蒼井優(間宮紀子役)がいい! 彼女の存在そのものが山田映画を具現化し、彼女の存在が温かでヒューマンな映画になり得た一番の要因ではないか、映画を観終えて率直にそう思った…。
※ ニュージーランド紀行などをシリーズ化して取り上げているうちも、私は旅から日常に復して講演を聴いたり、映画を観たりと、以前の生活に戻っていた。これからはそれらについてレポートしていきたい。とりあえずは、この間に見た4本の映画についてレポートする。
この映画の最後の最後に、「この映画を小津安二郎監督に捧ぐ」(正確な再現ではない)という山田監督から小津監督へ捧げるオマージュがスクリーンに流れた。
それほどの思いで創られた「東京家族」かもしれないが、私には十分に山田ワールドに惹きこまれた「東京家族」だった。
なぜ蒼井優がいいと思ったか?
紀子(蒼井)は妻夫木聡演ずる平山昌次の恋人役で登場する。
田舎で暮らす昌次の両親、平山周吉(橋爪功)、とみこ(吉行和子)夫婦が上京してきて、とみ子が紀子と対面したときにそれほど時間をおかず「あんたはいい人のようだね」と発した言葉に蒼井の良さが凝縮されているように思えたのだ。
彼女の表情、仕草、たたずまい、全てが「いい人」を表出しているように思えた。
時間を経て周吉もまた「あんたはいい人だねぇ」と同じようなセリフを発している。
蒼井はそこに存在するだけで「いい人」を演ずることができる稀有な女優ではないか。
※ とみこの葬儀が終わり、最後まで残って周吉の面倒をみた昌次と紀子が島を離れるシーンです。
映画は教員を退職して瀬戸内海の離れ小島で暮らす平山周吉、とみこの老夫婦が東京に子どもたちを訪ねてくるところから始まる。
夫婦の子どもたちは都内で開業医を営む長男・幸一(西村雅彦)、美容院を営む長女・滋子(中島朋子)、舞台芸術の仕事に就いている次男・昌次の三人である。
長男・幸一は妻への遠慮があるのか両親の状況を心から歓迎しているとは思われない。長女・滋子は経営する美容院のことで頭がいっぱいなのか、自分の事情を優先するよう
な言動を両親にぶつけてしまう。
結局、一番時間の融通がきく昌次に両親の接待は任されるが、昌次は周吉にとっては言うことの聞かない、最も出来の悪い子どもだった。現在の不安定な仕事にも不満を抱いている。昌次は周吉が苦手だった。
そんな昌次と周吉の仲をとりもったのが紀子であった。
私は残念ながら小津監督の「東京物語」は観ていない。だからなおのことこの「東京家族」に素直に入っていけた。
号泣するような場面は一つもない。しかし、いつの間にかじわっと私の眼が濡れていることが一度ならず何度かあった。
そうそう親子の間ってそういうことあるよな~。
自分の生活でいっぱいいっぱいで、親に失礼してしまったことも…。
※ 映画の中で好演した橋爪功と妻夫木聡のお二人です。
いろんな思いが、芸達者の俳優たちの好演で違和感なく私の中に入ってきた。
映画館を後にするとき「あゝ、いい映画を観たなぁ」と思わせてくれた「東京家族」だった…
《鑑賞日 ‘13/2/8》