2016年5月4日午後、島根県邑南町(おおなんちょう)の県道で(テレビの映像で見ると)急峻な山肌の高さ30メートル程の所から直径1メートル程の岩が落下、真下を走行中の軽自動車を助手席側を直撃、助手席に乗車していた18歳の女子大生が死亡、運転していた52歳の母親が頭などに軽い怪我をした。
高さ30メートル、大きさ直径1メートル程と言うことなら、かなりの加速度と重量を得ていたに違いない。
落石そのこと自体は果たして避けることのできなかった不可抗力の自然現象だったのだろうか。もしそうだとしたら、県道を管理している島根県に責任はないことになる。下を通った軽自動車は運が悪かったと片付けられかねない。
「NHK NEWS WEB」記事が落石の恐れは低いと判断して島根県が対策を取らなかったと報道している。
記事は島根県の説明として次のように書き記している。
現場付近は20年前の調査で幅およそ550メートルに亘って落石の恐れがある箇所に指定され、その後このうち500メートルについて落石防止ネットを張る対策を取ったものの、落石地点を含む残り50メートルの範囲については大きな岩がすぐに落ちてくる恐れは低いと判断して対策を取らなかった。
記事は二つの発言を伝えている。
島根県道路維持課「今回落ちた岩は木の根の中に隠れる形になっていて、当時は発見することができなかった。事故が起きてしまったことは非常に残念だ」
冨樫篤英島根県土木部部長「県の管理する道路で重大な事故が起き、尊い命を失った。事故を重く受け止め、再発防止に向けて取り組みたい。申し訳ありませんでした。
20年の間に浮石が発生し、大事故につながってしまった。今後は1度の調査・対策で終わりではなく、どう継続的に点検を行えるか、態勢を考えていかないといけない」
どちらの発言も、どれ程に無責任なことを言っているのか気づいていないらしい。
最初の発言は、「今回落ちた岩は木の根の中に隠れる形になっていて、当時は発見することができなかった」と落石を不可抗力と看做して、そのことの責任も、県が岩に気づかなかったことの責任も、問題外としている。
だから、「事故が起きてしまったことは非常に残念だ」と県の責任から切り離した物言いができる。
土木部部長の発言も、「20年の間に浮石が発生し、大事故につながってしまった」と、落石を自然現象として扱い、不可抗力としている。
但し土木部部長は後段の発言で自然現象ではなく、自分たちの責任行為であることを自身では気づかずに暴露している。
「今後は1度の調査・対策で終わりではなく、どう継続的に点検を行えるか、態勢を考えていかないといけない」――
このように言っていることは、「今回落ちた岩が木の根の中に隠れる形になってい」たのは20年前の一度きりの調査で確認した安全性であって、その後一度も調査せず、その安全性の有効性の確認を放置していたために「20年の間に浮石が発生し、大事故につながってしまった」という自分たちは認めていないものの、そのような経緯に対する反省の言葉であって、いくら意図していないとしても、県の責任行為であることを暴露する発言以外の何ものでもはい。
つまり島根県は20年前の一度きりの調査で永遠の安全性を与えて、その安全性の有効性に無期限の保証を与えていた。だから、その後点検・調査を一度も行わなかった。
落石が生じ、前途有為な女子大生を殺してしまってから、調査・対策の継続を言うのは遅過ぎるし、責任逃れとしかならない。
この行政の怠慢・不作為の責任は重大である。
「FNN」ニュース記事が家が落石に見舞われたという近所の中年女性の発言を伝えている。
中年女性「この山沿いはよく落石があるんですよ。私のウチも落石があって、家が、台所の方がグシャッとなったんですよ」
屋根に当たって瓦を何枚か割った、あるいは台所の壁に当たって、壁を凹ましたといった程度の落石でないことが分かる。だが、県はよくある落石について把握していなかったことになる。
地元の自治会から、何ら連絡が入らなかったのだろうか。住民が邑南町に伝えて、邑南町が県に連絡するといったことはなかったのだろうか。
県が管理する山から落石があり、時間的に大きな広がりを持つ自らの将来に見る多くの可能性を予定調和としていた18歳の女子大生の、その予定調和を一瞬の内に死で以って断ち切ってしまった。
それが落石事故死であったしても、島根県の怠慢・不作為が招いた死である以上、殺人に相当する。できるものなら、殺人罪で起訴すべきである。