外国人が日本に不法に入国、見つかって不法滞在者として入国管理局に収容、一時的に釈放される「仮放免」の制度があることを知った。だが、「仮放免」の間、日本人の刑務所からの仮釈放のように全く自由の身になれるわけではないらしい。
《「仮放免」外国人の在留資格求め陳情》(NHK NEWS WEB/2014年8月18日 18時17分)
「仮放免」として一時的に釈放されたとしても、不法滞在の身分に変わりはなく、在留資格がないため働くことが認められず、健康保険にも入れないなど不安定な生活が強いられているという。
要するに日本に不法入国して以降、不法滞在者であっても、その身分を隠して働き、生活することができた。一旦入管に不法滞在者として収容され、その後「仮放免」されたとしても、やはり不法滞在者の身分を隠して働くことはできるはずだ。
最も大きな違いは在留資格がないままに再度働いて摘発された場合の罪の重さである。即強制退去の方向で何らかの調査・審理を経て、強制退去が実行に移されるのだろうか。
記事は日本で暮らす外国人を支援するNPOが8月18日、東京・板橋区の区議会に在留資格を認めるよう国に働きかけることを要請する陳情書を提出したと伝えている。
「仮放免」の制度は入管施設での収容が長期化することを避けるため、法務省が4年前に仮放免を柔軟に認めるようになり、去年末で10年前の7倍以上の3235人と年々増えていて、仮放免の期間が7年を越える不法滞在者も存在するという。
生活は友人に頼ったり、NPOの支援に頼ったりしているらしい。
不法滞在、即強制退去としないのは在留資格を希望して帰国を拒否している外国人や難民認定申請外国人は直ちに送還せず、入管施設収容が慣例となっているようだ。記事が、〈日本人と結婚して長年生活していたり、子どもが日本語しか話せなかったりするなど、母国に帰るのが難しい事情を抱えている人も多い〉とも書いているが、要するに簡単に国外追放したのではただでさえ外国人難民や不法滞在外国人に非寛容と見られているところへ国際社会から何と批判を受けるか分からないから、早々事務的に扱うことはできないということなのか。
国内からの批判も覚悟しなければならない。
そこで「仮放免」処分に付し、在留資格がない不法滞在の身分のまま再度不法労働の挙に出て見つけたなら、その罪で即強制退去を命じたとしても、国際社会からも国内からの批判を最小限に抑えて厄介払いができるという魂胆なのだろうか。
但し外国人不法滞在者は大体が貧しい国から豊かな日本への流入を相場としている。日本でそれなりの家族構成のもとでのそれなりの生活基盤ができていたなら、自分の国に戻って、以前の貧しい境遇に飛び込むのは相当に勇気がいることで、強制退去の危険を覚悟の再度の不法就労にはなかなか踏ん切りがつかないということもあるに違いない。
加藤丈太郎NPO「APFS」代表理事「仮放免の人たちのなかには人生の半分以上を日本で生活している人もいて帰るに帰れない事情を抱えている。日本で共に生きていく存在として在留資格を認めるよう呼びかけていきたい」
NPOでは仮放免の外国人がいる自治体を中心に関東地方のおよそ40の地方議会に陳情を行うことにしているという。
要するに日本は一度の不法入国・不法就労だけでは日本で生活基盤が既に出来上がっている不法滞在外国人や難民申請外国人を国内外の批判の手前もあってだろう、直ちに国外退去を科すことはしない。かと言って、在留資格を与えると外国人ばかり増えて、可能な限り単一民族を守りたい日本民族優越主義の手前、そういったことは進んでしたくないということなのか。
結果、日本政府は「仮放免」という名で不法滞在外国人を正式には仕事に就くことを許さない不自由な宙ぶらりんの状態に置くことになり、不法滞在外国人からしたら、仕事に就くこともできない不自由な宙ぶらりんの状態に置かれることになる。まるでそれが不法入国・不法滞在の罰則でもあるかのように。
この宙ぶらりんには仮放免の条件として保証金の支払いや定期的な入国管理局への出頭、住む場所や行動範囲の制限などの不自由が加えられるという。
人間は仕事をして賃金を得て、生活の資金とし、様々な社会活動にもその資金を回して命をつないでいく。この循環が一番の大本で断たれるというのは命をつないでいく上でこの上なく残酷な仕打ちに当たるはずだ。仕事をする能力はありながら、仕事をすることは許されず、カネを稼ぐことができない残酷さが宙ぶらりんには含まれている。
在留資格がないことから就労は禁止され、健康保険に入ることもできないが、子どもがいる場合、その子どもは希望すれば小中学校に通うことや、自治体の裁量で予防接種などの行政サービスを受けることができるという。
それまで禁止したなら、不法滞在外国人や難民申請外国人に対する日本政府の血も涙のない冷血ぶりをすっかりと曝すことになって都合が悪いのだろう。
法務省によると、今年1月現在の不法滞在外国人は平成5年のピーク時の2割程に当たるおよそ5万9000人に大幅に減少しているとしているが、景気が回復して人手不足の状況が強まれば、再び不法入国が増加傾向を辿るのではないのだろうか。
景気回復による人手不足の加速は日本人をより良い賃金のより良い職業に向かわせる。取り残された3K現場は不法入国・不法滞在外国人で埋めるしかない。3K零細企業は大手企業の下請のその下請のその下請のその下請の・・・・・その下請を構成していて、単価を段階的に叩かれているから、満足な賃金を出すことができず、大方は日本人は見向きもしないために仕事を選ばず、安く使うことのできる不法入国・不法滞在の外国人は格好の雇用対象となる。
入国管理局「仮放免で一時的に釈放された場合であっても、強制退去が決まっていることに変わりはないので働くことはできない。基本的には、母国に帰るべきと判断された人たちなので、帰国してもらうのが前提だ」――
安く便利に使いまわしたことは日本政府には関知しないことだということなのだろう。だが、一番下の段階で日本経済を下支えしてきた事実は残る。
駒井洋筑波大学名誉教授「不法滞在の外国人は、日本人が働きたくないいわゆる3K労働や低賃金の労働の現場を下支えしてきた。また長く暮らしていると日本で家族が形成され、生まれた子どもたちは大きくなってもさまざまな権利が認められず、非常に辛い立場に置かれている。
仮放免になっても就労や健康保険に入ることが認められないと、どのように生活していいか分からない。不法滞在は違法なので、厳正に法を執行するのは当たり前のことだが、日本で長期間暮らし生活基盤が確立しているなど、事情がある人については救済すべきだ」
尤もな議論だと思うが、尤もな議論が日本では世間的に通じない。
記事は7年間「仮放免」の状態に置かれた埼玉県に住む不法滞在のフィリピン家族の例を紹介している。
父親と母親は20年前に出稼ぎのためそれぞれ来日したあと、建設や配送などの現場で働き、結婚して2人の子どもが生まれた。長男は現在高校3年生にまで成長し、次男は小学校2年生にまで成長。7年前に不法滞在で強制退去が決まり、その後、仮放免となった。
いわば13年間日本で生活して、日本の地でそれなりの生活基盤を築き、家族の立場で、あるいは家族一人一人の立場でそれなりに日本の社会に交わり、馴染んだ。子どもたちは日本語しか話せず、一家はフィリピンには生活基盤がないという。
父親「子どものためにも家族全員で日本にとどまることを認めてほしい」
長男は高校卒業後、介護福祉士を目指して専門学校への進学を希望しているが、在留資格がないために日本で就労することはできない。介護関係が極度の人不足にありながらである。
長男「日本の文化で育ってきたので、フィリピンに行っても何もできないと思います。このような状況になっているのは、自分たち家族の責任であることは分かっていますが、日本が好きなので家族と一緒に自由に暮らしていきたいです」――
例え不法入国による不法滞在であっても、犯罪も犯さず、長年真面目に働いて、日本社会にしっかりとした生活基盤を築き、人並みの社会人を形成しているなら、強制退去という形で日本社会から抹消するわけでもない、かと言って十分な社会生活を保証するのもでもない、ある種残酷な中途半端な宙ぶらりんの状態を強いるのではなく、人口減少社会であることも考えて、社会的に生かす方向の人間思想に立った政策を考えることができないものだろうか。
安倍晋三「能力あふれる外国人に日本で もっと活躍してもらう。誰にでも、何度でもチャンスがある、 ベンチャー精神あふれる国へと日本を変えていく」――
だが、チャンスを何度でも与えられる資格は既に高度な能力があると認められた外国人のみのようだ。建設や配送の仕事で真面目で必要とされる能力をそれなりに発揮する外国人には与えられないようだ。
不法入国し、犯罪も犯さず、そこに自身の生活を確立する。これもベンチャー精神だと思うが、社会の上層でのベンチャーの試みしか認めないようだ。
いわば社会の下層でのベンチャーは鼻に掛けない人間思想であるようだ。