近年“スポーツ”は観光のコンテンツの一つとして注目されているという。いわゆる“スポーツ”を媒介として地域の観光を盛り上げようという発想である。スポーツと地方創成を結びつける研究を進める講師の興味深いお話を聴いた。
北大の全学企画公開講座「いま感じる、生かす、スポーツの力」の第2回目が7月4日(木)夜開講された。第2回目は「スポーツ・ツーリズムによる地方再生」と題して、北大観光学高等研究センターの石黒侑介准教授が講師を務めた。
※ 講義をされる石黒准教授です。
石黒氏によると、“スポーツ・ツーリズム”とは、さまざまな解釈があり、一つの定義はなされていない現状だが、Gibson.H.Jが主唱した①アクティブ・スポーツ・ツーリズム、②イベント・スポーツ・ツーリズム、③ノスタルジア・スポーツ・ツーリズムの三種に分けて考えるのが一般的とされているとのことだ。誤解を恐れずに私なりに解釈すると、①は自ら“する”スポーツ。②は“見る”スポーツ、③はスポーツに関する博物館や記念の現場を訪れる旅など、ということになろうか?
石黒氏は独自にスポーツ・ツーリズムを次のように定義している。「一定の競技性が見込めるスポーツを観光対象として消費することを基本的な動機とした旅行行動または観光形態」としたが、石黒氏はこの定義を「試験的再定義」としていて、さらなる変化(進化)を予想している。
石黒氏はスポーツ・ツーリズムが観光業にとって優位な点として「スポーツ・ツーリズムのMICE特性」を挙げた。MICEとは、Meeting(企業会合)、Incentive(報奨旅行)、Convention(大規模会議)、Exhibition(展示会)の頭文字を取ったものだが、一般的には企業の会議やセミナー、学会、展示会、見本市など多数の人数の移動を伴う旅行を誘致する際に使われる言葉だが、それをスポーツの分野にも適用しようとする動きである。スポーツの大会を誘致したり、創設したり、あるいはスポーツ合宿やスポーツ体験の場を設けたりすることで観光業、ひいては地域の発展に繋げようとする動きである。
※ ツーリズムにおいてMICE特性を活かすなら観光客が減少する冬に仕掛けるべきという。
また、プロスポーツチームが外国人、特にアジアの選手を入団させることによるインバウンドの誘致という例もある。日本ハムに陽岱鋼選手が在団していた際は台湾からの観光客が札幌ドームに目立ったし、現在はコンサドーレ札幌のチャナテイップ選手の活躍によりタイからの観光客が急増しているといった具合で、球団もそのあたりを意識した選手誘致を図っているようだ。今年の日本ハムの王柏融選手の獲得もそうした思惑があるようである。
※ 年度別の来日観光客数(インバウンド)の変遷です。
最後に講義のテーマである「スポーツ・ツーリズム」に関する石黒氏の研究の一端が披露された。それは、一地方自治体が単独で取り組むのではなく、広域に連携して取り組むことにより地域全体を浮揚させようという研究である。
研究対象は空知管内、特に南空知・中空知の各市町村が連携する取り組みである。例の一つとして、各市町村にある野球場を挙げた。夕張市、岩見沢市、美唄市、赤平市、芦別市、三笠市、滝川市、砂川市、歌志内市、深川市にはそれぞれ立派な野球場を有している。宿泊施設としては夕張市、岩見沢市、芦別市が比較的多人数が収容できる宿泊施設を有している。さらには、上記の市にはスポーツ以外の観光資源も充実している。
研究によると、一般的に滞在型の観光における日帰り周遊券は半径50kmとされているそうだ。その範囲内に収まる空知管内の各市町村がスポーツイベント、あるいはスポーツ合宿などで連携する意義は大きいと石黒氏は言う。
私が知るかぎり、空知管内においてそうした動きはまだ出てきていないように思われる。スポーツ合宿においても本道の各市町村はかなり盛んであるが、空知管内が突出しているという話も聞いたことがない。石黒氏ら研究者の提言を聞き、それを政策に生かし、今後空知管内がスポーツ・ツーリズムにおいて注目される地域とになっていくのかどうか注視したいと思う。