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「脳にいい」ことはまだまだわかっていない

2006年12月14日 | 読書
 『脳と音読』(講談社現代新書)という本を見つけ、ためらいなく購入した。

 著者は、「川島隆太+安達忠夫」とある。
 川島氏は周知の売れっ子研究者であり、もちろん以前にも読んでいるし、
素晴らしい講演を聴く機会もあった。
 安達氏については知らなかったが、表紙裏にあった略歴から「素読」に造詣の深い方と承知した。

 この二人で、「脳と音読」ときたら、
これはもう「音読や素読は、脳みそを活性化しますよ」という結論に違いない。
 予定調和的ななかみだろうと思いつつ…知識的な確認もしたかったので、読み進めることとした。

 メールによる往復書簡などを挟む構成のよさもあり、あっという間に読了。
 結論としては、確かに音読が脳にいいことは明らかのようだが
朗読や素読になるとどうも様子がちがうし脳が活性化する部分も違うらしい
という著者たちにとっても意外な実験結果となっている。

 脳科学と教育の関係が取り上げられてから、
「○○は脳にいい」という言い方もされがちだが、大雑把な見方はいけないし
一方的な情報だけをうのみにすることは戒めなければ、と思ったしだい…。

 それはともかく、いくつかの部分で改めて確認したこと、「そうだったな」と思ったことがある。

 乳児期に「聞く」ことからはじまり、聞いたことばを「模倣」し、そして「話す」ことを覚える。やがて幼児期になり、ことばを「見る(=読む)」ことを行い、そして「書く」ことができるようになる。これが健常な乳幼児のことばの獲得であることには疑う余地がありません。

 つまり前頭前野の発達は、三歳そして十歳前後に大きなターニングポイントがあるようなのです。

 音読は、音のことば、文字のことばの双方を用いる、きわめて高度な活動なのです。脳への入力も文字、音、双方ありますし、音の出力もあります。黙読よりも、脳をたくさん使うのは当たり前のことなのです。

 教育課程や活動内容を考えるうえでの、大きなヒントになっていくように思われる。
 ただ「読む」ことの活動と脳の発達や活性化は、まだ解明されていないことがあるという点は忘れられない。
 川島氏は、まとめの章で「私自身の考えも変わってきたこと」として

 前頭前野が活性化されないことが、イコール脳に良くないことではない

という言い方で、リラックスの必要性、メリハリの重要性という考えにたどりついている。

 現場にいる私たちは、肌で感じることや記録をおろそかにせず、先端の研究と付き合わせてみることも大切にしていきたいものだ。