事をすべて終えさせることである。このような制度にすれば、全員がハッピーに夕方5時に退社することができる。

 この制度を民間会社・官公庁すべてに広げる。

 但し日本の企業や官公庁が社員や職員に長時間の残業労働を強いるのは人件費抑制策となるからである。例え残業時間分25%割増の残業代を支払っても、新規に雇用して、その人数分の厚生年金会社負担分や通勤費、住宅手当、家族手当等々を支払うよりも安く抑えることができるからだろう。新規雇用の負担が安くつくなら、誰が残業を強いるだろうか。

 いわば長時間労働抑制は企業の人件費増加策を伴って初めて可能となる。人件費増加は必然的に2913年9位の日本企業の国際競争力をなお低下させることになる。結果として企業の人件費の安い国への移転をなおのこと加速させない保証はない。

 長時間労働抑制策はまた、安倍晋三が掲げる、働いた時間に関係なく、成果に対して賃金を支払う仕組みのホワイトカラー・エグゼンプション、別名「残業代ゼロ」制度にも反することになる。

 成果が定例の就業時間内に上がればいいが、上がらないとなれば否応もなしに残業代ゼロで残業することになり、長時間労働抑制は有名無実化する。

 日本の企業文化とも言うべき長時間労働制度の壁は社員の精神にも染み付いていて、それを打ち破るのは至難の技である。だが、生産年齢人口減少を睨んだ女性の活躍・登用の機会を広げるためには長時間労働制度を打破しなければならない。

 長時間労働抑と女性の活躍・登用の両立の難解な方程式をどう解くかにかかっている。安倍晋三のお手並み拝見といくしかない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする