安倍対志位党首討論、「デフレではない状況を作ることはできたが、デフレ脱却には至っていない」の言葉遊び

2016-05-19 11:29:08 | 政治


 昨日2016年5月18日、国家基本政策委員会合同審査会で安倍晋三と岡田民進党代表、志位和夫共産党委員長、片山虎之助おおさか維新の会共同代表それぞれの間で党首討論行われた。

 安倍晋三は相変わらず相手の質問に満足に答えずに、自分に都合のいいことばかりの発言する。その都合のいい情報を鵜呑みにする国民も多いようだ。

 志位和夫共産党委員長との遣り取りでも同じシーンを見受けることになった。発言は「産経ニュース」の書き起こし記事から引用した。読みやすいように適宜改行を行った。    

 共産党・志位和夫委員長「今日は消費税増税問題について首相の姿勢をただしたい。消費税を8%に引き上げて以来、日本経済の6割を占める個人消費は冷え込み続けている。

 増税から2年あまりが経過したが、個人消費は増税前に比べ一貫してマイナスが続いている。今日発表された今年1~3月期の数値でも個人消費は増税前に比べると実質で年額8兆円も落ち込んだままになっている。

 3月3日の参院予算委員会でわが党議員の質問に対し、首相は8%の引き上げで予想以上に消費が落ち込んだのは事実であり、予想以上に長引いていると認めた。予想が外れたことを認めた。その原因をどうお考えになっているのか端的に答えてほしい」

 安倍晋三「我々は平成24年12月に政権を担当して以来、デフレから脱却し、そして所得を増やし、また職を増やす。この挑戦を続けてきた。そしてデフレではないという状況を作ることはできたが、デフレ脱却には至っていない。デフレ脱却には至っていない中で、消費税を引き上げたことによって、いわばまだデフレマインドが残っている中において、消費について国民の皆さまが慎重になった。経営者の方々も投資に対して慎重になったのも事実だと思う。

 しかし、雇用においては、有効求人倍率においては47都道府県のうち46で1を超えているし、所得についてもベアが3年続き、またパートの皆さんの時給は過去最高になっていることは事実だ。

 雇用においても収入においても大きな成果が出ているのは事実だが、20年間続いてきたデフレ、世界にはこれをどう解決するかという教科書がないわけだから、新たな政策で臨んでいる。まだその道半ばでの消費税の引き上げにおいて、この消費の低迷が続いたと考えている」

 志位委員長「私は消費の落ち込みが予想以上になった原因について尋ねた。答えがなかった。総括も反省もないという態度だと思う。賃金が上がってきたと言うが、働く人1人あたりの実質賃金は4年連続マイナス、5%も目減りしている。なぜこんなに消費が落ち込んだのか。

 私は8%への増税実施直前の本会議の代表質問で、働く人の賃金が減り続け、ピーク時の1997(平成9)年に比べて70万円も減っていることを指摘し、このような経済情勢の基で増税を強行すれば、景気悪化の悪循環を引き起こすことは明らかだと述べ、増税の中止を求めた。それに対して答弁で、足下では雇用と所得は改善しているとして増税を強行した。

 長期にわたって働く人の賃金が減り続けているのに、その事実を見ようとせず追い打ちをかけるように増税をかぶせた。これが消費の落ち込みが予想以上になった原因といわなければならない。

 もう1問聞く。来年4月に予定されている消費税10%への引き上げについて、首相は国会答弁で、景気判断条項を削除した、従って消費税を上げるかどうかの景気判断を行うことを考えていないと繰り返し述べている。景気判断をしないということは消費税を10%に引き上げることで景気が悪化することが明白な場合であっても引き上げを行うのか。イエスかノーで答えてほしい」

 安倍晋三「まず実質賃金だが、足下の3月においては1人あたりの実質賃金においても1・4%のプラスになった。そして総雇用者所得でいえば、みんなの稼ぎだから、こちらで見た方がいい。先ほど申し上げた通り、110万人、新しい雇用を作っているわけだし、たとえば正規職員、正社員も26万人増えた。生産人口が減っている中で26万人増えるというのは結構大変なことだった。これは8年ぶり、前の安倍政権以来のことで、8年ぶりだということは申し上げておきたい。

 働く人が増える中においては、一人あたりの実質賃金はどうしても下がっていくわけだが、みんなの稼ぎで見る総雇用者所得においては名目はもちろん実質についても上がってきている。

 今、色々なことを指摘されたから、いくつか指摘をされた中においてその指摘を一つ一つお答えをしている。当然、1対1でやっているので私にも違うことをおっしゃっていれば反論する権利はあるので、反論はさせていただきたいと思う。

 そこで今申し上げたように、しっかりと実質賃金においても実質賃金というのは3%消費税を上げたから、その3%分を削られてしまうわけだから、そこで上げていくというのは大変だが、3月は1・4%プラスになったということはまず申し上げておきたい。その上で、消費税については先程来申し上げている通りで、リーマン・ショック、あるいは大震災級の影響のある出来事がない限り予定通り引き上げていく方針に変わりない」

 志位委員長「「私が聞いていることにお答えになっていない。リーマン・ショックか大震災のような事態にならなければ景気悪化が明白な場合でも上げるというのか。イエスかノーで。早く答えてください」

 安倍晋三「イエスかノーかという単純な問題でなく、これはそういう状況が起きているのか、そういう影響が出てくるのか問うことについては専門家の皆さんに分析をしてもらわなければならない。お互い時間を守って、時間が来たら終わらないと、私ももっとしゃべらさせていただかなければならないということになるので、今申し上げた通りだ」

 志位委員長「結局否定しなかった。結局消費税8%への引き上げで増税不況を引き起こしておきながら、想定外の一言だけでまともな総括も反省もない。消費税10%への増税に当たっては景気判断すらしない。そんな国民生活に無責任なことはない。10%への引き上げはきっぱり中止することを求める。そして富裕層と大企業に応分の負担を求めて税制改革によって暮らしを支える財源を作るべきだということを求めて終わる」

 厚労省4月5日発表の2月の「毎月勤労統計調査」によると物価の影響を加味した働く人1人当たりの実質賃金は0・4%増加、4カ月ぶりに給与の伸びが物価の伸びを上回り、プラスとなっているし、5月18日内閣府発表の2016年1〜3月期国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質で前期比0.4%増(年率換算1.7%増)と2四半期ぶりのプラス成長となっていて、GDPの過半を占める個人消費は前期比0.5%伸びている。

 いわば景気に関わる各指標が上向いていることを示している。

 だが、個人消費は外食やレジャー関連への支出が中心だと各マスコミが伝えていて、基本的な衣食住以外への支出に余裕のある層が主として担った個人消費ということになって、各所得階層を超えて国民全般に亘る消費ではないことが分かる。

 この点にもアベノミクスが格差ミクスであることを窺うことができる。

 対して志位委員長の主張は、個人消費は増税前に比べると実質で年額8兆円も落ち込んでいて、日本経済の6割を占める個人消費は冷え込み続けている。働く人の賃金はピーク時の1997(平成9)年に比べて70万円も減っている。10%増税を中止して、富裕層と大企業に応分の負担を求める税制改革によって暮らしを支える財源を作るべきではないかというものである。

 要するにいくら各指標が少しぐらい上向いていたとしても、焼け石に水ではないかと主張していることになる。

 対して安倍晋三は「デフレではないという状況を作ることはできたが、デフレ脱却には至っていない」ことから消費税増税によって国民は消費に、経営者は投資に慎重になっている状況の中で雇用を110万人増やし、パートの時給を過去最高とし、非正規社員がどのくらい増えたかは言わずに、生産人口が減っている中で正規社員が26万人増えた、3月の1人当たりの実質賃金は1・4%のプラス、みんなの稼ぎで見る総雇用者所得においては名目は勿論、実質についても上がってきていると主張、アベノミクスの健闘を讃えている。

 果たしてどちらが正当性ある主張とすることができるのだろうか。

 安倍晋三は常々雇用者の所得は実質賃金よりも総雇用者所得で見るべきだと主張している。志位委員長に対しても「総雇用者所得でいえば、みんなの稼ぎだから、こちらで見た方がいい」と言って、総雇用者所得の伸びをアベノミクス健闘の一つの要因に挙げている。

 但し総雇用者所得とは所得税や社会保険料、組合費などが差し引かれる前の毎月決まって支給される給与総額――毎月の「現金給与総額」に雇用者数を掛けた所得である。

 要するに雇用者の中には月々1千万円以上の現金給与を受取る者もいれば、月15万円以下、10万円以下の現金給与しか受取ることができない雇用者もいる。円安と株高で自社が最高益を記録したことから、その報酬が一挙に何千万円と増えて、1億、2億といった高額を得ている会社経営者が現実に多数存在し、一方に全然給与が増えない年間所得が100万、200万の生活者が厳然として存在する以上、総雇用者所得の伸びは主として前者が担っていることになって、一般生活者の所得事情の実態を反映していないことになる。

 にも関わらず、実質賃金よりも総雇用者所得の経済指標を重視しているとうことは各個人の経済よりも総雇用者所得という形で国単位の経済の全体性に価値を置いているということであって、このことは国民の生活よりも国家の経済を優先させる安倍晋三の国家主義の構造をそのまま反映した価値観と見ることができる。

 国民の生活に焦点を当てているわけでなないにも関わらず、アベノミクスの健闘を主張するために「デフレではないという状況を作ることはできたが、デフレ脱却には至っていない」中での消費税増税が個人消費を抑え、企業の設備投資を控えさせている理由としていつまで挙げ続けるつもりなのだろう。

 安倍晋三は 2015年2月12日の施政方針演説で次のように公約している。
 
 安倍晋三「デフレ脱却を確かなものとするため、消費税率10%への引上げを18カ月延期し、平成29年4月から実施します。そして賃上げの流れを来年の春、再来年の春と続け、景気回復の温かい風を全国津々浦々にまで届けていく。そのことによって、経済再生と財政再建、社会保障改革の三つを、同時に達成してまいります」――

  2015年9月24日の自民党両院議員総会後の挨拶ではデフレについて次のように述べている。

 安倍晋三「アベノミクスによって、雇用は100万人以上増えました。2年連続で給料も上がり、この春は、17年ぶりの高い伸びとなりました。中小・小規模事業者の倒産件数も、大きく減少しました。

 もはや『デフレではない』という状態まで来ました。デフレ脱却は、もう目の前です」――

 消費税率10%増税延期によって「もはや『デフレではない』という状態まで来た」、「デフレ脱却は、もう目の前だ」と高らかに宣言している。

 2015年10月7日の第3次安倍改造内閣発足記者会見。

 安倍晋三「安倍政権発足から1000日余りが経ちました。アベノミクスにより雇用は100万人以上増え、給料は2年連続で上がりました。もはやデフレではないという状況をつくり出すことができました。国民の皆さんの努力によって日本は新しい朝を迎えることができました」――

 その他の機会にも「もはやデフレではないという状況をつくり出すことができた」と宣言している。

 では、「もはやデフレではないという状況を作ることはできたが、デフレ脱却には至っていない」状況とはどのような状況を指すのだろうか。

 「もはや」という言葉には「既に」という意味がある。「もはやデフレではないという状況を作ることはできた」とは、「既にデフレではないという状況に到達した」ということを意味させているはずだ。

 にも関わらず、「デフレ脱却には至っていない」と言うのは前後相矛盾した状況を並立させていることになる。

 非常に貧乏だった人間が一生懸命働いた末に、「もはや(既に)貧乏ではないという状況を作ることができたが、貧乏脱出には至っていない」と言ったなら、矛盾も何もない正確な表現とすることができるだろうか。
 
 消費税増税は計画表の中に予定されていたスケジュールだったはずだ。この党首討論で岡田克也が触れているが、2016年1月10日の当「ブログ」でも取り上げているが、2014年11月18日の解散宣言の「記者会見」で「アベノミクスで消費税増税ができる状況を作り出す」と公約している。

 安倍晋三「来年10月の引き上げを18カ月延期し、そして18カ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。3年間、3本の矢を更に前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる。私はそう決意しています」

 つまりこの発言はデフレ脱却の宣言でもある。

 第2次安倍政権発足時に既に消費税増税は予定されていたスケジュールであり、2014年11月18日の解散宣言の記者会見で確実なデフレ脱却を宣言しながら、個人消費も企業の設備投資も満足な伸びをつくり出すことができていないということは、そのような状況下であってもアベノミクスの健闘を描き出すために「デフレではないという状況を作ることはできたが、デフレ脱却には至っていない」という口実を毎度毎度使っていることになる。

 要するにデフレ脱却を散々に公約しておきながら、「デフレではないという状況を作ることはでき」なかった。そのように見ることによって、「デフレ脱却には至っていない」を何ら矛盾のない首尾一貫した状況とすることができる。

 このような言葉をいつまでも口実に用いているということは自身のデフレ脱却の政策の失敗を隠すための詭弁にも等しい言葉遊びに過ぎないということであるはずだ。



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