安倍晋三の子ども貧困対策は企業が安心して非正規を増やし、コストカットに邁進できる政策

2014-08-31 10:11:04 | Weblog



 結論を先に言うと、安倍晋三のアベノミクスが格差と貧困の連鎖社会をつくり出しながら、このことと関連づけずに子どもの貧困対策の充実を言っているからだ。

 安倍晋三が8月28日、首相官邸で行った「子どもの貧困対策に関する検討会構成員との懇談会」の議論後、次のように発言しているのをマスコミ記事で知った。  

 安倍晋三「今日は大変貴重な御意見をそれぞれの立場から伺えたと思います。ただいま、森大臣からも御紹介ございましたように、森大臣自身も大変経済的な困難の中でアルバイトを重ねながら、ただ急に立派な先生と巡り合えたことが、高校、大学への進学へと結びついていったんだろうと思いますし、下村大臣は、あしなが育英会が発足するのが遅れていればですね、文部科学大臣として恐らく座っていないんだろう、このように思います。

 しかし、そういった幸運等々、人との巡り合いがなくても、どんな経済状況の中においても、みんなに同じようなチャンスがある社会を作っていくことが私たちの使命だと思いますし、貧困な状況の中において、チャンスが摘まれていく、希望が持てないという状況は、無くしていかなければいけない、こう思っております。まさに貧困の連鎖は断ち切っていかなければならないと思うわけでございまして、そのためにも、その貧困が世代を超えて行かないようにしていくためにも、総合的な取組が必要であると思います。

 明日、決定予定の大綱案では、皆様からの御意見も踏まえながら、今後5年程度を見据えた当面の重点施策を取りまとめたいと思います。

全ての子どもたちが、夢と希望を持って成長していくことができる社会の実現を大綱によって目指していきたいと思います。総合的な施策をそのために推進してまいりますが、特に、学校や地域の連携による学習支援、そして教育費負担の軽減、学校と福祉の連携などの施策を推進しつつ、中長期的な視野も持って継続的に取り組んでいく考えであります。

 先程、森大臣からお話をしていただいたように、質の問題と、しっかりと個々の状況に対応できる仕組みができているかどうかということも、大変重要ではないかと考えております。皆様方におかれましては、今後とも引き続き、子どもの貧困対策の推進に御協力を賜りますようよろしくお願いいたします」(首相官邸HP

 親から子への貧困の連鎖を断ち切っていくと言っている。断ち切ることで、「どんな経済状況の中においても、みんなに同じようなチャンスがある社会を作っていく」。それが「私たちの使命」であると。

 その方法として、「学校や地域の連携による学習支援」、「教育費負担の軽減」、「学校と福祉の連携」等々の施策を推進していくと。

 そして8月29日、子どもの貧困対策の大綱を閣議決定した。「日経電子版」が次のように分野別の政策を掲げている。

 「教育支援」

 「福祉面の相談に応じるスクールソーシャルワーカー増員」
 「高校生への奨学給付金の増額」
 「児童養護施設などで暮らす子供の学習支援」

 「生活支援」
 
 「児童養護施設などを退所した児童の就職支援」
 「ひとり親家庭の住宅環境を安定」

 「保護者への就労支援」

 「ひとり親家庭の保護者の就職支援」
 「保護者への再学習支援」

 「経済的支援」

 「ひとり親家庭の支援策を調査・研究」

 「保護者への就労支援」を謳っているものの、決定的に職業上の地位や収入を変えることは不可能だから、これらはすべて“親の貧困”という根を断たずに、そこから育った“子の貧困”に部分的に手を加えていく類いの政策である。いわば親の貧困状態をほぼ変えずにそのままにして、子どもの貧困に多少の色付けを行うといったところだろう。

 「教育支援」の施策分野で貧困家庭の「高校生への奨学給付金の増額」を掲げているが、財源の手当がつかないために無利子というだけのことで、不返済の「給付型奨学金」の創設を謳っているわけではないという。

 8月29日の閣議決定《「子供の貧困対策に関する大綱 ~全ての子供たちが夢と希望を持って 成長していける社会の実現を目指して~」》から、一例として「児童養護施設などで暮らす子供の学習支援」がどう謳われているか見てみる。

 〈生活困窮世帯等への学習支援

 生活保護世帯の子供を含む生活困窮世帯の子供を対象に、生活困窮者自立支援法に基づき、平成27年度から、地域での事例も参考に、学習支援事業を実施する。

 また、児童養護施設等で暮らす子供に対する学習支援を推進するとともに、ひとり親家庭の子供が気軽に相談できる児童訪問援助員(ホームフレンド)の派遣や学習支援ボランティア事業を通じ、子供の心に寄り添うピア・サポートを行いつつ学習意欲の喚起や教科指導等を行う。〉――

 親の貧困をそのままにして“子の貧困”に部分的に手を加えていく方法であることに変わりはない。但し貧困家庭をその場その場で一息つかせることに関しては役に立つかもしれない。

 「保護者への再学習支援」という政策があるが、“親の貧困”の根を断つのに役に立つのだろか。
  
 〈(親の学び直しの支援)

 自立支援教育訓練給付金事業の活用等により、親の学び直しの視点も含めた就業支援を推進する。また、生活保護を受給しているひとり親家庭の親が、高等学校等に就学する場合には、一定の要件の下、就学にかかる費用(高等学校等就学費)を支給する。〉――

 ただでさえ学歴を人間の価値と結びつけて高卒の人間を大卒の人間の下に見る、個人を見ずに格式を重要視する権威主義社会の日本に於いて中学と高校の学歴が連続していない、しかも一般的な高卒の年齢である18歳を超えた高卒者を差別なく迎え入れる土壌が企業には存在するのだろうか。

 存在するとしたら、限りなくブラックに近い怪しげな、満足に収入を保証しない企業ぐらいのもので、“親の貧困”の状況は変わりなく続くことになる。

 裕福な家の職業上、社会的に評価の高い地位に就いている親とそうでない貧しい親のそれぞれの子どもに対する評価は親に対するそれぞれの評価に従う傾向が権威主義の思考様式であって、裕福な家の子どもと貧しい家の子どもとでは備えている価値が既に違っている。

 貧しい家の子どもに後から手を加えても、画期的な解決策に結びつく期待は得難い世の中となっている。

 また親の経験が精神に根付いて手に入れることになる本質的な知( 物事を認識したり判断したりする能力―「デジタル大辞泉」)の影を子どもは親と同じ経験をしなくても、親と会話を交わす過程で幼い頃から知らず知らずのうちに引き継ぐ。そして子どもが成長と共に様々に経験を重ねていく過程で親から受け継いだ知の陰は経験と共に自身が根付かせていく知に対して栄養分を与える役目を果たして、知を確かなものとしていく。

 そして経験の範囲や種類、あるいは経験の奥行きや間口は収入の影響を受ける。裕福な家に育った子どもと貧しい家の子どもとでは経験の質に違いがあるということである。

 夏休みなどに海外旅行に行ったり、正月はハワイで過ごすといったことが珍しくない裕福な子と、貧乏で付き合いが狭いために正月にお年玉を貰う親類が殆どいなくて、これといった特別な過ごし方をしない子どもとでは、親の経験から受け継ぐ知の影の質も違えば、子ども自身の経験の質も違ってきて、それらの経験が精神に根付かせていく知の質そのものも違ってくる。

 親が裕福な家に育ってピアノや英会話の習い事や学習塾に通って高学歴と高地位と高収入を得た家の子どもが習い事は自由に選ぶことができるし、有名学習塾に通うことも自由である場合と、親と同様に習い事の経験もない、学習塾にも通ったこともない子どもの場合とでは、やはり経験の質も違えば、経験によって精神に根付かせる知の質も自ずと違ってくる。
 
 つまり、親の社会的評価とそれにイコールさせた人間的価値に対応させたその子どもに対する社会的評価や人間的価値に対する社会の受け止めだけではなく、親の収入に応じた子どもの経験の差と経験が与える知の質の差にしても、貧困家庭の子どもの場合は後からの手当で根本的な解決策にはならないということであって、親の貧困をそのままの状態に置く選択肢は条件的に有力な政策とはなり得ないことになる。

 結果、貧困の連鎖が続くことになる。

 安倍晋三はアベノミクスによって景気が回復してGDPが回復した、雇用が増えたと言っていたが、正規社員が減少し、非正規社員が増加していることが原因している格差社会の拡大であり、貧困の連鎖である。このことを関連づけずに、「皆に同じようなチャンスのある社会をつくっていくのが私たちの使命だ」だと言い、「学習支援や、教育費の負担軽減」を言う。原因を治療せずに、部分的に症状を手当する弥縫策に過ぎない。

 総務省統計局が発表した2014年7月分の「労働力調査」(基本集計)によると、〈正規の職員・従業員数は3307万人。前年同月に比べ6万人の減少。非正規の職員・従業員数は1939万人。前年同月に比べ60万人の増加〉と、年々正規社員が減少して、非正規社員が増加傾向を辿っていて、この傾向が常態化している。

 この常態化した傾向は企業側から言うと、人件費カット傾向の常態化を意味する。

 この傾向は同じく総務省統計局発表した2014年7月分速報による勤労者世帯の実収入に如実に現れている。1世帯当たり555276円で、前年同月比実質6.2%の減少。この減少は10カ月連続の減少となっている。

 非正規労働者が年々増え、逆に給与が年々減り、貧困の連鎖が取り残される。

 企業が国際競争力の確保・維持を口実に非正規社員を増やし、人件費カットの動きを強めることは親の貧困状態を手づかずの状態に置くことを意味する。親の貧困を受け継いだ子どもの貧困を政府が根本的な解決とは程遠い対処療法でその場凌ぎの手当をして、貧困家庭をしてその場その場で一息つかせることが却って、企業が安心して非正規を増やし、安心してコストカットに邁進できる余地を与えることになる。

 安倍晋三のアベノミクスに基づいた子ども貧困対策はこの程度の政策に過ぎないだろう。

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