自らの子どもの交通死の加害者の刑があまりにも軽いことに怒りを覚え、「危険運転致死傷罪」の新設を成し遂げた一人の母親の実話をもとにした映画である。最愛の息子を失った母親の執念を見る思いだった。
母親役は昨年亡くなった田中好子さん(元キャンデーズのスーちゃん)が演じているが、映画は2007年に制作されたものである。
毎月、札幌市生涯学習センター(ちえりあ)では「ちえりあ映画会」が開催され、毎回良質(何が良質かについては議論のあるところかもしれないが…)の映画が提供されている。私はこの映画会を楽しみにしていて、都合が付く限り駆けつけるようにしている。
2月20日、今月取り上げられた映画が「0(ゼロ)からの風」だったのだ。
※ 母親・圭子役を熱演した田中良子さん。
母親は夫に先立たれ、息子と二人暮らしだった。息子の名前は「零(れい)」といい、一浪の末に有名大学に合格した一年生である。(映画の題名は息子の名前からヒントを得たと思われる)その息子・零がある日飲酒運転の車にぶつけられ死亡してしまう。
加害者は飲酒運転、無免許、再犯であったにもかかわらず数年(確か3年半)という判決だった。
夫も他界し、最愛の息子を奪われたうえ、あまりにも軽い日本の刑法を改正するために母親の圭子(田中好子)は立ち上がる。「零君の生命を繋げていくために」、「零君の分も生きるんだ」と…。
そして「危険運転致死傷罪」の成立にかける執念は、時には暴走してしまいかねないほどの熱意で周囲を動かし、市民を巻き込み、思いを実らせることができた。
さらには息子が合格した有名大学で、息子の代わりに学ぼうと入学試験を突破し入学を果たしてしまう。
世の中に、マザーコンプレックスとか、ファザーコンプレックスという言葉があるが、私は母親の姿を見ていて「マイサンコンプレックス」という言葉を思い浮かべた。(そんな言葉があるかどうか知らないが)
※ 息子・零(杉浦太陽)の写真を掲げて署名運動をする母親・圭子です。
正直に吐露すると、彼女の息子・零の無念を晴らそうとする執念にはややたじろぐ思いさえあった。それくらい田中好子さんが熱演していたともいえるのだが…。
母親・圭子にとって息子・零は何にも代えがたい生き甲斐そのものだったと思われる。その生き甲斐を突然奪われた時の親(母親)の無念さを共感することができる映画だった。