北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

UH-X開発は富士重工へ、陸上自衛隊新多用途ヘリコプター開発事業者決定

2015-07-18 23:44:06 | 先端軍事テクノロジー
■UH-X開発計画の再開
 防衛省によれば7月17日、陸上自衛隊多用途ヘリコプターUH-1Jの後継となる新多用途ヘリコプターUH-Xの開発事業について、決定したとのこと。

 UH-Xは富士重工業が開発企業となり、米国ベルヘリコプター社との共同開発により既存民間用ヘリコプターの改修により開発する事となりました。この事業へは川崎重工業とエアバスヘリコプターズの共同による新規開発、富士重工業とベルヘリコプター社による既存機の改造開発が防衛省へ提案書を提出し、二段階に分けての主要検証を行い、決定に至りました。

 総合評価方式により選定され、これは単に費用面などから選定されその後の運用に支障を来すような状況を回避する観点から行われました、具体的には以下の通り。実現可能性、納入に要する期間、機体の性能、陸上自衛隊に対する補給整備上のポリシー及び後方支援体制の構想、ライフサイクルコスト、国内生産技術基盤への寄与、国内外の民間市場への展開、以上7要素より決定されています。

 富士重工はベルヘリコプターのベル412改良型を、川崎重工は当初OH-1観測ヘリコプター改良型を原型とする案、続いてエアバスとの共同開発を目指しています。UH-Xは20年間で150機の取得をめざし、1機12億円という10名程度の人員を輸送する防衛用ヘリコプターとしては比較的安価な機体を志向していました。

 エアバスとの川崎重工による共同開発ですが、エアバスヘリコプターズは新型機開発の共同事業に関してEASA欧州航空安全機関にて認定製造場評価を得る必要があり、この点で川さk重工は着手へ手続的な問題がありました。川崎重工は現在エアバスグループの一員であるメッサーシュミットベルコウブローム社との間でBK-117を開発した経験がありますが、現在はボーイングのCH-47やアグスタウェストランドのAW-101等の生産や維持に携わっています。

 ベル412ですが、陸上自衛隊は1960年代よりベル412の原型であるベル204をHU-1Bとして運用開始して以来、HU-1H/UH-1Hとエンジン強化型の日本仕様であるUH-1Jを富士重工がライセンス生産し運用し続けてきており、陸上自衛隊航空部隊からは機械的原因での墜落事故事例が皆無、として非常に大きな信頼を勝ち得てきました。

 UH-X、ベル412からの考えられる改修として山間部や洋上での飛行へ対応すべく、エンジンの換装によるエンジン出力の強化と島嶼部防衛への対応へ洋上飛行へ対応するべく航法装置の強化や暗視装置装備下での運用へ対応する操縦席の改修などを可能な予算内での実施が考えられるでしょう。

 ただ、陸上自衛隊は新たにMV-22可動翼機を導入する事となっており、一機当たりの取得費用が83億円程度と当初の見込みよりも相当安価に調達可能となったようですが、それでも非常に多くの予算を必要とする事業です。そして対戦車ヘリコプター選定としてAH-1S後継機とAH-64D調達中止の代替や、OH-6D観測ヘリコプター後継機とOH-1調達中止の代替という事業へ臨まねばなりません。

 UH-Xの開発は、一時川崎重工へ決定しOH-1観測ヘリコプター設計を応用する形で安価に高性能の多用途ヘリコプターを量産し、OH-1の生産基盤応用や整備基盤応用などが見込まれていたのですが、要求仕様書画定への手続き上官製談合に定義される事案があった為、急遽停止し数年単位で棚上げされていました、その間にUH-1Jは16機を三ヶ年分一括調達したのちに発注が途切れた為生産ラインが閉鎖、急がれていた訳です。

 他方、これは防衛産業生産基盤維持という観点からは容易ではない提案ですが、予算が限られている現状、代替航空機が急遽必要という状況に鑑み、例えばアメリカ海兵隊のUH-1Yのように、既存のUH-1Jの機体を応用し、そのまま延命改修と双発化及び航法機能強化と全天候飛行能力強化というかたちで、UH-1Jを12億円程度かけ、UH-1JK、と改修する選択肢なども実はその可能性の可否を検討する必要はあったのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする