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それもまたナマハゲの有様

2011年09月13日 | 読書
 昨日は振替で休み。朝に「ナマハゲ」のことをブログにアップしてから、朝風呂に入って読みかけの宮部みゆきの短編集を楽しむことにした。

 『我らが隣人の犯罪』(文春文庫)

 その三篇目「サボテンの花」は教師と六年生が登場してくる物語だが、その主人公である権藤教頭を、子どもたちは「ナマハゲ」というあだ名をつけていた。ちょっとした偶然に少しびっくり。

 もっとも、その「異名」は、禿げ上がった頭と前歯に詰めた金歯が由来らしいが…。

 学級の卒業研究に「サボテンの超能力」を取り上げたい6年1組の子どもたちを、周囲の猛反対(学級担任も認めず学校を休んでしまうほど)にもめげずに、見守り応援している主人公の権藤教頭。
 定年退職を控えながら、「個人戦」を続けている教頭の人物像がなかなか魅力的だ。

 「私だってサボテンだ」と、厳かに宣言した。
 だいぶ棘は抜けている。水分も減って、活力も失せてきた。だがそれでもサボテンだ。剪定されることはない。

 この言葉は、かかわった6年1組の子どもが、「僕たちはみんなサボテンです。誰にも剪定されない」と実に格好よくきめているところから、教頭自身も励まされていく要素を含ませている。
 
 ともあれ、読ませる筋立てと「泣かせる」結末だった。子どもたちが育てていたのは、ただのサボテンでなく竜舌蘭という品種であり、それが一生に一度花を咲かせ、そしてテキーラを作り出すという謎解きがあったことは、うーん上手と言わざるをえない。

 宮部みゆきはまだ二冊目。
 読了して解説などを見てみると、なんとこれがデビュー作なのだ。
 解説では作家北村薫で、かなりこの短編集を評価しているし、なかでも「サボテンの花」は「掛け値なしの傑作」と記している。

 もっとも学校関係者としては、6年生の漢字問題の難解さや「○○(氏名)教師」という名称の不自然さが少し気になり、そのあたりは取材不足なのか、瑣末な点で重視しないのか、多少ざらさつく思いがないわけではない。

 いずれにしても、この話の「ナマハゲ」はどちらかといえば「社会的規範」を教えるというより、剪定されずに生きる気概を示す存在だった。

 それもまた、ナマハゲの有様である。