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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】イージスアショア代案とアイアンドームのTHAADリンク,NASAM防空システム

2020-09-21 20:10:33 | インポート
■週報:世界の防衛,最新の8論点
 今回の防衛情報はミサイル防衛や防空に関する話題を中心に議論してゆきましょう。

 防衛省はミサイル防衛専用艦の建造を検討中、来年度防衛予算概算要求に関わる報道の中でイージスアショア代替案が急浮上しました。これは日本本土を弾道ミサイル防衛から防護する陸上配備型イージスミサイル防衛システム“イージスアショア”のブースター落下問題に関連しての配備中止を受け、何らかの代替措置が必要とされる中での一案です。

 ミサイル防衛専用艦の他に、メガフロートなどの海上浮体構造物上にイージスアショアを建設する海上施設案、イージスアショアのレーダーアンテナ部分のみを陸に建設しブースター問題を抱えるミサイル発射装置のみを海上に置く分離案等が検討されましたが、海上施設案は攻撃や災害などへの脆弱性、分離案はデータリンクの問題から難色があったとも。

 イージス艦の建造費は高額ではありますが、ミサイル防衛専用艦は通常の護衛艦から不要となる対水上戦闘や対空戦闘能力等を割愛し、機関部なども簡略化した上で建造費を抑える事でイージス艦の半分程度に建造費を抑えられる見込み。運用担当や新しいイージスアンテナの整合性については全く未知数のまま、来年度概算要求に盛り込まれる見込みです。
■ラインメタルの印新工場
 ラインメタル社が機関砲に関する新工場をインド国内に建設を計画しています。

 スカイシールド35高射機関砲システムについてラインメタル社は8月、インドのウッタルプラデーシュ州に新工場を建設するとのこと。ウッタルプラデーシュ州ではビハラート重電機工業社が受け皿として名乗り出た。ラインメタル社では合弁企業立ち上げに意欲的であり高射機関砲に加え榴弾砲や戦車砲の現地生産を計画し、10億ドル規模の投資となる。

 スカイシールド35高射機関砲システムは自衛隊がかつて運用したエリコン35mm双連機関砲L-90の発展型、単銃身構造となったが装填装置の改良により毎分1000発を投射可能だ、35mm機関砲2門とレーダーによりスカイシールド35高射機関砲システムを構成、ミサイルとの連接も可能、機関砲ながらAHEAD調整散弾により高い防空戦闘能力を誇る。
■アイアンドーム睨むアメリカ
 アメリカは自衛隊の様な野戦防空システムの重要性を低く考えていますが、このほどイスラエル製ミサイルシステムとの間で興味深い動きがありました。

 イスラエル製アイアンドーム防空システムのアメリカ国内生産が開始へイスラエルのラファエル社とアメリカレイセオン社系列レイセオンミサイルディフェンスが合弁企業アイアンドームウェポンシステムズ社を8月、設立しました。アイアンドームはロケット弾などの同時攻撃を防ぐべく20連装発射器3基を基本とし1セット60発を即応弾とするもの。

 レイセオン社はアイアンドームを同社が製造するTHAAD終末段階高高度迎撃ミサイルと連接する構想で、THAADは射程250kmで中距離弾道弾等の極超音速目標を撃墜するシステムですが、対航空機や巡航ミサイル迎撃能力を有していないのが運用冗長性における問題点とされていました。アイアンドームの射程は20km、全く性格の異なるミサイルです。

 THAADとアイアンドームの連接では、THAADのAPY-2レーダー等を管制用に利用すると共にTHAADは弾道ミサイル警戒に特化、一方で高付加価値目標であるTHAADを防護する、若しくは野戦防空用として巡航ミサイルや無人機、攻撃ヘリコプターによる攻撃に備えるものとなり、例えば野戦防空システム整備が遅れるアメリカ陸軍には朗報でしょう。
■ドイツ軍IAMDS計画
 ドイツ軍は長らく緊張緩和を受けての軍備削減を続けてきましたが、がたがたとなった野戦防空及び戦域防空の再建に着手するようです。

 ドイツ連邦軍は8月14日、次期地対空ミサイルIAMDS計画へ技術提案書を各社へ要請したとのことです。IAMDS計画は都市部や策源地防空を担う戦域防空に加え戦術弾道ミサイル防衛を念頭としたものであり、この提案書にはIAMDS構成ミサイルシステムの開発及び試験と評価に加えて第一線への配備への生産費用等の見積もりも含むとのことです。

 MSEミサイルシステムが現段階では最有力視されていると考えられ、MSEシステムを開発したロッキードマーティン社とMBDAドイツ社が応募の意向を示しているとされます。このMSEのミサイル部分は航空自衛隊も採用しているペトリオットミサイルPAC-3であり、元々はMSEが既存のペトリオットミサイルシステムに適合したものがPAC-3という。

 ドイツ連邦軍には現在地対空ミサイルはスティンガー車載システムしか配備されていません、ペトリオットミサイルはPAC-1が中心であり既に全廃し韓国などに売却、ホークミサイルやローランドミサイルも既に老朽化により廃止されており、有名なゲパルト自走高射機関砲も機甲部隊縮小に併せ全廃され、MSEは射程30kmの重要な防空装備となります。
■ハンガリーNASAM導入へ
 AMRAAMを地上発射可能とした簡便ですが強力な防空システム、ハンガリー軍は旧ソ連製ミサイル後継に導入する計画です。

 ハンガリー陸軍はアメリカ製NASAM防空システムの導入へ10億ドル規模の契約を行うと8月12日に発表した。NASAM防空システムはノルウェーのコングスベルク社が主体となりアメリカのレイセオンと共同開発した防空システムでAIM-120-AMRAAM空対空ミサイル地上発射型というもの、システムはAN / MPQ-64により索敵し射程は30kmである。

 NASAM防空システムはハンガリー軍に装備される16基のソ連製2K12クラブ地対空ミサイルを置き換える。ハンガリー軍は冷戦時代にはワルシャワ条約機構の一員として旧ソ連製装備とその亜種の国産により国防態勢を担っているが、NATO加盟と共にロシアからの軍事脅威を受け徐々にその装備体系をNATO標準装備体系へ改めており今回もその一環だ。
■韓国版アイアンドーム開発へ
 韓国軍は首都圏を北朝鮮ロケット弾から防衛するべく新型のミサイルシステムを開発するとのこと。

 韓国国防省は8月10日発表の中期国防計画において韓国版アイアンドーム防空システムの開発を発表した。中期国防計画は2021年から2025年の国防多年度計画であり、この計画では近年増大する北朝鮮ミサイル脅威へ対抗するべく3600t型潜水艦と4000t型潜水艦の建造も盛り込まれ、検討段階ではあるも4000t型には弾道ミサイル搭載の可能性がある。

 アイアンドームは短射程地対空ミサイルだが即応弾が60発と多く、小型ロケット弾や砲弾を撃墜可能、元々はイスラエルがゲリラからの多連装ロケット弾攻撃から都市部を護るべく都市外縁部で撃墜させるための装備、韓国はソウル首都圏とその北部近郊の人口密集地域が北朝鮮からの長距離野砲やロケット弾射程に曝されており、その防衛を模索している。
■ストライカー装甲車にレーザー
 自衛隊の96式装輪装甲車は相変わらずですが車体に余裕あるストライカー装甲車へレーザー砲搭載計画が進められています。

アメリカ陸軍はM-SHORADストライカー計画としてストライカー装輪装甲車派生型であるレーザー防空システムの試験計画を決定したと発表しました。これはストライカー装輪装甲車にノースロップグラマン社製50kw級レーザー砲を搭載するもので、2億0300万ドルの契約、今回決定した計画では2021年後半から射撃試験などを開始するというもの。

 M-SHORADストライカーは2021年に完成し、2022年度には4両のM-SHORADストライカー小隊を編成しての実動実験に移行する。支援車両は4両で4億9000万ドル、試験車両ならではの非常に高価なものとなっていますが、量産時にはストライカー旅団戦闘団に配備され無人航空機は勿論、部隊に脅威を及ぼすロケット弾や迫撃砲弾等から防護します。
■EA-18Gに新型電子妨害装置
 EA-18G,実のところ自衛隊も当面はF/A-18Fを導入しその後にF-35を調達、その上でF/A-18FをEA-18Gに改修し中国無人機運用に対抗すべきと考えているのですが。

 アメリカ海軍はEA-18Gグロウラー電子攻撃機次世代電子妨害装置NGJ-MBの飛行試験を8月7日に開始したとのこと。飛行試験はメリーランド州パタクセントリバー飛行場に展開する海軍第23評価飛行隊により実施され、適合試験を実施、既に既存飛行ポッドに統合化しており技術的要点も完成している事から早ければ今年秋にも量産開始となるもよう。

 NGJ-MBは主契約企業がレイセオン、現行のAN/ALQ-99戦術妨害システム後継という位置づけであり、この評価試験にはアメリカ海軍と共にオーストラリア空軍にも資する、とアメリカ軍担当者は説明した。EA-18Gはアメリカ海軍の主力電子戦機で空軍支援にもあたる。第23評価飛行隊では、三電波帯域での電子妨害を今後順次評価試験を行うとされる。

 EA-18Gグロウラー電子攻撃機はNGJ-MBの搭載により防空システムは勿論個々に運用される小規模な独立戦術防空システムや通信ネットワーク網をも無力化できる体制を目指す。オーストラリアはEA-18Gこそ導入していないがF/A-18Fを運用中であり将来発展性を見越しEA-18Gと同等の電子配線冗長性を盛り込んでおり電子戦機へ改修が見込まれている。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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