北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

豪州海軍次期潜水艦選定、三菱重工中心の多国間国際分業体制での建造軸に調整か

2015-07-26 22:31:23 | 国際・政治
■そうりゅう型潜水艦輸出
 ロイター通信などによれば豪州次期潜水艦選定は三菱重工を中心とした多国間国際分業の方向で調整中とのこと。

 豪州海軍が現在のコリンズ級潜水艦の後継として検討する将来潜水艦、コリンズ級はスウェーデン企業の協力を受け建造されましたが、幾つかの事由により大きな欠陥を有する潜水艦として豪州海軍の課題となっています。一つはスウェーデン製潜水艦が元来沿岸作戦を軸に開発されたもので豪州海軍が求める広大な豪州大陸周辺海域を哨戒するには未経験の大型潜水艦建造が求められその技術面で途上部分があった点、もう一つは豪州国内に潜水艦建造の実績が薄くその工程などの面で技術未熟が完成した潜水艦性能を大きく制限したこと、というものがありました。

 これを受け、豪州海軍次期潜水艦選定は、豪州海軍が想定する広域哨戒能力を有する海上自衛隊の潜水艦に早くから着目しており、実際に野田内閣時代より本格的に日本への潜水艦供与を求める交渉を行ってきました。当初は、豪州海軍が環太平洋合同演習などで性能に注目していたという海上自衛隊そうりゅう型潜水艦の輸出は武器輸出三原則の観点から難しいとされてきましたが、野田内閣と政権復帰を果たした安倍内閣のもとで防衛技術移転三原則として再検討が為され、これにより海上自衛隊の潜水艦が第三国へ輸出される可能性が現実味を帯びてきたわけです。

 豪州海軍次期潜水艦選定は、実に総額500億ドル規模の契約となる見通しであった為、フランス企業やドイツ企業などが名乗りを上げており、しかしフランス海軍には原子力潜水艦の建造経験がある為広域哨戒任務に対応する通常動力潜水艦という建造ノウハウが大きいとは言えず、ドイツ製潜水艦に至っては2000t級潜水艦をそのまま4000t豪州の予算により拡大再設計するとの方針が定められていた為、日本製潜水艦が調達される見通しが立っていましたが、豪州国内の防衛産業維持への要望などが大きく、この点で幾度か頓挫してきましたのは既報の通り。

 今回報じられた内容は、イギリス企業でコリンズ級潜水艦の整備支援等を行うBAB.Lバブコックインターナショナルグループと、イギリス防衛産業最大手で世界最大規模の防衛産業であるBAEシステムズが、三菱重厚の潜水艦を豪州使用とし、併せて豪州国内の潜水艦建造能力整備と防衛産業維持に協力するとの指針です。実際、豪州では数千名規模の雇用を抱える海上防衛産業維持は大きな課題であり、現在の豪州アボット政権は潜水艦性能単体ではなく防衛産業維持と特に雇用維持を大きな選定要素とみなさざるを得ないとの見解を示しており、単純に性能と費用だけでは決定し得ません。

 この決定は、多国間共同事業とすることでリスク分散をおこない得る点、更に将来的に輸出に注力せざるを得ない防衛力再編が行われ失われる国内需要の基盤維持へ向けた輸出ノウハウや海外仕様装備の開発に関するBAEなどの進んだ体制を学びえるという利点はあるのですが、併せて技術流出防止の能力が充分であるのかという不安、更に多国間共同開発が結果的に試用と運用への理解の多元化を生むことで知識集約と共有が円滑に行えず錯誤と齟齬により開発長期化と開発費増大を呼ぶ可能性がリスクとしてあります。このため利点だけではなく未知数の分野が多いわけなのですが、長く結論がでない豪州海軍次期潜水艦選定が一歩前進した、とは言う事ができるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (8)
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