冊子「田布施の名木」に記載されている、田布施町小行司教円寺の樹齢100年以上の栃(トチ)の木を訪ねました。事前にこのトチの木が枯れていることを知っていましたので、枯れた株がどのようになっているか調べに行きました。教円寺の方に、その枯れた株を教えていただき、このトチの木についてお話しを伺いました。お話では、トチの木が茂っていた頃の夏は、日陰がとても涼しかったとのこと。また、枯れた原因は剪定をし過ぎたことに加えて、根が回り込んだ舗装道路が根を傷めたのではないかとの事でした。
100年以上前に芽生えた教円寺のトチの木、もともと近くの奥深い沢筋に自生していたものかも知れません。又は、当時の住職さんが拾ってきたとしても県内又は遠くても隣県ではないかと思われます。トチの実は少しでも乾燥すると発芽力が落ちますので。
冊子「田布施の名木」 教円寺のトチの大木 撮影:平成13年
その枯れた株はとても大きなものでした。幹の中が空洞になっており、子供が一人隠れることができるほど大きなものでした。樹齢は100年を超えているそうです。トチの木は東北地方など、寒い地方でしかも沢筋によく生えています。九州,四国,中国地方では山奥にしか生えていないようですので、田布施のトチの木はとても貴重です。
今から数万年前、日本が寒冷化していた頃の田布施の生き残りのトチの木かも知れません。当時は、田布施の沢筋にたくさん生えていたのではないでしょうか。ところが、1万年前位頃から温暖化が始まりました。すると、コナラやクヌギに代表されるどんぐりが勢力を盛り返してきます。その結果、田布施ではトチの木は衰退し、寒い山奥や東北だけにトチの木が残ったのではないかと思われます。なお、ドングリはリスなどが積極的に食べて種をばらまきますが、リスなどはトチを食べることができず結果として種をばらまけません。暖かい土地ではトチは繁殖できにくいのです。
樹齢100年以上で中心部が空洞になっていたトチの枯株
ところで、私は若いころ奥多摩や東北の民俗や古い食文化を調べていました。その時、雑穀やトチの木にも興味を待っていました。雑穀の種をもらって育てたり、トチ餅の作り方を教えてもらうなどしました。その一環として、トチの実を山から拾ってきて苗を育て、そのトチの苗を畑の斜面に移植しました。そして、毎年大きく育つトチを眺めたものでした。今でもそのトチは畑の斜面で育っています。
ところで、教円寺の方から貴重な情報を得ました。それは、枯れる前のトチの実を郷江の方が昔拾って植えたとの情報です。そこで、小行司の郷江地区にトチが生えていないか探すことにしました。
小行司の教円寺 枯れたトチの枯株の前でお話しを伺う
トチの木が生えていないか郷江地区をあちこち探索している途中、農作業している方を見かけました。その方に事情を説明すると、T1さんを紹介していただきました。
T1さんのお宅に行くと、庭で待っておられました。さっそくトチの木を話をすると「実をまいてみたが芽が出なかった。」とのことでした。ところが、たまたまT1さんの家に来ていたT2さんが「うちにトチが生えている。」とおっしゃいました。さっそく、T2さんのお宅にお邪魔すると、立派なトチの木が生えているではありませんか!このトチの木は、T2さんのお母さんが昔、教円寺から拾ってきたトチの実を植えたものとのこと。直径が25cm位のトチの木でした。樹上に白い花がたくさん咲いていました。T2さんにいろいろお話しを伺い、この秋にT2さんにトチの実を分けていただくことになりました。ありがとうございます。
私案なのですが、この実をまいて苗を育て、教円寺の枯株そばに苗を植えさせてもらおうかと思っています。そうすれば、教円寺のトチの木の復活です。100年後には、立派な名木になるはずです。
その昔、T2さんのお母さんが教円寺で実を拾ってきて育てた立派なトチの木
話が変わりますが、昔、東北地方では、嫁をやる場合に、先方の家にどれだけトチやどんぐりの木があるかで決めていたそうです。飢餓がよく発生した東北地方では、生き残るためにドングリやトチを食べることが少なからずあったからです。私は生でトチの実をかじったことかありますが、苦くてとても食べられたものではありませんでした。そのあくを取るのに、水にさらしたり,お湯で煮たり,灰で煮たりなど、とても大変な労力を要します。その点、どんぐりは生で食べることができる種類があり、あく抜きも比較的容易です。なお、平生の岩田遺跡(縄文時代)では、どんぐりの貯蔵穴が発見されています。この田布施でも2000年以上前、もちろんどんぐりは食べていたでしょうが、はたしてトチの実を食べていたのでしょうか?
特徴的なトチの木の葉、小葉五つで一つの葉
なお、平生町の街路樹(マロニエ通り)として植えられているマロニエは、西洋トチの木のようです。だとすると、日本在来のトチの木ではありません。特に花の色が赤いトチの木は、西洋トチノキ(マロニエ)と思って間違いありません。なお、マロニエも含めてトチの木は、本来は沢などの水辺を好みます。平生町のマロニエがあまりよく育っていないのは、根元周辺がコンクリートで覆われて水が浸み込まず、土地が乾燥気味だからだと思われます。
〇:たくさん咲いていたトチの白い花
※追記
その後、平生町のマロニエ通りに行ってみました。すると、白い花のものと、赤い花のものの二つの種類のトチの木が植えられているようです。赤い花は明らかに西洋トチの木です。郵便局近くのトチの木は、どれも赤い花でよく成長していました。赤い花である西洋トチの木の方が、街路樹として耐性があるのかも知れません。
マロニエ通りを全て観察してみましたが、白い花と思われるトチの木の一部は枯れていました。また、成長が思わしくないものがありました。西洋トチの木の方が、街路樹として適しているのでしょう。
郵便局前の西洋トチの木 赤い花が咲く西洋トチの木