安倍晋三が5月1~7日にかけてヨーロッパとロシア訪問。5月5日、ロンドンで「内外記者会見」を開いた。
記者会見では各国首脳との会談で安倍晋三が如何にリーダーシップを発揮したかを質疑の中で誇示している。
安倍晋三「今回、各国首脳会談において、私は、世界経済について通常の景気循環を超えて、危機に陥るリスクを回避し、世界経済を再活性化させるため、G7には、構造改革の加速化に合わせて、機動的な財政出動が求められていること、そのため、伊勢志摩サミットでG7として一段と強い、そして明確なメッセージを発出したいと考えていることを各国首脳にお伝えしました。この点について、手応えをしっかりと感じとることができました。それが、今回の一連の首脳会談の大きな成果だと思います。
すなわち、金融政策、機動的な財政政策、構造改革をそれぞれの国の事情を反映しつつ、バランス良く協力を進めていくことが重要であるという点で各国首脳と一致できました。今申し上げた点においては、イタリアのレンツィ首相、そしてフランスのオランド大統領、そしてドイツのメルケル首相、英国のキャメロン首相と一致することができました」
このように言うことができるのは金融政策のみならず、財政出動に於いても、構造改革於いても、自らが実践し、成功を収めていなければならない。
だからこそ、冒頭発言の中で次のように確信を持って宣言することができたはずだ。
安倍晋三「世界経済の『下方リスク』と『脆弱性』が高まっている。こうしたリスクに、G7が、いかにして協調して立ち向かうことができるかが、伊勢志摩サミットの最大のテーマであります。G7がリードして、世界経済の持続的かつ力強い成長への道筋を示す。政策協調への力強いメッセージを打ち出さなければならなりません。
なすべきことは、明確です。
アベノミクスの『三本の矢』を、もう一度、世界レベルで展開させることであります」――
以上の発言は「アベノミクス」に二つの意味を持たせている。一つは「アベノミクス」を成功した政策だとしていること。二つ目は「世界経済の『下方リスク』と『脆弱性』」の高まりに何ら影響を受けていない強靭さを備えた確実な政策だとしていること。
でなければ、なすべきことは「アベノミクスの『三本の矢』を、もう一度、世界レベルで展開させることであります」と胸を張って堂々と宣言することはできない。
まるで「アベノミクスの『三本の矢』」を世界レベルで展開させて大成功を収めたかのような大言壮語となっている。
果たして事実その通りなのだろうか。
確かに日銀の異次元の金融緩和と称されるアベノミクス第1の矢である「大胆な金融政策」は当初は成功を収めた。円安と株高が大企業を中心にその利益を潤わすことになった。
と言うことは、国民の下層にいく程に利益の恩恵が極小化していくことを示す利益構造だったということになる。上に厚く、下に薄いアベノミクス第1の矢であった。
ところがその円安と株高も中国と新興国の景気減速と、それらを受けた日銀のマイナス金利政策決定が追い打ちをかける形で円高・株安に向かい、企業の利益を圧迫することになって、第2の矢・第3の矢が元々効果を発揮していたわけではないアベノミクス全体に亘ってその政策を怪しくさせた。
いわば円安・株高で大企業を中心に大いなる利益を獲得している間に、あるいは中国や新興国が景気減速に見舞われる前に安倍晋三がアベノミクスに自律的機動性を確保させることができなかったことが、その反動として当初目標としていた景気の好循環に自律性を生み出すことができなかった最大の原因であろう。
自律的機動性はアベノミクスに関して言うと、アベノミクスそのもを様々な状況に応じて自律的に(自身の力で)景気を拡大していく力を備えた生き物としての政策とし得てこそ、初めて獲得し得る。
だが、安倍晋三は自らが掲げた政策でありながら、アベノミクスをそのような生き物(=政策)とすることができなかった。だから、第1の矢で株高・円安という大きな果実を得ながら、その果実に景気の好循環に向けた自律性を埋め込むことができず、実体経済を動かすまでに至ららなかった。
その結果、中国や新興国の景気減速、その他の外からの経済的なマイナス要因に簡単に悪影響を受けることになり、その払拭のために日銀がマイナス金利に動いたものの、効果を上げることができないでいる。
では、安倍晋三がアベノミクスという政策に自律的機動性を注入できなかったにも関わらず、アベノミクスが現在もなおその名を維持できているのはなぜだろうか。
他でもない、政府の指示とか政府依頼といった形を取った政府干渉によるアベノミクス補強によって、いわば自律的とは無縁の他律的な強制力が功を奏して、兎に角もアベノミクスを維持できている理由であるはずだ。
その代表例が断るまでもなく、春闘の時期になると行われる、企業に対しての毎年の政府による賃上げ要請である。企業が政府要請を受けて僅かながらの賃上げを行い、個人消費の拡大にさして役には立たないものの、少なくとも個人消費縮小には役立つことになって、アベノミクスの消滅を救っている。
その他、アベノミクスの「成長戦略」の柱としている「女性の活躍」に於ける企業や省庁の女性採用の政府目標の設定、その他その他。
アベノミクスが備えることができなかったために企業や省庁が自律的機動性を利益を生む原動力とすることができるはずもなく、このような政府干渉による他律的な強制力と企業や省庁の応諾の関係は国家社会主義そのものの関係性と言う他はない。
もう一つ、アベノミクスをどうにか維持できている理由は常に新しい目標を立てて、前に立てた目標がさも成功したかのような幻想を国民に抱かせることに成功しているからである。
「ニッポン一億総活躍プラン」をアベノミクス第2ステージと称し、2020年までに「GDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」を新しい「三本の矢」として掲げ、さらには非正規と正規の給与格差をなくす同一労働・同一賃金を掲げている。
もし本来のアベノミクスが自身の力で景気を拡大していく自律的機動性を備えた生き物としての政策となっていたなら、GDPも自ずと拡大していくはずだし、収入もよくなって個人消費も増え、個人消費の増加に応じて希望出生率も高くなるはずだし、介護も人出に頼る支出を賄うことができて介護離職も一定程度防ぐことができるはずだが、そうはなっていないから、実体経済という土台ができていないうちから新しい目標を掲げて、国民の目をそこに向けなければならない。
自律的機動性を備えていないためにこういったことが実態となっているアベノミクスでありながら、「G7がリードして、世界経済の持続的かつ力強い成長への道筋を示す」ためには「アベノミクスの『三本の矢』を、もう一度、世界レベルで展開させることであります」と、日本でも成功していないのに且つて一度「世界レベルで展開させ」て成功したかのように言い、もう一度展開させることの必要性を恥ずかしげもなく言う。
誇大妄想狂でなければできない言葉の使い方となっている。
安倍晋三がアベノミクスを政府干渉の国家社会主義や実体経済が伴わない様々な目標を立てるといったカラクリで成り立たせているゴマカシに留意しなければならない。