前原誠司民主党議員の安倍晋三に対する忠告が産経新聞になると「恨み節」となる歪曲報道

2014-10-05 10:27:25 | Weblog


 10月3日の衆院予算委員会。民主党の前原誠司が「アベノミクスは本当にうまくいっているのか」と、疑問とする観点から安倍晋三を追及した。

 先ずフリップを出して、アベノミクスの5つの誤算を指摘する。

 ① 『輸出』が伸びない
 ② 『法人向け貸出』は伸びず、「内部留保」が積み上がっている
 ③ 『実質賃金』『可処分所得』が減少している
 ④ 『悪いインフレ』が起きている
 ⑤ 『復興』や『民間建設投資』への悪影響

 前原誠司は次のようなことを言って誤算を炙り出していく。

 前原誠司「去年の4月、海江田代表と党首討論行って、異次元金融緩和の後です、急激に円安になって、輸入価格が上昇するということを海江田は提示された。

 ところが総理は『輸出に於いて経常収益は間違いなく今年(2013年)は大体4.6兆円プラスになる。再来年度(2014年)は8兆円、経常利益はプラスになると申し上げておきたい』と申された。 

 2013年度は実際は8000億円の黒字。2014年度1月から6月までの上半期は5000億円の赤字。好循環というのは給料が増える、設備投資が増える、輸出が増える。

 輸出は総理が『間違いなく』と言った言葉から乖離して、Jカーブ効果が出ない。これは誤算ではないか」

 安倍晋三「安部政権が誕生した後と、する前について話をするが、2012年の4月~6月期と7月~9月期はマイナス2.2%とマイナス2.7%であった。まさにマイナス成長が続いていた。

 我々が政権を取ったら、その後は――(場内が騒ぐ)。

 みなさん聞きたくはないと思いますが、一応、経済を見るために説明をさせてください。

 2013年1月~3月期に於いてと4月~6月期の実質成長率はそれぞれプラス5.1%とプラス3.4%となっている。マイナス成長だったものを、プラス成長にした。これは前原委員もお受け止めになるだろうと思います。

 有効求人倍率も我々が政権を取って以降、全て改善しているわけです。

 有効求人倍率に於いては、22年ぶりの高い水準になっている。

 今質問があったのは輸出について、我々が予想していた伸びがなかった。様々な原因がある。経常収支には貿易収支と所得収支があり、所得収支は増えているが、貿易収支は赤字になっている。そして輸出自体も余り伸びていないと。新興国の経済が減速していることもある(と、色々とその理由を述べてから)輸出の伸びが我々の予想を下回ったというのは事実でございます」

 では、2013年4月17日)の海江田代表と安倍晋三の党首討論で、前原誠司が指摘した発言を取り上げてみる。

 安倍晋三「先程、海江田さんは、様々な輸入品が上がっていると言った。しかし、これから大体半年かけて、為替の影響において最初は輸入品。次はいよいよ輸出が変わっていく。輸出において、経常収益も間違いなく、今年度はだいたい4・6兆円プラスになる。再来年度は8兆円、経常収益はプラスになると申し上げておきたい。それは間違いなく賃金に変わっていくと申し上げておきたい。海江田さんも、お互いに丁寧に答えていかないと、国民には経済の話だから分かりにくいと申し上げておきたい」(MSN産経

 「海江田さんも、お互いに丁寧に答えていかないと、国民には経済の話だから分かりにくいと申し上げておきたい」と、さも経済は安倍に任せておけとばかりのことまで言って、自信満々にプラス成長を見通した。

 この自信満々が国民の安倍晋三に対する多くの支持を集めて世論調査に反映されたに違いない。 

 だが、党首討論で示した見通しは大きく狂った。その原因の一つとして新興国の経済減速を予測しなかったこととして挙げているが、だったら、経済は生きものだ、政治は生きものだ、あるいは政治は一寸先は闇だとか言わない方がいい。自分たちの能力とは関係しない幸運や不運が政治や経済を良くも悪くも大きく動かす要因となりかねないことを前提として政治や経済に取り組んでいるはずだからだ。自分たちの都合や計算だけで政治や経済が動くわけではないし、決して動きはしない。

 安倍晋三は場内が騒いだのに対して「みなさん聞きたくはないと思いますが、一応、経済を見るために説明をさせてください」と言っているが、これは民主党席に向かって言ったのだろう。 

 つまり民主党政権時代と第2次安倍政権時代の経済を比較して、優劣はっきりしているから、「聞きたくない」だろうがとの意味を込めている

 この比較に対して前原が一言言っている。

 前原誠司「長期政権を目指すリーダーであるなら、もうそろそろ1年9カ月になったら、民主党政権がどうのこうのというようなことを仰(おっしゃ)るのは、ちょっと小さく見えますから、余り言わない方がいいと思いますよ。

 言われると、私もお答えしなければならなというのもあります。事実申し上げましょう。

 麻生政権を我々が継いでから、有効求人倍率は、麻生政権末期にいくらだったか。0.43ですよ。我々が政権を取ってから、0.87まで回復したんです。失業率は5.4から4.0まで下がった。実質GDPが489.2兆円から515.2兆円へまで上がった。

 こういうふうに民主党政権でも麻生政権の後を継いで、経済は良くなった。経済がダメになったとかステレオタイプの批判はもうやめられた方がいい。

 民主党政権でいつ円高になったか覚えておられますか。3・11ですよ。東大日本大震災の後から、急激な円高になった。円安になると思っていたのが、復興需要が見込まれるという中で急激に円高になった。

 ですから、民主党政権の3年3カ月がずっと円高で、その間に何か数量化が進んだような、そういう言い方はやめた方がいい。事実関係として我々は申し上げておきます」――

 要するに民主党政権のすべてが悪かったわけではないし、政権交代してから1年9カ月も経つのだから、いつまでも民主党政権と比較して安部政権の成果を言い立てる「ステレオタイプの批判」は「ちょっと小さく見え」るから、もうやめた方がいいという趣旨の発言をした。これは誰が見ても忠告であるはずだ。

 但し前原誠司は少し言い方を間違えている。質問に先立ってアベノミクスの「5つの誤算」をフリップで示しているのである。誤算が誤算通りに終わるかもしれないし、一過性の誤算ということもあり得る。いわば安倍晋三のアベノミクスが成功すると保証されているわけではない。

 このような見通しを前提とすると、「アベノミクスが成功すると保証されているわけではないし、民主党政権の全てが悪かったわけではないのだから、いつまでも民主党政権との比較で安部政権の成果を比較するのは間違えるということもあるし、民主党政治との比較で安倍政治を行っているわけではないはずだから、いつまでも比較を続けるのは大体が小さく見えるから、やめた方がいい」という言葉を使うべきではなかったろうか。

 この前原誠司の安倍晋三に対する忠告が産経新聞になると、「恨み節」となる。《「『民主党政権が…』と言うのは小さく見える」前原氏、首相に恨み節 「私ももう言わない」和解呼びかけ》産経ニュース/2014.10.3 14:56)から、全文を参考引用してみる。   

 〈民主党の前原誠司元外相が3日の衆院予算委員会で、安倍晋三首相から民主党政権時代の経済政策を批判されたことに憤慨し、「『民主党政権の時がどうのこうの…』と言うのは小さく見える。あまり言わない方がいい」と不満をぶつける場面があった。

 「民主党政権時は参院選で負けて野党の数が多かった。われわれは補正予算を剰余金でしか組めなかった。経済が腰折れしそうな時に足を引っ張ったのは野党だった自公両党だ」

 前原氏は安倍首相にこう恨み節をぶつけた上で、「私ももう言わない。お互いやめにしましょうよ」と“和解”を呼びかけた。〉――

 「『民主党政権の時がどうのこうの…』と言うのは小さく見える。あまり言わない方がいい」はあくまでも忠告であって、不満をぶっつけたになっている。

 「私ももう言わない。お互いやめにしましょうよ」にしても、和解の呼びかけとなっている。

 「民主党政権時は参院選で負けて野党の数が多かった。われわれは補正予算を剰余金でしか組めなかった。経済が腰折れしそうな時に足を引っ張ったのは野党だった自公両党だ」の発言にしても、その発言に続けて、「そのような状況にあったことは事実として申し上げておきたい」と言っている以上、その解釈が正しいか間違っているかは別にして、“恨み節”ではなく、批判の文脈を取っていることになる。

 忠告や批判を恨み節や和解の呼びかけに変える。これは歪曲報道に当たらないだろうか。

 安倍晋三は日米関係に関しても民主党政権はダメにしたと繰返し批判している。自分がそれを修復し、盤石な関係に持っていったといった趣旨のことを言っている。

 果たして言っている通りの事実の経緯を辿ったのだろうか。

 先ず日米関係を民主党政権がダメにしたとする安倍晋三の発言をいくつか見てみる。

 2014年6月11日の衆議院国家基本政策委員会合同審査会での党首討論。

 安倍晋三「先般、オバマ大統領が来日をされた際、『尖閣を含めすべての日本の施政化にある地域についてアメリカは防衛義務を果たす』と明言をしまし た。防衛義務を果たすとしたということは、まさにアメリカの若い兵士が命をかけると明言したということであります。

 これはとっても重い。海江田さんこれこそ抑止力なんですよ。それが発動されるためには、兵士が命をかけるということについてアメリカの世論が愛する人々が理解をしている。これが決定的に大切なんです。

 これが分かっていないからこそ民主党政権ではあんなにガタガタになったじゃありませんか」

 民主党政権が日米関係をガタガタにしたと味噌もクソもない批判の言葉を浴びせている。

 2014年年7月19日の長州「正論」懇話会講演での発言。

 安倍晋三「さて私はこれまでに22回、月1回以上のペースで海外に出かけました。既に42カ国を訪問しました。これは、結構くたびれることもあるんですが、大切な仕事だと思っています。後、半月後にはこれが47になります。まさに地球儀を俯瞰する外交を展開してきました。

 今年4月にはオバマ大統領が来日しました。民主党政権で崩れかけた日米関係は復活するどころか、かつてない程強固になったと確信しています」――

 民主党政権で日米関係は崩れかけたが、安部政権で復活を通り越してかつてない程の強固な関係を築くことができたと民主党との比較で自画自賛している。

 だがである、安倍晋三は2013年2月26日の首相就任1年を迎えた日、靖国神社を参拝してアメリカの失望を買った。

 靖国を参拝して、「お国のために尊い命を捧げた」とA級戦犯を含めた戦死者を讃え、英霊とするのは、A級戦犯や戦死者が自分たちの尊い命を捧げる対象とした「お国」をも讃える精神からの行為であって、この安倍晋三の戦前日本肯定の歴史認識、あるいは歴史修正主義が米日韓の連携に不協和音を来しているそもそもの原因だとアメリカが苦々しい思いを抱くに至った発端となっているはずである。

 そしてアメリカのこの苦々しい思いは米議会調査局が日米関係を纏めた報告書の中で、“国益の損失”というはっきりとした表現に姿を変えることになった。 
 
 《歴史問題 米にも「損失」 議会報告書 安倍政権を分析》TOKYO Web/2014年10月2日 夕刊)   

 安倍晋三を評価している点。〈安倍首相が集団的自衛権の行使容認に踏み切ったことで、日本が戦闘を伴わない後方支援など共同の安全保障活動に一層関与できるようになったとし、「日米はより対等で能力の高い防衛パートナーになる」〉

 半々の評価。〈TPP交渉では日本の参加を歓迎する一方で「日米の交渉の行き詰まりがTPP交渉全体を停滞させている」と警告。「米国の政界や産業界からは、日本が譲歩しないのなら日本抜きでTPP交渉をまとめるべきだ、との意見も出ている」と記述している。〉

 否定的評価。〈歴史問題への姿勢が中国、韓国との関係改善の障害となり、米国の国益も損ねていると指摘。〉

 〈首相の靖国神社参拝や従軍慰安婦問題への対応など一連の歴史認識に対する姿勢により、日本が中国と「一触即発の問題」に取り組むことや、韓国と建設的な関係を構築することを妨げ、東アジアで米国の国益も危険に曝している。〉――

 記事は、〈報告書は上下両院議員が政策判断する際の参考資料となる〉と解説している。

 肯定的評価と否定的評価と、どちらが上回っていると見るかである。

 集団的自衛権行使容認でアメリカと共に戦争をしてアメリカの負担を軽くしても、もし日本が中国と一触即発の不測の事態に陥って、アメリカが日中の軍事衝突に巻き込まれることになった場合、デメリットは明らかに後者の方が優る。

 これ程危険なことはあるまい。

 安倍晋三が民主党政権下でガタガタにした日米関係を安部政権で修復し、「かつてない程の強固な関係」を築いたと評価しているのに対してアメリカは安倍晋三の歴史認識が東アジアでの米国の国益を危険に曝していると反対の評価をしている。
 
 安倍晋三が民主党の経済政策と比較して安倍晋三の経済政策アベノミクスの成果を誇る。あるいは民主党の日米関係構築と比較して安部政権の日米関係構築の盤石さを誇り、評価する比較の構造は同じである。

 だが、現在のところどちらも正当性を与えることができない安倍晋三の自己政権評価となっている。
 
 そしてその評価は正当性を得ないままに推移することはないはずだと、いわば最終的には正当性を得ることができるはずだと断言することは誰もできない。まだ未知数の状況にある。

 このような文脈から考えると、前原誠司が安倍晋三に対して「民主党政権がどうのこうのというようなことを仰(おっしゃ)るのは、ちょっと小さく見えますから、余り言わない方がいいと思いますよ」はやはり忠告であって、決して“恨み節”と言うことはできない。

 産経新聞の論調を見ると、民主党に対して少なからざる拒絶反応を抱いていて、その色眼鏡を通して解釈するから、“恨み節”となるのだろう。

 産経新聞は朝日新聞の従軍慰安婦に関わる「吉田証言」の虚偽の内容を事実として報道した誤報を激しく批判、鬼の首でも取ったかのように勝ち誇っているが、忠告を“恨み節”と歪曲する報道にしても人々の判断能力に与える影響(=産経新聞の論調に同調させる危険性)は決して小さくはないはずである。

 鬼の首と信じていたものが野良猫の首とならない保証はない。

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