田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

韓国映画 109 チスル

2013-11-13 23:04:11 | 映画観賞・感想

 「チスル」とは、韓国チェジュ(済州)島の方言で「じゃがいも」のことだという。この映画はいわゆるメジャーではなく、独立系の映画であるが、韓国において非常に注目を集めた映画だという。それはいろんな意味で成熟しつつある韓国の一つの姿だと云えるかもしれない…。 

                
         ※ 映画「チスル」のポスターです。この場面でも兵士は右手の島民を撃つことはできなかった。

 11月4日(月・祝)、三日間にわたって開催された国際シンポジウム「越境するメディアと東アジア」の最後のプログラムとして上映されたのがこの「チスル」だった。

 「チスル」の内容は次のとおりである。
 1948年11月、済州島民たちは海岸線5㎞以外の中山間地帯にいる者は全員暴徒とみなされ、島民たちは訳もわからぬまま山の中の洞窟に逃げる。その背景となるのが済州4・3事件である。
 済州4・3事件とは、1948年4月3日、南朝鮮だけの分断・単独選挙に反対して起こった島民たちの武装蜂起に対する米軍政及び韓国の軍警の無差別な虐殺を伴う鎮圧過程で、3万人近くの無辜の島民が犠牲になった事件である。「チスル」はこの痛ましい事件を、負傷した軍人にまでジャガイモを差し出す島民の暖かさ、殺す/殺されるという恐怖やその中の葛藤を通して、モノクロで淡々と描いている。

 映画は衝撃的であるにもかかわらず、事実を淡々と描くといった手法である。殺す/殺されるというような直接的表現も控えながら、その生々しさは十分に伝わってきた。またモノクロ映画だからこその画面の美しさも特色の一つである。上映会後のディスカッションでどなたかが「水墨画のような美しさである」と表現していたが、言い得て妙と感じた。
 映画は韓国及び米軍にとって触れてほしくない過去の恥部である。しかし、韓国においてはこうした映画が制作され、さらにはそれを受け容れる土壌が国内に存在することを知らせてくれた映画だった。

         
    ※ 恐怖に怯えながら洞窟の中に逃げ込んだ島民たちです。映画はモノクロなのに、入手できた写真はなぜかカラーでした。

 済州4・3研究所所長である金昌厚さんによると、韓国内においてこの映画に対する批判はほとんど聞かれないという。また、長年「済州4・3事件」に関わってきて映像媒体による影響力の大きさを実感しているという。それまでの文字媒体による事件への訴求力に比すると比べようもないほど反響が大きく、マスコミ取材も過去最大になったそうだ。

 韓国の映画がエンターテイメント的な映画ばかりでなく、こうしたドキュメンタリー的(この映画はドキュメンタリーではない)な上質な映画が創られ、それを歓迎する多くの国民がいることを教えてくれた映画だった。