料理研究家の辰巳芳子さんは「おつゆ」は、天から贈られた“つゆ”だという。素材を大切にする日本の「おつゆ」、西洋発の「スープ」に心血を注ぐ辰巳芳子さんの生きざまを追うドキュメンタリーを観た。
7月3日(水)午後、札幌エルプラザ(「男女共同参画センタ-」「消費者センター」「市民活動サポートセンター」「環境プラザ」)において、「エルプラシネマ」が開催され参加した。この日上映されたのは「天のしずく」辰巳芳子“いのちのスープ”だった。
映画は料理研究家の辰巳芳子さんの生涯を紹介しながら、料理研究、料理普及に努める辰巳さんの姿を追うドキュメンタリーである。
日本の食に提言を続ける料理研究家の辰巳芳子は、彼女が病床の父のために工夫を凝らして造り続けたスープは、やがて人々を癒す「いのちのスープ」と呼ばれるようになり、多くの人たちが関心を寄せるようになった。脳梗塞で倒れ、嚥下障害により食べる楽しみを奪われた父の最後の日まで母(日本の料理研究家の草分け)と娘(辰巳芳子)は工夫を凝らしたさまざまなスープを作り父を支えた。それが「いのちのスープ」の原点だった。
映画では、スープを作り出す食材を作る全国の生産者を訪ねるが、彼らは作物への誠実な志を持ち、辰巳さんに食材を提供する。旬の作物を育てる繊細で美しい自然風土。そしてそれぞれの素材が性質を生かし、喜ぶように丁寧に辰巳芳子は調理する。そのスープを
幼児から老人までが喜んで口にする。それぞれが交響曲のように、いのちの響きを奏でているように伝わってくる。
辰巳芳子さんは調べてみると現在93歳で健在だそうだ。映画は2012年に制作されているから、当時辰巳さんは85歳前後である。とてもそのお歳には見えなく背筋がピンと張り、堂々とした姿が印象的である。
海、山、畑の恵みを渾然一体化し最も吸収しやすい状態にしたスープ(おつゆ)こそ、究極の一品といえるのかもしれない。私たちの食生活に警鐘を鳴らす優れた作品だった。