数多くの旅、そして旅行関連の仕事を経て研究者となった講師は旅先でついつい旅人を迎える側の欠点に目が向くという。そこから見えてくるものは?
※ 写真は一般的な旅行をイメージする写真をウェブ上から拝借したものです。
実は本講座については毎回レポしていたのだが、前回の第5回目の講座を所用で欠席してしまった。したがって、レポとしては5回目なのだが、第6回講座をレポすることにする。
ということで、12月6日(木)夜、第6回目の北大CATS公開講座を受講した。6回目は「心のクレーマー:旅先で心から楽しめない私の視点」と題して高等研究センターの石木村宏特任教授が講師を務められた。
しかし、観光学の研究者というのは実に多彩な体験をされている方が多いのかもしれない。第4回目の講師だった石黒准教授はプロサッカー選手や海外で現地のガイドを体験したりした方だったが、今回の木村特任教授はそれ以上かもしれない。
まず学生時代からバスツアーの添乗員などのアルバイトを重ねた末に、就職したところは(株)藤田観光というところでリゾート開発、ホテル経営部門などを担当したという。10年勤務し思うところがあり、観光地(長野)のペンションのオーナーに転身したそうだ。そこからさらにグリーツーリズムの推進役、そして温浴施設、道の駅、アートミュージアム、郷土料理店など公共施設の運営、等々まだまだあるが省略して、そうした体験をされた後、北海道大学から声がかかり現在の職(北大観光学高等研究センター特任教授)に就いて3年目ということだ。
そうした体験が、仕事がら観光地に赴くことが多い木村氏には「常にホスト側の視点で旅する自分」がいるという。それは木村氏がこれまでずーっと旅する人を迎える側にいたこと、そして研究者として観光地に対するアドバイザー的立場にたったことがそうさせているのだと思われる。
木村氏が自らのことをクレーマーと称したが、ここで苦情を申し立てられる側の対応について「グッドマンの法則」を紹介された。
「グッドマンの法則」とは、顧客満足度(CS)を高めるためには、顧客からの声に向き合うことが求められる。中でも重要なのが、苦情(クレーム)を適切に処理することである、として三つの法則があるそうだ。
その三つの法則とは?少し長くなるが紹介してみる。
第一法則:「不満を持った顧客のうち、苦情を申し立て、その解決に満足した顧客の当該商品サービスの再入決定率は、不満を持ちながら苦情を申し立てない顧客のそれに比べて高い」
第二法則:「苦情処理に不満を抱いた顧客の非好意的な口コミは、満足した顧客の好意的な口コミに比較して、二倍も強く影響を与える」
第三法則:「企業の行う消費者教育によって、その企業に対する消費者の信頼度が高まり好意的な口コミの波及効果が期待されるばかりか、商品購入意図が高まり、かつ市場拡大に貢献する」
下に貼り付けたイラストも参考にされると分かり易いかもしれない。
つまり木村氏は、クレーマーの声を大事にすることが観光地振興に繋がるのだということを強調したかったのだと受け止めた。
続いて木村氏は「クレーマーの話だけでは辛いだろうから…」と、現在氏が力を入れている「グリーンツーリズム」あるいは「アグリツーリズム」についてお話された。氏はこれらの旅行形態について端的に「農泊」(農家民泊)いう言葉を使われた。
つまりこれからの人たちが「旅」に求めるものは“癒し”ではないか、という。人々これまでのマスツーリズムによる物見遊型の旅から、その土地の自然と文化、人々との交流をありのままに楽しむような旅が主流になってくると話された。
※ グリーンツーリズムをイメージするイラストです。
お話をうかがっていて納得するところが多々あったし、これまでの他の先生たちからのお話でも、人々が旅に求めるものが変わってきていることは私自身実感するところである。
ただ、私には次のような体験があった。一昨年に「0 to Summit」と称して太平洋岸から富士山まで登った経験があるのだが、その際途中の宿泊施設がなく、ようやく見つけたのが富士山山ろくの「農家民宿」だった。本来は農業体験をする方たちが宿泊する施設なのだが、無理を言って泊まらせてもらった。その際、主人が言うには「行政から依頼されて始めた」ということだったが、実情は期待したほど宿泊客はいないようだった。
このエピソードは何かを示唆してはいないだろうか、と私は思うのだ。それは“適時性”とでも称するだろうか?つまり、研究者や旅にこれまでとは違うものを求める人たちは “旅”の形態が変わってくることを敏感に感じ取っているだろうけど、一般大衆はどうだろうか?
私が言いたいのは、農家の方々が「これからの時代は農家民泊だ!」と設備投資をしたり、業態を変えたりして失敗しないでほしい、ということなのだ。一般大衆が「いつその良さに気づくか?」その潮目を見極めることが大切のように思えるのだが…。
なんだかおかしな方に私の思考は進んでしまったが、木村特任教授の講義は私にとって心楽しい講義だった。