北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

AH-64D訴訟最高裁判決で富士重工勝訴、調達一方中止の国に351億円支払い命令

2015-12-21 21:05:31 | 国際・政治
■AH-64D訴訟
 富士重工AH-64D訴訟において最高裁は17日、富士重工の訴えを認めた東京高裁の判決を支持し、国に351億円の支払いを命じました。 

 AH-64D戦闘ヘリコプターは陸上自衛隊がAH-1S対戦車ヘリコプターの後継機として導入を決定し、富士重工がライセンス生産により納入する事となりました。陸上自衛隊は96機が富士重工によりライセンス生産されたAH-1Sの後継として62機のAH-64Dを導入する方針を示し、富士重工はボーイング社よりAH-64Dのライセンス権を購入、更に自社工場に製造設備を整備すると共に、必要なレーダー等各種有償供与品62機分を発注しました。

 しかし、陸上自衛隊は2002年より導入を開始し、五年間で10機を調達し2007年を以て調達修了を宣言し、ボーイング社より富士重工が購入した部品費用と富士重工が工場整備に要下費用を支払わない事を決定し通知しました、この費用は数百億円に達するとされ、富士重工側が訴訟により国から賠償を求めるとしました。当初国はこの費用を2008年度予算として3機を648億円で調達する方策を検討しましたが、財務省により却下され、このAH-64D問題がAH-64D訴訟として法廷の場で判断を仰ぐこととなります。

 第一審の東京地裁判決では富士重工の訴えを退ける判決が出された為、富士重工はそのまま東京高裁へ控訴、高裁判決では富士重工の訴えを認め国に、有償供与品の富士重工調達費用と生産設備整備費用の351億円を支払うよう求める判決を出したため、今度が国が最高裁判所へ上告、最高裁は国の訴えを退け東京高裁の判決を支持する決定を出し、ここにようやくAH-64D訴訟は富士重工の勝訴となりました。

 国が62機の調達を求めたが、10機へ一方的に縮小したことで損害が生じ、この支払いを求めた、ある意味訴訟は当然のもので、最高裁の判断も当然といえました。ただ、陸上自衛隊の装備は、例えば戦車900両体制を年頭に設計された10式戦車が完成後戦車定数が300両となった事例、89式装甲戦闘車も当初は350両程度調達する計画が68両に縮小され87式自走高射機関砲も170両程度の調達計画が52両に、250機を調達する計画があったOH-1観測ヘリコプターも38機で生産終了、F-2支援戦闘機も130機の調達計画が98機で終了となるなど、急な計画変更により防衛産業が振り回される事例が後を絶ちません。

 一つの背景として、AH-64Dについては北朝鮮弾道ミサイル実験を受けての弾道ミサイル防衛体制整備が国の施策として盛り込まれ、この為予算を増やせない状況下において一兆円規模のミサイル防衛網構築が求められたため、各種装備の調達費用が削られた、との説明も為されますが、私企業間にて他の案件が急きょ浮上した為契約打ち切り支払い拒否を行うことは認められません。例えば弾道ミサイル防衛については、その分の予算を中期防単位で一兆円計上する、補正予算で毎年2000億円を弾道ミサイル防衛を求めた政府が政治決定として五年間要求するという施策、があり得たはずでした。

 また、弾道ミサイル防衛整備費用がないのであれば、ミサイル攻撃からの避難方法の国民への周知や、政治決定としてミサイル防衛予算を確保するかミサイル攻撃を耐えるべきかの世論に問う選択肢は有り得ましたし、既存装備のF-2支援戦闘機やAH-64D戦闘ヘリコプターを調達しミサイル施設を航空攻撃により撃破する策源地攻撃へのシフトなど、代案はありました。また、一旦調達した上で、中古装備品としての転売を行うための法改正を行うという選択肢もあったのです。

 防衛計画は、脅威の動向変化等により柔軟に変化させる必要はありますが、これにより私企業へ不当な損害を与える事は認められません。防衛計画を画定したならば、必要定数と運用期間を明確化し、必要定数の一括発注と運用期間中における整備支援契約を長期的に結び、その上で装備品の運用を進めてゆくべきなのですが、多年度契約に関する枠組みが未整備である故の曖昧な契約慣習が、今回の長きにわたる訴訟へ繋がった事に他なりません。国は防衛計画を画定すると同時に、その具現化には方針変更が死活的影響を及ぼすとの認識を持つべきでした。

 一方、AH-1S対戦車ヘリコプター後継機は空白のまま用途廃止機が出続けており、351億円を支払ったうえで新型機の契約へメーカーへ輸入部品と生産治具整備費用の一時負担を求めるのか、つまり富士重工がAH-64Dにより受けた係争状態と同じ轍を踏むリスクを更に重ねて求めるのか、新しい道を模索するのか戦闘ヘリコプターによる航空打撃力の必要性は今なお高く必要な装備品であるわけですから、AH-X選定においてメーカーと国の関係がどのように展開するか、注意深く見なければなりません。

北大路機関:はるな くらま
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航空防衛作戦部隊論(第二六回):航空防衛力、戦闘支援の列線整備能力と検査隊整備

2015-12-20 21:35:29 | 防衛・安全保障
■戦闘機の列線整備と検査隊
 前回F-35Bに脱線しましたが、F-15とF-2にF-4の戦闘機分散運用整備基盤について、コンテナへの整備機材事前備蓄方式ですが留意点が二つ、それは整備機材の予備機材調達予算と保管方法です、そしてもう一つどこまで整備するか、も。

 航空自衛隊は強大な中国空軍とロシア空軍の勢力に近接し、特に前者は我が国領域の一方的領有化と割譲を宣言し高射とは領土問題を抱えるほか冷戦期における対立の影響が残る、この中で自衛隊が保有する戦闘機数は欧州NATO諸国や豪州等太平洋地域の諸国と比較し充分な規模があり、周辺国空軍と比較し空輸能力と警戒管制能力や防空ミサイルの数的質的に特筆すべき点がある。

 我が国防空に際しては、その数的規模と質的規模の能力を最大限活かす事こそがその可否の分岐点にあり、我が国土に多数存在する空港を補助基地として運用、日本列島そのものを複合的な防空基盤とし戦闘機拠点基地を補完する、この為に、現在の航空団を大型航空団数個に再編し航空団隷下の飛行隊を分散展開させ、面での防空基盤を整備するべき、その為には分散する部隊へいかに補給と支援を維持し作戦能力を継続させるか、という視点で論述してまいりました。

 航空機整備、整備教育は航空自衛隊では浜松基地の第1術科学校において共通して教育を行います。浜松基地航空祭では第一航空団T-4練習機が多数配備されている旧浜松北基地が開放されるのですが、その滑走路向かい側に多数のT-4練習機等が置かれている様子が望見できます、旧浜松南基地で、そこが整備教育の総本山というべき第1術科学校です。この航空機整備も第一線部隊での航空機整備は列線整備と検査隊整備に大きく分ける事が出来る。

 この中で列線整備は、例えば航空祭などで展示される航空機が離陸準備を行い、離陸し飛行展示や編隊飛行を実施し、そののちに着陸し燃料補給を実施、兵装展示を行う場合は各種ミサイルや機関砲弾の補給を展示、その後少し間を置き再度離陸し大編隊や機動飛行を行う、この際に観客から見える位置にて行われている整備の様子が、誤解を恐れず説明すれば列線整備、ということ。

 検査隊整備は、定期整備と修理を担うもので故障航空機の再整備と復旧、工作小隊の支援を受ける事で、例えば機体にミサイル破片などを受け貫通孔が生じた場合、また機体が変形していないかのX線検査や超音波検査などを行う事が可能です。もちろん、大破した状態などでは復旧は出来ませんし、離着陸時に攻撃等を受け横転するなど損傷した場合等はメーカーによる重整備となります、しかし、それ以外であれば相応の復旧は想定しているようです。

 すると、臨時分屯基地での航空機整備は列線整備を行う程度にとどめるのか、航空団の整備補給群検査隊が実施するような第一線部隊での整備程度まで含めるのか、基地を臨時展開する際にどこまでの整備関連資材を輸送するかにより、その空輸規模と展開に要する時間が変わってきます。ここで難しいのは、列線整備部隊だけ展開した場合、基地に残される検査隊の位置づけで、この場合遊兵化しかねません。

 検査隊と共に整備能力を展開するか、ですが、臨時分屯基地と拠点航空基地、を明確に示し、一定以上損耗を受けた航空機は、多少困難があったとしても、陸路と海路を経て拠点航空基地へ移動するのか、若しくは暫定的に列線整備部隊のみを臨時分屯基地へ派遣し、その臨時分屯基地が72時間以上か96時間以上航空戦闘が散発的に継続し運用する場合には更に追加部隊として検査隊を派遣する、または航空団展開基地から基本は動くことなく、必要な修理部品を基地にて造成し、T-400練習機等有事の際には支援輸送に用い得る小型航空機により臨時分屯基地へ急速輸送する、という方式等が考えられます。

 整備機材の予備機材ですが、F-15戦闘機とF-2支援戦闘機にF-4戦闘機、航空自衛隊には三機種の戦闘機があります。もちろん整備機材には基本的な工具などで互換性を持つ器材は存在しますが、基本的に予備部品などの互換性はありません。この為度の機種の予備機材がどこに展開するという計画に基づき、どこに準備するか、という視点が必要となるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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陸上防衛作戦部隊論(第四一回):装甲機動旅団編制案の概要 後方支援部隊直接支援中隊

2015-12-19 22:00:13 | 防衛・安全保障
■後方支援部隊直接支援中隊
 装甲機動旅団後方支援、装甲機動旅団隷下の連隊戦闘団は機械化大隊と捜索大隊を基幹とし、機動運用能力を第一とする案を示しました。

 機械化大隊は戦車中隊と2個装甲戦闘車中隊、捜索大隊は軽装甲機動車中隊と対戦車中隊を基幹とする編成です。そこで問題となるのは、整備に関する負担が現在の普通科連隊編成、本土の師団普通科連隊であれば軽装甲機動車中隊に高機動車化された普通科中隊3個と重迫撃砲中隊という編成と比較し、装甲戦闘車が配備される分、負担が大きくなり、自隊整備には履帯換装一つとっても負担が大きく、火器管制装置等は電子整備部隊の支援が必要となります。装甲戦闘車と戦車を合わせ41両という規模となりますので、後方支援の重要性が大きくなる。

 89式装甲戦闘車派生型、と装甲戦闘車を提示しましたが、これがフランスのVBCI装甲戦闘車のような装輪式装甲戦闘車であれば、整備負担が低減します、打撃力は劣りますがストライカー装甲車や、現在開発中の将来装輪装甲車へ遠隔操作銃塔RWSを搭載する方式を採用するのならば、整備負担は多少低減します、が、不整地突破能力も大幅に低下しますので、整備負担か野戦能力か、という選択肢は後方支援を考えますと大きな課題となるのです。そこで、装軌車両については旅団後方支援部隊に輸送隊を重視し、C整備の間隔を大きくするという選択肢はあるでしょう。

 整備について、現在の自衛隊部隊編成をみますと、全般支援大隊として第二整備大隊がおかれ、第一整備大隊を各部隊へ随伴する直接支援中隊が多数置かれています、3個普通科直接支援中隊、戦車直接支援中隊、特科直接支援中隊、施設直接支援中隊、など。装甲機動旅団は機動運用の骨幹戦力に臨時編成の機械化大隊をあげていますので、改編としては戦車とともに火器管制装置を筆頭に電子装備と装軌車の足周りを持つ装甲戦闘車の整備支援も大きくなります。

 従って実際には普通科直接支援中隊と戦車直接支援中隊分遣小隊に特科直接支援中隊分遣小隊という編成を、連隊戦闘団へ配属する際には装軌車直接支援中隊、火器電装直接支援中隊、として分ける必要があります。この支援中隊の呼称、戦車を車体と砲塔に分けて整備する、と誤解を招く呼称ですが、そうではなく、戦車と装甲戦闘車を整備する装軌車直接支援中隊と、火力戦闘車や牽引砲と対戦車ミサイルに迫撃砲部隊などの中隊の車両と軽装甲機動車や施設中隊の支援を行う火器電装直接支援中隊、という枠です。中隊としては編成が小型すぎますが、補給小隊と輸送小隊の分遣隊を加え中隊規模と編成する。

 施設中隊の戦闘工兵装備は機械化大隊と協同しますので、装軌車直接支援中隊の支援下に収めることとします。いわば、突進し装甲防御を盾に打撃力を押しつける部隊の直接支援中隊と、突進する部隊の障害を前方の索敵と後方の火力支援で支える部隊の直接支援中隊、という区分にほかなりません。参考までにアメリカ軍では旅団に師団より前方支援大隊を起き、本部、整備中隊、補給中隊、衛生中隊、をおいています。整備中隊は旅団隷下の諸兵科混成部隊へ、2個戦車システム支援チーム、2個機械化歩兵支援チーム、をおいています。この編成は広域師団編成に参考とした部分が大きく、二つの支援中隊はアメリカ軍の支援チームを参考としました。

支援中隊ですが、中隊、とするには規模が小さいのではないか。こうした指摘はあるやもしれません。参考としたのはアメリカのシステム支援チームですが、我が国の整備小隊と比較し増強小隊規模ではなく複数小隊規模となりますので、小隊と中隊の中間、もしくは二個小隊基幹の中隊、というかたちとなります、この編成を中隊とするかが論点となるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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平成二十七年度十二月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2015.12.19/20)

2015-12-18 22:38:01 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
今週末、いよいよ年末という機運が高まる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 土佐清水分屯基地祭、今週末は四国南端のこの分屯基地にて開庁記念行事が行われます。通信部隊の基地dえ、立地も高知県土佐清水市下益野、要するに四国の南端部分に位置する航空自衛隊の分屯基地で福岡の春日基地分屯基地という位置づけで、ブルーインパルスが参加、ブルーインパルスの飛行展示は今年最後の行事となります。

 土佐清水分屯基地には土佐清水通信隊が展開していまして、これは九州と本州の航空自衛隊基幹通信網を補完すべく、和歌山県の串本分屯基地と宮崎県の新田原基地を結ぶ警戒管制多重通信網太平洋ルートと作戦用通信回線統制システム中継基地として1995年に開設されました、本州と九州を結ぶ基幹通信網と並ぶ重要な通信基盤を構成するもの。

 交通の便は、JR四国から土佐くろしお鉄道宿毛線に乗り換え中村駅にてバスに乗り継ぐというもので、中村駅からも直線距離で25kmと実質30km近くありお出かけの際にはご注意ください、通信施設ですが海岸から少し奥に入った場所にあり、南海トラフ地震においては標高も高いことから回転翼航空機発着拠点として防災中枢として想定されているようです。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・12月20日:土佐清水分屯基地開庁20周年記念行事…http://www.mod.go.jp/asdf/sp/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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大怪獣ガメラ 公開五〇周年特別企画【4】 未知への飛行! ヴィクターvsデルタダート空中決戦

2015-12-17 21:19:29 | 映画
■北極海ヴィクター機撃墜事件
 大怪獣ガメラ 公開五〇周年特別企画は今回が最終回です。ガメラ劇中で自衛隊は奮闘しました、予算不足で旧陸軍の11年式軽機関銃が現役であったり、L-19観測機で夜間索敵を命じられるも発見に成功したり、です。

 最終回の今回はガメラ出現の原因となった国籍不明機を検証しましょう。大怪獣ガメラ、自衛隊の頑張りですが、それは何故出現したのでしょうか。冒頭に謎の爆撃機が編隊飛行する様子から始まります、その様子を北極海調査中の我が国砕氷艦が発見、北緯84度24分東経176度58分にて国籍不明機発見、と米空軍へ通報T字尾翼、エンジンは主翼基部一体型双発、という形状の特性を有しています。機体には国籍表示が無く、米軍機の通信にも応答しなかったため、国籍不明機という表現が為されていました、北極海上空を四機で編隊飛行しており、迎撃に出動した米空軍機へ攻撃を仕掛けた為、一機が撃墜されてしまいました。

 迎撃へ向かったのはF-106迎撃戦闘機、愛称デルタダート、コンヴェア社が生んだセンチュリーシリーズの一員で、米空軍の防空管制システムと一体化し自動迎撃に近い防空能力を有している一方、多くの電子機器と武装を搭載し最大離陸受領19tという大型の機体ながらP&W-J75エンジンの強力な推力により成層圏での卓越した運動性を誇り、AIM-4ファルコン空対空ミサイル、そして第三次世界大戦での最後の手段といわれるAIR-2ジニー空対空核ロケットにより爆撃機を編隊ごと撃破する事も可能、航空自衛隊F-X選定の候補となったものの余りに高価な機体として実現しませんでしたが340機が生産され、うち180機が米本土防空専用機として北米北部にソ連爆撃機を想定し配備されていました。

 F-106が国籍不明機の攻撃を受けて反撃、そして墜落した爆撃機が地上に激突すると同時に核爆発を引き起こし、北極の氷塊に数千年以上閉じ込められていた大怪獣ガメラが、その影響により地上に出現したわけです。大怪獣ガメラとは、日本が北極調査を行った際に日本の調査団が現地人との調査の際、数千年前に存在した巨大な亀型の生物の存在を、太古の石版とともに知らされ、現地人の呼称“ガメラ”がそのまま正式名称として定着したかたちです、が、この爆撃機の墜落に伴う核爆発が無ければ出現しなかった訳です、そこでこの下手人というべき爆撃機の正体を考えてみましょう。

 小松左京の“見知らぬ明日”ではUFOに苦戦したF-106ですが、大怪獣ガメラでは国籍不明爆撃機の撃墜に成功しました、四機編隊の内核爆発は一回しか発生していないので三機は遁走した可能性もありますが。さて、その爆撃機の正体はどこの爆撃機でしょうか。1960年代、ジェット爆撃機といいますと場所が北極海で米空軍の迎撃を受けていますのでソ連の戦略爆撃機、という印象を受け易いのですが、1952年に初飛行しソ連軍に配備され今なお改良型が中国空軍の主力爆撃機の座を担うTu-16バジャー,1953年に初飛行を果たし高速度での飛行能力を誇るM-4バイソン爆撃機、1962年に部隊運用開始となったばかりのソ連発の超音速爆撃機Tu-22ブラインダー等、思い浮かぶのですが、どれも上記特性を満たしていません。

 T字尾翼でエンジンは主翼基部一体型双発の爆撃機、ソ連の爆撃機でそもそもT字尾翼の機体は実用機として見当たりません、長距離戦闘機である防空軍のYak-28ファイアバーならば、T字尾翼を採用しています、しかし双発エンジンは主翼に搭載されており主翼動態一体型の配置ではありません、Yak-28であれば、これは最大離陸重量20tという大型戦闘機で広大なソ連領土を防空するべく航続距離と滞空時間を最重要視した機体で、比較的航続距離も考慮されている機体なのですが、エンジン位置が合わない。しかし、ソ連機以外であれば、一機種思い当たる機体が、あります。

 ヴィクター爆撃機、ハンドレページヴィクター、レッドベアード戦術核爆弾等を搭載し高速で目標を核攻撃する、イギリスが誇る戦略爆撃機です。T字尾翼でエンジンは主翼基部一体型双発の爆撃機、そもそも主翼基部一体型エンジン配置はイギリスが生んだ世界初のジェット旅客機コメットでの経験があり、更に主翼配置は三日月翼と劇中の機体と一致、1952年に初飛行を果たし、1965年の大怪獣ガメラ公開時には、イギリス核爆撃航空部隊通称,バルカン、ヴァリアント、ヴィクターという“3Vボマーズ”の一翼を担っていました。そう、ガメラ出現原因にイギリスの影、イリスではありませんイギリスです。

 まさか、大怪獣ガメラの出現要因となった核爆発が、イギリスのヴィクター爆撃機によるものだったとは、ショックです。ヴィクター爆撃機は対戦闘機用の自衛武装を持たない戦略爆撃機だったのでは、と指摘があるかもしれません。劇中ではF-106の迎撃を受けたヴィクター爆撃機が後部へミサイルで反撃した事でF-106が反撃し一機が撃墜されたという描写があります、どう説明するか。

 この疑問へ一つの回答となるのが1982年のフォークランド紛争です。南大西洋のイギリス領フォークランド諸島へアルゼンチン軍が侵攻し勃発したこの武力紛争へ、イギリスは緒戦においてニムロッド哨戒機を派遣し情報収集に当たりましたが、この際にアルゼンチン空軍機を警戒しサイドワインダー空対空ミサイルを機体に簡易照準器と共に取り付け、武装した実例があります、実際に射撃されることはありませんでしたが、応急的に空対空ミサイルを搭載した、という事は必然的にその基礎となる運用研究を済ませていた事に他なりません。

 それにしても何故、イギリスのヴィクター爆撃機とアメリカのF-106が交戦するのか、と疑問に持たれるかもしれませんが、思い出していただきたいのは、ガメラと第7師団第2航空団夕張地熱発電所遭遇戦において、自衛隊の師団長が即座に在日米軍へ核攻撃を要請すると、在日米軍が夕張を射程圏内におく戦術核兵器を配備していた点、そして核攻撃中止後は冷凍作戦として東南アジアでのジャングル戦等を想定しジャングルを枯死させる目的で新兵器冷凍爆弾を日本が開発していた、ということ。

 そうです、昭和ガメラシリーズの世界は、もしかしたらば東西冷戦において日米が非常な苦境に陥っており、北海道での有事の際には即座に戦術核兵器を発射できる体制を維持するほどに緊張状態となっており、更に東南アジアへ自衛隊が派遣される直前の状況であるほどに緊迫化し、更にイギリスのヴィクター爆撃機が、つまりアメリカとイギリスの関係が非常に緊張していた、という仮説が思い浮かびます。仮説とはいえ大変なことになってきました。

 ただ、劇中は希望を持たせる大団円を見せます、結局ガメラを人類が保有する兵器で撃退する事が出来なかったため、たまたま米ソ共同でZ計画として人類の切り札となる新技術開発が偶然東京都島嶼部で進められており、これを応用しガメラに対抗することとなります、米ソが協力して日本でロケット開発を進める程度に緊張緩和している、というもので、北海道に向けられた同盟国の核ミサイルは緊張が高まっていた時期の名残なのかもしれません。

 すると、イギリスはどうなったか、そもそもZ計画はガメラ対策の切り札で、1000m級の超巨大ロケットを使用するという壮大な計画でした、詳細はネタバレとなりますので省きますが、その1000m級ロケットが何の目的で開発されていたのか、先端部分の弾頭運搬能力は2015年の今日で見ても実現困難な運搬能力です、何処かを攻撃する超巨大弾道ミサイルであったのか、一種の宇宙戦を想定した新兵器であったのか、謎は深まりますがそれを知るには半世紀の時間は長すぎたといえるでしょう。

 冒頭のヴィクター爆撃機がF-106に撃墜されるショッキングな幕開けから、ガメラが出現しなくとも非常に世界に危機が迫っていたことが窺えます、すると、東西冷戦ではなく南北冷戦、または第二次大戦の講和がこの世界と昭和ガメラの世界では異なり、欧州vs日米ソの冷戦となっていたのか、なるほど、昭和ガメラシリーズは考えれば考える程奥が深い、ということがわかります。いやあ、映画って本当に素晴らしいものですね、ではまたお会いしましょう。

北大路機関:はるな くらま
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大怪獣ガメラ 公開五〇周年特別企画【3】 超兵器パーシング1型400kt核弾頭と自衛隊秘密兵器

2015-12-16 21:26:28 | 映画
■ガメラ核攻撃!
大怪獣ガメラ北海道上陸、1965年時点で最強の戦車砲が通じず、航空攻撃も効果がない、じゃあ核兵器しか打つ手がないじゃあないか、というガメラ一作目の自衛隊の見解について。

パーシングⅠ、自衛隊の第一線部隊からの要請を受け即座に米軍が戦術核により射撃支援に当たる、劇中のアメリカと日本の信頼関係は今日の日米関係よりも遥かに良好であったことが窺えます、しかし、付随被害は甚大です、400ktという威力は命中精度、所謂半数命中界CEPが大きかった当時ならではの、命中精度の低さを威力で補うとの発想に基づくもので、仮に夕張駅付近で使用した場合400kt核爆弾の場合半径9km以内の全人員が爆風により致命的影響を被り、野戦司令部は安全圏へ退避する場合、25km先、石勝線沿線全域は危険で新夕張駅以南まで一旦後退する必要があったでしょう。なお、W50核弾頭はナイキXLIM-49A地対空核ミサイル用に60kt威力としたものもあるとのこと。

パーシングⅠミサイルのW50核弾頭により夕張駅付近のガメラを攻撃する場合、一時被ばくは3km先で時間被ばく量120ミリシーベルト、離隔距離25kmから30kmは必要で、西方は室蘭本線付近まで危険となり、近傍の長沼町や南幌町へ住民を退避させる必要が、北方は風向きによっては岩見沢市と三笠市が放射性降下物の危険域に、東方はシューバロ湖が核汚染危険域に入る危険性があります。大怪獣ガメラは危険であり、第七師団と第二航空団の航空打撃でも撃破出来なかった訳ですが、しかし自衛隊にはもう少し強力な武器があり、北千歳千歳駐屯地の第1特科団が当時装備していた203mm榴弾砲や68式280mmロケット発射機等を試すべきでした。さてここで一つお断りを、本稿では核兵器の写真が無く、ガメラと同じくらいの大きさの潜水艦の写真で代用とします。

1962年のキューバ危機からわずか三年、北極での核爆発に続き北海道での戦術核兵器使用準備、怪獣映画ですがそれ以上に世界の危機です。しかし幸い、専門家の、ガメラはエネルギーを動力源としている為核攻撃を行う事は逆にガメラに活力を与えより危険なものとなる可能性がある、との指摘により、第一線部隊指揮官が米軍へ核攻撃の中止を要請、パーシングⅠが北海道へ発射される事にはなりませんでした。順番としては、航空機からの2000ポンド爆弾や劇中では使用されなかった203mm榴弾砲等、より強力な爆弾や砲弾を使用するべきであった、と考えます。在日米軍に要請するならば、当時まだ現役のアイオワ級戦艦という選択肢もあったはずでして、406mm艦砲ならば貫徹力を含め効果が高そうです。

パーシングⅠ使用を中止し新開発の冷凍爆弾の出番です。ところで、昭和ガメラシリーズには、妙に危険な気配の装備品が出てきます。超兵器というと東宝の原子熱線砲を筆頭に66式メーザー殺獣光線車等円谷さんの十八番という印象ですが、大映の超兵器は生々しい。いきなり戦車砲とロケット弾が効果無かったのだから戦術核ミサイルが使用されようとする世界観、核ミサイルの引き金が軽いなあ、という世界、1950年代等は戦術核兵器が通常爆弾の延長線上にあるとの危機感がありましたが、1960年代半ばでは核兵器使用が見直され戦術核兵器のしようが水爆などの戦略核使用に繋がるとの懸念から、1963年には部分的核実験禁止条約により大気圏内核実験が禁止されたのちのこと。

冷凍爆弾、この用途も妙に引っかかります。ガメラは低温に弱い可能性がある、高温に強い生物は低温に弱い傾向があるから、との識者の意見を参考として、師団長は、実は自衛隊では冷凍爆弾が開発中だ、という機密情報を明かします。何故そんなものを、との問いに対し、熱帯地方での対ゲリラ戦を念頭にジャングルを一挙に枯死させることができるため、参考に開発していた、と冷凍爆弾開発の背景を明かしています。熱帯地方というと思い浮かぶのは東南アジア、ガメラが公開されたのは1965年11月27日です、ああ、時期的にそれは確かに極秘に開発するしかないなあ、となる。

実はその二週間前の11月14日にヴェトナム戦争激化の分岐点で米軍と北ヴェトナム軍最初の大規模衝突となったイアドラン渓谷遭遇戦が勃発、ヴェトナム派遣軍司令官ウェストモーランド大将はサーチ&デストロイ作戦を発動し、ジャングルに潜む解放戦線の補給路や北ヴェトナム正規軍への南ヴェトナム領内での無制限攻撃命令を発動し、ジャングル戦へ関心が集まっていました。勿論、現実の自衛隊は冷凍爆弾を開発していませんしヴェトナム戦争へも派遣していません、が、ガメラの世界では自衛隊はヴェトナムへ派遣されていたのかな、とも考えてしまいます。まさか、ガメラ上陸の混乱で判明した新事実にそんな話があったとは。

他方、やや話題は逸れますが、ガメラを攻撃した地熱発電所が羊蹄山付近、という表記を散見します、そういう指摘がありました、羊蹄山は倶知安付近で、夕張と倶知安ではかなり場所が異なります。実は劇中では地熱発電所を襲ったガメラを自衛隊が攻撃しますが、モデルとなった大型の地熱発電所が見当たりません、そもそも日本初の実用地熱発電所は1966年運用開始の岩手県松川地熱発電所でした。作品背景には地熱発電所が最先端技術、という世界観が反映されたのかもしれませんね。

その松川地熱発電所で発電量は2.3万キロワット、ガメラ劇中の地熱発電所、その発電能力が35万キロワットと1966年に運転開始となった東海第一原子力発電所の原子炉発電能力16.6万キロワットと比較し二倍近いという設定で、そもそも地熱発電所としてはけた外れの設定なのですが。しかし、第七師団司令部での概況説明に際し、地図が出てくるのですが、そこから場所を推測する事としまして、地図上でガメラは室蘭苫小牧襟裳岬の屈曲部より東部に進出しているのですね、ですから夕張付近と標定したのですが。

羊蹄山付近まで進出、というものは、上陸地点が襟裳岬ですので、襟裳岬より東進していた場合、帯広の第五師団管区に侵入することとなっていましたが、西進した事で第七師団管区へ入り、しかしここから倶知安の羊蹄山まで進出するには距離が大きすぎます。倶知安は第七師団管区ではなく第十一師団管区になりますし、襟裳岬から倶知安まで進出する場合は千歳恵庭札幌の直線を通過する事になり、全長で列車三両分と掃海艇並の巨大生物が陸上を移動したのに発見されないというのはいかにも不自然です。

事実、襟裳岬より上陸したガメラを航空偵察により発見していましたので、襟裳岬から人口希薄な地域を突破したとしか考えられない。ガメラが上陸したのは夜間ですから発見されにくい条件はあったかもしれませんし、ガメラが移動すると妨害電波が発生するという現象がありましたが、有線電話がありますし、更に襟裳岬から倶知安方面へ千歳恵庭札幌の南北を結ぶ地域を横断する場合は国鉄千歳線を横切り、架線切断により発見されるはずなのです。こうしたところから、本稿では夕張、としました。

北大路機関:はるな くらま
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大怪獣ガメラ 公開五〇周年特別企画【2】 F-86D、ジェット機出動第2航空団千歳基地

2015-12-15 22:20:03 | 映画
■第二航空団vs大怪獣ガメラ
 1965年の第一作目となった大怪獣ガメラ、北海道に上陸したガメラへ第七師団と共同し攻撃を加えたのは、北方防空の精鋭、第二航空団でした。大怪獣ガメラを純軍事的に検証する、1965年の映画を相手に大人げないといわれるかもしれませんが、当時真面目に制作したというのですからこちらも真面目に検証します。

 平成ガメラシリーズは自衛隊描写が素晴らしく、Weblog北大路機関をご覧になるようなリアリティ路線重視の方々からの大きな支持を集めましたが、昭和ガメラシリーズも実はしっかりと鑑賞しますと、ううむなるほど、とうならされる描写がかなりあるのです、実のところガメラが子供向け路線に完全転換したのは四作目のガメラ対バイラス以降です。また、子供向け映画、と言われましても大人が同伴していますので、例えば昨今では劇場版プリキュア、のように子供を主な客層としつつ、大人の鑑賞をかなり重視している作品構成になっているように、昭和ガメラシリーズも深い描写があり、むしろ、子供と大人の視点の違いを二回楽しめる作品といえるかもしれません。

 大怪獣ガメラ、北海道襟裳岬に上陸し夕張付近の地熱発電所を破壊するガメラに対し第七師団が攻撃を開始、更に第二航空団のF-86D夜間戦闘機も陸上部隊の支援へ戦闘加入しまして、70mmロケット弾マイティマウスによりガメラを攻撃します、F-86Dは航空自衛隊の戦闘機で初めてレーダーを搭載し夜間戦闘に対応する戦闘機という位置づけにあった機体で、70mmロケット弾24発のみを武装として搭載し、爆撃機など大型目標をレーダー照準しFCSに連動させ一斉射撃し、編隊ごと撃破できるという夜間戦闘機です。なお、F-86Dの飛行する写真が手元にありませんので、大地航空団の千歳基地にて撮影したF-15の写真にて代用します、ご了承ください。

 F-86Dはロケット弾が主武装で対戦闘機戦闘は難しく第101飛行隊、第102飛行隊、第103飛行隊、第105飛行隊、が小牧と千歳に展開しました。航空自衛隊の草創期の主力はF-86F戦闘機で、主武装は12.7mm機関銃六丁を機種に集中装備、対戦闘機戦闘を想定していました、そこでF-86Dは対爆撃機戦闘、と任務を分けていた訳ですね。なお、F-86Dはレーダー整備性の問題などがあり、結局F-86Fの方が長い期間航空自衛隊では運用されています、アメリカ空軍では朝鮮戦争で活躍した機体ですので航空自衛隊ではF-104とF-4Eが配備されますと、支援戦闘機として対地攻撃用と対艦攻撃用に用途変更されました。

 千歳基地の第二航空団、現代もF-15戦闘機二個飛行隊を以て防空任務に当たる北方防空の精鋭ですが、その創設は1956年の浜松基地までさかのぼります、1957年に千歳基地へ移駐しました。第二航空団、そのひとつ前の第一航空団は1955年に浜松基地にて創設されていますが、第一航空団は当時自衛隊唯一の航空団であったことから、航空団、と呼称されていました、第二航空団創設と同時に航空団の呼称も第一航空団となったかたち。しかし航空自衛隊ジェット機教育は1954年に芦屋基地にて開始されたばかりで、最初の第一飛行隊は芦屋基地近傍の築城基地にて新編、第一航空団へ編入されています。

 ガメラを攻撃した機体は1961年に千歳へ移転した第103飛行隊のF-86Dでしょう、元々は小牧基地第三航空団の飛行隊でした。当時千歳基地の第2航空団には第103飛行隊がF-86Dを運用し夜間迎撃任務に当たり、昼間には第201飛行隊の最新鋭F-104戦闘機が対領空侵犯措置任務に当たっています、実は第201飛行隊は1963年に新編されたばかりで、その前には第3飛行隊のF-86F戦闘機が当たっていました、F-104はナザールF15火器管制装置により夜間も航空管制に応じ迎撃任務に当たる事が出来ましたが、低空に降りての対地攻撃任務ではF-86Dの方が向いているとも。

 F-86DにはAIM-9Bサイドワインダー空対空ミサイルの運用能力が付与された機体もフランス空軍仕様機など存在はしますが、航空自衛隊ではあくまでロケット弾マイティマウス専用の戦闘機として運用されていました、ちなみにロケット弾ではありますが爆撃照準は機械式照準器によるもので、対地攻撃を意図したものではありません。一方、ガメラ攻撃が実施された状況では夜間であり、F-86Fよりは航法性能が高くまた低空での操縦性からF-104よりもF-86Dが投入された、と考えられるでしょう。F-104であれば、例えば回転ジェットにて飛行するガメラはAIM-9Bにて照準出来たかもしれません。

 ただ、F-104が投入されなかった理由としまして、これは映画を観て頂ければ分かりやすいのですが、航空自衛隊が空対地攻撃を実施した時点でガメラは一度も飛行していません。着上陸も襟裳岬から夕張まで陸上を機動している為、空対空戦闘を展開するという予想は全く想定外であったでしょう。他方、それではガメラが飛行した際に千歳基地からF-104を緊急発進させたとしたが迎撃が出来たのでしょうか。ガメラは防空監視所からの追尾を受けていません、レーダーに映らないのであれば追尾と誘導が難しい。

 平成ガメラシリーズであれば一作目から追尾されていますし、ガメラⅢでは当時の府中基地航空総隊にて追尾されている描写が、本来防空の第一線管制は入間基地の中部方面航空隊司令部の管轄ですが、追尾されていました、しかし昭和ガメラシリーズでは、三作目でギャオスがレーダーに追尾されていましたが、ガメラは映っていませんでした、F-104戦闘機はマッハ2の超音速戦闘機、運用するAIM-9B空対空ミサイルはマッハ2.5、対してガメラは飛行速度マッハ3ですので追尾は仮に目視出来たとしても困難を極めたでしょう。

 マイティマウスですが、これは第二次世界大戦中にドイツ空軍がジェット戦闘機メッサーシュミットMe262用に開発した超音速ロケット弾です、アメリカ軍にもP-51戦闘機やP-47戦闘機に搭載された対地攻撃用ロケット弾が開発されていましたが、大きく異なるのは弾速です、空対地ロケット弾として開発されたアメリカ製ロケット弾は、その運用特性上、速度は大きく求められませんでした。たいしてMe-262はジェット戦闘機という特性から速い弾速が求められ、特に空対空戦闘、米軍のB-17爆撃機や英軍のアブロランカスター爆撃機を空中で迎撃するために、超音速で照準を外す前に命中する制度が求められたもの、これが戦後、技術導入されたかたち。

 回転ジェットは正面からも膨大な赤外線を感知できるでしょうから、航空管制を受け待伏せるかたちであれば、迎撃は可能とは考えますが、こういいますのも現在のAIM-9L以降のサイドワインダーミサイルは赤外線識別能力が向上していて、敵戦闘機を正面から照準し攻撃する事が出来るのですが、AIM-9Bの時代はエンジン排熱しか感知できない為敵機の後方に廻り込む必要があったためで、ガメラの飛行速度マッハ3ですと後方に廻っても照準できたとしてミサイルのマッハ2.5では命中できない可能性があるのです、が、回転ジェットとして正面にも噴射しつつ飛行していますから、AIM-9Bでも正面から撃てる、ということです。

 第二航空団のF-86Dによるガメラ攻撃ですが、充分離隔距離をとっての航空攻撃ですので、幸い劇中で着ぐるみに模型飛行機が衝突、・・・、離脱に失敗するもしくは対空攻撃により撃墜されるF-86Dはありませんでした、昭和ガメラシリーズでは航空部隊の損耗が大きな作品が多いのですが、この中で第二航空団は例外的であった、といえるのでしょうか。なお、平成ガメラシリーズではガメラ2にて、この第二航空団、F-15J戦闘機へ機種転換していましたが、札幌市を破壊した巨大生物レギオンを津軽海峡上空で捕捉し、空対空ミサイル攻撃で撃墜するという戦果を挙げ、殊勲部隊というべき活躍を示しました。

 しかし、ガメラは61式戦車の90mm戦車砲もF-86Dの70mmロケット弾も通じません、61式戦車の90mm戦車砲は第二次大戦中の四式中戦車用に開発された75mm戦車砲技術を元に発展した国産で劇中では地熱発電所内まで進出し300m程度の至近距離からガメラを攻撃しました、61式戦車は1000mの距離でソ連製T-55の正面装甲を貫徹可能とされますがガメラを撃破する事は叶わず、幕僚がM-1カービンを手に、司令官これではどうにもなりません在日米軍に核攻撃を要請しましょう、と意見具申します。

 大怪獣が相手であり、最新鋭61式戦車で対抗できないとは言っても、急に核攻撃は、いくら日米安保が新安保条約へ発展したとはいえ、すぐには無理だろう、と見ていますと、師団長はウム、と頷き次の場面では、地下から三基の核ミサイルが展開してきます、おお早いなあ、引き金が軽いなあ、形状から見てM474 自走発射機とMGM-31パーシングⅠミサイルと共通性がみえる。MGM-31パーシングⅠミサイル、弾頭威力はW50型核弾頭の400kt、比較しますと広島型原爆の15ktを遥かに上回り、更に三発同時発射、なるほど、これならばガメラを瞬殺できそうにみえます、ただ、そんなものを夕張で炸裂させたならば、夕張市は勿論、北海道全体が大変なことになる事も間違いありません。

北大路機関:はるな くらま
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大怪獣ガメラ 公開五〇周年特別企画【1】 奮闘第七師団!精鋭第七戦車大隊夕張遭遇戦!

2015-12-14 21:27:29 | 映画
■大怪獣ガメラ 公開五〇周年
 2015年はどういう一年間か、と問われれば戦後70年、という答えが妥当なのですが、戦後20年を経て誕生した大怪獣ガメラの50周年でもあったわけです。

 大怪獣ガメラ、その日本上陸に際し最初に戦火を交えたのは創設間もない陸上自衛隊第七師団であった、ということをご存知でしょうか。大怪獣ガメラ、当方の世代は平成ガメラシリーズとして1995年より始まった平成三部作+一作、という印象が強いのですが、ガメラという巨大怪獣のシリーズの始まりは昭和に大映が世に送り出した八作のシリーズから始まりました。大怪獣ガメラ、60mの巨体はゴジラの50mを凌駕し、火炎放射で敵を火の海に、回転ジェットで空を飛ぶ、なるほど大怪獣です。そんなガメラを観直してみましょう。

 その大怪獣ガメラ、昭和ガメラシリーズは子供向け、という印象が強いのですが、特に自衛隊の描写については最初の三部作を見ますと、二作目が特に顕著なのですが、平成ガメラシリーズと見比べてもそん色がない程、考えさせられてしまいます。怪獣が出る=自衛隊が撃退、という構図はアメリカなどのモンスター映画を観ますと米軍が出てこない事もあり苛々するところがありますが我が国では人間の軍隊が侵攻した際以上に即座に自衛隊が展開します。

 1965年11月27日に公開となりました大怪獣ガメラ、劇中“明るく力強く、東千歳駐屯地、第七師団司令部”と、映画“大怪獣ガメラ”のガメラが北海道に上陸した際の現地対策本部が置かれている建物の正門には書いてありました。第七師団、そう陸上自衛隊の第七師団、新千歳空港着陸間近に見えるあの東千歳駐屯地が作中に出てきました。第七師団が展開した状況とはどんな状況なのか、といますと核爆発の影響で北極に出現した巨大な亀型の怪獣がついに日本に上陸した、というところ。

 襟裳岬の灯台を破壊し一旦海中に逃れた巨大怪獣はその後太平洋側から再上陸、内陸部に前進し夕張から岩見沢付近の地熱発電所を襲っているという描写です。怪獣が上陸したらば迎撃しなければなりません、保健所や猟友会で対処出来なければ110番で警察ですが警察でもどうにもならなければ自衛隊が出るしかないのです、北海道は陸上自衛隊発足以前の保安隊時代に北部方面隊が創設され、大陸からの脅威に備えていました。ソ連軍は強力な機甲部隊を有していましたので、陸上自衛隊でも機械化に重点を置いていました、其処に劇中ではガメラ上陸、と。司令官、と呼ばれている、恐らく師団長が上陸した怪獣の位置を陸上自衛隊の観測機L-19が捕捉、その情報を元に攻撃準備を発令しますと、M-41戦車やM-1榴弾砲等が土煙を上げて続々と展開します。

 指揮官先頭の伝統でしょうか、専門家の意見を聞きつつ師団長自らジープのハンドルを握り最前線へ、師団長が乗車する指揮車は第7普通科連隊と表示されているので第7普通科連隊は京都府福知山に駐屯しており少々考証に手落ちがありますが、当時の第7師団隷下の普通科連隊は第11普通科連隊、第23普通科連隊、第24普通科連隊、この当たりは交渉不足か玄海、というところでしょう。第七師団は当時自衛隊最強の機械化部隊との位置づけでした。元々第七師団は第七混成団として真駒内駐屯地に創設されています。

 第七混成団は1962年の陸上自衛隊師団制度導入に伴い第七師団へと改編、第11普通科連隊、第23普通科連隊、第24普通科連隊、第7特科連隊、第7戦車大隊を基幹とする編成を採っていました。師団改編後三年でガメラとの戦いです。さて、混成団とは、現在では方面混成団として予備自衛官や即応予備自衛官と教育大隊の混成部隊という意味合い、その前にあっては沖縄や四国等地域防備に当たる高射特科群や普通科連隊等連隊規模の部隊を中心に幾つかの支援部隊等を混成した小型旅団、という位置づけではありましたが、自衛隊発足当時の混成団は、管区隊という4000名規模の連隊を基幹とする歩兵師団型の部隊を機動力で支援する機動運用部隊、という位置づけにあったもの。

 当初計画では、機械化混成団として陸上自衛隊は全国の全ての混成団を装甲人員輸送車や自走榴弾砲と自走高射機関砲を配備し戦車大隊と協同することで管区隊が強力な人員規模を以て展開する防衛線に侵攻部隊を阻止し、機械化混成団が機動力と機械化部隊の機動打撃力を以て側面を叩き撃破する、という目的で創設されていました。ただ、60式装甲車やM-42自走高射機関砲とM-44自走榴弾砲の配備が進まず、第七混成団のみの機械化に留まりました。

 60mもの高さを誇るガメラ、京都の東寺五重塔よりも高い大怪獣へどう挑むか。対策本部は専門家の助言を受け、ガメラが夕張付近の地熱発電所を襲ったところで、地熱発電所の最大出力である35万キロワットを放電させ感電死させようとしますが、全く効果が無く戦車大隊と特科連隊による攻撃を師団長が命じます。一瞬ガメラへ至近距離まで接近して攻撃を加える61式戦車も映りますので、75mm戦車砲に加え国産90mm戦車砲まで投入された、という展開です。ちなみに自衛隊では戦車を施錠に配慮し保安隊への導入当初、戦車を特車と呼称していましたが1962年より特車を戦車と呼称変更しています。

 第七師団はこのように第七混成団の師団改編を受け間もなく、劇中ではありますが大怪獣ガメラと戦火を交えた訳です。そして、旧陸軍時代にあっては北海道の師団は旭川の陸軍第七師団がその名を轟かせていまして、日露戦争と太平洋戦争での獅子奮迅ぶりは旭川の北鎮記念館を始め多くの博物館や資料館で知る事が出来ます。実は昭和ガメラシリーズは大映の小道具のかんけいでしょうか、旧軍装備が多々見られ、その中に他移動の第七師団、と聞きますと大時代的な印象を受けてしまいます、こんな視点から、昭和の名画を再探訪、という主旨も面白いかもしれませんね。

北大路機関:はるな くらま
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東部方面隊平成27年度方面隊実動演習 参加人員4000名・車両700両で東富士演習場等にて展開中

2015-12-13 22:47:47 | 防衛・安全保障
■東部方面隊実動演習
 現在、陸上自衛隊東部方面隊は、平成27年度方面隊実動演習、として最大規模の演習を展開中です。

 東部方面隊は首都圏を中心に関東甲信越地方全域を防衛警備管区とする陸上自衛隊の方面隊で、首都圏の防衛と災害派遣という重責を担っています。平成27年度方面隊実動演習は東部方面隊第一回演習となり、平成27年12月6日より演習開始となり12月19日までの期間、実施中で本日は二週間の演習期間にあってその中間に当たります。

 東部方面総監森山尚直陸将を担当官とし、参加部隊は、東部方面総監部以下、第1師団と第12旅団及び第1施設団と東部方面混成団に東部方面航空隊と東部方面後方支援隊、方面直轄部隊として更に第2高射特科群と東部方面通信群、東部方面衛生隊等が参加し、東部方面隊管内の全戦略部隊である師団および旅団に主要部隊も全て参加している事となります。

 参加部隊規模は、人員約4000名、車両は約700両が参加しており、ここには155mm榴弾砲FH-70が12門、戦車も10式戦車8両と74式戦車8両を含むもので、航空機も5機が参加、CH-47JA輸送ヘリコプター1機とUH-1J多用途ヘリコプター4機が参加しています。訓練場所は東富士演習場及び群馬県相馬原演習場、そして朝霞訓練場及び自衛隊中央病院が充てられるとのこと。

 我が国首都圏は、冷戦期に日本海側から信越地方への着上陸が警戒されており、特に関東への侵入という可能性に加えて首都圏北方へ空中機動部隊を中心とした限定侵攻を加えることで我が国への善隣条約締結を迫るとの限定戦争などの可能性が考えられ、新潟県に2個連隊と関越地区へ師団主力を配置し、更に首都圏を防衛する師団、更に長官直轄部隊として機甲部隊を中心とした強力な教導部隊を富士地区へ展開させました。

 今回の演習は参加部隊規模が4000名規模となっており、これは第12旅団の総員よりも規模が少なくなっています、艦内には東富士演習場と北富士演習場といった大演習場が配置されているものの、テロなどの即応部隊や災害派遣などへの待機部隊を含めた場合、展開できる部隊が限られると共に演習場環境が比較的恵まれているとはいえ、隣接する中部方面隊区には大演習場が無く、演習場条件は結果的に限界がある点が反映されているのかもしれません。

 演習には東部方面隊の戦車部隊がほぼ大半が参加しています、二個中隊ではありますが、配備数の半数以上が参加しているのです。一方、方面隊直轄部隊にあたる方面航空隊が参加していますが対戦車ヘリコプター隊が参加部隊から外されている状況や、第12ヘリコプター隊が有力な航空部隊を有しているのですが参加航空機を見ますと大半が参加しておらず、攻撃訓練及び射撃訓練を実施するとのことですが、戦車の重要性を示す一方で航空機の位置づけはどうなっているのかが関心となります。

 我が国自衛隊は、現在年度末に予定されています水陸機動団創設にむけ改編準備中であり、加えて戦車配置の見直しという統合機動防衛力整備へと大きく転換しつつあります。一方、統合機動防衛力として重装備体系を北方重視に再配置するという施策は、必然的に戦略展開能力の大幅な向上を求められるものであり、今後はこの規模の訓練であっても転地演習と並行し重装備部隊との共同訓練を行わなければなりません。その上で方面隊実動演習という訓練態勢が今後どのような展開を示すかについて、興味深く見てゆく必要があるでしょう。

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航空防衛作戦部隊論(第二五回):航空防衛力、海上自衛隊との統合防空任務 続

2015-12-12 22:19:36 | 防衛・安全保障
■将来のF-35Bと現代のF-15J
 前回には海上自衛隊と航空自衛隊の航空作戦協同、という分野について記しました、海上自衛隊が輸送支援を行う事で多数の戦闘部隊基地を島嶼部や沿岸部に配置する事が出来れば、その分護衛艦隊を陸上の戦闘機防空圏内に置き作戦行動させることができます。

 ヘリコプター搭載護衛艦と航空優勢確保、といいますとどうしてもF-35Bを固定翼哨戒機として艦上に搭載し、運用する方式が連想されてしまいます、確かに長期的にはF-35Bは護衛艦隊に必要な装備ではある、と考えます、特に哨戒機としての用途は大きいでしょう、F-35は統合打撃戦闘機と呼称されるように、単なるステルス戦闘機ではなく共同交戦におけるシステムの重要な端末能力を持ち、その有無で戦域優勢は大きく制約されます。ただ、導入し運用というと時間がかかるのでまだ現実的ではない。

 現実的な視点ではない、というところですが、これは実現するまでに一定の期間を要するのでその前に打つ手を撃たなければ、艦隊航空が完成する以前に発生する事態に対応出来ず、戦力構築中の中途半端な状況にて最悪の事態に投じられ、必要な能力を発揮出来ない、ということです。ですから、長期的にはその必要性は高い、という立場ではあるのですが、ね。

 F-35の統合戦術情報装置EODASシステム等は、光波情報を元に高度な解析機能と広範囲長距離同時索敵能力を有し、ステルス機がレーダー波を出さない環境下において洋上での索敵を行う事が可能で、ステルス機としてAMRAAMを投射し艦隊防空に当たる以上に、洋上での情報優位の骨幹能力を構成可能です、その能力は超水平線上の目標を捕捉可能で、相手に索敵の有無を察知されない事で艦隊行動全体の秘匿化が可能でしょう。

 南西諸島防空とは少々脱線しますが、AV-8のような攻撃機、1980年代にはハリアーとしてサイドワインダー空対空ミサイルを搭載し、爆撃機による対艦ミサイル攻撃を発射以前に展開し発射位置へ就けない事が想定されており、改修と共に1990年代にはAMRAAMを搭載可能でありAPG-65レーダーにより一定の防空作戦能力を持つ航空機となりましたが、F-35Bは単なる迎撃の手段ではなく情報優位のための手段となる事は上述の通り。

 しかし、海上自衛隊がF-35Bを艦隊運用するには、まずF-35Bの搭乗員を養成する必要が生じます、航空自衛隊から搭乗員を転属させるという安易な漫画のような設定も、航空自衛隊では洋上に浮かび波浪で動揺する100mの滑走路に着艦させるだけの要員はいません、また、整備要員も護衛艦の格納庫程度に広さにおいて全ての整備を行う訓練も当然想定外という実情があります。

 もちろん、絶対に短期的にみて不可能なのかと問われれば航空自衛隊の要員を米海軍の航空母艦へ五分隊全部という単位で長期研修させ、中期防単位で航空搭乗員を養成し、空母甲板上での運用を可能とする長期的な運用構想と実運用能力合致を基盤構築するという、原子力空母でも導入しそうな小説のような設定ならば可能かもしれませんが、南西諸島防空にヘリコプター搭載護衛艦へF-35Bを搭載するという発想では、それまで十年単位の期間の代替策を考慮しない限り、間に合うものではありません。

 そこで、ヘリコプター搭載護衛艦へ、F-15運用能力の輸送を、という一種の作戦輸送能力を求める事とします、もちろん、ひゅうが型、いずも型へ、飛行甲板にF-15を並べて輸送するという意味ではありません、やってみたくはあるが意味もないので、この点はさておき、離島の空港を臨時分屯基地化するにあたって、必要な機材輸送にヘリコプター搭載護衛艦の能力を利用するのです。

 航空作戦用の機材をヘリコプター搭載護衛案で移動する、というものは、あくまで必要な機材をコンテナ等に梱包、もしくはパレットなどにあらかじめ搭載し、空輸可能とする体制を維持し即応待機、航空自衛隊に陸上自衛隊も含め70機が運用されるCH-47輸送ヘリコプター、または海上自衛隊のMH-53掃海ヘリコプターを輸送用に用い、ヘリコプター搭載護衛艦を給油中継拠点として使用する、というかたち。

 ヘリコプター搭載護衛艦へ関連機材を搭載する、という選択肢もありますが、ヘリコプター搭載護衛艦の格納庫容積には上限があり、必ずしも一定以上のコンテナ、しかも航空部隊機動展開時に必須ではない装備を搭載する余裕はありません、この為適宜搭載する、という選択肢に収斂します、ただし、鹿屋航空基地や八戸航空基地に那覇航空基地等の航空拠点や佐世保基地に呉基地といった艦艇基地へ事前備蓄する選択肢は有り得るでしょう。

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