以下の文章は最大公約数についての数学エッセイの書き出しの一部である。このエッセイには昨日に触れたユークリッドの互除法も書くつもりである。
小学校の5年だったときに遠い親戚にあたるM先生に国語と算数を習いに行った。このM先生は小学校に見習い教員として入り、長年小学校の教師を勤められた方であったが、本当はとても優秀な方であって、現在の広島大学教育学部の前身である、広島高等師範学校の学生だった方である。体が弱くて卒業前の数ヶ月を病気のために学校に通えなかったために、学校を退学されたと聞いている。
高等師範学校の方からは数ヶ月(多分3ヶ月)の授業料を納めれば卒業証書を出すとまで言われたらしいが、自分は最後の数ヶ月を学校に通えなかったから、「卒業資格がない」と自分に厳しく律せられて、その後小学校の見習い教員として入られた方であった。
詳しい経歴は存じ上げないが、多分60歳近くまで小学校に勤務された後に退職されて、年金生活の傍らに近くの小学生を教えていたのだと思う。体が弱くて病気がちだったために一生結婚されず、独身を通された方であった。とても人のよい、かつ自分には厳しい方であった。
M先生の思い出に終始してしまいそうだが、最大公約数の求め方を話すにはどうしてももう私自身も忘れてしまっていた、M先生のことを語らずにはいられなかった。
そういうM先生のもとへ学びに通っていたある日のことである。「分数を約分しなさい」という宿題があった。そこに出ていた分数は大抵簡単に約分ができたが、一つだけ簡単に約分できそうにないない分数があった。
いくら私が記憶力がよくても、10歳か11歳の頃のこの約分の数値は覚えているはずがないので、いまここでそういう分数を自作してみよう。この分数がいま仮に91/119であったとしよう。しばらく考えてもどう約分したらよいのか私にはわからなかったので、M先生に尋ねた。そうするとその分数をちょっと問題を眺めた後に「7で割ってごらん」と言われた。私にはその
ときとても思いつきそうな数ではなかったので、「どうやって7をみつけたのですか」と尋ねた。そうすると先生は微笑んで「経験ですね」と言われた。
確かに分子、分母を7で割ってみると91/119=13/17と約分できた。また、この分子、分母はもうこれ以上は約分できそうになかった。ということでこの日の勉強は終わり、先生にお礼とさよならを言って家に帰った。
なんということもないある小学生の一日であった。なんで、こんなおよそ60年近くも前のことを思い出したのだろうか。これはそのときの私の印象がよほど強かったからにちがいない。