■AH-64D訴訟
富士重工AH-64D訴訟において最高裁は17日、富士重工の訴えを認めた東京高裁の判決を支持し、国に351億円の支払いを命じました。
AH-64D戦闘ヘリコプターは陸上自衛隊がAH-1S対戦車ヘリコプターの後継機として導入を決定し、富士重工がライセンス生産により納入する事となりました。陸上自衛隊は96機が富士重工によりライセンス生産されたAH-1Sの後継として62機のAH-64Dを導入する方針を示し、富士重工はボーイング社よりAH-64Dのライセンス権を購入、更に自社工場に製造設備を整備すると共に、必要なレーダー等各種有償供与品62機分を発注しました。
しかし、陸上自衛隊は2002年より導入を開始し、五年間で10機を調達し2007年を以て調達修了を宣言し、ボーイング社より富士重工が購入した部品費用と富士重工が工場整備に要下費用を支払わない事を決定し通知しました、この費用は数百億円に達するとされ、富士重工側が訴訟により国から賠償を求めるとしました。当初国はこの費用を2008年度予算として3機を648億円で調達する方策を検討しましたが、財務省により却下され、このAH-64D問題がAH-64D訴訟として法廷の場で判断を仰ぐこととなります。
第一審の東京地裁判決では富士重工の訴えを退ける判決が出された為、富士重工はそのまま東京高裁へ控訴、高裁判決では富士重工の訴えを認め国に、有償供与品の富士重工調達費用と生産設備整備費用の351億円を支払うよう求める判決を出したため、今度が国が最高裁判所へ上告、最高裁は国の訴えを退け東京高裁の判決を支持する決定を出し、ここにようやくAH-64D訴訟は富士重工の勝訴となりました。
国が62機の調達を求めたが、10機へ一方的に縮小したことで損害が生じ、この支払いを求めた、ある意味訴訟は当然のもので、最高裁の判断も当然といえました。ただ、陸上自衛隊の装備は、例えば戦車900両体制を年頭に設計された10式戦車が完成後戦車定数が300両となった事例、89式装甲戦闘車も当初は350両程度調達する計画が68両に縮小され87式自走高射機関砲も170両程度の調達計画が52両に、250機を調達する計画があったOH-1観測ヘリコプターも38機で生産終了、F-2支援戦闘機も130機の調達計画が98機で終了となるなど、急な計画変更により防衛産業が振り回される事例が後を絶ちません。
一つの背景として、AH-64Dについては北朝鮮弾道ミサイル実験を受けての弾道ミサイル防衛体制整備が国の施策として盛り込まれ、この為予算を増やせない状況下において一兆円規模のミサイル防衛網構築が求められたため、各種装備の調達費用が削られた、との説明も為されますが、私企業間にて他の案件が急きょ浮上した為契約打ち切り支払い拒否を行うことは認められません。例えば弾道ミサイル防衛については、その分の予算を中期防単位で一兆円計上する、補正予算で毎年2000億円を弾道ミサイル防衛を求めた政府が政治決定として五年間要求するという施策、があり得たはずでした。
また、弾道ミサイル防衛整備費用がないのであれば、ミサイル攻撃からの避難方法の国民への周知や、政治決定としてミサイル防衛予算を確保するかミサイル攻撃を耐えるべきかの世論に問う選択肢は有り得ましたし、既存装備のF-2支援戦闘機やAH-64D戦闘ヘリコプターを調達しミサイル施設を航空攻撃により撃破する策源地攻撃へのシフトなど、代案はありました。また、一旦調達した上で、中古装備品としての転売を行うための法改正を行うという選択肢もあったのです。
防衛計画は、脅威の動向変化等により柔軟に変化させる必要はありますが、これにより私企業へ不当な損害を与える事は認められません。防衛計画を画定したならば、必要定数と運用期間を明確化し、必要定数の一括発注と運用期間中における整備支援契約を長期的に結び、その上で装備品の運用を進めてゆくべきなのですが、多年度契約に関する枠組みが未整備である故の曖昧な契約慣習が、今回の長きにわたる訴訟へ繋がった事に他なりません。国は防衛計画を画定すると同時に、その具現化には方針変更が死活的影響を及ぼすとの認識を持つべきでした。
一方、AH-1S対戦車ヘリコプター後継機は空白のまま用途廃止機が出続けており、351億円を支払ったうえで新型機の契約へメーカーへ輸入部品と生産治具整備費用の一時負担を求めるのか、つまり富士重工がAH-64Dにより受けた係争状態と同じ轍を踏むリスクを更に重ねて求めるのか、新しい道を模索するのか戦闘ヘリコプターによる航空打撃力の必要性は今なお高く必要な装備品であるわけですから、AH-X選定においてメーカーと国の関係がどのように展開するか、注意深く見なければなりません。
北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
富士重工AH-64D訴訟において最高裁は17日、富士重工の訴えを認めた東京高裁の判決を支持し、国に351億円の支払いを命じました。
AH-64D戦闘ヘリコプターは陸上自衛隊がAH-1S対戦車ヘリコプターの後継機として導入を決定し、富士重工がライセンス生産により納入する事となりました。陸上自衛隊は96機が富士重工によりライセンス生産されたAH-1Sの後継として62機のAH-64Dを導入する方針を示し、富士重工はボーイング社よりAH-64Dのライセンス権を購入、更に自社工場に製造設備を整備すると共に、必要なレーダー等各種有償供与品62機分を発注しました。
しかし、陸上自衛隊は2002年より導入を開始し、五年間で10機を調達し2007年を以て調達修了を宣言し、ボーイング社より富士重工が購入した部品費用と富士重工が工場整備に要下費用を支払わない事を決定し通知しました、この費用は数百億円に達するとされ、富士重工側が訴訟により国から賠償を求めるとしました。当初国はこの費用を2008年度予算として3機を648億円で調達する方策を検討しましたが、財務省により却下され、このAH-64D問題がAH-64D訴訟として法廷の場で判断を仰ぐこととなります。
第一審の東京地裁判決では富士重工の訴えを退ける判決が出された為、富士重工はそのまま東京高裁へ控訴、高裁判決では富士重工の訴えを認め国に、有償供与品の富士重工調達費用と生産設備整備費用の351億円を支払うよう求める判決を出したため、今度が国が最高裁判所へ上告、最高裁は国の訴えを退け東京高裁の判決を支持する決定を出し、ここにようやくAH-64D訴訟は富士重工の勝訴となりました。
国が62機の調達を求めたが、10機へ一方的に縮小したことで損害が生じ、この支払いを求めた、ある意味訴訟は当然のもので、最高裁の判断も当然といえました。ただ、陸上自衛隊の装備は、例えば戦車900両体制を年頭に設計された10式戦車が完成後戦車定数が300両となった事例、89式装甲戦闘車も当初は350両程度調達する計画が68両に縮小され87式自走高射機関砲も170両程度の調達計画が52両に、250機を調達する計画があったOH-1観測ヘリコプターも38機で生産終了、F-2支援戦闘機も130機の調達計画が98機で終了となるなど、急な計画変更により防衛産業が振り回される事例が後を絶ちません。
一つの背景として、AH-64Dについては北朝鮮弾道ミサイル実験を受けての弾道ミサイル防衛体制整備が国の施策として盛り込まれ、この為予算を増やせない状況下において一兆円規模のミサイル防衛網構築が求められたため、各種装備の調達費用が削られた、との説明も為されますが、私企業間にて他の案件が急きょ浮上した為契約打ち切り支払い拒否を行うことは認められません。例えば弾道ミサイル防衛については、その分の予算を中期防単位で一兆円計上する、補正予算で毎年2000億円を弾道ミサイル防衛を求めた政府が政治決定として五年間要求するという施策、があり得たはずでした。
また、弾道ミサイル防衛整備費用がないのであれば、ミサイル攻撃からの避難方法の国民への周知や、政治決定としてミサイル防衛予算を確保するかミサイル攻撃を耐えるべきかの世論に問う選択肢は有り得ましたし、既存装備のF-2支援戦闘機やAH-64D戦闘ヘリコプターを調達しミサイル施設を航空攻撃により撃破する策源地攻撃へのシフトなど、代案はありました。また、一旦調達した上で、中古装備品としての転売を行うための法改正を行うという選択肢もあったのです。
防衛計画は、脅威の動向変化等により柔軟に変化させる必要はありますが、これにより私企業へ不当な損害を与える事は認められません。防衛計画を画定したならば、必要定数と運用期間を明確化し、必要定数の一括発注と運用期間中における整備支援契約を長期的に結び、その上で装備品の運用を進めてゆくべきなのですが、多年度契約に関する枠組みが未整備である故の曖昧な契約慣習が、今回の長きにわたる訴訟へ繋がった事に他なりません。国は防衛計画を画定すると同時に、その具現化には方針変更が死活的影響を及ぼすとの認識を持つべきでした。
一方、AH-1S対戦車ヘリコプター後継機は空白のまま用途廃止機が出続けており、351億円を支払ったうえで新型機の契約へメーカーへ輸入部品と生産治具整備費用の一時負担を求めるのか、つまり富士重工がAH-64Dにより受けた係争状態と同じ轍を踏むリスクを更に重ねて求めるのか、新しい道を模索するのか戦闘ヘリコプターによる航空打撃力の必要性は今なお高く必要な装備品であるわけですから、AH-X選定においてメーカーと国の関係がどのように展開するか、注意深く見なければなりません。
北大路機関:はるな くらま
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