この映画は何といっても主演の77歳にして現役の木こりである佐藤直志さんのキャラクターに尽きる。そしてピカッと光ったのが、佐藤さんの人柄に惹かれ、佐藤さんを陰に陽に支える菅野剛さんの表情が何とも云えず温かかった…。
先日(10月25日)の「あの日―福島は生きている」に続いて、北海道新聞社が企画した「『震災地は今』ドキュメンタリー映画連続上映会」の第2弾である。
10月29日(火)夜、道新ホールで開催され、運良くこちらも観ることができた。
映画は、1934(昭和9)年生まれで当時77歳になる木こりをしながら農業も営む佐藤直志の日常を追った映画である。
佐藤は東日本大震災の津波で長男を失った。長男は消防団員として津波から地域住民を避難させようとして自らが遭難してしまったのだ。
残されたのは、佐藤と妻、そして長男の嫁の三人である。当初は佐藤の意志に従い津波で被害を被った家に同居していたが、やがて二人は仮設住宅に移ってしまう。しかし、佐藤は一人になっても自分の家を離れようとはしなかった。
そして佐藤は家を建て直すことを決意する。これまで先祖が生きてきた土地に再び家を建て直すことで、佐藤自身も「先祖になる」んだと…。
津波で枯れた森の木を自らチェーンソーで次々と切り倒し、立て直す家の材木を用意し始めた佐藤。それを味噌・醤油などの製造販売に従事する傍らで伝統文化の継承にも精力的に取り組む15才年下の菅野剛らがしっかりとサポートする。
佐藤直志のキャラクター、それは…。
誰がなんと言おうとも、自ら決意したことけっして曲げない強靭な意志と、飄々とした佇まい…。それでいて、どこかお茶目でシャイなところ。
土地に根ざし、土地に生きる人々の行く末を思う佐藤の強さと優しさは徐々に人々の心を動かしていく。けっして声高に叫ぶこともなく、ただ淡々と…。画面には笑いが溢れていた。佐藤から滲み出るユーモアがところどころで顔を出すからだ。
前出の菅野は「あたりまえのことをしているから惹かれる」と言う。
画面にはそんな佐藤の魅力があますところなく映し出されていた。
映画が終わってから、監督の池谷薫と、道新の記者とのトークがあった。その中で池谷は「撮らせてもらっている間はドキュメンタリーは撮れない。一緒に作るときに初めてドキュメンタリーとなる」と語った。まさに「先祖になる」は佐藤直志と池谷薫の合作だったのだ。
※ この映画の監督である池谷薫さんです。
最後に待望の家が、前と同じところに完成した。茶の間から見える太平洋の夕陽は輝いていた。しかし、そこにいたのは佐藤一人だけだった。
映画のところどころに出てくる奥さんのコメントもユーモア溢れるものだった。佐藤の頑固さにはあきれながらも、きっと今は二人仲良く新居から太平洋の夕陽を眺めていることだろう。