自衛隊ヘリを活発に活用できていたなら、オスプレイの投入は必要なかったはずだ。
米軍オスプレイは熊本地震4月14日深夜発生4日後の4月18日から熊本県南阿蘇村等への物資輸送支援に投入され、4月24日、その活動を終了した。
約36トンの支援物資を輸送したという。テレビが放送していたが、着陸できる場所に着陸した態勢で積み荷を手渡しで運び込んでいた。知る範囲ではオスプレイがホバーリング状態で空中に停止して物資をロープで吊り降ろしたといった記事にお目にかからなかったし、テレビでそのような報道に接することもなかった。
着陸しての物資搬入は自衛隊のヘリコプターでも代替し得る作業であるはずだ。
但し自衛隊も今後の大規模災害を考えると、交通渋滞や道路の寸断に備えてヘリコプターで空中から直接避難所へ吊り降ろす物資支援を当たり前としなければならないはずだ。
4月20日付「琉球新報」記事、《<社説>オスプレイ派遣 災害の政治利用はやめよ》が、輸送機として使用できる回転翼機(ヘリコプター)が陸上自衛隊だけでも222機を所有していながら、4月17日深夜の時点で自衛隊が派遣した固定翼機と回転翼機を合わせて118機だったと伝えている。
米軍が派遣したオスプレーは4機。積載量が一般のヘリよりも多く、さらに飛行速度も一般のヘリよりも早くても、自衛隊が3倍かそこらの数のへりを投入すればオスプレイの代わりはできたはずだ。
上記社説やその他の記事が安倍政権のオスプレイの災害支援投入に“政治利用”の臭いを嗅ぎ取っているが、要するに国民が抱いているオスプレイに対する危険性を災害での有用性に替えて政権への風当たりと陸上自衛隊への導入に対する忌避感を和らげようとの政治的思惑があったということなのだろう。
自衛隊が派遣した固定翼機と回転翼機を合わせて118機だったということだが、ヘリコプターは100機程度と見積もったとしても、果たしてその有用性を発揮し得たのだろうか。
防衛省の中谷元は4月17日午後11過ぎに防衛省で記者団に次のように発言している
中谷元「大規模な災害に対して、高い機動力と空輸力を持っており、特に孤立していたり、道路が渋滞したりしている場合に、早く物資を送るには、垂直離陸能力を持ったオスプレイの能力は必要だ」(NHK NEWS WEB)
確かにそのとおりだろう。だが、今回の熊本地震では福岡県と熊本県などを結ぶ九州自動車道では熊本県内の一部で通行止めが生じたり、熊本市内につながる国道57号線と南阿蘇村内を通る国道325号線が合流する地点にある全長200メートルの阿蘇大橋が崩落して迂回を余儀なくされたり、熊本市内と阿蘇方面をつなぐ国道57号線が南阿蘇村内で道路斜面決壊で通行止めとなったりして交通渋滞を引き起こし、あるいは一般道でも倒壊した建物が道路を塞いだり、通行可能な道路に車が殺到することになって各所で交通渋滞が発生、トラックでの支援物資の輸送に大きな支障を来たしたとの報道が数多くあった。
この理由は交通止めや交通渋滞が各地で発生しているにも関わらず各避難所への支援物資輸送をトラック輸送に比重を置いていたからだろう。物資の集積場への輸送はヘリコプターを活用したかもしれない。だが、集積場にいくら物資を集めても、各避難所に滞り無く届かなければ意味はない。
このことは東日本大震災で経験済みで、いわば緊急を要する物資支援に関わる定番化した遅れと言える。定番化していながら、解決できずに繰返す。ヘリコプターが大規模災害時に孤立した被災者を吊り上げて救助できるなら、物資を吊り降ろすことはできるはずだが、東日本大震災でも、今回の熊本地震でも自衛隊や消防のヘリコプターが支援物資を避難所の近くでワイヤロープで吊り降ろす場面をテレビで見ることも、記事で読むこともなかった。
だが、中谷元は各避難所に早急に物資を送るために自衛隊のヘリコプターを活用していないにも関わらず、「孤立していたり、道路が渋滞したりしている場合に」「垂直離陸能力を持ったオスプレイの能力は必要だ」と、オスプレイの活用だけを言う矛盾に気づいていない。
この矛盾は被災者を蔑ろにしていることになる。
交通状況を調べるために上空からヘリを飛ばせば、交通不通箇所や交通渋滞個所とその程度を特定できるはずで、支援物資の輸送に時間がかかりそうな避難所にはトラック輸送に替えてヘリ輸送にしたなら、様々な物資不足の解消に時間短縮化を図ることができるはずだ。
もし地震発生翌日の4月15日からヘリを活用して物資支援に十分に力を発揮していたなら、米軍オスプレイは4月18日からの投入だから、中谷元が「特に孤立していたり、道路が渋滞したりしている場合に、早く物資を送るには、垂直離陸能力を持ったオスプレイの能力は必要だ」と言っていることは滑稽なことになる。
この言葉が有効性を示すためには被災者支援に向けた自衛隊ヘリの活用が不十分である必要がある。
不十分だったからこそ、政治利用の疑いはさておき、オスプレイの支援を依頼することができたのであり、マスコミは交通渋滞ために避難所に支援物資が届きにくい状況が続いていると報道することになった。
災害大国日本の今後を考えると、人命救助のみならず、ヘリコプターは避難所への物資支援に欠かすことはできない輸送手段であるはずだが、今以て殆んど活用できていない。
ここでヘリによる人命救助の非効率性に触れたいと思う。
東日本大震災発生2011年3月11日の3日後の3月14日投稿の当ブログ記事――《救急ヘリコプターは1人吊りではなく、複数吊りできないものなのなのか、教えてもらいたい - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で題名通りの提案を行った。
〈ヘリコプター胴体底部にコンビニ出入口の二枚ドアの左右に開く自動扉のように電動で左右に開閉する開口部を設けて、その開口部から真上のヘリコプター内部の天井に取り付けた電動ウインチでロープではなく、ヘリコプター自体が風に煽られて動いたとしてもロープよりも影響の少ないワイヤーを取り付けて、その先端に折りたたみ式の金属製コンテナを取り付けて、箱型に組み立てた上、隊員1人が乗って目的場所まで降ろせば、安全ベルト等を装着する必要もなく、そのままの状態で3人から5人までの被災者を一度に救助でき、効率性は上がる。
普段は折り畳んで収納しておけば、4~5個あったとしても、場所を取らない。
コンテナはワイヤー先端から4本に分かれていて吊り上げることになるから、安定していて、少しぐらい風に煽られたとしても、人間を落とすことはない。万が一の用心にコンテナの壁部分の高さを人間の胸ぐらいの高さの物を用意すれば、自分から飛び降りるのでなければ、落ちることはない。他に注意することあるとすれば、折りたたみ式で四方の壁部分がそれぞれ独立しているから、開いた状態で外れないようにロックをしっかりと固定しておくことぐらいだろうか。
コンテナが開口部近くに到達したとき、中で待ち構えていた隊員がワイヤーを掴んで開口部とコンテナのそれぞれの辺が合い、開口部に当たらずに室内に引き上げることができるように誘導すればいい。4本に斜めに分かれたワイヤーが開口部の何れかの辺に当たることによって逆に誘導してくれて、隊員はそれ程苦労しなくても誘導できるはずだ。〉――
要するに開口部の四辺形にコンテナの四辺形を一致させるよう誘導して、コンテナが開口部に引っかからないようにする。
左側に載せたヘリコプターの画像はマウスで線描きのツールを使ってコンテナを描いてそのときに使用したものである。
今回の熊本地震でも南阿蘇村で自衛隊ヘリがウギの画像のように一人の隊員が抱きかかえた形で被災者を吊り上げて、その後広い駐車場に着陸して10人程度乗せて被災者を救援していたが、着陸しての救援は兎も角、吊り上げる場合は先ず被災者を途中で落下させないように両脇下や両腿下を通して支えることができる救助用ベルトをしっかりと装着してから、それぞれのベルトを一本に纏めたベルトの先端を吊り下げロープに固定、そして隊員自体の身体もロープに固定してその被災者を抱きかかえてヘリまで誘導する、画像で紹介しているようないつもの救助方法を取っていた。
このように一人ずつの救助では時間がかかり、非効率である。
熊本地震ではヘリで救助しなければならない被災者が少なかったからいいが、東日本大震災のような大規模災害が再び起こった場合や2015年9月10日午後0時50分頃、台風18号から変わった温帯低気圧と日本の東の海上を北上する台風17号の影響で関東と東北地方が記録的な大雨に見舞われ、茨城県常総市で増水した鬼怒川左岸の堤防が崩れ、氾濫して周囲約40平方キロメートルが浸水し、2千人以上が浸水域に孤立した大規模災害のような場合でも、これまでと同様に一人ずつ吊り上げていく、時間のかかる非効率な救助を行っていくのだろうか。
ところが最近になって、《東京消防庁<航空消防救助機動部隊>》のサイトに巡り合った。
そこに「航空消防救助機動部隊」についての説明が載っている。〈首都直下地震発生が危惧される中、ヘリコプターの機動性を最大限に生かし、空と地上から都民の安心・安全を守るため、新たに作られる部隊です。
平成28年1月6日発隊を目指し、日々厳しい教育、訓練を行っています。 〉――
「Wikipedia」によると、〈2016年1月6日に東京消防庁出初式にて発隊式が行われて正式に運用を開始した。〉と書いてある。ブログに書いてから、4年6カ月にしてやっと実現したようだ。
要するにこれまでのハイパーレスキュー隊とは異なる最新の技術を駆使した救助その他をヘリコプターで行うことを目的としているということなのだろう。
そのページに、〈新資器材取り扱い訓練(車両吊り下げ及び大量救出用バスケット)〉 との説明と、〈孤立地域や高層ビルなどの救助活動時の人員投入や複数の要救助者を同時に救助するための資機材です。〉との解説が載っている。
このページからコピーして画像を載せておいたが、 車両吊り下げの場合は画像にあるように車をモッコに乗せて、そのモッコをワイヤーで吊り下げながら空中を移動するようだが、解説からすると、大量救出用バスケットは孤立した被災者の救助だけではなく、消防隊員を孤立地域や高層ビルなどの救助活動に人員投入する場合、今まではヘリコプターから一人ずつ吊り降ろしていたのをバスケットに一度に大勢を乗せて吊り降ろすことで効率よく人員投入を図るという目的をも持たせていることになる。
と言うことなら、大量救出用バスケットやモッコを使って、支援物資を避難所の駐車場なりの空き地に直接吊り降ろすことも可能と言うことになる。
自衛隊にしても災害時の支援物資補給や人命救助を担っていながら、今回はヘリコプターで一度に複数人数を吊り上げる救助の機会はなかったかもしれないが、少なくとも交通の事情で輸送遅れが生じている避難所への物資補給をヘリコプターの活用で早めることができたはずだ。
東京消防庁ができることを自衛隊ができないことはあるまい。東京消防庁がしていることと同じことは自衛隊はしないということなら、タテ割り根性に雁字搦めとなっていることの証明としかならない。
今回の安倍政権の米軍オスプレイへの物資輸送支援要請が私の中では災害時の自衛隊ヘリ活用の不完全さを浮き上がらせることとなった。固定翼機と回転翼機を合わせて118機派遣したといったことは殆んど意味をなさない。支援が被災者に直接役立つかどうかを常に問題としなければならない。
大規模災害時発生当初の避難所での定番化した物資不足の状況や非効率さが定番化した人命救助から如何に定番化を回避できるかを政府危機管理の課題としなければならない。
それをせずに首相が避難所を訪問して、正座して被災者の声に耳を傾けようと、「国民の生命・財産を守る」としていることのゴマカシにしかならない。