安倍晋三がG7伊勢志摩サミットの協議で世界経済の現状について「2008年に起きたリーマンショック前の状況に似ている」との認識を示し、その後の記者団への発言で各国首脳と世界経済は「大きなリスクに直面している」との認識で一致したと明らかにしたという。「TBS 」記事の動画から記者に対する発言を見てみる。
安倍晋三「8年前の洞爺湖サミットはリーマンショックの僅か数か月前でありましたが、しかし経済については殆んど議論されなかったわけであります。今回、世界経済についてしっかりとした議論を行い、世界経済は大きなリスクに直面しているという認識については一致することができたわけでございます――」
誰が読んでも来年2017年4月からの消費税10%への増税のそれとない延期の予告と受け止めるに違いない。
但し記事は、〈安倍総理は経済の現状について「リーマンショック前に似ている」という考えを示すことで、来年4月に予定される消費税率の10%への引き上げについて、これまで以上に慎重な姿勢をにじませたものとみられます。〉と、安倍晋三の現時点での増税判断を控え目に読んでいる。
安倍晋三が増税延期の判断に傾いていたことは、「アベノミクスの果実を全国津々浦々に届ける」を最近言わなくなったことが既に証明している。
最近の経済状況と2017年に向けて予想し得る経済状況を合わせた上で、「アベノミクスの果実を全国津々浦々に届ける」と言ったなら、10%増税に障害とならない経済状況であることを示すことになって、増税は予定通りに行われることになる。
だが、逆にこれらの経済状況下での増税はアベノミクスの足を引っ張ると予想したなら、「アベノミクスの果実を全国津々浦々に届ける」と言うことはできなくなる。
もし言ったとしたら、経済状況の判断と矛盾した発言となる。
要するに「アベノミクスの果実を全国津々浦々に届ける」と言うことができるかどうかが増税判断のリトマス試験紙となっていると言うことができる。
今年2016年1月22日の施政方針演説。
安倍晋三「アベノミクスによって、来年度の地方税収は、政権交代前から5兆円以上増加し、過去最高となりました。この果実を全国津々浦々にお届けする」
2016年度予算案成立を受けた2016年3月29日の記者会見。
安倍晋三「アベノミクスの温かい風を全国津々浦々に広げていく」――
今年3月29日の時点でも、「全国津々浦々に」が何ら障害とはならない現在と将来に向けた経済状況であると見ていた。
但し同じ記者会見で、「市場や国際社会の信認を確保するためにリーマンショックあるいは大震災のような事態が発生しない限り、来年、予定どおり引き上げていく考えには変わりはございません」と経済状況が悪化した場合の予防線を張っているが、まだ大丈夫な経済状況と見ていた。
上記TBS記事の対記者団発言が行われた日時は5月26日夜、場所はG7伊勢志摩サミットの会場となっているホテルだそうで、他の発言を次の「NHK NEWS WEB」記事からより詳しく見てみる。
安倍晋三「世界経済は大きなリスクに直面しているという認識については一致することができた。そのリスクに立ち向かうために、『伊勢志摩経済イニシアチブ』の取りまとめに合意できたことは大きな成果だった。
『伊勢志摩経済イニシアチブ』に基づいて、アベノミクスの三本の矢をまさに今度は世界で展開していきたい。G7で展開していくことになった」
記事はこの発言を、〈財政政策、金融政策、それに、構造改革からなるアベノミクス三本の矢をG7=主要7か国で展開し、持続的な成長を目指していく考えを示し〉たものだと解説している。
「世界経済は大きなリスクに直面している」が、「アベノミクスの三本の矢をまさに今度は世界で展開していきたい。G7で展開していくことになった」と国内発進にとどまらない世界発進を強調している。
この強調は消費税増税延期を前提とした発言と見なければならない。
なぜなら、リーマンショックあるいは大震災の発生時のような世界経済が悪化した状況下での消費税増税をアベノミクス成功の障害と見ているからなのは断るまでもないからである。
「世界経済が大きなリスクに直面している」にも関わらず予定通りに消費税増税をしてアベノミクスが失敗した場合、失敗したアベノミクスを世界で展開する、あるいはG7で展開することができるだろうか。
いくら安倍晋三が鉄面皮にできていても、恥ずかしくてとてもできまい。
要するに安倍晋三はアベノミクスの成功を消費税増税延期を必要絶対条件とし、消費税増税延期は世界経済悪化を必要絶対条件とする関係に置いた発言を行った。
当然、消費税増税を延期しアベノミクスを成功させるためには安倍晋三の言葉通りに現在の経済状況が「2008年に起きたリーマンショック前の状況に似ている」が事実でなければならない。
ところがこの記事は、安倍晋三が〈言及した「危機」という表現に対し、一部の国から「その表現は強すぎるのではないか」という指摘が出されたことから、首脳宣言の取りまとめに向け、文言の調整を行うことになりました。〉と解説している。
実際に安倍晋三が言う程に「危機」なのか、あるいは安倍晋三が言う程には「危機」でないのか。
安倍晋三は「世界経済が大きなリスクに直面している」ことの事実提示に一つの資料を用いたと別の「NHK NEWS WEB」が紹介している。
〈IMF=国際通貨基金のデータなどを基にまとめた資料を示し、食料や素材など世界の商品価格が2014年以降、およそ55%下落し、2008年のリーマンショックの前後の下落幅と同じになったことや、去年、新興国への資金流入がリーマンショック後に初めてマイナスになったことなど〉を挙げたと。
このような根拠を以って「2008年に起きたリーマンショック前の状況に似ている」という認識の披露に及んだということなのだろう。
但し安倍晋三が世界経済悪化の説明に用いた資料自体が経済官庁の幹部から「恣意的だ」との怒りの声が上がったと2016年5月26日付「TBS」記事が伝えている。
もし危機が事実でないとすると、いわば安倍晋三が自己都合で各国首脳の目の前に大袈裟に描き出した危機に過ぎないとなると、消費税増税を延期させてアベノミクスを成功させる正当性ある口実を創作するためにG7と言う舞台で「世界経済が大きなリスクに直面」という状況を自作自演した疑いが出てくる。
IMFのデータを基に纏めた資料を根拠とした「食料や素材など世界の商品価格が2014年以降、およそ55%下落」がもし正しいとすると、安倍晋三が常々言っている「デフレではないという状況を作ることはできたが、デフレ脱却には至っていない」という状況は少なくとも日本の物価をそれなりに守っていることになって前者と矛盾することになり、消費税増税の国内的障害とはならないことになるばかりか、増税しなければ成功させることができる程度の世界経済の危機的状況に過ぎないことになる。
だが、世界経済の悪化を強調し、消費税増税の延期を前提としたアベノミクスの日本展開にとどまらない世界展開の風呂敷を広げている。
どう考えても、安倍晋三が伊勢志摩サミットを消費税増税延期を演出する舞台として利用しているとしか見えない。