講師の山崎助教は、講義の最後に「障害者スポーツは“観る”スポーツではなく、“する”スポーツである」という言葉に我が意を得たり!という思いだった。私の中で悶々としていたことが晴れたような思いだった。
北大の全学企画公開講座「いま感じる、生かす、スポーツの力」の第7回目は7月18日(木)夜に開講された。
第7回目は「障害者スポーツの世界とできない身体の創造性」と題して、北大教育学研究院の山崎貴史助教が講師を務めた。
山崎氏のお話を伺っていて、これまでいろいろな方から聞いた「障害者スポーツ」を語る方とは少し違った視点から語る人だなぁ、ということをまず感じた。これまで聞いた多くの場合、障害を持った方がスポーツに取り組むということは大変なことなのだからそのことを理解し応援してほしい。あるいは、障害を持ちながら一般人に近い記録を出すことは素晴らしいことなのだから感動してほしい。というような論調が多かったように感じていた。ところが、山崎氏は障害者スポーツの面白さを語った。
例えば「車椅子バスケットボール」である。車椅子バスケットは、①一般のバスケットボールのルールを採用している。そのうえで②障害の程度に応じて選手に持ち点を付与するクラス分けのシステムがある。コート上の合計持ち点が14.0を超えてはならないということだ。(障害の重い選手は低い持ち点、軽い選手には高い持ち点が付与される)そのうえで③車椅子固有のルールが存在する。
このことは、クラス分けをすることによって、障害は「できないこと」ではなく、ゲームへの参加資格・要件へと変換される。障害による能力差が面白さをつくりだす。障害の重い人でも勝敗に影響を与えることができる。つまり、障害者が“面白さ”を感じながらスポーツに取り組める利点を語った。
また、山崎氏は自ら障害者スポーツを体験して、その“面白さ”を実感しているとも語った。例えば山崎氏は「車椅子ソフトボール」を体験したという。そこでは健常者でも車椅子に乗ってプレーをすることで障害者と同じ条件でプレーすることになり、真剣にゲームを楽しむことができという。
また、山崎氏は違う観点からも障害者スポーツを“する”スポーツとして語った。それは視覚障害者のスポーツについてである。例えば陸上競技においては、視覚障害者のために「ガイド」が必要とされる。「ガイド」はただ伴走するだけではなく、障害者と共に競技しているのだと強調された。また、ブラインドサッカーにおいては「コーラー」と呼ばれる人が声と音で選手たちに指示を出すそうである。ここでも「カーラー」は障害者と共に戦っているのである。
山崎氏は言う。障害者は身体のどこかに「できないこと」を抱えているが、その「できないこと」を克服してできるようになることではないという(克服しようとすることも大切だが)。「できないこと」のある身体を媒体として、他者とつながることでスポーツの楽しさや身体の快楽を獲得していく営みである、と強調された。
このことから、私たちが東京パラリンピック2020を観る場合は、障害者がいかに「楽しんで」いるか?いかに「身体の快楽」を感じているか?ということをパラリンピックを“観る”際の視点とすべきなのかな?と思わされた講義だった。