以前のブログに「超党派協議」について次のようなことを書いた。
〈いくつかの政党が政策を競い合い、その中から一つの政党が国民の選択を受けて、あるいは国民の選択を受けた一つの政党が中心となって連立を組み、政権を運営する形態の民主主義政治に於いて、「超党派協議」は民主主義政治の形態そのものを否定することにならないだろうか。
一つの政党として国民の選択を受けることができなかった政党は、あるいは連立相手とされなかった政党は野党として、政権奪取して自らの政治を実現することを役目とする。どういった政治を行うか、どういった政策を推し進めるか、常に掲げ続けて国民の選択を待つ。
こういった構図を民主主義政治がルールとしているなら、消費税を含めた税制の抜本改革政策にしても、各党がそれぞれにその政策を競い合い、各党とも最善と思える案を打ち出し、国の根幹に関わる重要問題だから、菅首相が6月17日のマニフェスト発表記者会見で、「大きな税制改革を行う場合は予め実施する前に国民のみなさんに信を問うことが本来あるべき道だ」と述べたように衆議院選挙で問うとすることをすべきではないだろうか。
また、いくら消費税問題を含めた抜本的な税制改革だからと言っても、消費税やその他の税制だけの問題だけではなく、各党それぞれの各政策は、予算算定や予算配分と影響し合う財政及びその規律の問題等と相互に関連し合う。
いわば同じ消費税率であっても、各党の政策の違いに応じて各予算算定や予算配分に異なる影響を与え、その影響は財政及びその規律の問題等に各党ごとに異なる波及を及ぼす。
例え消費税で得た財源を社会保障費に使途を限定したとしても、社会保障政策がすべてに亘って完全に一致しているということはないから、社会保障政策のどこにどう使われるかは党ごとに違ってくる。
だからと言って、社会保障政策を含めてすべての政策を同じにしたら、競い合いはなくなり、すべての党が与党化し、民主主義体制は壊れ意味を失う。
いわば厳密には、「超党派協議」は各党それぞれの政策の違いを無視することを前提としなければ成り立たない。
あるいは政策を競い合うという民主主義のルールを無視しなければ成り立たない。
このことは既に触れた、自民党の谷垣総裁がバラマキ政策となっている民主党の衆院選マニフェストを撤回しない限り応じられないと主張して「超党派協議」に一貫して反対していることが一つの証明となる。
年金制度改革でも超党派の議論を呼びかけたが、菅政権は政権党の責任に於いて、年金制度改革であっても、消費税問題であっても、自らの能力で新たな制度を打ち立て、国民に信を問うべきではないだろうか。そうすることで初めて政権党としての責任を果たすことができるはずだ。
政権党である前に、それぞれの政治思想を持ち、それぞれの政策を持って一つの政党を組んでいる者としての責任放棄とならないだろうか。〉――
以上のことを説明補強すると、国民の選択を受けて政権を担ったということは、政権を国民から請け負ったということであり、と同時にその政党が掲げる一つ一つの政策の構成と法案化の請負契約が政権を担当した時点で国民との間に生じることになる。その契約遂行機関が内閣に当たる。
国民から政権を請け負った内閣は請負契約した一つ一つの政策の成果――法案化と施行を政権を請け負った者の責任に於いて形にし、自らの仕事として国民に返す。住宅建設を請け負った住宅会社が住宅を建設して顧客に住まいに造り替えて返すようにである。顧客の満足度を得るには住宅の仕上がり次第となるように、法案化された政策が国民に対して個人の生活や社会生活に満足を与えるかどうかにかかっている。
もしここで国民一人ひとりの満足度を上げようと、例え国家経営の骨格を成す税制や社会保障の政策に限ったとしても、超党派協議機関を設けてそれらの政策を統一したとしたら、すべての国民に格差のない満足度を与えることができるだろうか。
例え税制や社会保障の政策に限った政策であっても、各階層によって利害は異なる。貧乏人は金持ちからたくさん税金を取るべきだと主張するだろうし、金持は日々血の滲むような努力の結果の財産であって、金持から多くの税金を取るのはその努力を評価しない遣り方だと主張するだろう。
それぞれに異なる利害を持つ利害集団の異なるそれぞれの利害を満足させる政策など可能だろうか。
しかし弱者優先とすれば、高所得層の利害とぶつかることになる。すべての国民に亘る平等な利害の満足は存在しない。
また、既に触れているように税制政策でも社会保障政策でも、すべての党がすべてに亘って一致するわけではない。これらの政策を一致させたなら、競い合いがなくなるのではないかと書いたが、それ以前の問題として、協議をスムーズに纏めるために超党派協議に加わったすべての政党のそれぞれに異なる政策箇所を盛り込む恐れが生じないだろうか。
各政党とも自分の党が他の党と違って主張する政策箇所を盛り込むことによって、そこに自らの政党の存在価値を知らしめ、存在証明の拠り所とするだろうからである。
いわば、各政党ともそれぞれの党の独自性を政策の中で示そうとし、その方の競い合いが生じる。
独自性を示す代償もなく、あるいは得点稼ぎもなかった場合、超党派協議に加わるだろうか。
超党派協議に加わる各政党の主張をそれぞれに取り入れる点に於いて、最終的な政策が妥協の産物となって、すべての政党に対して総花的(関係者すべてに利益・恩恵を与える遣り方)となるだけではなく、各政党はそれぞれに利害を代弁する階層、集団を、一部分重なることはあっても、完全に重なるわけではなく、一般的には異にしていることによって、すべての利害階層、利害集団に対しても総花的となり、却って財政の規律を破るバラマキを招かないだろうか。
バラマキを抑えようとすると、政策自体に無理が生じる。
勿論、政権党がひとり主導する政策の構成と法案化の場合は、その党が利害を代弁する階層、集団に主として利益が及ぶ政策となりがちとなるが、財源に限度があって、それぞれに異なる利害をすべて平等に満たすことができない以上、満たそうとすれば総花的となり、バラマキを招くから、必要悪として政権党に任せる、あるいは政権党の責任に於いて、自らの主導ですべての政策を執り行うことにすべきではないだろうか。
政策の中身を以てして競い合い、結果に対して国民の審判を受ける方法こそが、民主主義の政治制度により適うことになるはずである。そうでなければ、政策を訴えて政権を請け負った意味を失う。
民主党政権発足時から国民新党や社民党との連立によって、政権を任せて欲しいと訴えた責任を一部分失うことになっていたが、外国人地方参政権や夫婦別姓問題が前に進まないことがこのことを証明しているが、今回参院選で与党が大敗、過半数を失ったことで、一部野党の政策を取り入れて政権を運営しなければならない困難に直面することとなり、再度政権党としての責任を一部失うことになるが、この上超党派協議で政策を妥協の産物化した場合、政権党としての意味を益々失うように思える。
私自身が20年以上も前から政権交代が必要だと思ったのは、一党独裁だと政策がマンネリ化し停滞する、最悪権力の独占によって、国家の富が一部階層・集団に偏る恐れを防ぐために政治の市場に競争原理を持ち込むことを願ったからである。競争原理を働かすことによって、政策の競い合いが生じ、それぞれの政治家が政策立案に創造的に能力を伸ばしていくことを期待した。
まだまだずうっと先の話のようである。
2010年参議院選挙。民主党が戦後日本の政治史上初めてとなる選挙を手段とした歴史的な政権交代を果して10ヶ月足らずで、その歴史的意義に反して、菅首相自身は「現有54+アルファー」を当選ラインとしていたが、その54議席さえ割る44議席に下げた。
仙谷官房長官も7月7日の東京・有楽町日本外国特派員協会講演で民主党の政権交代の歴史的意義を訴えていた。菅政権は「歴史的、意味と言いましょうか歴史性」を担っていると。あるいは菅政権は「歴史的な分水嶺の中で成立した政権である」といったふうに。
菅政権が歴史的なら、鳩山政権も菅政権以上に歴史的ということになる。政権交代そのものを問い、それを選挙を手段として実現させて成立させた政権なのだから。
だが、あると思われていた指導力のメッキが剥がれて支持率が20%を切る国民の「ノー」の意思表示を受けて自発的辞任。鳩山政権自体は歴史的でも何でもなかった。
このことからも分かるように、選挙による戦後初めての政権交代そのものは歴史的意義を持つかもしれないが、政権自体が歴史的意義を持つわけではない。歴史的と言える何かを成して、あるいは歴史的と言える何らかの結果を出して初めて歴史的意義を持つ。その点を誰もが誤解している。
いわば政権交代という歴史的意義を経た、単なる政権に過ぎない。
勿論、発足後日がないゆえにその成果を見極める材料を持たないうちから菅政権を持ち上げて、歴史的だ、歴史性があるだ、「歴史的な分水嶺の中で成立した政権である」と言っていた仙谷官房長官にしても誤解の達人中の達人と言える。
もし菅政権自体が現在の時点で歴史性を備えているとするなら、十分な準備をしないままの不用意な消費税増税発言程度で崩れる歴史性は、歴史性という言葉そのものの意味を失わせる。
菅首相は参院選敗北を受けて記者会見を行った。「NHK総合テレビ」7時ニュースから。
菅首相「今回の選挙結果は、えー、当初目標としていたところに、えー、かなり届かない、えー、結果に、終わってしまいました。エー、応援をいただいたみなさんには、ま、大変、えー、申し訳ないと思っております。
えー、その、おー、原因は、えー、一つには、あー、私が、消費税に触れたことが、やや唐突な、あー、感じを持って、えー、国民のみなさんに、伝わったと。
えー、十分な、あー、事前の、説明と言いましょうか、それが、あ、不足していた、ことが、えー、大きな原因かと、このように私も思っております。
ただ私は今回の選挙の、オ、結果は、そうした議論そのものが、否定されたとは、思っておりません。もっと、お、慎重に、しっかりと、おー・・・・した、議論を進めるようにと。えー、つまりは、あー、丁寧な扱い、国民のみなさんが求められた、結果だとこのように理解をいたしております。
ま、今回の、おー、選挙の結果は、えー、真摯に受け止めながら、私としては、改めて、エー、スタートラインに立った、そういう、気持で、ま、責任ある政権運営を、え、今後とも、おー、続けていきたい・・・」――
マスコミの報道の仕方への責任転嫁が今回は姿を消している。この場に及んでもマスコミに責任転嫁した場合、卑劣と受け止められることだけは承知していたようだ。
「消費税に触れたことがやや唐突な感じを持って国民のみなさんに伝わった」とする受け止め方で保有議席を10議席も減らし、過半数を失った選挙結果を解釈する感覚からは事態の深刻さをさして感じていない様子しか窺うことができない。
事前の説明十分でなかったこと、不足していたことが敗因で、議論そのものは否定されたわけではないと自己正当化している。
だが、民主党政権を率いる最高責任者の位置にいる。日本の政治の今後のありようが菅首相の肩にかかっている重い責任を有している。消費税は国民にとって特に敏感な問題であり、特に中低所得層の生活に大きく影響する切実な政治課題である。当然、菅首相はこのことを十分に理解していたはずであり、理解していなければならない立場にいた。
いわば前以て十分な説明を準備し、慎重な議論を展開しなければならない立場にあり、そういう態度を取ることが責任ある立場にある者の責任ある姿勢であるにも関わらず、選挙敗北という高い代償を支払ってから、「もっと慎重にしっかりとした議論を進めるようにと。つまりは丁寧な扱い、国民のみなさんが求められた」と気づく。
この後付の判断能力のお粗末さ、劣弱さは重要な政策に関して首相としての責任を果たさなかった、あるいは果たすことができなかったことの状況を示している。
そういった資質の政治家に「責任ある政権運営」が果たして期待可能だろうか。
市民運動家出身だからと、市民目線を大事にすると自ら標榜しているそうだが、国民の要求に後付で気づく鈍感さ、判断能力の欠如は標榜を自ら裏切るということではなく、標榜そのものが見せかけであることを証明している。
指導者として不可欠な前以て十分な説明を準備し、慎重な議論を展開して国民の納得を得るという資質(=自身の政策をスムーズに実現していく資質)を欠いていた指導者としての責任、その結果として生じた現有54議席から10議席失った責任の双方を痛感もせずに、いや痛感していないからこそ、「選挙の結果は真摯に受け止めながら」は形式的な言辞に過ぎず、「私としては改めてスタートラインに立った、そういう気持で責任ある政権運営を今後とも続けていきたい」とすることができる。
選挙に大敗を喫していて、「私としては改めてスタートラインに立った」の気持はないはずである。
同じ「NHK総合テレビ」7時ニュースが谷垣自民党総裁の記者会見の発言を伝えている。
谷垣「菅さん、あのー、私の代表質問・・・で、ですね、えー、私は与党内で政権をタライ回ししないで、衆院を解散をし、総選挙に挑むべきだと、いう、問いをしましたのに対して、『国民の信を参院選で問うていきたい』、まあ、こう答弁されてるんですね。このまま、アー、続けるというのは、そういう今までの、オ、菅さんのですね、ご発言から見ても、甚だ、あの、おかしなことではないかと。一刻も早く、うー、・・・解散をして、国民の信を問うべきだと――」
参院選は政権党として国民の信を問う選挙だと野党第一党の党首に対して発言した。そして現有議席を10議席も減らし大敗した。その言葉の責任もある。
菅首相は10月4日、NHK番組「参議院選挙特集」で、次のように発言している。《党首が消費税などで論戦》(NHK/10年月4日 12時2分)
菅首相「この4年間で5回総理大臣が代わった。これ以上、政治が混乱して、何も決められないということになるのか、それとも責任ある安定した政治を取り戻せるのか、今回の参議院選挙の争点は、安定か混乱かだと思っている」――
しかし国民は「安定」を選択せず、結果として「混乱」を選択し、それを以て民意とした。菅首相が国民の大方の要求を前以て読み取ることができずに十分な事前の説明を欠いたまま消費税増税発言をするという指導者としての資質を欠いた態度にノーを突きつけたのである。
例え4年間で6回総理大臣が代ろうとも、資質を欠いた政治家を指導者の位置に据えておくことの方が国民に対する背信行為に当たり、国民に対しての冒涜とならないだろうか。
菅首相が首相の座に居座ることになったとしても、選挙結果によって求心力を大分失うことは目に見えている。
特に国民の負託を受けて国政に携わる政治家はウソをついてはいけない。ゴマカシを働いてはいけないはずだ。国民の負託を受けている立場でのウソ・ゴマカシは直ちに国民に対するウソ・ゴマカシとなるからだ。例えそれが小さなウソ・ゴマカシであっても、自身の不利を抹消して有利にもっていく解決方法として用いる手管としてあるのだから、不利の状況に応じて大きなウソ・ゴマカシに転じない保証はない。
国民に対するウソ・ゴマカシは情報操作に当たり、それ以外の何ものでもない。
また、ウソ・ゴマカシは本質的には不誠実な性格がその人間に仕向ける処世術として身についている。不誠実な政治家に指導力も期待できない。
それともウソ・ゴマカシを働く政治家に指導力が期待できると言うのだろうか。
参院選挙活動最後の10日午前。菅首相の福井県坂井市の街頭演説。《政治とカネ・普天間、首相「心配かけたがそれもクリア」》(asahi.com/2010年7月10日13時19分)
菅首相「政治とカネとか普天間(飛行場移設)のことで少し心配をおかけしたがそれもクリアをして、いよいよこれから時計の針を進めようという時の選挙だ」――
この発言に関して記事は、〈政権の出直し感を強調したかったようだが、両問題は「解決した」とは言い切れない状況だ。
政治とカネ問題は依然として野党側が追及の構えをみせ、普天間問題は8月末の移転先工法などの決定を控えて地元から合意を取り付ける見通しは立っていない。〉と書いているが、「政治とカネ」と「普天間」の主役にそれぞれ政治の表舞台から背景に退いてもらったに過ぎないのであって、問題自体が表舞台から消えたわけではない。
また、「普天間」に関しては自分が代役として舞台に上がることが決まった。本格的な出番がまだ来ないだけの話しで、出番が来たなら、予期しないストーリー展開が待ち構えて舞台が紛糾し、「時計の針」が鳩山首相のときのようにいつどこで狂わない保証があるわけではない。そういったことに目を向けることもできずにいとも簡単に単細胞にも、「クリア」したと言うことができる。
相変わらず物事を全体的に見る目――合理的判断能力を欠いている。それが楽観的性格から来ている資質だとしても、合理的判断能力は指導力に不可欠の能力であるはずだ。単細胞は指導力とは相反する能力であろう。
民主党が参院選で不利な立ち場に立たされることになった菅首相発民主党参議院過半数割れ着の可能性高い、〈消費税発言を巡る報道について〉、次のように訴えたそうだ。
菅首相「財政破綻(はたん)に陥らないため税制について議論する必要があると言った。そうしたら翌日の新聞が『菅直人が明日から消費税を上げるんじゃないか』と書いた。・・・・次の総選挙まで1円も上げない。このところだけ外して報道が流れた」――
果して事実、「菅直人が明日から消費税を上げるんじゃないか」と書いたのだろうか。「次の総選挙まで1円も上げない。このところだけ外して報道が流れた」のだろうか。
6月17日に菅首相は民主党参院選マニフェストを記者会見して発表した。それを受けた各マスコミの報道を見てみる。字数の関係から、「毎日jp」記事の自民党のマニフェスト記述を省略する以外、解釈の違いから言い間違いが生じたと受け取られないように、全文参考引用することにした。
《消費税率「自民党の10%を参考に」 菅首相が明言》(asahi.com/2010年6月17日23時17分)
菅直人首相は17日、将来の消費増税について、税率と、低所得者ほど負担感が増す逆進性の対策を含む改革案を今年度中にまとめる方針を表明した。税率については、自民党が参院選公約に盛り込んだ10%を「参考にさせていただきたい」と述べた。さらに、改革案の是非を問う解散・総選挙を行う可能性に言及した。
菅首相は、こうした方針について、17日に東京都内で行われた民主党の参院選マニフェストの発表会見で明らかにした。
民主党が昨年8月の総選挙で掲げたマニフェストは消費税率の引き上げに触れておらず、当時党代表だった鳩山由紀夫前首相は「私どもが政権を担う4年間、消費税の増税をする必要がない」と明言していた。党代表が菅氏に交代したとはいえ、わずか1年足らずで党の基本政策をひっくり返したことは、党内外の批判を呼びそうだ。
この日発表された民主党の参院選マニフェストでは、消費税について「早期に結論を得ることをめざして、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始する」とだけ書かれている。しかし首相は会見で、具体的な税率について自民党案の10%を参考にする、と踏み込んだ。党内の正式な手続きを経ないまま、首相自身の公約として打ち出したかたちだ。「大きな税制改革を行う場合は、国民に信を問うのがあるべき道だ」とも述べた。
自民党も17日に発表した参院選公約で、消費税率について「当面10%とする」としており、7月11日投開票の参院選は、2大政党がともに具体的な消費税率の引き上げ幅を掲げて戦う構図になる。
首相は、具体的な道筋について「政府税制調査会で2010年度内に、あるべき税率や逆進性対策を含む消費税の改革案をまとめていきたい」と表明。さらに「超党派での幅広い合意を目指す努力を行いたい」と、6月11日の所信表明演説で各党に呼びかけた「財政健全化検討会議」で合意を目指す意向を示した。
一方で、「超党派での法案提出が難しい場合は、民主党が中心になって改革案を取りまとめたい」として、最終的には、民主党単独で引き上げに踏み切ることもあり得るという考えも明らかにした。
具体的な引き上げ時期について、会見に同席した玄葉光一郎政調会長は「2010年度内に政府税調のとりまとめができ、超党派ですぐに合意したとしても、実際に実施するまでには今から2年以上かかる」と述べ、最速でも12年度秋以降になるとの見通しを示した。
民主党が17日に発表したマニフェストでは、11年度の国債発行額は10年度を上回らないよう全力をあげる▽20年度までに基礎的財政収支の黒字化を達成する▽衆院の比例定数を80、参院の定数を40程度削減▽11年度に公共事業をはじめとする補助金の一括交付金化――などが柱となっている。また、総選挙マニフェストで中学生までの子ども1人あたり月に2万6千円を支給するとしていた「子ども手当」は、「1万3千円から上積みし、現物サービスにも代えられるようにする」と明記し、満額支給を断念した。 《民主 参院選公約まとめる》(NHK/10年6月17日 20時1分)
民主党は、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始し、早期に結論を得ることを目指すとした参議院選挙の公約を発表しました。
それによりますと、元気な日本を復活させるため「強い経済、強い財政、強い社会保障」という「第三の道」を目指すとしています。
まず「強い経済」では、西暦2020年度までの平均で、名目の経済成長率を3%超、物価の変動を除いた実質の経済成長率を2%超に設定しています。
具体的な政策としては、法人税制は国際競争力の維持・強化などの観点から見直し、中小企業向けの法人税率は18%から11%に引き下げるとしています。
次に「強い財政」では、新たな政策の財源は既存の予算の削減や収入増によってねん出することを原則とし、来年度の国債発行額は今年度の発行額を上回らないよう全力をあげるとしています。
そして今回の公約では消費税について初めて踏み込み、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始し、早期に結論を得ることを目指すとしています。
そのうえで、10年後の2020年度までに、政策に必要な経費を税金でどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支の黒字化を達成するとしています。「強い社会保障」では、去年の政権公約を踏襲し、年金制度を一元化し、月額7万円の最低保障年金を実現するためにも税制の抜本改革を実施するとしたほか、後期高齢者医療制度は廃止し、平成25年度から新しい高齢者医療制度をスタートさせるとしています。
一方、「子育て・教育」の分野では、来年度から月額2万6000円を支給するとしていた子ども手当について「1万3000円から上積みする」としましたが、具体的な金額は明示しませんでした。そして「地域の実情に応じて現物サービスにも代えられるようにし、保育所の定員増や、給食の無料化などを検討する」として、衆議院選挙の政権公約を修正しました。
また衆議院選挙で掲げた高速道路の無料化については「無料化した際の効果や、ほかの公共交通の状況に留意しつつ、段階的に原則無料とする」として、実施の時期は明記されませんでした。
鳩山前政権で大きな問題となった政治とカネについては「政治不信をふっしょくできなかった点は率直におわびしたい」としたうえで、できる限り早期に、企業・団体献金の禁止や、参議院の定数の40程度削減、衆議院の比例代表の定数の80削減を実現するとしています。
また、アメリカ軍普天間基地の移設問題については「日米合意に基づいて、沖縄の負担軽減に全力を尽くす」としています。
このほか、国民新党の亀井代表の閣僚辞任につながった郵政改革法案については、次の国会で「最優先課題として速やかな成立を図る」としています。
さらに衆議院選挙の政権公約では政策ごとに必要な予算や実施時期を示した工程表が盛り込まれていましたが、今回の公約には明記されませんでした。
一方、衆議院選挙の政権公約の進捗状況についてもまとめ、179の政策のうち、高校の授業料の実質無償化など、およそ20%に当たる35の政策を完全に実施できたとしています。 《消費税率で首相「自民提案の10%を参考に」》(YOMIURI ONLINE2010年6月18日00時34分)
首相は、消費税について「2010年度内にあるべき税率や改革案の取りまとめを目指したい。当面の税率は、自民党が提案している10%を一つの参考にしたい」と述べ、10%への引き上げを目指し、今年度中に具体案をまとめる考えを表明した。さらに、超党派での関連法の改正を目指すとしたうえで、「困難な場合には民主党が中心となって取りまとめたい」と語った。
首相は、「大きな税制改正を行う場合は、国民に信を問うのが本来あるべき姿だ」と述べ、税率引き上げを争点とした衆院解散・総選挙に含みを残した。「(税制改正の)進め方は、どういう政党と合意形成できるか(にもより)、今の段階で『何年度からどうする』と言うのは難しい」とも強調した。
引き上げ時期について、同席した玄葉政調会長は「仮に10年度内に超党派で合意したとしても、実際に実施されるのは2年以上かかり、12年秋が最速となる」と語った。税率の10%については「最終的に『それで足りるのか』という議論になるかもしれない」と指摘した。参院選後に党内に財政健全化プロジェクトチームを設けて税制改革案をまとめる意向を表明した。
玄葉氏は、公約に盛り込んだ法人税率引き下げの時期について「消費税を含めた税制抜本改革の時に実施するか、先行的に実施する選択肢もある」と語った。昨年の衆院選政権公約(マニフェスト)の柱に据えた子ども手当の満額支給を見送ったことなどに関しては、「率直に国民におわびしたい」と陳謝した。
公約は、首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」を前面に押し出し、経済成長と財政再建、社会保障充実を一体的に実現する方針を示した。財政再建については「早期に結論を得ることをめざして、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始する」と明記した。一方、子ども手当は「財源を確保しつつ、すでに支給している1万3000円から上積みする」との表現にとどめた。 《選挙:参院選 民主・自民、マニフェスト発表 消費増税」競い合い》(毎日jp/2010年6月18日)
<分析>
◇菅首相も「10%」言及
民主、自民両党は17日、参院選のマニフェスト(政権公約)を発表した。菅直人首相は東京都内で記者会見し、消費税増税について「税率については自民党が(参院選公約で)提案している10%という数字を一つの参考にさせていただきたい」と述べ、具体的な税率に初めて言及した。また「10年度内にあるべき税率や、逆進性対策を含む消費税の改革案を取りまとめていきたい」と明言した。自民党もマニフェストで消費税率を10%としたうえで「超党派による円卓会議」を提案した。参院選は、与党・民主党と最大野党の自民党がともに消費増税を掲げて戦う異例の展開となる。
首相は記者会見で消費増税について「幅広い合意を得ることができれば超党派で法案を提出し、成立を目指す」とも語った。民主党マニフェストに明記していない税率10%に言及したのは、自民党への誘い水の意味がある。税率引き上げを衆院選で国民に問うかについては「原則的には大きな税制改正を行う時には、実施前に判断をいただくことが必要だ。ただ、その進み方は今の段階で何年度からどうするかは言うことが難しい」と述べるにとどめた。だが、玄葉光一郎政調会長は「最速では12年度秋に上がる」と語った。
首相の「10%」発言に、民主党内では早くも反発が出た。輿石東参院議員会長や平野博文前官房長官、樽床伸二国対委員長、細野豪志幹事長代理らが17日夜、東京都内の日本料理店に集まった。小沢一郎前幹事長に近い議員が多く、会合後、高嶋良充参院幹事長は「期限を切るとか何%引き上げるとか言ったのならば勇み足だ。選挙に悪影響を及ぼす」と批判した。
昨年のマニフェストは、子ども手当などで家計の可処分所得を増やし、内需主導の経済成長を目指すとした。しかし、事業仕分けなどで確保できた恒久的な財源は2兆円強。国と地方の長期債務残高が国内総生産(GDP)の2倍近くまで膨らみ市場の視線が厳しさを増す中で、財政赤字を膨らませるのは難しい。「家計への直接支援」から、路線を転換せざるをえなかった。
このため、参院選マニフェストでは「早期に結論を得ることを目指し、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始」と明記。ただ、法人税は「引き下げ」とした。首相が目指すのは「強い経済、強い財政、強い社会保障」。増税で財源を確保し、医療、介護など成長が見込める分野に集中的に投入すれば、新たな雇用が生み出され、経済成長を促せるとのシナリオだ。同時に、財政再建と社会保障の充実も図れるとする。外需を取り込むため、インフラ輸出の促進も盛り込んだ。【中田卓二、坂井隆之、小山由宇】
どの記事のどこにも、「菅直人が明日から消費税を上げるんじゃないか」とは書いていない。そういった文脈での記述もない。
「次の総選挙まで1円も上げない。このところだけ外して報道が流れた」という事実にしても記事のどこからも窺うことはできない。
逆にどの記事も「超党派協議」を書き込んでいる。超党派協議のプロセスを経た決定としている以上、「明日から消費税を上げるんじゃないか」という報道は不可能となる。
より具体的な引き上げ時期については菅首相は話していないが、マニフェスト発表の場に同席していた玄葉政調会長の発言を「NHK」記事を除いて他は伝えている。
「asahi.com」記事――〈玄葉光一郎政調会長は「2010年度内に政府税調のとりまとめができ、超党派ですぐに合意したとしても、実際に実施するまでには今から2年以上かかる」と述べ、最速でも12年度秋以降になるとの見通しを示した。〉――
「YOMIURI ONLINE」記事――〈引き上げ時期について、同席した玄葉政調会長は「仮に10年度内に超党派で合意したとしても、実際に実施されるのは2年以上かかり、12年秋が最速となる」と語った。税率の10%については「最終的に『それで足りるのか』という議論になるかもしれない」と指摘した。参院選後に党内に財政健全化プロジェクトチームを設けて税制改革案をまとめる意向を表明した。〉――
「毎日jp」記事――〈玄葉光一郎政調会長は「最速では12年度秋に上がる」と語った。〉――
玄葉政調会長発言の報道は、「菅直人が明日から消費税を上げるんじゃないか」と書かなかったことの有力な傍証となり得る。「次の総選挙まで1円も上げない。このところだけ外して報道が流れた」わけではないことの決定的証拠となり得る。
菅首相は事実でないことを事実とした。参院選の状況が民主党に不利となった原因が巷間伝えられているように自身の消費税発言にあるのではなく、マスコミの報道の仕方にあるとするための非事実の事実化なのだから、決定的までにウソ・ゴマカシの類に入る。
ウソ・ゴマカシまで働いて、自身の過ちを、少なくとも不首尾をマスコミ報道に責任転嫁して、自身を正しいとした。
これは自己正当化のために事実ではないことを事実とする、国民までも誤魔化す情報操作を行ったことを意味する。
ここに不誠実な性格が些かも関与していないと果たして言えるだろうか。NHKテレビで、菅首相は市民運動家出身で、市民目線を大事にしていると紹介していたが、市民目線は自己正当化のためにウソ・ゴマカシまで働く不誠実な性格の上に成り立つだろうか。
不誠実を力とした指導力はいつかは破綻する。
韓国哨戒艦撃沈事件を巡って協議を続けていた国連安全保障理事会で9日(日本時間同日深夜)、北朝鮮に対する議長声明が全会一致で採択された。
正当な理由なくして魚雷攻撃を行い、46人もの乗組員の生命を奪い、韓国の国家としての主権と尊厳を傷つけた外交上許されない国際事件でありながら、法的拘束力を持った安保理決議による北朝鮮制裁に持っていくことができずに、ワンランク下の「議長声明」での決着であったこと自体が既に解決の限界を示している。
「国連安保理議長声明案の要旨」を見てみる。
《韓国哨戒艦撃沈に関する国連安保理議長声明案の要旨》(「MSN産経」/2010.7.9 08:42 )
国連安全保障理事会が8日大筋合意した、韓国哨戒艦撃沈事件をめぐる議長声明案の要旨は次の通り。
1、安保理は、今年3月26日に発生し、韓国哨戒艦沈没につながった攻撃を非難する。
1、安保理は、問題の平和的な解決に向け、事件に責任を負う者に対する適切かつ平和的な対応を呼びかける。
1、北朝鮮が沈没に責任を負うと結論づけた韓国などによる合同調査団の調査結果を考慮し、安保理は深い懸念を表明する。
1、安保理は北朝鮮などからの、事件に無関係と主張する反応に留意する。
1、よって、安保理は哨戒艦沈没を引き起こした攻撃を非難する。
1、安保理は、韓国に対する、あるいは地域におけるさらなる緊張や攻撃を防ぐことの重要性を強調する。 (ニューヨーク 松尾理也)
「哨戒艦沈没を引き起こした攻撃」への非難は、「北朝鮮などからの、事件に無関係と主張する反応に留意」した非難であって、北朝鮮の仕業と分かっていても、中国にしても分かっていたことだったろう、その事実に反して証拠不十分とした処分であることを物語っている。
その結果、「事件に責任を負う者」と、それが誰か、如何なる国か誰もが分かっていながら、主語を直接的に名指しせずに、「適切かつ平和的な対応を呼びかける」とする当たり障りのない穏便で奇妙な責任追及となったのだろう。
この「適切かつ平和的な対応を呼びかける」は、果して46人もの生命(いのち)を不法に奪った国家犯罪に値する対応だろうか。
しかも、「北朝鮮が沈没に責任を負うと結論づけた韓国などによる合同調査団の調査結果を考慮し」ながら、単なる「考慮」にとどめ、そこに何ら制裁と言える制裁を加えることができずに、「安保理は深い懸念を表明する」と、制裁に代えて、「深い懸念」を以ってして締め括っている。
北朝鮮に関わる安保理の解決能力の限界だけが目に付く「議長声明」となっている。
だが、このことは最初から分かっていた結末であって、決して後退ではない。一人日本の菅首相にとっては後退に見える「議長声明」の結末であろう。いや、後退に見える結末でなければならない。
先月6月25日から開催のG8首脳会議(ムスコカ・サミット)は最終日の6月26日に韓国哨戒艦沈没事件を巡って北朝鮮非難を盛り込んだ首脳宣言を採択して閉幕した。
この首脳宣言採択は我が日本の菅首相がリードしたものだった。
《「北朝鮮非難」明記は成果=成長戦略にG8が理解―菅首相》(The Wall Street Journal/2010年 6月 27日 12:16)
6月27日午後(日本時間28日朝)のカナダ・トロント市での記者会見――
菅首相「わたしがリードスピーチを行い、非難すべきは非難するよう申し上げ、宣言に盛り込まれた」
菅外交の一大成果というわけである。就任早々だったから、G8に集まった世界の首脳をしてその外交能力に目を見張らせたに違いない。菅首相としてはG8首脳宣言で終わらせる意図を持たせた北朝鮮非難のG8首脳宣言採択ではなかった。先を睨んだ成算を胸に秘めていた。
《菅首相:「安保理に大きな影響」G8の北朝鮮非難で》(毎日jp/2010年6月28日 11時11分)
同じ6月27日午後(日本時間28日朝)のカナダ・トロント市での記者会見――
菅首相「国連安全保障理事会にも非常に大きな影響がある」
菅首相「G8の首脳からも、しっかり対応しようという話も出されている。国連でも議論しており、(宣言を)しっかり反映させるよう各国が努力しようとなった」――
記事は、菅首相の発言は、〈国連安保理での非難決議につながるとの認識を示した。〉という解説となっている。
この発言は、《G8北朝鮮非難宣言、安保理決議を後押し…菅首相》(YOMIURI ONLINE/2010年6月28日11時24分)では次のようになっている。
菅首相「G8の正式な宣言の中で、北朝鮮の行為を強く批判したことの意味は非常に大きい。今、進行している国連の議論にも何らかの形で反映されると思う」――
いわば、菅首相が「リードスピーチを行い、非難すべきは非難するよう申し上げ、宣言に盛り込まれた」北朝鮮非難の主脳宣言は非常に大きな意味を持つゆえに非常に大きな影響力を持って国連安保理の議論に反映させる意図を前以て持たせていたことになる。
少なくとも他の首脳はいざ知らず、我が日本の菅首相に限ってはG8首脳宣言が国連安保理の議論の行方に大きな影響力を与えると信じていた。
そして結果は既に触れたとおりとなった。菅首相にとっては後退に見えるかもしれないが、単に合理的認識能力に欠けるから、中国の対北朝鮮ガードを見誤ったに過ぎない。その強固さを見通すことができなかった。
6月29日の当ブログ《菅首相のカナダ・トロントG8存在感、自画自賛》で、次のように書いた。
〈韓国哨戒艇事件だけではなく、ミサイル発射、核実験に関しても、中国の対北朝鮮ガードを完全には突き崩せずにいる。それをG8で可能とできる前提の我が日本の菅首相の発言となっている。〉――
要するに独りよがりの認識しか示すことができなかった。“甘菅”に過ぎなかったということである。
こうも客観的認識能力に甘さがあるようでは政治的指導力にも関係していることで、このことも準備不足のままの消費税発言に影響したのだろうが、首相としてはさして期待できない資質に見えてくる。
「Google」を検索していたら、次の記事が目についた。《「メディアは野党的」官房長官がマスコミ批判》(MSN産経/2010.7.7 16:52)
仙谷官房長官が7月7日に東京・有楽町の日本外国特派員協会で講演したときの発言として載っていた。
菅内閣の支持率の低下について――
仙谷官房長官「ジャーナリズムは基本的に野党的でなければ存在理由がない」
仙谷官房長官「雨後のたけのこのように小党が出て、テレビ番組で平等に時間や出番が与えられた。選挙になると野党が、途中から(支持率が)伸びてくるという傾向がある」
最初の「ジャーナリズムは基本的に野党的でなければ存在理由がない」は、「野党的」だから、与党に不利に働いて、与党は支持率を下げることになるとする示唆であろう。果して必ずそうと決まっていることなのだろうか。明らかに菅首相の消費税発言の唐突さ、中身の曖昧さ、発言のブレが増幅させた菅内閣への不信と支持率の低下であり、その反動としての野党への支持の流れであろう。
一般的には与党の支持率と野党の支持率は相対関係にあるからだ。この野党の中には無党派層を加えなければならない。与党の支持率が勢いを失った場合のみ、失った分をほぼ吸収する形で無党派層を加えた野党が支持率を上乗せする。
また、「ジャーナリズムは基本的に野党的」はごく当たり前の姿勢であろう。御用ジャーナリズムでなければ、一般的には権力の監視者の役目を自らに課している。
尤も左派系、右派系に分かれていて、政府が自らの立場と対立する系統なら、監視者の役目を、同じ立場なら、同調者の役目を担う。
例え立場を同じくする政府・権力であっても、個別の政策で自らの立場に反する場合はその政策に限って批判者の姿を取るケースもある。
決して「野党的」であること、あるいは、「選挙になると野党が、途中から(支持率が)伸びてくるという傾向」であることが原因の支持率の低下ではないはずだ。
鳩山政権が「政治とカネ」と普天間問題で支持率を下げたにも関わらず自民党が支持率を上げることができなかったのは、党内抗争があったことにもよるが、自民党政治が何よりも支持を失った時期が、いわば国民の多くが自民党政治そのものにノーを突きつけた時期が余りにも近いことも原因していたはずである。健忘症に罹るには時間がそんなには経っていない。
ノーを突きつけておいて、時間も経たないうちにそれを撤回するのは自身の責任に絡んでもくる。
民主党の場合は鳩山政権から菅政権に代ったことによって、有権者の多くはそれをクリアすることができた。
また、野党時代の民主党はメディアの「野党的」であることの「存在理由」と響き合って、有利な評価状況を手に入れることができ、政権交代にそれなりの恩恵を受けたはずである。
政権を取ることによって、プラスマイナスが働いたということではないのか。
記事はこの二つの発言を伝えているのみで、批評も批判も加えていない。だが、記事題名は「メディアは野党的」なる発言を「マスコミ批判」の発言だとしている。
より詳しい発言の内容を知ろうと思って、動画を探したところ、《官房長官の動き- 日本外国特派員協会 講演 -平成22年7月7日 - 政府インターネットテレビ》に出会うことができた。(後出参考引用)
てっきりこの発言があるもとした予定調和で、あるいは最初から決めつけた固定観念で順次文字化していったが、これと思しき発言に一向に出くわさない。動画は講演のみを伝えて、普通は講演後にある記者との質疑応答がない。インターネット記事の中には、「講演」ではなく、「日本外国特派員協会での記者会見で」と表現し、「質問を受け」と書いているから、仙谷官房長官と各メディアの記者との質疑応答があったのは間違いないから、「政府インターネットテレビ」は記者会見の部分を省いたのだろう。
前半の講演と後半の記者会見で全体を成すはずだが、それを前半の情報のみの提供で、後半の情報を未提供としたのは一種の情報操作に当たらないだろうか。疑うなら、そこに個人の発言としてなら構わないが、政府の見解とされた場合、まずいことになるからと証拠として残さないことにしたとも考えることができる。
さしずめ、〈日韓請求権協定で消滅した個人の請求権について「法律的に正当性があると言って、それだけでいいのか、物事が済むのかという話だ」と述べ、政治的判断で個人補償を行うべきだとの考えを示唆〉、〈仙谷氏の発言は日韓両国の間に波紋を呼ぶ可能性がある。〉(《日韓戦後処理は不十分=「改めて決着必要」-官房長官》時事ドットコム/2010/07/07-19:35)といったところが証拠として残しては不都合な箇所かもしれない。
証拠さえ残さなければ、発言自体は時間の経過と共に風化するのを待つ・・・。
仙谷官房長官は上記「MSN産経」記事の「選挙になると野党が、途中から(支持率が)伸びてくるという傾向がある」と同じ趣旨の発言を5日午後の記者会見でも行っている。
《仙谷官房長官「この種のことはよくあること」 内閣支持率低下に》(日本経済新聞電子版/2010/7/5 17:38)
報道各社の世論調査で内閣支持率が低下傾向にあるとの指摘に対して――
仙谷官房長官「選挙になれば、(メディアで)与党と野党がまったく平等に扱われる。この種のことはよくあることだ」
仙谷官房長官「自らがこの(消費税や財政、社会保障の)問題に対して、本質的にどう考えているかをわざと外すために、説明の仕方が良い悪いとかいうところだけを主張されるのはいかがなものか」
この発言を「日本経済新聞電子版」は、消費税に関わる〈野党の論調について〉述べたこととしている。
何日か前に当ブログで扱った「asahi.com」記事―― 《「世論調査、メディアの設問に問題」仙谷官房長官が苦言》(2010年7月5日22時1分)は題名が示しているように、メディアの世論調査の設問に対する批判として扱っている。
6月5日の記者会見――
仙谷「(首相の)説明の仕方が良いとか悪いとかいうところで評価するのは、ある種の(責任)回避的傾向だ」
記事はこの発言について、〈報道機関の設問の設定の仕方に問題があるとの見方を示した。〉と解説している。
さらに、〈仙谷氏は「メディアが消費税、財政、社会保障問題のポジション(立場)をちゃんと言った方がよい」とも述べ、報道機関はこれらのテーマへの主張を明確にした上で、首相発言などを取り上げるべきだとの認識も示した。 〉とも書いている。
いずれの把え方であっても、菅内閣支持率低下の責任は野党にあるかマスメディアにあるかの外部責任説であって、菅首相自身の対応に責任がるとあるとする内部責任説を一切取っていない。
「日経新聞電子版」は官房長官の消費税増税問題についての次のような発言も伝えている。
仙谷「現在の日本の有権者、中学生、高校生までそういうことを真剣に議論しなければならないというところまで成熟度はあるのではないかと私は理解している」
だから、菅首相の消費税発言は間違っていないと間接的に主張している。
だが、この発言には人間は利害の生きものであるという視点を完璧に欠いている。それも生活が最大の利害であるということを。だから、キリスト教をこのことを諌めるために、「パンのみにて生きるにあらず」と言った。裏を返すまでもなく、人間がどうしようもなく「パンのみにて生きる生きもの」となっているからだ。
分かりやすい一例を挙げると、平成20年度の育児休業の女性取得率90.6%に対して男性は1.2%。男たちにとっても育児休業を取って女性の育児負担を軽くしなければならないと「いうところまで成熟度はある」はずだが、頭ではそう理解していても、会社で男性が育児休業を取ったら、会社の評価が悪くなるのではないか、誰かに仕事を取って代わられるのではないのか恐れて実際行動となるとなかなか実行できない。
消費税の議論をしなければならないと頭では理解する程のに「成熟度」に達していても、生活のことを考えると、上げて欲しくない。
そういった中低所得層の生活の利害から発した不安を先ず下げるところから出発すべきを菅首相はいきなり「自民党10%案参考」をぶち上げた。自民党は野党である。実際に増税案を国会で成立させて施行まで運ぶ当事者は与党民主党の菅政権であって、野党自民党ではない。当事者が言い出したことだから、当然、収入が少ない国民に向かう程、切実さを身近に受け止めることとなって敏感に反応したに違いない。
だが、仙谷官房長官は野党かあるいはマスメディアに責任を転嫁し、菅首相には責任なしとしている。これも消費税増税の必要性を頭では理解していても、収入の点で増税を簡単には受入れることがなかなかできない、人間が生活の利害の生きものであることに真に目を向ける視点を欠いていることからの責任転嫁に違いあるまい。
仙谷官房長官菅首相擁護発言に欠けている「人間は利害の生きもの」であることの視点(2)に続く
仙谷官房長官/外国特派員協会講演(10年7月7日) (思いついたことは丸カッコつき青文字) 《官房長官の動き- 日本外国特派員協会 講演 -平成22年7月7日 - 政府インターネットテレビ》 「えー、ご紹介、を、いただきました、アー、仙谷で、ございます。えー、今度の、オー、菅、んー、政権のことで、官房長官という役目をー、与えられております。えー、仙谷時代、という、お話がございましたが、エー、実は、あの、私自身は、あの、1964年に生まれておりまして、えー、日本が、アー、ポツダム戦争、ポツダム宣言を受諾して、えー、戦争が終わって、自由な時代になったということで、私の、オー、その下の名前と言うか、ファーストネームが、アー、つけられた。えー、由人というのは自由な人を、自由な時代に生まれてきた人間と、オー、リベラルなのか、フリーマンなのか、えー、分かりませんが、まあ、そういう、意味でございまして、まあ、悪く言うと、オー、半生は割りと自由奔放に、あの、勝手なことを、オー、考えながら、勝手なことをして、エー、生きてきたというのが、アー、40、4、5歳までの、ことでございますが、あの、それから政治の世界に入って。 選挙をやるようになればですね、あんまり勝手なことを言って、、勝手なこともできない。衆人環視の元で日常生活を送ると言う、ウー、窮屈さを、感、感じながら、仕方がないかと。そしてこのたび、ま、昨年の9月から、アー、アー、行政刷新担当大臣に、なり、国家戦略も担当し、今度は、官房長官でございまして、この官房長官というのは、ますます、ウー、セキュリティの関係もあって、みなさんが、周りを囲んでくれますので、衆人環視どころかですね、箸の上げ下ろし、トイレの仕方まで、すべて、あの、守られているという存在でございますので、えー、甚だ、あのー、自由人としては、窮屈な、あの、思いをしておりますが、しかし、それも役割、あの、使命でございますんで、エー、何とか、その役割、を果たすことができるように、イー、やってみたいなあと思って、おるところでございます。 あのー、さて、短時間で喋れと、ということでございますので、えー、大きく言えば二つ、お話をしたいと思います。 えー、第一点は、この鳩山政権、えー、民主党政権の、オ、そして菅政権の持つ、ウー、歴史的、意味、といいましょうか歴史性ということでございますが、もう一つは、あのー、私が、野党時代からも、あのー、オ、あのー、この国には全く、ウー、とりわけパブリックセンターには、経営という、ア、観念がないと、ウー、ガバナンス、マネジメント、いう観点がなさ過ぎると、いうふうに感じて、おりまして、えー、今公務員制度改革、あるいは今行政刷新と、いう名前で、えー、言われている、ウー、事柄は、改めて日本に、イー、パブリックマネジメントを、ヲー、確立すると、ヲー、新たなこの時代にふさわしい、イー、マネジメントを確立すると、いう、思いで、えー、まあ、色んな抵抗があったり、あるいは、メディアからの、いわゆる批判の、に、ありますけども、まあ、そんなことはあんまり頓着しないでやってみようかなと思っていることを、ヲー、お話を、ヲー、させていただきたいと思います。 で、先ず、その、鳩山政権、あるいは菅政権、が持っている歴史性でありますが、これはみなさん方がご存知のように、一つは、長く続いた、アー、自民党一党支配と、半分の民主主義と言われているような状況を、ヲー、完璧な、ア、形で、選挙によって、エ、政権交代が成し遂げられたと、いうことであります。 これは民主主義、という、ウ、ものの、本質から言って、えー、銃砲や、大砲で政権ひっくり返るのではなくって、あるいはゼネストで選挙がひっくり返るのではなくって、投票で、政権が、えー、政権が変わるということの持つ意味というのは、ある意味で、えー、人類の、オー、この世界にとって、極めて、重い意味を持つと。 (国にとっての選挙による初めての政権交代という形式の転換に関しては重い意味があるが、交代した政権の中身や結果・成果まで重い意味を持つとは結果・成果を見てみないと不明。) 効率は悪いけども、そしてときどき選択が間違うけども、しかし、政権が変わることによって、エー、もたらされる、その政治の、オー、その進歩と申しましょうか、成熟、あるいは、アー、被害を受ける、ウー、人々が、そういう、透明度の高い、イー、政治によって、えー、被害を受ける人々が少なくなるという、ある種の私は人間の知恵だと思いますけども、そこに日本がようやく到達したという意義があります。 (これは交代した政権が国民生活に役立つ運営をして初めて言えること。今のところ未知数。今後の判断。) もう一つは、アー、時代が、アー、みなさん方も、これもよくご存知のように、先進国に於いては、アー、基本的に、イー、産業の、大転換、サービス化せざるを得ない、状況に立ち至っている。少々、日本も、オー、立ち遅れているかもしれませんけれども、しかし、知識経済と言われているようなところに、世界経済、あるいは先進国の経済が、あー、入ってしまったと言うか、入らざるを得なくなっている。この、歴史的な、分水嶺の中で、成立した政権であると。 (経済のサービス化は競争がもたらしている現象であろう。過去の独占時代から比較独占時代に入り、種々の規制緩和によって、新規参入が起こり、競争が激しくなったためにふるい落とされないために、あるいは生き残るための戦い――競争が激しくなったことがサービス化の現象として現れた。政権交代が当たり前となると、政権を得るための大衆迎合の政策、大衆に受入れやすい政策でおもねる負の面が露出する欠点も生じる。民主党自体がそういった側面を戦術として使用しなかったとは決して言えない。マニフェストに国民への約束として掲げながら、実際には実行できない政策が生じたということは、必要不可欠としていなかったことになり、迎合と取られても仕方があるまい。) こういう二つの、オー、大きな政治、歴史的な、アー、意味を持った、政権だということを、先ずは頭の中に入れて、えー、政策、提言、あるいは政策実行を、していかなければならないと、いうふうに、イー、考えているところでございます。 えー、その文脈の中で、成長戦略、当然のことながら、考えていく。強い経済・強い社会保障、そしてぇー、えー、強い財政、ということを、大目標に掲げ、これから政策の展開と、実行を、行っていくわけでございますが、私共が知識経済、というのは、労働力という観点から見ると、良質の労働力、サイ、再生産、を、ヲー、これを効率よく。そして、エ、できる限り、イー、その落ちこぼれのない、イー、社会構造を、つくると。すべての人がそうなるとは、なかなか、アー、夢のような話でありますけれども、しかし、エ、知的能力を上げて、そのことによって、生産性を上げていくということが、この知識経済の基本であると、私は思っておりまして、そのためには、何よりも、年金制度も、収拾(?)はつきませんけれども、何よりも私は日々の労働力の再生産のためには医療、そして世代的な労働力の再生産のためには、これは教育と、あるいは職業再訓練も含めた、子どもの教育、大人の教育。ここに重点的に投資をするというのが、アー、非常に大きな意味を持つであろうということを思っております。 で、まあ、あの強い経済、日本の得意とするモノづくり。エ、川上から川下。川中、川下までですね。エー、素材から部品から、アー、そして組み立てから、アー、あるいは、その前段階の・・・能力(?、聞き取れず)開発、いうことを含めて、えー、日本の得意な技も発揮しつつ、しかし、改めて、人材、人づくり戦略というものを、進めていかなければならない、というのが私の基本的な考え方でありまして、まあ、成長戦略のつくる際にも、たまたま、そのポジションにおりましたので、そういう観点から、人づくり、そしてグリーンイノベーション、グリ-ンイノベーションに基づく、ウー、システム輸出と申しましょうか、まあ、パッケージ輸出と申しましょうか、あるいは、世界に、グリーン、日本の持てる、環境技術で、貢献をすると、いうことを、大目標に、したわけでございます。 それから、次のガバナンス、マネジメントの、点なんですが、私は、あの、まあ、商売人の家系に、生まれておるわけですが、それ程たいした商売人ではありません。そしてまた、倒産した、アー、ちょうど、昭和大恐慌、1929年の恐慌の頃に、うーん、多分、破産した、倒産した、えー、家系でありますが、アー、しかし、多少は、あるいは商売人の血がDNAであるのかなと、いうふうに思っておりますが、あのー、政治をー、ウー、経営的な発想で、エー、考えてみると、どうなるんだろうと。 で、私が、アー、経営学、経営術で、エー、割と親しくさせていただいたり、教えていただいたのは、、ミスミグループの会の三枝匡さんというですね、この人、私よりも歳が一つ上でありますが、その当時としては珍しく、スタンフォードでMBAを取って、そしてボストンでコンサルティングをやっていたと思いますけども、日本人で初めての正式社員になって、帰って、エ、日本に帰ってきてからは、あの、企業再建の契約で(意味不明、酔っていてろれつが回らない感じ)、この方の、本を読んだり、話を聞いたりしますとですね、やっぱり企業の経営というのは、一番重要なのは、造って、造って売ると。このサイクルを如何に回せるかだと。 こういう話をですね、先ず最初に造るのは商品をつくる。次は、その、その商品を売るための組織をつくる。そして売る。で、売るのはまさにマーケット、の現場との接点で、売れるかどうかだと。ま、こういう話でありますが、売れないのは売れない理由があって(笑う)、あるいは売れる場合も、その、長続きできるかというのが問題だと。 で、その、そのマーケットの情報をまたつくるところにちゃんとフィードバックする。このサイクルを如何に回せるかだと、いうふうに彼は言うわけであります。で、これを、政治に応用すればどうなるのかと。エー、先ず、商品はやっぱり政策だろうなと。あるいは政策は、幻想かも分かりませんが、まあ、そういう、コンセプトをですね、えー、売っていくと、オー、いうことだろうと思います。 で、これは、次のつくりは、これは政党であり、あるいは、アー、我が霞ヶ関の官僚組織を如何にうまくマネージメントできるか、あるいは、もっと言えば、官邸が、ヘッドクオーターとしてですね、その、総司令部としての、役割を果たせるかどうかということだと、思っております。 (第一番に持ってくるのは製造・販売目的とする商品(政策)を製造・販売する会社(政党)の立ち上げであり、次が商品(政策)の製造であって、言っていることの順序が逆。) で、売れるかどうかは、選挙の結果だと。まあ、こういう話になるわけですから、あー、選挙の結果で、政策を修正し、あるいは微修正して、あるいは、これは選挙のみならず、今の時代は世論調査、というものがございますし、マーケットという存在も、オー、ございます。で、そこでの反応をやはり注意深く、そして、その意味を読み取ることに、が、重要でありますけれども、ここはやはり、それなりの各分野の、専門家のみなさん方の、お知恵を拝借する。あるいは、よくお伺いして、政策を修正し、あるいは、改めて、えー、選択と集中ですね、廃案をしたり、改めて政策をつくったりということもあるかもしれませんが、そういうマネージメントをやらなければならないと考えて、今も進めているところでございます。 もう一つは、これは、さはさりながら、アー、会社そうでありますが、アノー、ソノー、組織の運営であり、マネージメントということになってくると、ダメージコントロールが、アノー、大変重要だと、いうふうに思います。 で、アノ、私は、この間(かん)、この、気がつきましたのは、ダメージコントロールというのは天災や、あるいは、アー、事故・事件、ということだけではないだろうと、いうふうに考えておりましたから、おりました、おりました。ということで、えー、というのは、私が、まあ、法律家で裁判を、20年間は、相当、裁判の第一線でですね、やってきた経験もございまして、霞が関に入って先ずビックリしたのはですね、えー、まあ、よく言われる無謬、オー、・・・無謬主義と言いましょうか、無謬性神話と言いましょうか、そういうのが、この霞が関には相当多い、されています。 そのために間違いは犯してはならないと、間違いを、オー、例えば訴訟が起こるということは、間違いを指摘されているに等しいと。あるいは訴訟に対しては、アー、これはできるだけ、隠密裏に処理できないかと、先ず苦労してみるとかですね、あるいは訴訟というものがマイナスのものであるという、こういう文化があるのではないかと思うぐらいの風潮に気がつきました。 これは実は必ずしもその、日本人総体がですね、こういう物事の解決の仕方で、えー、日本の世の中を、オー、治めてきたというか、纏めてきたと、いう部分がございまして、これは、ある意味では、アー、アメリカ的訴訟社会と言われるもののような、あるいは弁護士だけが大儲けをする、あの、今度のメキシコ湾の、あのー、オー、あの(頭を下向きに目をきつく閉じて、記憶を呼び起こそうとする。)あの重油の、あの重油の、流出事故でも、最後に蓋を開けてみると、儲かったな、と言うのは弁護士だけちゅうことになるんじゃないかというような、冗談がときどき聞こえてきますけども、そこまで行過ぎた訴訟社会というのはですね、えー、私は決して望みませんけども、しかし、物事を、ア、社会的な紛争解決、アノー、社会的な紛争、あるいは病理現象を解決するのに、訴訟という手段は、これはまた人間が考え出したですね、えー、優れたシステムだと、私は思っております。 で、それも、ある程、ある程と言うよりも、基本的に、イー、独立した司法権の元で、えー、その判断をしていただくという作業をですね、これは談合で、えー、物事を処理するよりは、遥かに健康的で、あるかもしれません。そしてまた、そのことに税金が使われるとすれば、そういったオープンなところで、えー、こう、堂々と、あの、解決が図られればですね、それは、それで国民にとっては、納得性の高いものになるのではないかと思います。 (裁判の決定がすべて「国民にとっては、納得性の高いものになる」とは限らない。酔っ払い運転で人を殺して、軽い刑で済んだ場合、あるいは利害、立場、主義主張の違いによって、裁判の結果に対する受け止め方がそれぞれに異なる場合、「納得性」を得ることが難しいことも起こり得る。自身が日韓間に横たわる従軍慰安婦等の補償問題で、「法律的に正当性があると言って、それだけで物事は済むのか。(日韓関係の)改善方向に向けて政治的な方針を作り、判断をしなければいけないという案件もあるのではないかという話もある」と言っていることは裁判の決定が「納得性」を必ずしも与えないことを自ら証明していることであろう。) で、それに対してどうするんだと、私は、この間、先だっても、沖縄の、オー、宜野湾市の、伊波さんが訴訟すると言っているけれども、記者会見で問われたんで、いや、それはどうぞおやりくださいと、私共は堂々と受けてですね、まあ、どういう訴訟か分からないんですから、アノー、裁判所で、えー、議論を展開してですね、そこで、裁判所が出した結論に従うと言うのは、それは大いにいいことじゃないですかと。 (従わずに控訴・上告ということもある。最終的な最高裁の決定には従わざるを得ないが、不服を抱えた裁判結果に対する従属と言うこともある。) その前には、あれは(再び目をきつく閉じて、思い出そうとする。)何のときだったか分かりませんが、多分ですねぇー、地方に対する補助金だったんですか、あのー、宮崎県の、あのー、オー、オー、東国原知事が、訴訟をやるとか何とか、言ったんで、いやあ、訴訟、あのー、大いに結構、と、いうふうに言いましたけどねぇ、その後、沙汰止みになりましたが、いずれにしても、アノー、オー、訴訟で、訴訟をかけられることを恐れるなと。で、これ程いい解決方法システムはないと、いうふうに思ったほうがいいんじゃないかというふうに最近は考えております。 で、これは実はですね、あのー、オー、大臣も政治家が訴訟にかけられているということの意味を、何かマイナスイメージで把える癖があると。現に、あのー、各省大臣も、あるいは官邸もですね、現に起こされている訴訟、あるいは、あのー、オー、送り起こされるかも分からない、訴訟というようなものに、イー、非常に無頓着、ウー、であります。知らぬ顔をしていると、してきたというのが、今までの経過、であったんではないかと、いうふうに思いまして、ここは解決するについての政治家が判断すべきことと、訴訟で、例えば進めるという、ことについて、それぞれ、恐れることはないと、いうことを霞ヶ関のみなさんに申し上げたい。 これは実はですね、私がずうっと、10年ぐらい、あの、憲法調査会で、えー、まあ、会長代理とか筆頭理事で行ってきまして、あの、ヨーロッパ等々を、その憲法論的に拝見したときに気がついたのですが、これ企業も含めてですね、えー、トラブルを、つまりマーケットとの関係のトラブル、当事者との関係のトラブル。で、そのトラブルを。ヲー、社内的に処理するんじゃなくて、その対応・処理をアウトソーシングするということの方が、実は図って効率がいいことに、ヨーロッパ社会を、は気がついたんじゃないか。 で、そのことが、オンブズマン制度であったり、色んな、機関、という、準司法的機関行政、エ、サービスを、でということが、そういうことを、アノ、つくっていかれている。つまり裁判との中間段階に、そういう解決機能を持たす、ているということに気がついてきました。 そうだとすると、これは、アー、企業と、それを巡る、消費者とのトラブルのみならずですね、行政と行政サービスを巡る、ウー、タックスペイヤーとのトラブルもですね、ガイセイカ(外政化?外注化?)できれば、これ程いいことはないというふうに考えた方が、私はこれからの知識経済とか、あるいはサービス化経済とか、あるいは、もっと言えば、インターネット社会に於ける権力と、一人ひとりのアトム化された個人というふうな状況の中では、このー、行政の、を、フェアに、進めていくにとっては、その方がいいのではないのかと、いうふうに考えております。 いずれにしても、あのー、よく言われる、これは別に霞ヶ関だけではないわけでありますが、官僚組織が成熟化して、くればくる程、無謬性と、そのための前例踏襲、ウー、主義、とでも言いましょうか、そういうものが、アー、政治の側から、それは違うと、こういう方向で、ちゃんと物事を考えて一緒にやろうという、そういうガバナンスを、オー、効いた、アー、政府をつくっていかなければならないと、いうふうに思っておりまして、ま、そういう観点から、これから官邸からの、オー、発信も、オー、進めて、えー、いきたい。そのことが、あのスピードを持った、そして、あのー、この歴史的な、ア、菅直人政権がですね、えー、その、ある種の自民党政権、自民党政治、オー、政治の下での行政と、違った、アー、色合いを出せるのではないかと、そんなふうに、今考えて、えー、まあ、難題ばかりですけれども、頑張ってまいりたいと思っておるところでございます。 えー、それじゃあ、ちょうど・・・・(声が小さくなって聞こえない。)いただきます。ありがとうございました」 |
2008年9月のリーマンショック以降の「100年に一度と言われる金融不況」から日本の経済は2009年後半以降、アジア向け輸出拡大を受けて、海外とのモノやサービスの取引や投資などの取引状況を示す経常収支の黒字が4カ月連続で増加。それ以降もアジア向け輸出は拡大し続けて、日本の景気回復に向けた足取りに貢献した。
《4月の貿易黒字7423億円 アジア向け輸出が牽引》(asahi.com/2010年5月27日15時22分)
財務省が2010年5月27日発表した2010年4月の貿易統計(通関ベース、速報)――
輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は7423億円の13ヶ月連続の黒字。
黒字額は世界同時不況(「100年に一度の金融不況」)で落ち込んでいた前年同月の約15倍の一大回復。
中国を始めとするアジア向けの輸出が牽引。
輸出額は前年同月比40.4%増の5兆8897億円。
地域別輸出額――
アジア向け――45.3%増の3兆3237億円(輸出額全体の約6割)
このうち中国向けは41.4%増の1兆1501億円(4月としては過去最高記録)
中国一国でアジア全体の約半分近くを占めるたわけである。
いわば、アジア向け輸出と言うとき常に中心は中国であり、世界全体から見ても、中国は日本にとってアメリカを抜いて最重要の輸出国となっている。
このことは日本経済維持の大事なお客様になっているとも言える。
対して国内景気――
政府は6月18日に月例経済報告を発表。完全失業率が5%超える中、「景気は、着実に持ち直してきており、自律的回復への基盤が整いつつある」(YOMIURI ONLINE記事)程度の景気回復。
この国内景気の「自律的回復への基盤が整いつつある」も、アジア向け中心の好調な輸出に支えられた企業の設備投資改善と個人消費の僅かながらの持ち直しが原因だという。外需から内需への波及と言うわけである。
勿論アジア向け中心の、その中心は中国であることは断るまでもない。
日本の景気を支える要因が中国への輸出ばかりではない。ここに来て7月1日から中国人観光客に対する個人観光ビザ(査証)発給要件を大幅に緩和。
《中国客を熱烈歓迎 百貨店が通訳や付き添いサービス》(MSN産経/2010.7.2 12:52)
6月までは年収25万元までを限度としていたが、7月以降、10万元を限度。25万元限度では対象世帯が160万世帯であったが、10万元限度ではその10倍の1600世帯に膨れ上がるという。
〈首都圏の店舗では、通訳や買い物の付き添い、宿泊先への商品配送などを無料で行うサービスがスタートしており、今後、大阪にもサービスを拡大する方針。人民元相場の弾力化による元高も消費拡大の追い風とみて、特需期待が強まっている。〉――
輸出も中国特需、観光客も中国特需の様相を呈しつつあることになる。
どの店も中国語を話せる、中国人を含めた従業員を置き、中国語の品書き、中国語のパンフレットを置いて対応、中国人客中には何十万と現金で纏め買いする客もいるとテレビで放送していたが、記事は同様のことを伝えている。
〈東京・日本橋の高島屋東京店(東京都中央区)では、近接する香港系高級ホテル「シャングリラ・ホテル東京」と連携し、宿泊する中国人観光客向けに、買い物時に同店の中国人従業員が通訳として付き添う無料サービスを6月末に始めた。通訳業務が可能な中国人従業員を8人に増やし、1日に3組程度の利用を目指すという。
同様に三越伊勢丹ホールディングスも、9月に増床開業する三越銀座店(中央区)で、外国人観光客の買い物に付き添う「コンシェルジュ」サービスを実施する。店の入り口そばにカウンターを設け、中国語や英語に堪能な8人のスタッフが買い物に同行し、商品の説明や通訳を行う。また、購入品の免税手続きなども行える観光案内所も新設するなど、中国人観光客の囲い込みを急いでいる。〉――
百貨店の外国人観光客の平均購入金額は約7万円、免税対象外の化粧品などを含めた外国人の年間売上高は約400億円程度だが、今後5年間で1000億円規模にまで伸びる見通しで、百貨店来客の8割を中国本土からの観光客が占めるという。
例え中国人観光ビザの発給要件の年収対象を下げることで発給対象者の所得水準が低下することはあっても、「日本に旅行する際、知人や親戚(しんせき)から買い物を頼まれるケースが多く、消費そのものは低下しない」と見ていて、業績回復の起爆剤にと期待は高まる一方だと記事は結んでいる。
日本全国、中国人様々の一大狂乱フィーバー状態だと言ったら、大袈裟に過ぎるだろうか。
《個人観光ビザ:大幅緩和 中国人客に熱視線 中間層に拡大、市場規模1兆円も》(毎日jp2010年7月2日)は別の情報を教えてくれる。
日本政府観光局調査――
中国人観光客 00年――約 35万人
09年――約101万人
これは訪日外国人全体が落ち込む中での成績だそうだ。
観光庁は中国人観光客を13年に390万人、16年に600万人に増やす目標を掲げる。
中国人観光客が滞日中に使う金額は平均で20万~30万円。単純計算で年2000億~3000億円の市場規模。
記事は、〈ビザ緩和で増える観光客の所得層が下がったとしても、600万人なら1兆円規模になる可能性がある。〉としている。
〈個人消費が伸び悩む中、この「成長市場」をあてこんで、対応を強化する動きが目立つ。〉
まさしく中国人様々。中国及び中国人を語らずして、日本の経済を語ること勿れである。
だが、日本が沈んでいく中で中国及び中国人の経済力は“様々”フィーバー状態で価値を上げつつあるが、戦争中から戦後暫くにかけて、中国人を「チャンコロ」と称し、取るに足らない存在として侮蔑してきた。
「Wikipedia」――〈この「ちゃんころ」という言葉は、日本が中国大陸に積極的に出兵する昭和初期から頻繁に使われるようになる。中国服のことを「チャン服」、中華料理のことを「チャン料」などと形容詞的に略して用いることもあった。しかし戦中に日本人が中国人に対して用いる蔑称として定着し、現在では差別用語とされ政治・経済等の公の場で用いなくなった。しかし、近年では私的に使用する人は減少していたが、中国または中国人に対してへの反感が高まるに従いインターネット上で再び中国人の蔑称として使用する例が増えて来ている。〉――
1923年(大正12)の関東大震災時には全国で数千人の朝鮮人虐殺が行われたが、同時に数百人の中国人も虐殺されていると、『日本史広辞典』(山川出版社)は伝えている。
〈政府はこれらの事件の隠蔽を謀った。朝鮮人・中国人蔑視観などにより、世論の批判も亀戸・甘粕事件に比べて弱かった。〉――
朝鮮人に対しては、「チョウゼン」、中国人に対しては、既に触れているように、「チャンコロ」の蔑称を与えていた。
それが現在では、中国人“様々”――
だが、現在の中国人“様々”フィーバーの中で忘れてはならないことは、外国人実習生の問題であろう。《外国人実習生 初の過労死認定》(NHK/10年7月2日 18時58分)
日本の技術を学ぶための外国人研修制度で来日した31歳の中国人実習生が亡くなる直前の1か月の残業が100時間を超えていたなどが原因して08年6月に過労死している。
外国人実習生の過労死が認められたのは初めてだという。
〈亡くなった蒋さんを含め、外国人実習生3人に対し、この金属加工会社が最低賃金を大きく下回る時給400円しか残業代を払っていなかったうえ、実際の勤務時間が記録されたタイムカードをシュレッダーで破棄していた〉という。
これまでも外国人実習生に対するパスポートを取り上げた上でに賃金未払いや最低賃金を下回る低賃金雇用、法定残業時間を大幅に上回る長時間過酷労働、日本語を学ぶ時間を与えない契約違反等々の残酷物語が散々に伝えられてきた。
外国人実習生の多くは中国人が占める。〈(2006年度版JITCO白書より)入国する外国人研修生の国籍は、中国が55,156人と全体の66.2%を占める。〉(Wikipedia)――
一方でカネを持っている観光客として有難がり、一方で有難い低賃金労働者として酷使する。いわば一方は大事な人間として扱い、一方は人間と看做さない扱い方をする。
同じ日本人でありながら、それぞれに利害が異なるから、異なる扱い方をする。
――菅首相の超党派協議は民主主義政治に於ける政権交代の手続きを否定するものではないか――
菅首相が6日のテレビ東京の番組だそうだが、今度は法人税引き上げに言及したという。民主党2010年参院選マニフェストで法人税に関して、「法人税率引き下げ――法人税制は簡素化を前提に、国際競争力の維持・強化、対日投資促進の観点から見直しを実施します。あわせて、中小企業向けの法人税率の引き下げ(18%→11%)、連帯保証人制度、個人保証の廃止を含めた見直しを進めます」と謳っているのだから、言及は不思議でもないし、これまでも首相は法人税引き下げにたびたび触れてもいるが、実施時期に言及したのは初めてではないだろうか。
《首相、法人税来年度引き下げに意欲 所得税最高税率引き上げ検討も》(MSN産経/2010.7.6 23:31 )
菅首相「今年暮れには来年度の税制のトータルの絵を政府税制調査会で出す。その中に盛り込まれる可能性は十分にある」
これは、〈早ければ来年度からの実施を目指す考えを示した。〉ものだという。
菅首相「今法人税率が他国に比べて少し高い。間違うと工場が(海外に)移ってしまう。日本の中でしっかりと雇用を守るためには、高い水準ではまずい」
日本の現行の法人税率は40%。税負担をさらに身軽にして、国際競争力に振り向ける。
記事は首相の狙いを、〈「少なくとも2、3年先」としている消費税増税に先行して法人税引き下げを実現し、経済成長を促す姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。〉としている。
同じ6日の日本テレビ番組では所得税の現行40%の最高税率引き上げを検討する意向を示したという。
菅首相「所得再配分機能が低下している。・・・・(消費税と)連動する議論が必要ではないか」
要するに所得税の課税比率を上げて、低所得者の消費税負担とのバランスを取るということなのだろうが、では、消費税増税の場合の年収別税還付はどうなったのだろう。
どうもマニフェストで並べた料理を説明するのに場所を変えた先々で思いついた料理を取り出しては最初の料理の説明不足を補おうとするのだが、どれもつまみ食い程度の説明で終わっている印象をどうしようもなく受ける。
だから、釈明する必要が生じる。
〈自ら提起した消費税増税が参院選の最大の焦点となったことについて〉――
菅首相「やや唐突に受け止められたのはちょっと申し訳なかった。・・・・責任を持った政党は議論に入っていただけるのではないか」
だったら、「参院選が終わったなら、国民が十分に納得のいく、消費税を含む税制の抜本改革のあるべき具体像を描く超党派協議を各党に申し込み、承諾され次第開始したいと思います」で十分だった。
同じ「MSN産経」の別記事――《「法人税来年度下げ」首相発言 実現に疑問符 財源捻出が課題》(2010.7.7 00:22)が題名どおりに首相の法人税引き下げ発言に関して、その実現性にクエスチョンマークをつけている。
〈菅直人首相が所得税の最高税率の引き上げに続き、法人税率の引き下げを来年度にも実施する意向を示した。選挙戦で消費税増税を争点にしたものの内閣支持率が凋落(ちょうらく)する中で、産業界が強く期待する法人税減税を慌てて持ち出した格好だ。ただ、巨額の税収減をどう埋めるかといった課題も多く、実現に向けて首相が指導力を発揮できるかどうかはみえてこない。〉――
かなり疑いの目で見られている。ちょっと甘いのではないのか、甘菅・・・ということなのかどうかは分からない。
日本の法人税の実効税率は40%超で、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均26・3%。国際競争力確保策として菅政権発足後に政府がまとめた新成長戦略に法人税を「主要国並みに引き下げる」と明記。経産省が法人税「5%引き下げ」の明記を要求。対して財政再建を優先する財務省が反対。具体的な税率に踏み込めなかったと記事はこれまでの経緯を解説している。
菅内閣が発足したのは6月8日、日が浅いことを差引いたとしても、少なくとも具体的な税率提示に菅首相の指導力は及ばなかった。
法人税率を5%下げると1兆円もの税収が失われるという。1%で2000億円。確か消費税1%増税で2兆5千億円程度の税収増ということだったと思うが、「自民党案10%」、「自民党案に右へ倣え民主党案」同じく10%なら、+5%で12兆5千億円。法人税5%下げが余程の景気回復につながらなければ、12兆5千億円の予定金額は巨額の赤字解消・財政健全化に捕らぬ狸の皮算用となる。
法人税引き下げの税収減を特定業界を優遇する租税特別措置(租特)の廃止・縮小などで補う考えを示したということだが、〈昨年末の税制改正では、各業界の反対もあって、租特廃止などによる財源捻出(ねんしゅつ)はわずか1千億円程度にとどまった。〉ということなら、あと9倍の指導力が菅首相には必要になる。期待可能な指導力なのだろうか。
記事は最後に最大のクエスチョンマークで以って締め括っている。
〈今回の発言は、減税を歓迎する産業界へのアピールの側面も強く、首相の言葉通り、来年度にも実施される保証はなさそうだ。〉――
「今法人税率が他国に比べて少し高い」から下げる。だが、確か社民党の福島党首だったと思うが、テレビで日本の法人税は決して高くないと言っていた。この高くない理由を「毎日jp」記事――《選択の手引:10参院選 成長戦略 法人減税の大合唱 応分負担、視点欠ける》(2010年7月3日)が解説している。
日本の法人税は約40%(実効税率)だが、欧州連合(EU)各国やアジア諸国では20%台まで引き下げが進んでいる。「このままでは日本企業の競争に不利」となる。
民主党 ――「国際競争力と対日投資の促進」を目的に引き下げ
自民党 ――「国際的整合性の確保」を目的に20%台への引き下げ
公明党 ――引き下げ
新党改革 ――25%引き下げ
みんなの党――20%台
立ち上げれ――10%台
民主党は政権党でありながら、目標値を示していない。政権党としての指導力・責任能力を兼ね備えているからに違いない。
記事はだが、企業の社会保険料負担分も加味して比較すると「決して負担は重くはない」との側面が生じると書いている。
主要国の1月現在の法人税の実効税率(国税の法人税、地方税の法人事業税などの合計)
日本――40・69%・・・国税分30%は99年以来据え置かれたまま
米国――40・75%
英国――28・00%
中国――25・00%、
韓国――24・20%
欧州――04年のEU加盟国の拡大と資本移動の自由化で企業の国外移転を防ぐため税率引き下げ競争が起
きた。
但し記事は、〈研究開発費の一部を控除する「試験研究費税額控除」や、国境を跨いで活動する企業が他国に支払った税額を控除する「外国税額控除」などの減税制度があるため〉、〈実効税率と実際の税負担との間には大きな開きがある〉としている。
税理士の菅隆徳氏(第一経理グループ)による07年3月期の実際の税率調査。
トヨタ ――30・5%
ホンダ ――32・1%
三菱商事――20・1%
三井物産――11・4%
理由は、〈自動車メーカーは試験研究費が控除され、商社では外国税額控除が実際の税率を軽くして〉いるためだという。
加えて、日本の企業は社員の社会保険料の負担が国際比較で相対的に軽いために税負担と合計した場合、法人税率をただ単に機械的に当てはめた程の重税感はないとしている。
財務省がまとめた企業の利益に対する法人税と社会保険料の負担の国際比較(06年3月)(図)
自動車製造業
英国 ――20・7%
日本 ――30・4%
フランス――41・6%
ドイツ ――36・9%
〈社会保障の手厚い欧州の一部と比べれば、まだまだ「身軽」という日本企業の財務構造も浮かび上がる。〉と記事は書いている。
いわば日本の法人税40・69%が実効税率と言っていても、見せ掛けの数値に過ぎないことになる。
これに他国と比較した日本の自動車の売り上げを加えたなら、少なくとも日本の主たる外需産業である自動車産業に関しては国際競争力は低いと言えるのだろうか。
尤も電気産業は薄型テレビやその他の電気製品では韓国勢に押されていると聞くが、法人税の問題だけだろうか。
記事は二人の経済専門家の声を載せている。
第一生命経済研究所・熊野英生主席エコノミスト「法人減税、消費増税ならば福祉国家としては奇妙なあり方になる。企業の活動実態に応じて課税する外形標準課税の導入など、法人税の課税ベースの拡大も必要になるのではないか。・・・・減税だけで成長するわけではない。企業の余裕資金を前向きな投資に振り向けさせる政策が必要だ」
中央大法科大学院・野村修也教授「企業の活力を引き出すためにはさらなる規制緩和が必要。このままでは税率引き下げだけの小手先の成長戦略に終わりかねない」
そして記事の纏め。
〈一律の法人減税ではなく、新たな分野への資金流入と成長を妨げない規制緩和が求められている。〉――
もし民主党や自民党、その他の野党の「国際競争力確保」を名目とした法人税引き下げが正しい政策だとするなら、「試験研究費税額控除」や「外国税額控除」などの減税制度、さらに外国と比較した軽い社会保険料負担等を加味した場合の法人税の実勢課税率をさらに低くして国際競争力をなおのこと高める目的からの引き下げと言うことになる。
消費税を増税した場合、これは一方的な大企業優遇とならないだろうか。
どちらが正しいか経済の素人には分からないが、しかし法人税引き下げを言う場合、単に法人税率を並べるのではなく、企業の税負担の実際の姿を説明すべきであろう。
何ら説明しないままに法人税率を並べて、日本は高い、高いと言っている。これが日本の政治の説明責任なのだろうか。
経済のド素人ではあるが、どうしても法人税を下げる必要があると言うなら、単に税率を下げるのではなく、各企業の法人税額が決まった段階で軽減された法人税額に見合う新株をそれぞれの企業に発行させて、それを政府が買い取る形とする制度は意味はないだろうか。
いわば一種のペーパー取引を行う。
勿論新株発行と売買にそれなりに経費はかかるが、それを前以て差引いた新株発行とする。企業から見た場合、新株発行と売買の経費は差引かれるが、法人税の軽減額の大部分は軽減されたままとなる。税金として取られるわけではない。
政府は単に税収が減るというだけで終わらずに、株券として残る。企業の経営が上向けば、価値がプラスされるし、株主配当として何がしかを得ることもできる。株の価値が相当上がって買い手数多となれば、将来的には売って、税収減を補うこともできる。
例え政府が買い取った株券のうち、企業経営が悪化、倒産等で価値がゼロの紙切れ同然となる株券が生じたとしても、元々税収減となる、“ないカネ”だっただから、問題はないはずだ。
民営化した日本郵政の株式を政府が3分の1とか保有する方針だということだが、それが許されるなら、法人税減額分の株式を発行させて、それを保有しても不都合はないと思うが、素人考えということなのだろうか。
株発行が大量化して、市場価格が相対的に下がる恐れが生じるのだろうか。
意味もない無効な考えだから、日の目を見てないということなのかもしれない。
《菅首相「大借金作った責任、民主党にもある」》(YOMIURI ONLINE/2010年7月5日20時18分)
菅首相の昨6月5日の松山市の街頭演説――
菅首相「消費税の話は好きで言っているのではない。860兆円の大借金を作った責任は、自民党にも公明党にも(あるが)民主党にも、なにがしかの責任はある。財政健全化する道筋を(各党)一緒になってつけたい」――
財政再建の超党派協議の提案である。何だか、何でもかんでも超党派協議に持っていこうとしているようだ。ではなぜ、郵政改革法案も、ゆうちょ銀行の預入限度額の1千万円から2千万円への引き上げ、そしてかんぽ生命保険の保険上限額も1300万円から2500万円への引き上げに野党や金融界、党内からも色々と反対や異議申し立てがあったのだから、超党派協議を経た案としなかったのだろうか。
参院選を急ぐ必要から会期延長を求める野党の反対を押し切って通常国会を会期どおりに閉幕したため郵政改革法案の国会上程は先送りされたが、今後とも超党派協議は予定はしていまい。何となく責任分散を図るご都合主義な超党派協議に見える。
普天間基地移設問題、日米合意も改めて超党派協議とすべきではないだろうか。社民党、共産党は辺野古現行案に反対している。面白いことになるのではないか。社民党は消費税増税と財政再建の超党派協議を受入れる交換条件に辺野古移設案と日米合意の超党派協議を要求すればいい。
決まったことだからと断られたら、自分たちの都合のいいことだけ超党派協議を持ちかけると、そのご都合主義を批判すればいい。
記事は同日の〈高松市での街頭演説では消費税問題に全く触れなかった。〉と書いている。
同じ場面を扱った「MSN産経」記事――《菅首相「民主党にも財政悪化の責任」》(2010.7.5 12:56)
菅首相「(国、地方の長期債務残高で)860兆円の財政危機を作ってしまった責任は自民党にも公明党にある。もちろん、民主党にもなにがしかの責任はある」
そしてギリシャの財政破綻を引き合いに出して――
菅首相「消費税の話は好きで言っているのではない。(各党と)一緒になって財政を健全化する道筋をつけたい」
ここまではほぼ同じ扱いだが、〈首相は財政悪化の責任を自公政権にあると強調することが多かった。しかし、4日のテレビ討論で各党から激しい批判にさらされた結果、民主党政権の責任にも触れる形で批判のトーンを和らげた格好だ。〉と、これまでの発言とは違うことを指摘している。
《各党首のテレビ討論要旨-参院選》(時事ドットコム/2010/07/04-18:57)は菅首相の国の借金についての次のような発言を伝えている。
菅首相「この11年間の自公政権で220兆円の国の借金が積み上がった」
第一番の責任は成果・非成果とした政権党にある。断るまでもない事実であろう。数の力で自分たちの政治を推し進めてきた。その結果の「この11年間の自公政権で220兆円の国の借金」であり、「860兆円の財政危機」の成果であろう。
だが、事実はそのとおりであっても、民主党はそのような危機的な財政状況を正すべき政治の一つとして国民に政権交代を訴え、国民もそれを正して欲しい政治の一つとして政権を民主党に負託した。
2010年民主党参院選マニフェストにも、「強い経済・強い財政・強い社会保障」と題して、〈ムダづかいと天下りを根絶し、財政を健全化させます。〉と約束している。
具体的には、「2015年度までに基礎的財政収支赤字(対GDP比)の2010年度の1/2以下」にすることを中期目標に掲げ、「2020年度までに基礎的財政収支の黒字化達成」と、「2021年度以降において長期債務残高の対GDP比の安定的な低下」を長期目標としている。
6月8日の菅首相の記者会見でも、「日本の経済の立て直し、財政の立て直し、社会保障の立て直し、つまりは強い経済と強い財政と強い社会保障を一体として実現をすることであります」と経済の再建と社会保障の再建と同時に財政の再建を一体的に行うと約束している。
また6月11日の第174回国会所信表明演説でも、 「国民が未来に対し希望を持てる社会を築くため、経済・財政・社会保障を一体的に建て直します。90年代初頭のバブル崩壊から約20年、日本経済が低迷を続けた結果、国民はかつての自信を失い、将来への漠然とした不安に萎縮しています。国民の皆さまの、閉塞状況を打ち破って欲しいという期待に応えるのが、新内閣の任務です。この建て直しは、『第三の道』とも呼ぶべき新しい設計図によるものです」と、「経済・財政・社会保障」の一体的再建を「新内閣の任務」だと、政権を担った以上当然なことだが、明確に位置づけている。
「第三の道」とは、「経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげようとする政策」だと言っているが、政治に素人の一般国民にはよく理解できなくても、本人には確かな設計図が出来ているはずである。
また、確かな設計図を描かずに言っているとしたら、無責任となる。
いわば民主党政権は自民党政治、あるいは自公政権が危機化させた財政の再建を請け負ったのである。
当然、日本の財政の爆弾となっている「860兆円」を解消する責任の所在は民主党政権にあることになる。菅首相がその内閣を現在担っている。責任の中心人物は菅首相だということである。
と言うことなら、事実を批判することよりも、自身が描いている財政再建の設計図、道筋をこそ、党首討論、もしくは街頭演説で国民に分かりやすく具体的に説明すべきであろう。
勿論、その設計図に消費税増税が欠かすことができないアイテムだということなら、増税による国民生活への影響と、税収増をどこにどう使って、どういうふうに財政再建、もしくは経済や社会保障の一体的再建に役立てるか、その成果が増税による国民生活への影響を上回ることの説明を行い、党首討論なら、その説明を他党首の正否の批判の対象とする議論を行い、街頭演説なら、そういった趣旨に則った演説の形とすべきではないだろうか。
重点を置くべきは財政再建の責任の所在(借金解消の責任の所在)であり、政権を担った以上、それを明確に自らに課し、その設計図の具体的な説明を行うことであるにも関わらず、党首討論にしても街頭演説にしても、どちらが悪いのか、悪くないのかの責任の所在を問う議論、もしくは演説を優先させ、解消の責任の所在は明確に自覚していないようだ。
この点に関しても、菅首相は“甘菅”を演じているようだ。
消費税に関して言うなら、一般的な国民であっても十分に理解できる具体的な設計図の具体的な説明がないままだから、「朝日新聞」の世論調査だが、「消費税の引き上げをめぐる菅首相の一連の説明や対応を、評価しますか。評価しませんか」といった質問が必要になるのだろう。
調査結果は、「評価する」21%(前回調査30%)、「評価しない」63%(前回調査50%)となっているが、これは説明責任の問いと重なるはずである。
いわば首相や閣僚は二言目には「説明責任、説明責任」 とバカでもチョンのように言うが、菅首相は消費税に限った説明責任を実際には満足に果たしいないと多くの国民は受け止めていることになる。
ところがこの質問の仕方に「弁護士業」として約80万7千円を昨年1年間の事業所得に計上、閣僚の自由業への従事を原則禁止した「大臣規範」に抵触する疑惑を抱えた仙谷官房長官がクレームをつけた。
《「世論調査、メディアの設問に問題」仙谷官房長官が苦言》(asahi.com/2010年7月5日22時1分)
昨6月5日の記者会見――
仙谷「(首相の)説明の仕方が良いとか悪いとかいうところで評価するのは、ある種の(責任)回避的傾向だ」
仙谷「メディアが消費税、財政、社会保障問題のポジション(立場)をちゃんと言った方がよい」――
記事は、〈報道機関はこれらのテーマへの主張を明確にした上で、首相発言などを取り上げるべきだとの認識〉を示した発言だとしているが、要するに報道機関は内閣が提示するそれぞれの政策に対して報道機関自らの主張を提示せずに「(首相の)説明の仕方が良いとか悪いとか」を世論調査で問うのは「責任回避」に当たると指摘したということなのだろう。
しかしこのことは関係ないことではないだろうか。報道機関がある政策に関して自らの主張を示した上で首相発言が満足に行われているかどかを取り上げたとしても、国民の判断は報道機関の主張を基本とするのではなく、首相自身の説明を基本とするだろうからからだ。
肝心なのは政策作成者のその政策の必要性、社会的・経済的効用性の国民に対する直接的・間接的説明であって、その説明に国民が理解してこそ、自らが抱える説明責任を果たしたことになる。
いわば国の借金を解消する責任の所在と同様に説明責任の所在は内閣の責任者たる首相が第一番に握っているということである。
野党のときはこの手の世論調査の設問を良しとし、与党になると、悪いとする。あるいは支持率が高い間は良しとし、支持率が下がった局面では設問の方法を悪いとする。自己都合なダブルスタンダードではないのか。菅首相の“甘菅”ぶりも相当なものだが、仙谷官房長官のご都合主義も相当なもののようだ。
世論調査で内閣支持率をまた下げた。《内閣支持続落45%、比例投票先・民主3割切る》(YOMIURI ONLINE2010年7月5日00時07分)
読売新聞社の2~4日実施の参院選の第4回継続全国世論調査(電話方式)。前回調査は6月25~27日実施
内閣支持率
菅内閣を支持する――45%(前回調査50%)
支持しない――39%(前回調査37%)
参院比例選投票先
民主党に投票する――28%(前回31%)
自民党に投票する――16%(前回15%)
選挙区選投票先
民主に投票する――32%(前回33%)
自民に投票する――19%(前回16%)
財政再建や社会保障制度を維持するために消費税増税は必要か
必要――65%(同64%)
菅首相は十分に説明しているか
十分に説明しているとは思わない人――89%(同88%)
政党支持率
民主党――34%(前回37%)
自民党――18%(前回17%)
無党派――33%(同31%)
もう一つ、朝日新聞社3、4日実施の全国世論調査(電話)。《内閣支持率下落39%、不支持40% 朝日新聞世論調査》(asahi.com/2010年7月4日22時46分)
前回調査は6月26、27日。
内閣支持率
菅内閣を支持する――39%(前回調査48%)
支持しない――40%(前回調査29%)
参院比例選投票先
民主党に投票する――30%(前回39%)
自民党に投票する――17%(前回15%)
消費税増税に賛成か
賛成――39%(前回調査49%)
反対――48%(前回調査44%)
消費税反対者の内閣支持率
支持する ――30%(前回調査36%)
支持しない――50%(前回調査37%)
記事は、〈消費増税反対の人の離反が顕著だ。〉と解説。全体的に消費税が関係した支持動向ということか。
参院選で議席を伸ばして欲しい政党
民主党――26%(前回調査40%)
自民党――20%(前回調査17%)
みんな――10%(前回調査 7%)
連立を組むとしたらどの党がよいか
みんな――15%
自民党―― 8%
社民党―― 8%
国民新―― 6%
政党支持
民主党――30%(前回調査37%)
自民党――15%(前回調査14%)――
菅首相がマニフェストに掲げた「強い経済・強い財政・強い社会保障」の政策目標達成手段の主要な一つとして提示した消費税増税の一幕が招いた一つの、だが民主党にとっても、菅内閣にとっても無視できない上にダメージとなりかねない大きな結末である。
問題はその提示方法である。
6月17日発表の「2010参院選マニフェスト」には「早期に結論を得ることをめざして、消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始します」としか書いてない。
だが、発表記者会見の菅首相自らのマニフェスト解説発言の中では消費税増税に触れている。最初に「強い経済・強い財政・強い社会保障」を言い、日本の財政の状況が債務残高がGDP比で180%超、この水準で国債発行を続けていくと、あと数年、3年4年という数年の間にはGDP比で200%を超えることが確実だと、日本の危機的財政状況を提示した。
これは一般国民に対して、特に中低所得層に対して生活をしていく上での一つの不安材料を提供したことになる。
続いて、あの“ギリシャの威し”である。「ギリシャの財政破綻から始まるヨーロッパの動揺は問題が決して対岸の火事ではなくて、我が国自身が財政再建を取り組まなければ、例えばIMFといった国際機関が我が国の主権と言うべき財政運営に、それこそ箸の上げ下ろしまでコントロールするようなことにもなりかねない。過去に於いて多くの国が、そういう経験をし、社会が非常に荒んだということもあるわけでございます」と、ギリシャの我が国への二の舞を印象づけた。
これも生活に対する不安材料の提供に当たる。いわば菅首相は不安材料から入っていった。
ギリシャの二の舞に陥らないために他国に頼らない、自分たちの力で「強い経済・強い財政・強い社会保障」を実現しなければならない。そして、「こういう道筋に持っていくために消費税について、これまでも議論を長くタブー視する傾向が政治の社会でありましたが、ここでは思い切ってですね、このマニフェスト、今申し上げたような形で書かせていただいたところであります」と、消費税増税を切り出している。
そのあとで、「今年度内、2010年度内にそのあるべき税収やあるいは逆進性対策を含む消費費税に関する改革案を取りまとめていきたい、今年度中の取り纏めを目指していきたいと考えております」と発言することで、「逆進性対策」と「今年度中の取り纏め」を考えているのであって、すぐ上げるわけではないと一応の安心材料を提供しているが、「逆進性」に関しては具体像を提示しているわけではなく、「今年度中の取り纏め」は「今年度中」の既定路線としていることの提示となって、実際には明確な安心材料とはなっていない。
続けて発言した、「併せて超党派の幅広い合意を目指す努力を行っていきたいと思います」は消費税増税の既定路線の再確認でしかなく、「当面の税率については自由民主党のが提案されている10%を一つの参考とさせていただきたいと考えております」は、具体的な「逆進性対策」を提示しないままの具体的な税率の提示となっているから、国民の多くは、特に中低所得層はそのまま+5%計算で生活への影響を予測したと考えられないこともない。
すべてが明確な安心材料を提示しないままの、逆に不安材料のみ提示した消費税増税となっている。
この6月17日マニフェスト発表記者会見での菅首相の消費税発言を受けた「朝日」と「読売」の共に6月21日付世論調査では、
「朝日」――増税率「10%」に関しては、「評価する」42%、「評価しない」46%
「読売」――「10%」発言を、「評価する」48%、「評価しない」44%となっているが、「評価」は税率が10%に上がっても生活に困らない層、「評価しない」は生活に困る層と見ることもできる。それが「朝日」の場合、大きく増税「反対」に振れたとみることができる。
やはり、マニフェスト発表以降の菅首相の言動が災いしたと見る以外にない。
マニフェストでは、「新たな政策の財源は、既存予算の削減または収入増によって捻出することを原則とします」と書いてはあるものの、散々言ってきたムダ削減については一言も触れず、捻出財源で予算をできる限り賄うとする以外、不足の場合は消費税増税をお願いするかもしれないとも言っていない。
マニフェスト発表記者会見で触れた消費税増税が影響して世論調査で支持率を下げると、6月21日に記者会見を開催。本人は消費税増税の正当化理由とするためと思ってのことだろうが、ここでも“ギリシャの威し”を用いている。
「こうした経済成長を支えるためには、強い財政が必要であります。日本の現状は、多くの方が御承知のように、債務残高がGDP比で180%を超えているわけであります。これ以上借金を増やすことが本当に可能なのか、あのギリシャの例を引くまでもありませんが、財政が破綻したときには、多くの人の生活が破綻し、多くの社会保障が、多くの面で破綻するわけでありまして、そういった意味では、強い財政は成長にとっても社会保障にとってもなくてはならない大きな要素であることは、言うまでもありません」――
国民は赤字国債を発行しないことには国家予算を組み立てることができないことを情報としている。それを「これ以上借金を増やすことが本当に可能なのか」と不安を煽り、“ギリシャの威し”を再度持ち出して、「多くの人の生活が破綻し、多くの社会保障が多くの面で破綻するわけでありまして」と不安を煽る。これは消費税を上げるぞ、消費税を上げるぞと声高に言っているのと同じ不安材料の提示の先行そのものに当たる。
そのため、次いで安心材料の提示を心がけたとしても、心がけただけの安心材料とはならない。
「そこで、この強い財政をつくり出すためにまず、第一にやらなければいけないことは、まさに無駄の削減ということであります。この間、こうした無駄の削減について手を緩めているのかというような御指摘も一部ありましたけれども、決してそうではありません。その証拠といっては恐縮ですが、その証拠には、このための事業仕分けに最も強力な閣僚を配置した。つまり、蓮舫さんにこの責任者になっていただいたこと、更には公務員人件費の削減には、玄葉政調会長を担当大臣となっていただいたこと、また、国会議員の衆議院80名、参議院40名の削減などは、これは政党間の議論が中心になりますので、枝野幹事長に特にこの問題を取り組んでいただく、こういう形で、徹底した無駄の削減は、まさにこれからが本番だと、そういった意気込みで取り組んでまいらなければならない」――
マニフェスト記者会見では触れていないことを支持率を下げてから持ち出したのだから、批判をかわす狙いをそこに見た国民も少なくないのではないだろうか。
09年11月に行った平成22年度予算の事業仕分け第1弾は目標額3兆円に対して事業の削減総額は6900億円。財源捻出効果1.7兆円の実績。2010年5月の公益法人など70法人・82事業を対象とした第2弾は、事業廃止により削減できる国費は約40億円の額で終わっていて、事業仕分けが限定的な効果しかない印象(=情報)を与えていることも、「ムダ削減」発言が安心材料とはならず、批判をかわす狙いだと受け止められても仕方のない証明とはなる。
菅首相は自党の参院選候補者の応援演説でも、不安材料となる“ギリシャの威し”を発し続けた。《低所得者 消費税分全額還付も》(NHK/10年6月30日 17時10分)
菅首相はカナダ開催のサミットから帰国後、6月30日から参議院選挙の全国遊説を再開。この日青森市、秋田市、山形市の順で街頭演説している。
青森市での街頭演説――
菅首相「あの総理大臣も、この総理大臣も、消費税を言って選挙で負けたので、選挙が終わってからにしたほうがいいと言う人もいる。しかし、ギリシャのように、財政破綻したら、まずいちばん弱い立場の人に被害が出る」
菅首相「消費税の話をしないで済むなら、話をしないまま、選挙に入りたいと思ったが、選挙が終わってから『いや実は』と言ったら、やっぱりおかしい。選挙が終わったら、正面からほかの党の人たちとも話をしようと言っている」――
このNHK記事は青森市内の街頭演説での年収に応じた消費税額分の税還付発言に触れず、秋田市の街頭演説で触れる内容の記事となっているが、今までの例からしても話の順番からしても、“ギリシャの威し”に続いた安心材料提示の税還付であろう。
秋田市内での税還付発言――
菅首相「年収が300万円とか350万円以下の人は、かかった消費税分は全額還付をするというやり方もある。あるいは食料品などの税率は低いままにしておくというやり方もある」――
しかし、青森市では「年収200万円とか300万円」、秋田市では「年収が300万円とか350万円以下」、山形市では「年収300万~400万円以下の人」と遊説場所によって還付対象の年収が違って、厚生労働省の「平成21年国民生活基礎調査」、「所得金額階級別にみた世帯数の相対度数分布」を見ると、400万円以下だと46.5%の世帯が該当することになり、テレビ・新聞も消費税を増税する意味を失うと伝えている。
自身の発言が新聞・テレビの解説付きでたちまち情報として全国に流れる、時として世界の至る場所に流れる情報化社会だということを厳しく認識していないらしい。認識が甘いということなのだろう。
折角税還付という安心材料を提示していながら、不安材料を提示した後の安心材料の提示である上に街頭演説の場所ごとに還付対象の年収に違いがあったのでは、与えた印象はいい加減、発言がブレている、無計画、信用できないといった負の印象を与えたとしても不思議はない。
それ以後、菅首相が還付対象の年収水準を口にしなくなったことも、あれは何だったのか、やはり議論した上での発言ではなかったのだ、じっくりと考えた上での発言ではなかったのだと多くの国民の不信を招いたに違いない。
だが、消費税そのものについての発言はやめることはできず、やめたなら、ブレている、トーンダウンだ、これ以上選挙に悪影響を与えることはできないと悟ったから口を噤むことにしたのかとマスコミから叩かれるのは分かりきっているから、同じ発言を続けざるを得ないが、別の不安材料を提示することになった。
《首相“ねじれでは物事決まらず”》(NHK/10年7月2日 18時32分)
7月2日の福井市の街頭演説――
菅首相「財政が破たんすれば、まじめに生活している人たちの社会保障が破壊される。そうしないために、選挙が終わったあと与野党を超えて話し合いをしようと申し上げている。・・・・借金をこれ以上増やさないための話し合いをしようとしたら、自分は知らないと、こんな無責任な政党に、いつの間に自民党や公明党はなってしまったのか。悪いのはどちらという話を超えて、政権交代した今だからこそ、先を見通した相談を始めたい」
菅首相「野党が躍進するような結果になったら、また参議院がねじれ構造になり、物事が決まらなくなる。日本は失われた20年を25年、30年に延ばしてしまうことになる」――
国民は例え民主党が参院選で敗れて「ねじれ構造」になったとしても、野党のどこかと連立を組めば、「物事が決まらなくなる」ことはない、「日本は失われた20年を25年、30年に延ばしてしまうことにな」らないという知識を情報として持っている。
それが「朝日」の世論調査の「連立を組むとしたらどの党がよいか」に現れたそれぞれの数値であろう。
菅首相の「ねじれ構造」発言が効果はなかったということは逆にその言動に不信を与えたことになる。言動に対する不信は政権担当能力への不信に直結する不安材料の提供に相当する。
昨4日日曜日、テレビ討論番組での党首討論で自民党以外の野党は消費税増税に反対した。自民党以外例え少数野党であっても、消費税増税反対で口を揃えて一大合唱すれば、国民向けの大きな情報となる。
しかも、公務員の給与カットとか国会議員の定数削減とか、無駄の削減、景気の回復が先と、菅首相と言っていることはほぼ同じだが、安心材料の提示を先にしている。
自民党の谷垣総裁の場合は、民主党のマニフェストをムダ遣い、バラマキであり、10%では追いつかない、自民党党案の10%以上の増税が必要だと印象付けて、差別化を図る作戦に出ている。
こう見てくると、菅首相は安心材料を上まわる不安材料を日本全国にバラ撒く独り相撲を取っていたことになる。
党首討論で菅首相は所得税の最高税率の引き上げや法人税の課税対象の拡大を検討する考えを表明したということだが、不安材料を先に提示してしまったあとでは、「オオカミ少年」と同じで、何も信用されまい。
その結末が「朝日」の世論調査での消費税増税に対する有権者の賛成・反対の逆転であり、「読売」の「財政再建や社会保障制度を維持するために消費税増税は必要か」で必要を65%とつけていながら、「菅首相は十分に説明しているか」では、「十分に説明しているとは思わない人」が89%のねじれた受け止めということではないだろうか。
悪い調査結果に菅首相は一人貢献してきた。
要するに消費税増税の提示の仕方が稚拙だったと言うことではないのか。自分では良かれと思って参考とした、“ギリシャの威し”を口にすればする程逆効果を生み、超党派協議を訴えれば訴える程、逆効果となったということではないのか。
いくら超党派協議を呼びかけたとしても、政策を実際に推進・実行する中心は政権党の民主党である。多数を占めている以上、民主党の意見が優先されるし、呼びかけられる野党から見た場合、手柄を先取りされる協議とならない保証はない。
消費税をどう提示するか、国民の消費税に対する考え方を読み取る自らの認識能力にかかっていたはずである。だが、読み取る能力に甘さがあるから、提示能力をも欠くこととなった。
“イラ菅”、“逃げ菅”と名誉ある称号を戴いているが、認識の甘さからすると、“甘菅”の称号をも付け加えなければいけないようだ。