北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】ブラジル軍情報-空母アトランティコの延命とAF1スカイホーク近代化改修,JAS-39/F37配備開始

2022-06-07 20:22:54 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 南米の大国であるブラジルの独特といえる国防政策は日本の防衛政策を見る上での参考となる点があるのかもしれません。

 ブラジル海軍はAF-1B/A-4スカイホーク近代化改修型最後の一機を受領しました。これはエンブラエル社サンパウロ州ガビアオペイコト工場において4月21日に行われた式典です。ブラジル海軍は空母艦載機としてAF-1B/A-4スカイホークを運用していて、A-4は攻撃機ですが、ブラジルでは唯一のジェット艦載機で戦闘攻撃機として採用されています。

 AF-1B/A-4スカイホーク近代化改修は7機が対象であり、航法装置や火器管制装置と多目的レーダ装置の改良が行われています。この改修が決定したのは2009年、この時ブラジル海軍は12機を装備していましたが、複座型2機と単座型5機の近代化改修が決定しています、これによりAF-1B/A-4スカイホークは当面2025年まで延命されたこととなります。

 ただ、ブラジル海軍ではもともとAF-1B/A-4スカイホークを空母艦載機として運用していましたが、搭載していた空母サンパウロ、元フランス海軍空母フォッシュは2017年に退役しており、しかもA-4攻撃機も1997年にクウェート空軍から23機を中古取得したもの、これらは1977年に製造されたものでした。ブラジルには戦闘機用の空母計画はありません。
■中古A320を給油機へ
 ブラジル空軍は景気悪化で用途廃止となった旅客機を調達し改造するようです。

 ブラジル空軍は中古のエアバスA-320旅客機を8050万ドルで空中給油機へ改造します。これはブラジルの格安航空会社であるアズールブラジル航空が運用していたエアバスA-320-200旅客機2機を取得したブラジル空軍が、この機体の適切な運用方法を検討した結果であり、スペインのエアバス工場によりMRTT多目的給油機へ改修される事となった。

 MRTT多目的給油機は、給油機の他に人員輸送機や病院機としても転用できるといい、今回改造される事となるエアバスA-320旅客機はナローボディの中距離旅客機として1987年に開発された機体で、空中給油機の原型機としては小型です。しかしブラジルは国産のKC-390多目的輸送機の調達を下方修正したばかりであり、その補填となるものでしょう。

 A-320旅客機の空中給油機へ改修に8050万ドルを計上した訳ですが、並行してエンブラエル社はKC-390を当初のブラジル空軍28機導入予定から22機の導入へと大幅に下方修正しており、これはCOVID-19新型コロナウィルスによる経済悪化が指摘されていますが、急な方針変更は、エンブラエル社の業績にも無視できない影響を及ぼすことになります。
■空母アトランティコ
 ブラジルは一時期こそJAS-39を空母艦載機とする提案を受けていたほどですが唯一の空母の現状について。

 ブラジル海軍は空母アトランティコの延命に関してハブコックインターナショナル社との間で契約を成立させました。アトランティコは1998年にイギリス海軍のコマンドー空母オーシャンとして竣工しており、満載排水量は22500t、全通飛行甲板を有する事実上の強襲揚陸艦ですが、最高速力を19ノットに抑え商船構造を採用する事で建造費を抑えました。

 アトランティコは現在ブラジル海軍旗艦となっていますが、もともと商船構造である船体は老朽化が著しく、一方でブラジルには後継艦を建造する財政上の余裕はありません、そこでハブコックインターナショナル社との間で四年間の延命措置を契約しました、契約には老朽化部分の補修と共に運行管理システムの改良なども契約に含まれているとのこと。

 オーシャンを中古空母として取得したブラジル海軍ですが2000年にはフランスの空母フォッシュを取得し2017年まで運用していました、満載排水量は33670tでA-4/AF-1攻撃機を運用可能で、その前は1956年にイギリスからコロッサス級軽空母のヴェンジェンスを中古取得し2001年まで運用しており、中古空母の運用に就いては長い経験があるのです。
■JAS-39ブラジル到着
 ブラジルはJAS-39グリペン戦闘機をF-39として採用しています。

 ブラジル空軍が採用したJAS-39戦闘機の量産機が4月1日に2機揃ってスウェーデンからブラジルへ到着しました。ブラジル空軍は2014年にJAS-39グリペン戦闘機をF-39戦闘機として採用、36機の調達計画です。この調達に関して、スウェーデン製戦闘機採用のバーターとしてブラジル製輸送機をスウェーデンが購入するという契約が結ばれました。
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 AS-39/F-39戦闘機はナベガンデス港に運び込まれ、ナベガンデス空港において初飛行準備が行われました、そして離陸した戦闘機はそのままエンブラエル社サンパウロ州ガビアオペイコト工場に設置されたグリペン飛行試験センターにおいて最終点検を行い、初度作戦能力獲得まではガビアオペイコト工場におかれたのちに空軍へ配備されることとなります。

 サーブ社が製造するJAS-39戦闘機、ブラジル空軍が採用したのはグリペンEという改良型です。サーブ社ではブラジル空軍とともにブラジル海軍へも当初売込みを行っており、この際に提案されたのが、シーグリペン空母艦載機でした。この計画が実現していれば、スウェーデン初の空母艦載機開発となりましたが、空母型の開発は実現しませんでした。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ東部,セベロドネツク攻防戦-ウクライナ軍反撃に成功,陥落危機も質的優位な砲兵と残置斥候の威力

2022-06-07 07:02:32 | 防衛・安全保障
■臨時情報-ウクライナ情勢
 特科火力というものの重要性を我が国も人命や都市破壊で思い知らされる前に防衛力整備として再確認すべきかもしれません。

 セベロドネツクにおいてウクライナ軍が反撃に成功しているようです。一時は全体の八割がロシア軍制圧下にあったとされたセベロドネツクですが、半分までを奪還したとの発表もあり、戦時発表故に真偽確認は難しいのですが、ウクライナ軍反撃が成功している事だけは事実のようです。一時は救援へ向かった部隊が二重包囲され殲滅されるなど危機も。

 セベロドネツク市内は西方に蛇行する河川があり、ロシア軍はウクライナ軍増援を絶つべく橋梁などを爆破しましたが、渡渉可能な経路を通じセベロドネツクのロシア軍包囲部隊を攻撃しますが、この救援部隊が二重包囲され、もともとロシア軍はウクライナ軍出血強要を期し市街地への接近経路の防備を手薄としていた事を、不充分な偵察で作戦強行した。

 セベロドネツク二重包囲によりウクライナ軍が被った損耗の実数は戦後の戦史研究をまたねばなりませんが、しかし、ここでウクライナ軍はセベロドネツク市街から車両などを撤収させ、一連の行動は一見、両翼包囲を受けた際の後退行動に見えたのでしょう、ロシア軍はセベロドネツク市街中心部に侵攻し、掃討戦に移行、国防省は有利を発表しました。

 残置斥候の威力、ウクライナ軍は両翼包囲を受けると共に後退しつつ、しかし市内各所に残置斥候という後退の際に情報優位の為の情報収集部隊と、市街地での遊撃戦部隊を相当数潜伏させたようです、残置斥候や潜伏斥候は市街地では一部屋一部屋掃討しなければ、単に市街地を大規模砲撃しただけでは瓦礫が更なる潜伏拠点を造るだけで逆効果といえる。

 155mm榴弾砲を相当数、アメリカ始めNATO各国がウクライナへ供与していますが、この中には火砲に相応しい規模のエクスカリバー誘導砲弾が含まれていたのでしょう、GPS誘導砲弾などは潜伏斥候が正確な目標座標を送るだけで、特に市街地は装甲車両にとり道路外に退避できません、残置斥候からのリアルタイムの情報は市街戦を左右した構図です。

 ウクライナの戦況、しかし、当初の想像以上に考えさせられるのは砲兵火力の死活的な重要性です、セベロドネツク市街地から後退したウクライナ軍が反撃に成功しているのは、市街地への接近経路にある河川の橋梁が破壊された後も、ウクライナ砲兵火力が対岸以遠から市街地を火力圏内に収めている事です、火砲の数と性能が反撃を支えているのですね。

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