「今泣いたカラスがもう笑った」。子供の感情の変化を表す言葉であるが、どうも子供だけでなく万人に当てはまるところがあるようだ。U先生の「生き甲斐の心理学」を学んで驚いたことの一つに、明るい感情と暗い感情の表裏の関係がある。親しい関係など、憎しみあっていたと思うと友好的感情になったりする。夫婦喧嘩は犬も食わないといわれるのがその一例かもしれない。
さて、政府による緊急事態宣言が出され、慣れ親しんだ普通の生活が大きく変わってきているようだ。私を含めた国民の殆どがこの事態に巻き込まれ、濃淡はあるものの不安と隣り合わせでいる。しかし、未知の感染症ということではないが、私たちはそれに類した感情生活を個人的にはすでに体験している方も少なくないようで、意外に落ち着いている人も多い。
大切にしていた人の突然の死。想像もしていなかったことにいつのまにか巻き込まれてしまう。まさか・・・。そして、当初は感情がついてこないが、そのうちに深い悲しみや激しい怒りが湧き起こってくる。やがて、そうした深い悲しみを乗り越える時がやってくる。年をとるに従って、そうした経験は少なくない人が経験するようで、以前、還暦を祝うクラス会で語り合ったときに、互いの年輪に頷くところが大きかった。悲しみを乗り越える。そこには、深い感情と人間の変化の神秘が隠されているようだった。
自戒をもって言えば、大変なことが起これば、本来は激しい感情の渦に巻き込まれる。ただ、私たちを守ろうとするこころの仕組み(防衛機制)もあり、それにより私たちは、どこかに歪みを持ちつつも、何もなかったかのように抑圧したり、逃避したり、合理化したりして生活を送ることができる。しかし、問題を受容し、それを生命体として解決していかなければ、本当の喜びとは無縁でありつづける。冬の無い春は年輪とはならない。
湧き起こる感情に向き合い、感情と対話する。それはAさんのことであったとしても、感情は自分の感情であり、それと向き合うことは当たり前だが自分と向き合うことになる。そして、大きな悲しみや怒りの蔭に。生まれたての雛のような温かいものがあることに気づいたとき。激しい怒りのうちに、Aさんへ柔らかい想いがあったり、自分の感情の息づかいがあったりする。自分の中の神秘?といったら良いのか、そういうなかで新しい何かが始まる。
ところで、冒頭の写真であるが、東京の小さなストーンサークルである田端遺跡から冬至の入り日を撮ったものである(2018年に冬至の日ではなかったが、ほぼ同じ位置に入り日が落ちる2-3日前)。太陽が最も南に寄り、一日が一番短くなる冬至。その日を境に太陽動きは反転し少しずつ北に寄り出し、日が長くなっていく。そのまさに冬至に見晴らしの良い田端遺跡から、江ノ島に下る境川を越えた丹沢山系の最高峰である蛭ケ岳に日が落ちる。蛭ケ岳は神奈備型で縄文人が愛する山容である。
このストーンサークル(環状積石遺構)は楕円形で長径9m、短径7mと小さく、大湯遺跡などをはじめとする縄文後期の巨大なストーンサークルと比べると見劣りがする。しかし、調べてみると縄文中期の環状集落と同じような構造を持っていて、北側のグループ(小グループの積石が3つ)と南側のグループ(小グループが3つ)のといった構造をもち、さらに、この環状積石遺構ができる前にはいくつかのお墓(土壙墓、周石墓)がつくられており、さらにその前は整地造成されたために消えてしまった縄文中期の集落があった。
父系制でも母系制でもなく双系制。環状が大きな意味を持つ精神生活。もちろん、土偶や石棒など祭儀に使ったと思われる遺物も沢山出ていて聖地であることは間違いがない。
この写真は、日本で最大のストーンサークルといわれる東北の大湯遺跡の日時計(レプリカ)である。日時計といわれるだけあって、中心の立石を中心に東西南北の方向に正確に目印の石があったり、また巨大な二つのストーンサークルの中心を結ぶ線上にこの日時計が位置されており、夏至の日没地点が重なる。
世の中には原始時代には暦などあるはずがないとする思う方も多いと思うが(かつての私もそうだった)。多様な食物に依存していた縄文時代の人にとって、正確な暦は今以上に生きるために必要だったと思うし、旧石器時代においても、狩猟をするためにも動物の動きを知るための暦は大事だった思う。最近は考古天文学という分野があり、日本の岐阜県の金山巨石群などが研究され、嘘か本当か閏年まできちっと観測できるようになっているようだった。
こうしたストーンサークルは3500年前とか4000年前といった時期に東日本で作られることが多く、私も機会があれば出向いて見学させていただいた。宗教的な意味があったと思うほか、暦に関係しているなと思うことも多かった。ただ、こうした遺構ができた背景や目的は、よく分からないとする科学的知見に基づいた考古学者のご意見も良く耳にするが、私は今の自分たちの行動や心のありようを鑑みればかなり正確に当時の人の思いが分かるように感じている。
膨大な河原から大量の石を持ってきたりする作業を村全体で行ったり、土地の造成作業も当然あったりする。これは、明らかに強い意志が働き、目的志向が強くなければなせない。人間の欲望といえば食欲とか性欲は有名だが、もう一つ神仏を求める欲望というのがある。
人が死者を埋葬したりすることは何万年か前から行われている。魂とか神を信じるからこそ遺体を大事にする行為である。有史以来、私たちの祖先も国民総動員的に巨大な大仏をつくったり、世界に冠たる前方後円墳をつくったりしている。これは気まぐれかというと、そうでは無いと思う。さらに、海外と比べて宗教心に乏しいといわれる私たちであるが、盆(夏至)や正月(冬至)に帰省し一族で集まり参拝したり、春分や秋分には墓参りに行く。遺伝子科学の進歩のお蔭で、現世人類はアフリカに20万年位前に生まれ、5万年~10万年前にアフリカを旅立ち世界に散らばったというのが定説になった。そんなことから諸外国の実情も意識すると、例えば、クリスマスは冬至と強い関係があり、キリスト教の復活祭やユダヤ教の過越は春分と強い関係があるなど、二至二分と宗教の強い関係は決して日本だけでないことがわかる。
閑話休題。
なぜ縄文後期にこのようなストーンサークルが多く作られたか。識者は寒冷化等により食糧難があったのではないかとよく言われる。確かにそうだが、その後の大きな社会の変化を考えると。大きな自然災害があったり、今回のような伝染病の蔓延するというような事件をきっかけ、何かが怒濤のごとく変わっていったのかもしれない。そして、元に戻れないような時代のうねりと共に、縄文中期に精神的に回帰するようなストーンサークル作りが始まる。川から膨大な量の石を運ぶ大事業で、時に何世代にもわたっての建設され、祭りを行う聖地として500年とか700年という期間、その聖地は維持されていく。
時代の流れは不可逆的であると今回のCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)の出来事の中で思う。私が学生の時に話題になったカタストロフィーの理論のように、地球の反対側の蝶の羽ばたきによる微風により巨大台風が起こったように思う。現在のCOVID-19が中国のある地方から何かのきっかけ始まり、それが世界を揺るがす大事件になる。古代の縄文中期末から後期に日本列島を襲った大変化(例えば、中部高原や関東の主要村落の解体とも思えるような離散の状況)もそれに似ているのかもしれない。
COVID-19が大きな問題となったのも、それを用意する様々な積み重ねがあったからだと思う。温暖化、環境問題、格差社会、科学技術の一般化・・・そんな中、様々な問題が発生しても、自戒をこめて思うが、問題に寄り添い何かを聴こうとしていたのだろうかと。もっと早く手を打てば良かったと私たちはよく言う。あるいは、反対にこの期に及んで無関心を押し通すこともあった。それは個人が本来の悲しみや怒りから眼を反らし、偽の喜びというかニンジンに現を抜かしている姿に酷似しているのではないだろうか。
縄文中期末から後期の社会。やはり大きな変化があったに違いない。今と同じように社会の構造が固く制度疲労が進んでいたのかもしれない。矛盾を矛盾と感じる柔らかな生命が傷つけられる時代だったのかもしれない。それが、何かの事件をきっかけに崩壊する。
春分、夏至、秋分、冬至。この二至二分は最も安定した地球と太陽を巡るダイアモンドのように硬質な法則の中で、もっとも柔らかで傷つき易い、人間臭い時かもしれない。冬から春へ、夏から秋へ、多くの生き物が生まれる季節、収穫の季節・・それは感情の変曲点といっても良いかもしれない。私たちの祖先は蛭ケ岳に落ちる入り日をみながら、何かのピークアウトを感じたのだろう。そして、自然と共に何かの気配を感じたのだろう。ピーアウトの瞬間は悲しみと喜びが一致する瞬間。悲しみの意味が腑に落ち、新たな希望の喜びに身を震わせる瞬間かもしれない。
今回は次を参照しました。
安孫子昭二著 「東京の縄文学」之潮 2015年
植村高雄先生のYouTube.
ヘンリ・ナウエン著 「今日のパン、明日の糧」2019年 日本キリスト教出版局 27P
縄文時代の楽しみ方 4/10
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