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伴走者としての意識の結晶

2006年12月17日 | 読書
『子どもの能力を引き出す 親と教師のための やさしいコーチング』
(大石良子著 草思社)

 ずいぶんと長いタイトルだが、明るい装丁と適度な薄さに惹かれてひょいと手にとった。

 コーチングとは何か。
 この本では、こう定義づけている。

 コーチングとは、相手の目標達成をサポートする会話術です。

 筆者は小学校教師を長年勤め、新人教師の指導としてコーチングに出合ってその研究会に属し、今年退職したばかりの方である。
 豊富なキャリアから紡ぎ出されることばは難しくなく、エピソードも現場感覚にあふれているものだ。
 何気なく書かれている文章だが、しっかりと仕事を見つめてきた誠実さを感じさせてくれる。

 学習のつまずきを感じる子どもをサポートするときには、私は必ずノートの確認作業をします。

 個性尊重の名のもとで「できない」「怖い」というたんなる物怖じを認めてしまっていたら、本人が能力を勝ちとったり、はじめの一歩を踏みだすチャンスを奪ってしまうのではないか。

 私は、何か新しい課題に入るときはいつも、千春さんのほうに目をやりました。目と目を合わせ「大丈夫、あなたならできます」というサインを出しつづけました。


 こうした誠実さは、筆者自身の資質といってしまえばそれまでだが、めぐり合った考え方や指導法によってより強化されていくように思う。

 コーチングは「会話術」なのだろうが、柱となるスキルにいくつか興味深いものがある。

 例えば「選択肢を用意する」では、二者択一でなく三つ以上の選択肢を示す、とある。
これは幅を持たせることによる安心感の付与という面があるだろう。
「沈黙する」…相手に時間の保証をすること、これも安心感だ。
「アンカリング」…現在地を示してやること、
そして「ビジュアライズ」…ゴールや過程を視覚イメージさせること、
こうしたサポート意識が強く出ているものもある。

 これらはいわば「伴走者」としての意識を持ち続けなければ、その「術」は非常に薄っぺらであり効果を持たないものだ。

 「術」として項目化、文章化させる営みのなかに、そうした意識の結晶をあることを汲み取れれば、目の前の子どもにも有効に働く手立ては必ず見つかるだろう。