ドキュメンタリー映画界において問題作を次々と発表し、話題に事欠かないマイケル・ムーア監督の最新作である。題名の「華氏119」とは、現米大統領トランプ氏が2016年11月9日に大統領選の勝利を宣言した日にちなんで名付けられたそうだ。
ドキュメンタリー好きの私としては以前から観たいと思っていた映画の一本だったが、12月3日(月)シアターキノにおいてようやくその目的を達成することができた。
しかし、アメリカの事情を必ずしも詳細に把握していない私にとっては、なかなか全体像を把握するのが難しかったというのが正直な感想である。
というのも、トランプ大統領というこれまでとは異質な大統領の誕生によって、今アメリカで起こっているさまざまな異常な現象と結び付けようとしているように見えたのだが、話題があちこちに飛び、それを追いかけるだけで私には大変な作業だった。
そこでここでは、私からみて印象的だったシーンをレポしながら、その感想を述べてみたいと思う。
一つはミシガン州フリントで起こっている住民が鉛公害に被害に遭っているというシーンである。財政がひっ迫した州が倹約のために水道事業を民間に委託したことにより、古い水道管を使い続けたためにそこから鉛が溶け出し、住民(貧困層)から鉛中毒が続出しているという事例である。それに対して州知事はフリントにあるGMの工場にだけは新しい水道管による水を提供し、あとは知らんふりをしているという。
ミシガン州知事はトランプ並みの富豪ビジネスマン出身で州では彼の独裁政治がまかり通っているということだ。
このシーンは直接トランプ大統領を描いたものではないが、トランプの政治手法とまさに鏡合わせのような政治を繰り広げている州知事のもとでは住民が大変な被害を被るという警告をムーアは発したのだと受け止めた。
水道の運営に関しては、日本においても民間移管が取りざたされている自治体が出始めているという。(今国会でも議題の一つとなっていた)自治体内において老朽化した水道管を取り換えるには百年単位の時間を要するとも聞いている。民間移管が果たして正解なのか否か、慎重にコトを運ぶことが大切なのではと改めて教えられた思いである。
映画の後半、ムーア監督はトランプとヒトラーを並びたてて、その相似性に警告を発した。ヒトラーは民心を巧みに掴み、はてはドイツ人の優位性を説きユダヤ人排斥という暴挙に走った。トランプも巧みな選挙戦術で大統領の座を掴み、今白人優位主義を唱えてヒスパニックやアフリカ、アジア系の人たちを排斥するかのごとく言説を振りまいている。
世界は過ちを繰り返さないと信じたいが、人間は愚かである。歴史が繰り返されてきたように、いつの間にか過去の過ちを繰り返していることも多々ある。
ムーアの危機感が杞憂に終わってくれれば良いのだが…。それではあまりにも楽観主義だと鋭く指摘されそうなのだが…。